第七節 グングニル
「グングニル……!」
主人公はゴクリと、息を呑んだ。
「そうだ、ツトム」
爆破は続けて言う。
「能力を使っている時、何か感じなかったか?」
「そうですね、まずは、自分が敵わないじゃないかという思いで敵と対峙しました。それと、周囲の人間を守りたいという意志が強かったと思います」
「そうか……」
「後は……少し、いつもより疲れました」
「分かった……(格上の敵と対峙し、誰かを守るという強い意志が生まれたため、発現した力。そして――諸刃の剣とまではいかなくとも、体力を消費するのなら使いどころが肝心だな)」
「そろそろいいですか? この一年は、受験の年になるので……」
少し笑いながら言う主人公。
「そうか、しかしながらお前を帰すわけにはいかない、悪いな」
「はい、じゃあ帰らせてもらいま……ってエエ――!? 何でですかぁ!」
爆破は話し続ける。
「本当に申し訳ないが、付き合ってほしい件が、ひと山あってな……」
――、
「えーと。ここで、グングニルを……?」
研究施設の一室に主人公は入れられた。部屋には例の宝石がある。爆破は言う。
「そうだツトム。石に向かってグングニルを放つんだ」
主人公の体には無数のケーブルの様なモノが取り付けられていて、心拍数、脈拍等といった数値を計測しての実験となった。
「はい……じゃあいきますよ。ハッ!!」
グングニルを放つべく、構える主人公。
「ふわああああ!」
石にグングニルが当たり、反応していく。初めはその紫色が、虹色になり遂には微動し始めた。
「ピシ……」
石には亀裂が入った。主人公はためらう。
「あの! 続けてもいいですか?」
「OKだ。続けて」
研究員は答えた。
「ピシ……パキ! ……」
亀裂はどんどん広がっていき、遂に
「パキン……」
石は砕け散った。
「あ……」
思わず声を出し、力を加えるのを止める主人公。
「す……すいません!」
「いいんだ」
「え?」
研究員に謝ったが、意外な返答に驚く主人公。
「いいんですか? 貴重なモノだったんじゃあ?」
「この石は、近頃の戦いによって多く手に入った。その内の一つだ。気にしないでおきたまえ」
研究員はそう言って主人公をたしなめた。
「はぁ……ところで、この次は何をしたら……」
「今日はこれで終わりだ。隊長も体力を使う能力だと話されていたのでな」
「お、お疲れ様です」
――、
帰路へ立つ主人公。ふと、ラボを見上げる。昨日の戦いで、薄汚れている。
「あれだけの戦いがあった後じゃ、仕方ないよね」
戦いの光景が思い浮かばれる。
「セツナさん……」
――、
時を同じくして、爆破は石碑の様なお墓の前に佇んでいる。
「セツナ隊員……良く頑張ってくれた、ありがとう。そして、済まない。この様な結末となってしまって――」
「とくとく」
ペットボトルに入った水をお墓に掛けている。
「尾坦子と言ったか? 彼女がな、人間に戻れたんだ。もしかするとお前も――と、最近思っている」
「ヒュオ――――」
風が吹いた。
「さて、風も吹いてきた事だし、帰るか。また今度来る。では――」
――、
主人公の生体実験、二日目。
(やはり踏ん切りがつかない。ツトムには悪いが、この実験を行ってもらおう)
爆破は俯きながら研究室で腕を組む。
「被験体A! 届きました‼」
「こっ……これは!?」
主人公は驚愕した。そこには、冷凍された状態のゾムビーが居た。
「ツトム!! そこに居るゾムビーに、グングニルを放て! 彼女の様に人間に戻るか、その実験だ!!」
(冷凍保存なんて……こんなコトまでしていたのか。流石にちょっと引く)
爆破の声も届かないほど、主人公は驚愕していた。
「どうした? ツトム。さぁ、ゾムビーにグングニルを放つのだ」
「あっ、はい」
今度の声は耳に届いた。そして、
「ハッ!」
グングニルを放つ。すると――、
「ぱああああああ!!」
ゾムビーを、光が包む。次第にゾムビーは消滅していった。
(元には……人間には戻らない! どういう事だ!?)
