第八節 副隊長と逃隠の入院生活/覚悟
ここは、狩人〇×病院。主に、ゾムビーとの闘いで傷ついた狩人隊員を入院させている。
その一室。逃隠と身体が入院している。
「暇だい……」
「暇だな……」
「ところで副隊長、爆破隊長はケガが無かったのですカ?」
逃隠がふと問うので、身体はそれに答える。
「ああ聞いたところによると、腹部を強打したが、吹き飛ばされる時に受け身を取っておられたのだろう。骨等には異常は無く、入院の必要は無かったという話だ」
「ヒュー。さっすが隊長だい……(語尾、でいの方が良くないカ……)」
口笛を吹きながら言った逃隠は静かに思う。
「コンコンコン」
「!」
「……」
ノックが聞こえ、ピクリと反応する二人。
「誰だい?」
「……入れ」
逃隠、身体は口々に言う。
「こんにちはー」
少し気を使いながら主人公が現れた。
「何だ……ツトムか」
「よく来たんだい、ツトム」
「お見舞いのフルーツ、ベタな感じで持って来ました。はは……」
主人公は少し表情が硬い。
「良く持ってきた、ツトム。褒めて使わすんだい!」
「そんなに気を使う事も無かったけどな」
逃隠、身体の意見は何気に正反対だった。
「はは……二人とも、手が不自由そうなのでリンゴでもむきます」
何気に手先が器用な主人公、リンゴの皮むきを始める。
「二人は、いつ頃退院なんですか?」
「俺はあと3週間、副隊長は2週間でい! ……あ、間違った……だい!」
「そっか……あんなに強力な敵が現れ始めたら、厳しいですよね。副隊長」
「そうだな、あの矢以外では倒せてないからな……隊長ですら、太刀打ちできるかどうか」
副隊長は気難しそうに返す。
「僕が……僕しかできないコトならば一生懸命頑張ります」
「そうだな、ツトムが今や頼りの綱だ」
ここで逃隠も口を開く。
「悔しいガ、あの技を使えるのはツトムくらいだしナ!」
ペコリとお辞儀をする主人公。
「ところで、入院中何をしてるの、サケル君?」
「俺か? 俺はだナ……虚空を見つめている」
逃隠の発言にズッコケる主人公。
「ほ……ほかに何かないの!? ゲームするとか、いいと思うけど。何なら何か貸そうか?」
「この……有様だい……!」
逃隠は折れた両腕を見せた。
「……何か……ごめん」
「空気が悪くなったな。ツトム、リンゴでもくれ」
身体が、悪くなりつつある空気を換えるべく、助け船を出す。
「あっ、ハイ(せめて美味しいリンゴを……)わっ!」
「カラン……コッ」
主人公は手を滑らせ、果物ナイフとリンゴは地に落ちた。
「あ……」
「……」
「……」
「す、すいません」
(コイツ……大殺界か何かか?)
表情の暗い身体。
「あの……流れが悪いのでひとまず帰ります。失礼」
「ガラガラガラ、ピシャ」
主人公は病室を後にした。
「サケル……」
「!」
「アイツは何をしに来たんだ?」
「さ、さア」
謎の空気が二人を包んだ。
「シャリ……」
リンゴをたしなむ身体。
「お前も、どうだ……?」
「あ、いいんスか? 頂きまっス」
「シャリ……」
「う、美味いっスね、リンゴ」
二人は昼ごはんまでにリンゴを1つずつ食した。
――、
昼――
「頂きまース。もぐもぐ……ここの病院食、マズいっスねー。コメの一粒一粒が生きてない」
「……言うな」
「もぐもぐ…」
「もぐもぐ…」
(ま、まずいんだい……)
逃隠は考える。
(思えば副隊長との会話、狩人の実務や組手の会話しかしてなイ。まずい。非常にまずいゾ。この昼飯並みにまずイ)
「時に、」
身体がふと、口を開いた。
「ハッハい!!」
「サケルは何が好きなんだ……? 食べ物で」
咄嗟に逃隠が答える。
「カ、カレーでありまス!」
「そうか……病院食で出ればいいな」
「はい……」
(……会話続かネ――!!)
逃隠は頭を抱える。
(カレーですじゃねぇだロ! そこから先何もねぇだろうがヨ! 幼稚園児か俺は!? 語彙なさ過ぎだろおイ!!)
「俺は……」
身体が口を開く。
「!」
「俺は、ビーフストロガノフが好きだ。あと、ビーフジャーキーも……」
「う、牛が好きなんですネ」
必死で言葉を返すがよく分からない発言になってしまう。
(違うだロ! 牛肉は皆好きだヨ! 何かないのかヨ! てかビーフストロガノフってなんだよ、聞いたことしかねぇヨ!!)
「時に、」
(また会話吹っ掛けて来たんだい!! フクタイチョー!!)
