第八節 修学旅行、その2
――翌日、修学旅行2日目。本日の日程は、一応ゆったりとしたプランを組んでいるようで、朝は遅めだった。
「ふあ――、良く寝たぁ」
主人公は目をこすりながら起床する。
――8時過ぎ、朝食。
(沖縄の料理って、少し独特なんだよな。昨日もそうだったけど、そんなにたくさんは食べられないや)
主人公は軽めに食事を済ます。
「おーい、集まってるかー今日も張り切っていくぞー」
旅館の駐車場で、点呼が取られる。一行は次の目的地に向かった。
――、
小一時間後、一行は首里城内を歩いていた。場内に見えるのは、漆塗りによる美しい朱色だった。それぞれに写真を撮影する生徒達。普段見慣れない光景に、只々圧倒されるのだった。
――、
数時間後、ひめゆりの塔にて。広場を歩く一行。ガイドの説明を聞き、戦争について学んでいる。慰霊碑の前で手を合わせる主人公達。何か思う事があったようだ。更に、平和祈念資料館で戦渦の沖縄について学ぶ一行。誰もが、真剣な表情になっている。
――更に数十分後、主人公達は防空壕を訪れた。中に進み、意外な広さに息を呑む一行。当時の暮らしを想像するのであった。
――、
「さーて、今日はちょっと真面目に勉強したからな。ここから少―しリフレッシュタイムだ」
担任が言う。一行は、あーだこーだ村に到着していた。
「ここで、お前らは漆喰シーサーと言うモノを作ってもらう。魔除けになるらしいから、持って帰って家の玄関にでも飾っとくように」
(モノづくりか……楽しそうだな)
主人公は期待に胸を躍らせる。作り方の説明を受ける一同。作業に取り掛かる。
(タテガミをよりギザギザにしてみよう……牙も大きく……)
主人公のシーサーは何やらとげとげしい感じの特徴を持ったものになりそうだ。
――約2時間後。
「できた!」
漆喰シーサーが出来上がった。主人公の作ったシーサーは、全体的に赤い色合いで、所々黒い模様があり、歯は真っ白、といった具合に完成した。
「おっ、ツトムもできたか」
友出が話し掛ける。
「コガレ君……」
主人公が友出に目線をやる。
「お前のは赤かー。俺のは因みにこんな感じだ」
友出が、作ったシーサーを見せる。全体的に青いシーサーだった。
「それにしても、お前、こーゆーのが得意だったんだな。知らなかったぜ。俺のより大分出来がいいように見えるぞ?」
友出が感心している。
「はは……そんな事無いよ。コガレ君のだってカッコイイよ?」
赤と青、二つのシーサーが並ぶ。
「でもなんか、こうして見ると……」
「うん」「……兄弟みたいだな」
――帰りのバス。辺りは暗くなろうとしていた。
(今日は普段できない事が、沢山できたなぁ……すごく楽しくて、いい経験になった。今晩はしっかり寝て、明日も楽しむぞ!)
バスの中で主人公は、明日への期待と希望に胸を膨らませるのであった。
――翌日、午前。担任教師が生徒の前で言う。
「うおーい。皆居るかー? 今日はまず、ここ、きらきらビーチにて、沖縄の海を目に焼き付けて置くぞー。まぁ、まだ早い時間帯だから泳ぐ奴は居ないだろうがな。さて置き、最終日だ。しっかりと眺めてから帰るように!」
(何でまた……海? しかも眺めるだけなんて……今回の旅行の日程、ホントに誰が考えたんだろう……?)
困惑する主人公。
「うオ――!!」
逃隠は朝だろうとクロールで力強く泳ぐ。そこへ、
「ぴちゃり……」
「ゾ……」
いつしか聞いた、あの足音とうめき声が。
「この音は……まさか!」
主人公が何者かの気配に気付く。
「うわぁあああああ!!」
「!」
生徒の叫び声が聞こえた方向に、目を向ける主人公。波打ち際からやはり、ゾムビーが発生していた。
「うおーい! ゾムビーだ! ゾムビーが発生したぞ! 皆ー、浜辺から離れろぉ! クソッ! 何でウチの生徒ばかりこんな目に……」
担任教師が叫びながら避難の指示を出す。
「うオ――!!」
逃隠は急いで海から上がる。
(なんてこった! ひとまず、スマシさんに連絡を……)
「ピッ」
携帯を取り出し、電話を掛ける主人公。
「もしもし! スマシさん。ツトムです! 修学旅行先のビーチで、ゾムビーが発生しました」
「……分かった。近隣の、ゾムビーに対処できる機関に連絡を回しておく。まずは、生徒達の避難を優先させるように。安全になったらゾムビーを殲滅しろ!」
冷静に指示を出す爆破。
「分かりました!」
「ピッ」
携帯を切る主人公。
(敵は……7体! それぞれ、まばらな位置に離れて立っている! いっぺんに相手にするのも、無理だ。指示通り、避難を優先させる!)