爆破は困惑した。
「これで、いいですか?」
主人公は問う。
「ああ、OKでしょうな、隊長」
「あ……ああ。(仕方ない、仕方ないと分かってはいるが……! 何を考えているんだ、私は!! この実験でゾムビーを人間に戻せたとしても、セツナは……彼はもう既に……)」
実験を終え、小部屋から戻り、爆破の元へと歩く主人公。
「スマシさん、僕は思うんです――」
「!!」
「尾坦子さんの場合は、彼女の場合は人に尽くしたい、人を大切にしたいって願い続けていたから、この能力を使ったときに人間に戻れたんだと。彼女だからこそ、そうなれたんだと……」
「ふ――。そうだな」
溜息をついた爆破は続けて言う。
「ゾムビー化しても襲って来なかったのは彼女くらいだしな。よし! 過去にすがりつくのは止めだ。私らしくもない。実験に協力してくれて、ありがとう、ツトム」
「ハイ!! これで最後ですよね?」
「いや……」
「え!?」
主人公は凍り付く。
「あと2,3回はあるはずだ」
「NOOOO!!!!」
主人公は、被験体として実験をさせられる。コードの様なモノを体の至るところに着けられた。
(まるで動物扱いだな。……尾坦子さんも同じ気持ちだったのかな? かわいそうに)
日は流れるように過ぎ、最後の実験が行われた。
「よし! これが最後だ」
研究員が太鼓判を推し、最後の実験が終わった。
「ふ――、疲れた」
溜息をつく主人公。
「済まなかったな、ツトム。そして、本当にありがとう」
爆破は労いの言葉を贈る。多少の気まずさを覚え、頭をひと掻きする主人公。
「彼女が実験の対象から外れた途端、これだからな。研究者たちは得てしてそういった生き物なのだろう」
「はは……」
爆破の言葉に、たじろぐ主人公。
「本当にこれが最後だからな。これからは緊急出動時以外はここに来なくてもいいぞ」
「分かりました。失礼します」
「ご苦労!」
家路へと辿る主人公。
「そうだ! 今日も、メールしよう‼」
「『お疲れ様』と」
メールで、尾坦子に近況報告する主人公。
「『こっちは、採用試験が終わり、後は結果待ちです』かぁ。『今日まで実験体になっちゃってました』なんてね」
一瞬ためらったが、生体実験を行っていたことを告げる主人公。
「あ、来た。『それはお疲れ様。嫌だったでしょうね。でも、思い出すからそういう報告は聞きたくなかったかな』……マズい。失敗した……とりあえず、『ごめん』と(女の子ってこういうとき、こういう反応するんだ)」
それから主人公は、とりとめのない会話をメールで交わした。気が付けば、家に着いていた。
「ツトム、お帰りなさい」
母が出迎えてくれた。
「ただいま」
「最近出かけてばっかりだけど、大丈夫だった?」
「少し疲れたけど、平気」
「そう。なら、しっかりとお休み」
主人公は自宅に帰り、晩ご飯を食べた。
――、
「おっはよー!! 狩人隊員!」
主人公のクラス――、巨房ミノリが主人公に挨拶する。
「……おはよう(その人称は無いよね)」
静かに返す主人公。
「何か、ラボだっけ? そこで大変なコトが起きたって本当?」
眉毛をハの字に、表情を歪ませる巨房。
「あ……うん……ちょっとね」
主人公も苦笑いで返すしかなかった。
「でも、主人公隊員が無事で何よりです!」
敬礼する巨房。
「はは……どうも」
巨房が話を切り出す。
「ところで主人公隊員」
「?」
「最近、たくましく成ってない? 何かあった?」
「実は……」
――、
「え――!! 彼女ができた――!?」
叫ぶ巨房。
「声、大きいよ」
たじたじの主人公。ひそひそ話が、クラスを包む。
「ほら、変な雰囲気になった!」
少し怒り気味に主人公は言う。
「ごみんごみん、相手は年上? 年下? このクラスにいるとか?」
「年上で、看護婦さんやってるよ」
「わお! 看護婦さんって中学生から見ても危ない響きだねー」
会話を交わす巨房と主人公。
「――だから、これからはミノリちゃんとはあんまり仲良くできないんだ。見てなくても、か……彼女に悪いし」
「そうかなー? 仲良くしても、ばちは当たらないと思うけどな――」
「えー?」
「今まで通り、友達でいちゃあダメかな?」
ズイっと乗り出してくる巨房。
「う――ん」
腕を組む主人公。
(友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え友達でいいよって言え)
目で訴えてくる巨房。
「仕方ないな(目が怖い)。今まで通り友達ってことにしようか」
「やた!」
歓喜の表情の巨房。
「じゃ、授業始まるから」
主人公に言われて、席に戻る巨房。
一瞬、切ない表情を見せた。
――、
「フ――、今日も疲れた――」
自宅のベッドで横になる主人公。
「ピロリロリン、ピロリロリン」
「! メールだ。誰からだろう?」
携帯を取る主人公。尾坦子からだった。
「尾坦子さんからだ!」
