第二節 暗雲、立ち込める空。雷鳴、鳴り響く夜に
『ぐ……』
ワープが放ったゾムビーの体液は、無情にもボディアーマーの顔面に降りかかった。
『おい!』
fireはボディアーマーに駆け寄る。
「ゾ……」
ゾムビー化したワープの、最後の一撃だったらしい。ワープは力尽きた。
『お前!!』
『何も言うな。迷わず俺を殺せ……ゾ……』
『……』
「ボワッ!」
fireはボディアーマーを焼き払った。
『……!!!!』
fireは前方を確認する。
視界のすべてが、ゾムビーだった。 地平線まで続く、黒い波のような群れ。まるで世界そのものが、敵に塗り替えられたようだった。
『!』
視線を手前に移した。ワープの亡骸と、ボディアーマーの黒い灰だけが残っていた。
『グッ……!』
fireは、自ら下唇を血で滲ませた。
怒りのエネルギーは一番生命力のそれと比例しやすい。
超能力とて、それは同じだ。怒りに呼応するように、炎は膨れ上がった――。
『テメェ等……許さねぇ……! オラァ!!』
「ボッガァアアアアア!!」
炎が、地平線のように広がっていたゾムビーの群れを――跡形もなく消し飛ばした。
「ゾゾォ!!」
「ゾ!!」
その炎は、ゾムビーの大群の9割以上を一瞬にして焼き払った。
『ボディアーマー……皆……』
fireは力を使い過ぎ、気絶した。
――、
それは、見知らぬ天井だった。
「ガバッ」
『ゾムビー達は!!』
fireが目を覚ますと、そこはベッドの上で、医療施設の様だった。
『漸く気が付いたのかね?』
『! 誰だ?』
『ここの医者だよ。君が目覚めるまで、3日掛かった……』
『俺がそんなにくたびれていたのか……! ゾムビーは!?』
ハッとしたfireは医者に問う。フーと息を吐いて、医者は口を開いた。
『全滅したよ。hunterの連中も4割もやられたがね』
『……(アイツら……)』
『上の連中は焦り始めたと聞いた』
『!』
『有能なサイキッカーを、3人も失ったのだ。無理もない……』
『……これから、どうなると思う?』
『他国から優秀な人材を引き抜く……かな? 今の戦力で、再びゾムビー達が攻めてきたら、とてもじゃないが太刀打ちできない』
『そうか……』
hunter及び、アメリカ政府はサイキッカー2名と、優秀な戦闘力を誇る狩人隊員をもつ日本に、救護要請を告げる。
日本、狩人関東支部――、
その日は大嵐だった。
ゴウ――と、吹き荒れる風。ザ――と、流れ込むような雨。
そんな中、狩人ラボの一室に、腕を組み座る者が一人。爆破スマシである。
(あのアメリカ視察から二カ月程経っている。そろそろヤツらも、動き出す頃か……)
一室には大型のテレビも備わっていた。
「次のニュースです。この前の日曜日に起きた事件で……」
殺人事件のニュース等、人的災害についてのニュースが流れていた。
書類を整理していた手が、止まった。
「――以上、本日のニュースでした」
ふと、チャンネルを変えてみる。動物が他の動物を殺して、生きながらえている番組だった。
「ふー」
溜息をつく。
(結局、同じか)
人も。
ゾムビーも。
他者は他者を――
殺し合う。
「しかし……」
爆破は思わず声を漏らす。
(私とて同じだ。ゾムビー達を、人間だった者達を……それが本当に……)
すると、
不意に――、電話機が鳴った。
電話に出る爆破。
「もしもし、狩人関東支部ですが……」
「hey! Jap!!」
電話主は英語で話し掛けてきた。
(やはり……か)
爆破も英語で対応する。
『こんばんは、hunter.N州支部の方だろうか?』
『そうだ! そちらで言うところの、副隊長を務めさせてもらっている者だ。何だあの石は!? アレの所為でこちらの支部の基地はゾムビーだらけだ! 隊員達も数十名やられた。どうしてくれるんだ!!』
電話主の男は叫ぶように話してくる。
『……』
『何か言ってみろ! えぇ!?』
爆破は、重く閉ざしていた口を開いた。
『と、言いましても』
『!』
『そちらの支部にも、以前あの石はあったと聞いております。更に今回、研究材料になると、そちらも同意の上で石の所有権を移したのですが?』
淡々と話す爆破。それに対し、怒った様に男は言う。
『くっ、この敗戦国の軍隊風情が!! 石の数が増えて、ゾムビー発生率も増えたと言っているのだ!!!』
『ふー……。分かりました。それなら、我々にどうしろ、と?』
『そ……そうだ。初めからそう言ってほしかったんだ。時間を掛けないでくれよ……』
『?』
『……』
『成程、心得ました』
(さて、時は満ちた……やるしか、無いようだな)
――、
数日後――、
ラボ内の廊下を携帯電話で話しながら歩く爆破。
「ああ、それで今回の部隊はおよそ20人だ。……分かった。チャーターは必要ないと伝えてくれ!」
「ピッ」
携帯電話を切る爆破。少し顔を上げる。
(次なる決戦の地は、始まりの地……か……)
――、
その数時間後――、
主人公の教室。朝礼が始まった。
「起立! 気を付け! れ……」
「ガラガラッ!! ダン!!!!」
「!?」
教室の戸を開ける者が! 爆破スマシだった。
「ツトム! 私だ!! アメリカへ飛ぶぞ!!!!」
呆気に取られる主人公。
「へっ? アメリカ……? というか、スマシさん、今朝礼の最中ですよ。まさか出動……じゃあないですよね? アメリカなんて」
「そのまさかだ」
「ですよね……ってえ――――!?」
「ざわざわ」
ノリ突込みする主人公と、ざわつき始める教室内。
「あのー。いちおーこのクラスの担任の者ですがー、そーゆーのはちょっとー」
担任が爆破に忠告しようとする。
「そうですよ! まだ夏休みまで1カ月以上あるし……べ、勉強が……」
「もう、校長には話をつけてある」
「!?」
爆破の言葉に、目を丸くする主人公。
「因みに、断ると日米安全保障条約にも引っかかるぞ」
(えぇっ――!! 安保条約にぃいい――!?)
