第三節 手と手
「タタタタタタタタ!!」
主人公達を見るや否や、ゾムビーは発砲してきた。銃弾は主人公達の足元から上に向かって着弾していった。
「パリィン!」
主人公が立っている直ぐ後ろの、ガラス張りが着弾して一部が割れた。
「タタタ!」
「パチュン!!」
「きゃっ!!」
一発の銃弾がガラス張りを打ち抜き、尾坦子の肩付近を貫く。
ガラスに付けたフックが支えていた、修学旅行で買ったお土産や、クリスマスプレゼントで買ったブレスレットも、衝撃で落ちてしまった。
「くそぉ! リジェクト!!」
「ドガァアア!」
主人公の放った衝撃波は銃器に命中、ゾムビーの腕ごと粉砕し吹き飛ばした。
「はっ!!」
間髪入れず、更に衝撃波を喰らわす。
「ゾゾォ!!」「ドシャアアア」
ゾムビーは粉々になった。
「尾坦子さん!」
振り返る主人公。
「ケガは? ……!」
尾坦子の肩付近が欠けているのが見えた。
「はは、ちょっとケガしちゃった。見て。血も出ないのよ? ホントに私って化け物になっちゃったのね」
「……」
尾坦子に対し、かける言葉が見つからない主人公。無理やりにでも口を開く。
「……そんなこと! ないよ。尾坦子さんは人間だから……それより、ここから移動しないと! ちょっと下がってて」
「?」
主人公に促されてガラス張りから離れる尾坦子。
「はっ!!」
「パリィイイン!!」
ガラスの破片が周囲に舞い落ちる。
「パラ……パラ……」
「さっ! 早く」
主人公はガラス張りの檻から尾坦子を助け出すべく、手を差し伸べる。対して尾坦子は取り乱したように言う。
「……どうして? 私は化け物で、実験台にしか役に立てないのよ。それなのに……」
「そんなことない。さあ」
主人公に迷いは無かった。
「どうして? 抱き合う事さえ、手と手を触れる事さえできないのに、何でそこまで構ってくれるの?」
「あなたのコトが大切だから」
「!」
尾坦子に対して、主人公が目を真っ直ぐに見つめながら言い放った言葉は、胸に深く突き刺さった。
「それに、こうすると……」
あの日つくった手袋を、主人公は手にはめていた。
「ほら、手をつなぐことができる」
二人の手と手は一切れの布越しではあるが、確かに触れ合った。
「! ……」
尾坦子の目に、涙が溢れた。しょうがないなと言わんばかりに、主人公は少し溜め息をついてから言う。
「さあ、行こう」
二人は歩き出した。
「ツトム君、手袋だって、いつか……溶けちゃうんじゃ?」
泣くのを必死でこらえながら尾坦子は言う。主人公は答える。
「なら、その時まで」
――、
――暫く歩くと、人の声がしてきた。
「尾坦子さん!」
「うん」
避難所があるという期待を持って二人はもう少しだけ歩いた。そこは武器庫だった。二人が辿り着いた時、そこには十数名の研究員やオペレーターが居た。
「! なぜここにゾムビーが居るんだ!?」
尾坦子を見るや否や、研究員の一人が言う。
「何!?」
「何だって?」
その声に反応して、数名がざわつき始めた。
「……」
尾坦子は下を向く。主人公は尾坦子をかばうように前へ出て言った。
「この人は、ゾムビーの調査の為、実験に参加している人です。僕達には危害を加えることは無いし、むしろ協力してくれている人です」
口調は少しムッとした様子だった。事情を知らないオペレーターや研究員達は言う。
「しかし、どうせ生体実験を行われるようなモルモットだろ」
「そうだ! そんな奴を保護して何になる!?」
「! ……ひどい。何てことを……」
彼らの心無い言葉に憤りを隠せない様子の主人公。
「いいの」
「!」
尾坦子が口を開いた。