メールの内容を確認する主人公。
「何々、『明日は何の日でしょう?』え? 何かあったっけ?」
首をかしげる。
「誕生日、とか? そう言えば聞いてなかったような……『誕生日かな?』と」
メールを送信する。
「ピロリロリン、ピロリロリン」
あ、返ってきた。
「『不正解、プンプン!!』え、怒らせちゃったかも……」
顔が青ざめる主人公。
「『すいません、分かりません』と」
「ピロリロリン、ピロリロリン」
「何だろう答えって」
メールを確認する主人公。
「『明日で付き合ってから10日目です! ちゃんちゃん♪』……10日ってまた微妙な。1カ月とか1年にしようよ!」
たじたじな主人公。
「『またどこか行こうよ。M駅ってどうかな』か(前、クリスマスプレゼントを買った駅だー。二人で歩くとどんなところになるんだろう?)『そこでお願いします』と」
主人公と尾坦子はM駅でデートする事となった。
デート当日――、
「お待たせー」
尾坦子の二回目の私服姿を、主人公は見る事となる。
(今度は取り乱したりしないぞ)
二回目とあって、耐性がついたようだ。
(でも、やっぱり素敵だ)
「うん、行こうか」
主人公の一声から、デートが始まった。
――、
いかにも若者の街といった風景に息を呑む主人公。まずは服をウィンドウショッピングする様だ。女ものの服がズラリと並ぶ。
「もうすぐ、夏だから、夏服どれにしようかなー、なんて。どれが似合う?」
主人公に話し掛ける尾坦子。
「うーん、ピンクの服かな?」
主人公は答える。
「これね。うん、いい感じ」
颯爽とレジに持って行く尾坦子。
(結構豪快に買うなぁ)
主人公は思った。
「次はツトム君の!」
「へっ!?」
虚を突かれる主人公。
「どれが似合うかなー」
尾坦子は様々な服に手をかける。
「ぼ、僕はあんまりお金持ってないから」
「じゃあ、プレゼントしてあげる」
「へ?」
「普段貰ってる、お礼に」
尾坦子は主人公に服をプレゼントするようだ。
「何を買うか分かってるからサプライズ性に欠けるけど……気持ち、伝わるよね?」
「もちろん!」
主人公は満面の笑みを見せた。
「これだ!」
「『調子に乗らせて頂きます』……はい?」
それは大きくロゴが入ったTシャツだった。
(尾坦子さん、服のセンス……)
主人公はじとーっと尾坦子を見る。
「これでいいよね! ツトム君!」
尾坦子は汚れ無き眼で主人公を見ている。
「(その顔には負けるよ)ウン、イイヨ」
主人公は募る気持ちを抑えて返した。
「ありがとうございましたー」
店を出る二人。
「ツトム君! 大切に着てね‼」
「はは……(どこで着ればいいんだろう?)」
たじたじな様子の主人公だった。
――、
「次は! お昼にしよう」
二人はランチが食べられる店を回った。
「焼肉……は重たすぎるし、うどん……じゃちょっと軽い気がするね。そうだ!」
何か思いつく尾坦子。
「やっぱこれでしょ」
腰に手をあてて自信満々の尾坦子。
――、
辿り着いたのはラーメン店だった。
「あっ、いいね」
「でしょ。入った入った」
店に入る二人。
「らっしゃーい!」
強面の店主が中には居た。
(! 何かコワイ)
主人公は少しばかり圧倒される。ひそひそ声で話す尾坦子。
「職人気質って言うのかな。こういう人が居る店は、大概おいしいんだよ」
「……注文は?」
店主が問う。
「あ、ハイハイ。豚骨ラーメン二つ、で。いいよね、ツトム君」
「あ、はい。それで」
――、
「お待ちどう様!」
数分して、ラーメンが出て来た。
「いただきまーす」
二人は手を合わせてラーメンを食す。
「! ! !! !?」
主人公は余りのおいしさに意識が天へと昇る思いだった。
「う……美味い!!」
「ね、言ったでしょ、もぐもぐ」
尾坦子もそう言ってラーメンを食す。
「! ! !! !?」
尾坦子も余りのおいしさに意識が天へと昇る思いだった。
「そうかい、若いもん。替え玉一玉無料だからな」
強面の店主は何気に優しかった。
「もぐもぐもぐもぐ」
「もぐもぐもぐもぐ」
「替え玉! お願いします!!」
「はいよ」
二人は一心不乱にラーメンを食べ続けた。
「んー、おいしかった」
主人公はランチに満足した様子だった。
「私に任せて、正解だったでしょ?」
「うん、ありがとね。尾坦子さん」
「どういたしまして。次、どこ行く? カラオケでもどうかな?」
「カラオケ? (そう言えば、カラオケ行くの、初めてだ)」
不安そうな顔をする主人公。
「どうしたの?」
「いや、カラオケ行くの……初めてだから……」
「じゃあ、ツトム君の初めて、もーらった」
「! !」
――、
成り行きでカラオケ店に入る二人。
「らーららー♪」
尾坦子は70点台を、主人公は60点から70点台を叩き出しながら時間は過ぎていった。
「今日も楽しかったよ。またね」
「尾坦子さん、またね」
二人の二回目のデートは無事、終了した。