主人公は、冷静に状況を分析していた。
「ツトムぅ!」
「!」
逃隠が呼び掛ける。
「本部への連絡は済んだのカ?」
「うん、まずは生徒達の避難を優先させるんだって。そう指示があった!」
主人公が返す。
「そうカ……このスーツが、純粋に人名救助に役立つ時が来るなんてナ……刀は無理だったけド、スーツは持って来られたゼ!」
いつの間にか特殊スーツに着替えている逃隠。
(早着替え!)
主人公は驚愕した。
「こっちだ! 早くビーチから離れろ!」「前の人を押したりしないように!」
教員達は一丸となって生徒を誘導する。
「わぁ――!!」「助てぇー」
「パリィン!!」
混乱の中、佐藤の一眼レフのレンズが割れた。
「わあっ!? 僕の貴重なコレクションがぁ!! データは、無事なのかぁ!?」
――、
「おらっ! 早く行けよ!」「どかっ」
「わっ!」
一部で、前の生徒を押す者が。男子生徒はこけてしまった。取り残されてしまう生徒。
「わぁ……どうしよう?」
そこへ、
「大丈夫カ?」
スーツを着た逃隠が現れた。
「よいしょット」
横抱きの形で生徒を抱きかかえる逃隠。人波を避けるため、大きく跳ぶ。
「スタッ」
「ここからなラ、一人で歩けるナ?」
人混みの無い、安全な所まで生徒を運んだ。
「キミ……そのスーツ……」
「ン?」
「何のコスプレ? 流行んないから止めた方がいいよ?」
「るっさいワ! 大きなお世話じゃイ!」
男子生徒の心無い一言に、憤慨する逃隠。それを見ていた主人公。
「よし、僕も逃げ遅れた生徒達を避難させないと……」
「おい」
「!」
振り向くと、そこには友出の姿が。
「俺も協力するぜ。指示を出してくれ」
ぱあっと明るくなり、喜ぶ主人公。
「うん! お願い!」
生徒の肩を担ぐ友出。生徒の手を引く主人公。生徒を抱きかかえ、跳ぶ逃隠。生徒に避難の指示を出す教員。平々凡々中の生徒の避難は順調に思えた。その矢先。
「わぁあああああああ!!」
「!」
「!」
一人の男子生徒の悲鳴が上がる。振り向く主人公や逃隠達。男子生徒はゾムビーのすぐ近くに腰を落としていた。
「腰が抜けて、動けないんだー! 助けてぇー!」
(くっ、あの生徒、背が低過ぎて気が付かなかった! リジェクトの射程距離より遠い! サケル君も、間に合わない!)
主人公が思いを巡らせる。
「ゾ……ゾ……」
ゾムビーが迫り来る。
「うわぁあああああああ‼」
瞬間――、
「タタタタタタタタ」
銃声が鳴り響く。
「ゾゾ、ゾ!?」
ハチの巣になっていくゾムビー。遂には、崩れ落ちた。銃声がした方向を向く主人公。そこには、軍服を着た外国人が数名、立っていた。
「hey kids!」
外国人の内、一人が言った。
「あ……アメリカ人……?」
主人公は呆気に取られる。
「はッ!」
逃隠は、襲われていた男子生徒の元にようやく駆けつけ、彼を担いだ。
「安全な所に連れてくからナ」
「あ、ありがとう……」
「let’s go」
「タタタタタタタタ」
軍人たちは次々に銃弾を撃ち始めた。
「ゾ!」「ゾゾォ!」
倒れていくゾムビー達。呆然とする主人公。そこへ、
「ブー、ブー、ブー」
電話が掛かってきた。
「もしもし。主人公ツトムですが……」
「ツトムか? 私だ、爆破だ。もう救援部隊は到着したか?」
爆破からだった。
「スマシさん……ええ、外国人の様な軍人達が数名……あの方々は?」
主人公は軍人を見ながら問う。
「ああ、彼らは在日米軍基地の者達だ。普段は、日米安全保障条約の下、日本が戦争の被害に遭わないよう、警護してくれている。本当に稀だが、今回の様に沖縄周辺でゾムビーが出没した時にも、出動してもらっているんだ」
「そう……なんですか」
主人公は辺りの光景を見つめながら返事した。
「タタタタタタタタ」
銃撃を続ける米軍。
(すごい……狩人と同様……いや、それ以上の実力があるかも……)
息を呑んでその光景を見つめる主人公。
「そろそろ、終わった頃か?」
爆破が電話越しに言う。辺りに響いていた銃声は鳴り止み、そこには発砲によって生まれた少量の煙と、ゾムビーの肉片だけが存在していた。
「……戦闘は、終わったようです」
爆破に言う主人公。
「そうか。この後、軍への連絡等をしなくてならないのでな、もう切るぞ」
「はい」
「ピッ」
通話は切れた。
「Are you okay?」
軍人が主人公の元へ来た。手を差し伸べている。
「い……イエス……センキュー」
片言の英語で返し、主人公も手を差し出す。
「ガシッ」
二人はその手を握り合った。
(ち……力強い。これが、アメリカの軍人の筋力……!)