「普通、そう言うわ。……あなた方に危害を加えませんし、迷惑もかけません。ここで避難させて下さい」
深々と頭を下げる尾坦子。
「そんな……尾坦子さん」
主人公は胸が張り裂けそうだった。
「そこまで言うなら……」
「フン……仕方ないな。ここでじっとしていろよ」
オペレーターや研究員は申し出を承諾したようだが、決まりが悪い様子だった。
「良かった。居ていいみたい」
主人公の方を向き、ペロりと舌を出した様子の尾坦子だったが、主人公の胸中は穏やかではなかった。
(こんな……当たり前のことなのに……尾坦子さんがゾムビー化したってだけで……クソ! あの日あんなことさえなければ)
「おい……あれを見ろ!」
誰かが何かを指差し、叫び声を上げる。一同、指差した方向を見る。
「ジュウウウウ」
溶け出す扉、そして……
「ゾ……」
「ゾムバァ」
「ゾム……」
扉を溶かして現れたのは、三体のゾムビーだった。
「そんなぁ! ……避難所まで進行してくるなんて!」
「助けてくれぇ!」
避難所である武器庫内は混乱に陥った。最中、
「下がって」
主人公は避難民の前へ出た。
「尾坦子さんも」
主人公は尾坦子に視線をやる。
「ツトム君、……無理……しないでね」
「うん」
ゾムビー達と対峙する主人公。間合いを確かめるように睨み合う。
「じり……」
(今だ!)
「リジェクトォオオ!」
「ゾ?」「ドシャアアア!!」
一体のゾムビーがリジェクトの餌食となった。
「よし! あと……二体」
その様子を目にしていた尾坦子は思う。
(これが……戦っているときのツトム君……)
思わず顔が赤らむ。
(こんなに頼りになるなんて……)
「ゾムバァ!!」
残りの内、一体のゾムビーが体液を吐き出す。
「回避の術! 飛び避け!!」
「タンッ! バシャ!」
主人公は横っ飛びで体液を避ける。床に飛び散る体液。そして、
「リジェクトォ!」
「ドシャアアア」
二体目を撃破した。
(イケる……この人達をそして、尾坦子さんを守るんだ!!)
「リジェクトォオオ!!」
「ドムゥン……」
「!」
最後の一体、あと一体のところだった。最後の一体は、
「石の、……ゾムビー」
息を呑む主人公。
「どうして? 何で? 効いてない」
困惑する尾坦子。思いを巡らせる主人公。
(石のゾムビーは、耐久力、攻撃力ともに上昇している。弱点は、刃物。刀傷があれば、そこから石を取り除ける……けど、僕にそんな攻撃手段は無い。そして――、)
石のゾムビーを見つめる主人公
(僕が一人で石のゾムビーを倒した経験は――、無い!!)
――、
狩人ラボ周辺の排水溝からは、異臭が立ち込めていた。東側入り口付近――。
「ザッ」
爆破と隊員数名が到着した。
「タタタタタタタタ!」
現場は激しい銃撃戦となっていた。ゾムビーはざっと十五体以上おり、ラボに近付くにつれて被弾し、倒れていく。銃を撃っていた隊員の一人に爆破は話し掛ける。
「状況は?」
「はい! 何とか数で対応しています。隊長が来て下さり助かりました。石のゾムビーらしき者も現れ始めた所でして」
「それは何体居そうなんだ?」
爆破は隊員にさらに問う。
「はい、一、二体程度です」
「分かった」
会話を終え、爆破はポケットに入れていた例の宝石を手に持ち、掲げる。
(少し、距離が足りないか……)
爆破は隊員全員に伝える。
「全員、聞け! 今から石のゾムビーを洗い出すために宝石を持って奴らに近付く。射撃がしづらくなるだろうが攻撃の手を緩めるな。やれるな!?」
『ラジャー』
隊員達は一斉にレスポンスした。
「よろしい」
爆破は返答を聞いてから歩き出す。銃弾の嵐の中、ゆっくりと見えるが、確実に歩みを進めていった。