淡々とした爆破の言葉に、さらに雷に打たれたかのような反応をする主人公。
「事態は急を要する。行くぞ!!」
「ガッ」
主人公の肩を担ぐ爆破。
「えぇ!? まだ心の準備が……」
「仕方ないな、一時間やる、その間に家族との別れを済ませるんだな」
「一時間て……(なんか急にいつもより増してスパルタになってるぅ――!!)」
頭を抱える主人公。
「お前の自宅に行くぞ! ツトム!!」
「えっ? あっ、ハイ」
促されるままに教室から出ていく主人公。更にざわつく教室内。
「あー、ツトムぅ。がんばぁ――」
素っ気なく言う担任。
(くっ、人の気も知らないで……)
悔しがるツトム。すると巨房が立ち上がり言った。
「主人公ツトム隊員! 健闘を祈る!!」
「!」
(ミノリちゃんだけがこのクラスの癒しだよ……)
やや救われた様子の主人公だった。
「何をやっている! 行くぞ!!」
「あっ、ハイ!」
主人公は爆破の一声で正気に戻った。
――、
廊下を進む二人。
「! そうだ。サケルもここの中学に居たな。呼ぶぞ」
爆破と主人公は逃隠の教室へと引き返した。
(軽く、忘れられている……)
主人公はひっそりと思うのだった。
――、
逃隠の教室――、
「ガラガラッ!! ダン!!!!」
『!?』
教室の戸を開ける者が! 当然、爆破スマシだった。
「サケル! 私だ!! アメリカへ飛ぶぞ!!!!」
「グガ――、! 何!? 敵襲か!?」
居眠りを決め込んでいた逃隠。飛び起きる。
「全く、相変わらずだな。お前は」
呆れた表情の爆破は腕を組んで言うのだった。
「何だね君は!?」
クラスの担任が眼鏡をクイクイと上げながら問う。
「私か? 私は政府公認機関・狩人の隊長! 爆破スマシだ!!」
おお、と、どよめくクラス内。
(何だか無理矢理過ぎる気がする。スマシさん、何かあったのかなあ)
不安に思う主人公。
「出動ですカ!? 俺は何時でも準備万端だい!!」
学生服を脱ぎ捨て、特殊スーツに身をまとう逃隠。
「宜しい。担任の方、校長先生には話はつけてある。では!」
「では! と言われても……」
動揺する逃隠のクラスの担任。
「じゃア! そういうコトで!」
爆破の命令に言葉通り従い、教室を去る逃隠。
「すっ、すいませーん」
気の毒そうに小声で主人公は言い、逃隠と爆破の後に続いた。爆破、逃隠、そして主人公がアメリカ行きに向けて歩き出した。学校を出る三人。
――、
「さて……」
爆破が徐に口を開く。
「私も鬼では無い」
(十二分に鬼ですが!?)
面食らう主人公。
「ツトムにはもう話したが、今から一時間やる。気持ちの整理と親御さんへの別れの挨拶を済ませるんだな」
「ラジゃー!!」
「らじ……じゃあ……」
威勢よく答える逃隠と、オロオロとうろたえている主人公。
「おっと、別れの挨拶と言っても、何も死にに行くわけではないぞ? 二人の身の安全は私が保証する。命に代えても――だ」
爆破の言葉にハッとなる主人公。
(スマシさん……表面上はいつもより強引だけど、根っこの部分は変わらない、いつものスマシさんだ)
「もしもし、親父カ?」
逃隠は携帯で電話をし始めた。
「うん……それで……分かったんだい!」
「ピッ」
携帯の電源を切る逃隠。爆破に話し掛ける。
「隊長! 言葉の意味は分からないけど、親父はぐっどらっくと言ってたんだい」
「決まりだな」
爆破は明るく言う。
「さて、次はツトムの家だな」
グイっと顔を寄せる爆破。
「ぼっ、僕は家族に直接言います! 電話では何ですし……」
「よし、それでいいぞ」
3人は主人公宅に立ち寄るコトとなる。