「例の奴……壁のゾムビーについて、どう思う?」
「ア……はい……とてつもない防御力を持ツ、強敵だと思いまス」
「そうだよな……肉弾戦で敵わない相手……と見た」
「コクリ」
逃隠はうなずいた。
「隊長の能力をもってしてもダメージは与えられなかった。戦った感じで、刃物は効果がありそうか?」
「たぶん、無いと思いまス」
身体が問う。
「何故だ?」
「はい……、石の奴は殴打を吸収し、無力化してましタ。けれども壁の奴は全てを弾き返して無力化していまス。恐らく刃物も弾き返してくると、予想していまス」
逃隠の答えに、納得する身体。
「なるほど、そういう事か……頼みの綱は、ツトムだけ……と。益々戦いにくくなるな、石の奴ですら手こずっている俺だ……」
「そんナ……(確かに刃物を用いない副隊長は石の奴を倒すのすら難しい。でも、俺の中での副隊長は……俺の副隊長は……!)」
身体が口を開く。
「でも、だからと言ってやる事は変わらない。相手に怯む事無く、戦い続けるのみだ。一人でも多くの人間を守る為に戦う。今まで通りな。……そんな中で、もし俺が戦いあぐねているようなら、救ってくれよ。俺を」
トンと逃隠に手をやる身体。目頭が熱くなる逃隠。
「だ……だい!!」
(認めてもらえた! ……心から尊敬している人に、認めてもらえた!!)
ふるふると震える逃隠。
するとそこに――、
「やあ、元気か? 二人とも!」
爆破スマシが現れた。
「た、隊長! 隊長の方こそ、あの殴打を喰らって、平気でしたか!? 実は大怪我を推してらっしゃるとか」
身体が少し取り乱したように言う。
「なーに、あんなものは掠り傷に過ぎん。サケル、体調はどうだ?」
「はイ! 全治3週間といった病状ですが、オレは元気だい!」
「そうか、入院中悪いが、狩人の活動についての話をさせてくれ」
「ラジャー」
「了解だい!」
身体、逃隠の応答の後、爆破は話し始める。
「例の石……あの所持権をアメリカに移そうと思う」
「!」
「!?」
目を見開く二人。
「すると、どうなるんだい?」
「ここからは予想の範疇の話になるが聞いてくれ。石のゾムビー、壁のゾムビー並びに全てのゾムビーの日本での発生率を抑える事ができると予想されるんだ」
「!!」
「……本当ですか?」
身体が問う。
「ああ、あくまで予想になるがな」
「何故、そのような予想を……?」
更に身体が問う。爆破は答える。
「例の石、紫に輝く宝石が、我々の手に渡ってから、ラボ周辺のゾムビー発生率が数倍に上がったのだ。その期間に我々の間での異変があると言えばあの石を手に入れた事意外に何もない。そこからこのような予想をしたのだ。アメリカに石を移す事で、アメリカでのゾムビー発生率が上がるかも知れない。だが、今の我々の勢力と比べると、アメリカにある支部の方が戦力が上だ。あちらに少し頑張ってもらおう」
「ふ――。これで気兼ねなく休めますネ! 副隊長!!」
「ああ、助かった」
逃隠と身体が会話を交わす。爆破は締めに言う。
「私からは、以上だ!!」
――、
――狩人ラボ、爆破自室にて。
「こちら日本の狩人関東支部、爆破スマシだ。そちらはアメリカのN州支部で、間違いないな?」
何やら爆破が電話を掛けている。
「ああ、そうだ。以前話していた石を、そちらへ送ろうと思う。ああ、そんな処だ。……もう待つのは嫌いなのでな、だから……前を向いて進み始めようと思う」
――、
主人公が自宅の風呂、湯船に浸かっている。
「ポカーン」
湯加減は丁度良いようだ。主人公は両手を眺めていた。
「グングニル……か……」
風呂の天井を眺めた。
(ここ一カ月で……色んなことがあった――。本拠地襲来――、グングニルの発現――、そして――。)
「……尾坦子さん……元通りに戻れて本当に良かった」
グッと右手を握りしめる主人公。
「でも――」
主人公は抜刀の影を思い浮かべる。
「かかった犠牲は大きすぎる……」
暫く考え込む主人公。
そして――
「ザバーン」
立ち上がった。
「相談してみよう。コガレ君と!」
その夜、主人公は友出にメールをした。
「『明日、学校で話がしたいんだ』っと」
暫くして――、
「ブー、ブー」
メールが返ってきた。
「『分かった、昼休憩に、2階の廊下で待ってる』……よし、明日は心置きなく話すぞ!」
――、
――翌日、学校2階廊下にて。
「や……やあ」
「来たな」
主人公と友出は軽く挨拶を交わす。
「話って言うのは――」
主人公はこの一カ月間の全てを話した。
「ふーん、お前の人生にしては波乱万丈な一カ月だな。けどまあ、あれだ。とりあえず彼女出来て良かったな。大切にしてやれよ」
友出は長い話に対して端的に返した。
「うん……でも……」
「失ったものも多い……ってか」
「……」
黙り込んでしまう主人公。しばらくして口を開く。