軍人の握力に圧倒される主人公。
「Anytime! Goodbye!」
手を放し、去っていく軍人。
「……」
「……」
何か軍人同士で話し合っている。周辺の肉片の処理について話し合っている様だ。この後、清掃係が現れ、ゾムビーの死骸が処理、清掃された。
――、
「ふー、危ないところだったな。皆居るか? 点呼を取るぞー。青木! 石原! ……」
主人公のクラスの担任教師が点呼を取り始めた。それぞれのクラスで点呼は行われ、全学年生徒、教員全員の無事が確認された。
――1時間後、国際通りにて。
「うおーい。今回の旅行は、最後にここ、国際通りで何かしらお土産等を買ってから帰ることになるぞー。あんな事があったが、予定通りに日程を消化していくぞー。どうせ飛行機の予約がずらせないからなー。文句は言わないよーに!」
担任が話す。
「おいおい、大丈夫か?」
「どうかしてるぜ!」
「また出てこないか、こわーい」
クラスメイトは口々に文句を言った。主人公も不満の様だ。
(ホントだよ。飛行機の予約がずらせないからってゾムビーが出た後に、こんな呑気に……。ここでは……出てこない事を祈ろう……)
「いやったゼ――! 身体副隊長ニ、お土産を買って帰っテ、評価アップだ――!!」
逃隠はノリノリだった。
(はは……もう、仕方ないや。僕も尾坦子さんに何か買って帰ろう。尾坦子さん、欲しがりだから……)
国際通りでの買い物が始まった。ちらほらと、通りにはシーサーが置いてあった。辺りはそれなりに賑わっていて、人波が途切れることは無い。沖縄限定のお菓子を買う生徒が多い中、それを少し、残念そうな目で見る主人公。
(尾坦子さんには……お菓子あげられないや)
主人公はキーホルダーに目をやった。色々なキャラクターや、沖縄にちなんだモノがある。逃隠は独特な雰囲気の魔除けの置物を見て考え事をしている様だった。遂に主人公はレジに何か持って行く。
「ありがとうございました!」
手にしていたのは、シーサーのキーホルダーだった。生徒達があれこれと買い物をしていくうちに、最後の日程は終了した。
――夕方、帰りの飛行機内。主人公は窓際の席に座って考え事をしている様だ。
(ゾムビーが出てきて大変だったけど、たくさんの経験ができたな。楽しかったコトが多かったけど、戦争についても学ぶ機会もあったなぁ。戦争なんて、想像もできないし、中学の僕には難しいことばっかりだけど、敵の手から人々を守る為に戦うっていうのは、狩人の活動と似ているのかもな。……敵との命の奪い合い。……いつか僕らの戦いも、世界で起きている戦争も、全部終わればいいのになぁ……)
飛行機は羽田空港に向かって飛ぶ。
――数時間後、夜。主人公宅にて。
「ただいまー!」
主人公が玄関を開ける。
「ドタドタドタドタ」
母が走って出て来た。
「ツトム! 大丈夫だった!? ケガはない?」
「どうしたの? そんなに慌てて」
主人公が問う。
「学校から連絡があったの。旅行先でゾムビーが発生したって……旅行先でくらい戦いの事は忘れさせなさいよね! ゾムビーったら。……大丈夫だったの?」
母は少し怒った後に聴き直した。主人公は返す。
「ああ……うん。普段だったら普通に戦うだけだけど、今回は生徒を守るのが大変だったかな……でも、米軍の人達が助けてくれて、何とかなったよ」
「そう、なら良かったわ」
ふー、とため息をついて安心する母。
「そうだ、今回の旅行でシーサー作ったんだよ。魔除けとして、玄関に飾ろう。ゾムビーが来ないように……なんちゃって」
主人公は玄関にシーサーを置く。
「わぁ、上手くできたわね! それはそうと、晩御飯できてるわよ。早く食べなさい」
「はーい、お腹減ったー」
こうして、主人公の中学校生活最大のイベント、修学旅行は無事、幕を閉じた。
第三章 旅先珍道中、完