「狩人の……メンバーさん達が亡くなった事はあったんだ。ゾムビーの魔の手から逃れなれなくて、ゾムビー化してしまって……だから殺されてしまった…………だけど、今回の様に超能力が使えるような主力のメンバーがいなくなってしまう事は初めてで……超能力が使えるのに……あんなに……強かったのに……!」
「……」
友出は主人公の言う事を只々、黙って聞いた。
「だから……僕もいつかは死んじゃうんじゃないかって……」
「!」
「僕だって、超能力が使えるけど、いつかゾムビーにやられちゃうんじゃないかって思ってて」
「おい……」
友出はその言葉に反応した。しかし主人公は続ける。
「それで……せめて生きてるうちに、尾坦子さんとは楽しい思い出を作っていこうって思っているんだ」
「ガッ」
友出は主人公の胸ぐらをつかんだ。
「言いてえコトはそれだけか?」
「……悪い……かな?」
「ドッ」
友出は主人公を突き飛ばした。そして言う。
「もう死ぬ覚悟はできてる……だから悔いの無いように戦って死ねるとでも思ってんのか⁉」
「そうだよ……だから」
「ふっざけてんじゃねえぞ!!!!!」
「!?」
激昂する友出に、動揺する主人公。
「何だよ死ぬ覚悟って!? そんなもん頭で考えて、強くなったつもりかよ!? そんなの弱いヤツの言い訳だろうが!! 彼女とは生きているうちに楽しくだぁ!? これから死ぬヤツと! 楽しく過ごせるのかよ!?」
「!!」
「そんなこと頭で考えるよか、ちったあ生きて生きて、生き抜く覚悟をしてみやがれ!!」
主人公の脳裏に尾坦子との思い出がよぎる。そして涙腺が震えた。
涙をぬぐって主人公は言う。
「ごめん……僕、間違ってたよ。尾坦子さんの事、しっかり考えてなかった。死ぬ人間とどんなにいい思い出を作ったって、死んだあとは悲しみしか残らないよね。……生きる。……今度から、いや、今から生きる覚悟をもって生きていくよ。生きて生きて、生き抜いてやる!!」
「……ちったあマシな覚悟ができるようになったか?」
友出は返した。
「うん! 今日は、ありがとう」
二人は熱い握手を交わした。
――、
――その日の晩、実家の自室にて。
(生きる……覚悟)
ベッドに横たわり、考え込む主人公。
(まずは、生きたいと切に思う事が必要なのかも……ポジティブに、ポジティブに……)
ふと、尾坦子とのデートがあたまをよぎる。
「やっぱり、彼女と楽しく生きていきたいなー。なんて……」
うつ伏せになって、枕に顔をボフボフボフボフっと叩き付ける主人公。
(そこから始めよう! 楽しく生きていき、もっと生きていたいと感じ、生きる覚悟を固める。その流れで!)
しばらくして、主人公は床に就いた。
――、
――狩人ラボ、未だに修繕工事を行っている。主人公は、その狩人ラボに足を運んでいた。
(まだ忙しいのかな? 少し気は引ける、けど……)
「コンコンコン」
爆破自室のドアを叩く主人公。
「? 誰だ? 入れ」
「失礼します」
入室する主人公。
「何だ、ツトムか。何の用だ? ……そうだ、ツトムにも話しておかなければならない事があった。少し、大丈夫か?」
「えっ、はい。大丈夫です」
話を始める爆破。
「ゾムビーが強化される、あの例の石についてだが、所有権をアメリカに移そうと思う」
「! どうしてですか?」
虚を突かれる主人公。
「あの石のせいで、ゾムビー発生率が上がってしまっているのだ。よって、この支部よりも戦力が充実しているアメリカのN州支部へと石を移動させる事で、ゾムビーの発生をその支部へ集中させる。そしてその支部が、ゾムビーを効率良く駆除していけるのではないかと踏んでな」
「なるほど!」
爆破の説明に納得した主人公。
「それにあたってだが、私自身も、アメリカへ飛ぶ」
「!!!!」
突然の申し出に面食らってしまう主人公。
「ホンキ……ですか……?」
「ああ、大真面目だ」
当然、と言わんばかりの爆破。
「まぁ、現代の航空網は進歩している。N州までは半日程だ。何ら問題は無いだろう。……そうだ、ツトムからも私に用事があったんだな? どのようなものだ?」
(! ! ! どうしよう。スマシさんからが大事な用事だっただけに、こっちの誰がどう聞いても私的な、こちらの用事を切り出しにくい……)
主人公は思わず口を閉じてしまった。
「? どうした、ツトム。何もなければ私は旅の準備に取り掛かるぞ」
首をかしげる爆破。
「あっ! あのっ!!」
事情を話す主人公。
――、
「ははっははは!! こんな大事な事情を話した後に! 彼女ともっと仲良くなるには、どうしたらいいかなんて!」
笑いを堪え切れない爆破。最早、大爆笑している。
それに対し、むすっとした様子の主人公。
「だから言い出しにくかったんですよ」
「ああ、悪い。済まなかった。そうだな、大切な人との時間をより良いものにする事は、確かに重要だな……よし、石に因んで、お互い誕生石占いでもしてみるというのはどうだろう?」
「誕生石占い?」
爆破のアドバイスにキョトンとした様子の主人公。
「時にツトム、誕生日の月は何時だ?」
「!」




