第七節 修学旅行、その1
時は過ぎ――3月。場所は主人公の教室。
「はーい、注目。来週、遂に待ちに待った修学旅行の日がやって来るぞー」
「やったぜ!」
「楽しみ―」
「何持って行こうかー?」
担任教師の言葉に、ざわつき始める教室内。
「はいはい静かにー。……説明を始めるぞ。旅行先は、知っての通り、沖縄だ。どこを回るかだが、1日目は――」
(修学旅行かー。楽しみだなー。沖縄の3月って暑いのかなー?)
主人公が期待に胸を躍らせる。
「いちおー、海で泳げるぞー。強制ではなく、希望者だけだがなー」
教師が言う。
「俺は泳ぐゼー!」
逃隠が右手を上げて叫んだ。
「ははははははは」
騒がしくなる教室内。
「おー、サケルは元気があっていいなー。説明を続けるぞー」
教師が言う。
(楽しみだなぁ……そうだ! 狩人の仕事、どうしよう? スマシさんに相談しないと……修学旅行、行けるといいなぁ)
――放課後、主人公と逃隠が教室に残っている。電話をしている主人公。
「もしもし、スマシさんですか? 来週、修学旅行があって……」
主人公の横で、両手を握り祈る逃隠。
「そうか。副隊長のケガももう治ったし、私やセツナ、隊員達も健在だ。1月、2月のゾムビー発生率から考えて、3月もそんなには発生しないだろうから、行っていいぞ、修学旅行」
爆破の言葉に、明るい顔になって逃隠の方を向く主人公。
「っシャ!」
パチンと逃隠が指を鳴らしながら言う。
「楽しんで来いよ」
「はい!」
「プツッ……プー、プー、プー」
電話が終わる。
「ぃやったー!!」
「おっシャー!!」
叫ぶ主人公と逃隠。
「不安だったけど、修学旅行に行けるよー!」
「今回ばかりハ、中学生で1回きりのイベントだかラ、任務より優先してしまうゼー!!」
主人公、逃隠の二人は両手を握りながら、言葉に力が入る。
「楽しみだね!」
「おウ! じゃア、また明日ナ!」
「うん!」
二人は学校から帰宅した。
――1週間後、修学旅行当日。羽田空港にて。
「うオ――――!! 飛行機がたくさンあるゼ――!!」
ラウンジで逃隠がはしゃいでいる。
「うわぁ……飛行機なんて、生まれて初めてだよ」
主人公が感動している。
「おーい、そろそろ時間だ。俺らのクラスも乗るぞー」
『はーい!!』
担任教師の言葉で、主人公のクラスが動き出す。
――、
「プー、プー、プー、……皆様、間も無く離陸致します。シートベルトをもう一度ご確認下さい。那覇空港への到着は……」
機内、アナウンスが鳴っている。
「おイ、ツトム。シートベルトをしたカ?」
逃隠が主人公に話し掛ける。
「したけど、どうしたの?」
主人公が問う。
「コレをもシ、中途半端にはめテ、失敗でもしてみロ……最悪……」
「最悪?」
神妙な面持ちの逃隠に、再び問う主人公。
「死ヌ……!」
「え?」
逃隠は続ける。
「突如、発生する上昇気流ゥ! 雨雲は発生していキ、次第に台風にまで発展すル! 荒れ狂う天候ゥ! 揺れ動ク機内! そして吹き飛ばされた機体は海へと真っ逆さマ…………そこデ、シートベルトをしっかりト着用できていなかった者ハ……命ヲ落とすんダ……」
「大袈裟な……しかも、めちゃくちゃな理論だし……」
呆れる主人公。
「へっ。くだらねぇ」
友出が窓際で言う。
「ガシャン!」
「!」
飛行機が離陸のため、動き出したようだ。
「ゴ――――」
機内にGがかかる。
「うオ――! この力感んン‼」
「うわ、何だか気持ち悪い感じだ……」
逃隠、主人公が口々に言う。
「ス……」
機体が離陸した。
「! 何だか、感覚が……」
主人公は違和感を覚える。
「見ロ! ツトム‼ 陸ガ……離れていくゾ……‼」
「!」
逃隠の言葉に、窓の方を見る主人公。徐々に、陸が遠くなっていった。
「うわぁ……凄い。飛んでる……海もあんなに遠く……」
暫くし、雲よりも機体は高くなっていった。
「ヤバいゾ! ツトム! 雲よりも高みへ昇っちまったゼ!! 何物にモ邪魔されない場所で太陽様が拝められル!!」
「凄い凄い!! ホントに雲より高い!!」
――10分後。
「……何だか、景色、変わんないね」
「あア……何もねェ……」
――更に10分後。
「すー、すー」「くかァ――」
二人は寝始めた。中学生にとって、変わり映えのしない景色と言うのは苦痛だったようだ。
――数時間後、那覇空港。主人公のクラスは、沖縄に到着した。空港内を歩く一行。
「ふあー。結構寝ちゃったね」
「おウ。これが時差ボケと言う奴カ……」
(いや、日本だし……そこまで変わんないよ……)
会話を交わす主人公と逃隠。
「よーし、全員居るかー? 今から点呼をとったあと、バスに乗るぞー」
一行はバスに乗り込んだ。
――、
「右手に見えますのは……」
バス内。バスガイドが那覇空港近辺を紹介している。
「よウ、ツトム。最初はどこに行くんダ?」
逃隠が、教室内の如く後ろの席から主人公に話し掛ける。
「えーと、旅のしおりによると、最初はあったかビーチに行くんだって。今年は特にあったかいから、もう海開きをしているみたい」
主人公が答える。
「うオ――!! 俺は泳ぐゼ――!!」
逃隠が叫んだ。
「はは……」
主人公は苦笑い。そして――
あったかビーチ、到着!
「うわぁ……! 沖縄の海って綺麗なんだなぁ……」
透き通った海を見て、感動している主人公。
「チョット、ツトム君」
「へ?」
何者かに話し掛けられる主人公。
「この海、一見綺麗に見えるのですが、自然環境は少し、昔よりは悪い方なんです。通常、サンゴ礁等の自然溢れる海なら、少しばかり海は濁っているのですが、この海、透き通り過ぎていますよね? それは、サンゴ礁が減少している証拠なのです」
「へぇ……そうなんだ……ところで、失礼だけど……君は?」
何者かに問う主人公。
「ボクの名は佐藤モブ太、2年1組の生徒なんだ」
――、
「うオ――!!」
クロールで泳ぐ逃隠。
「佐藤……モブ太……君?」
主人公が呟く。
「そう。キミの事をボクが知っているのは、ボクが2年の全クラスの名前と顔を、一致させるまでに覚えているからなんだ」
佐藤はそう話す。
「へぇ……凄いね」
少し焦る主人公。
「引いたかい? 引くよね? フツー。でもこれはボクの趣味なんだ。気にしないでくれたまえ」
佐藤は淡々と言う。
「はは、じゃあ、気にしないよ」
主人公は頭を掻きながら答えた。
「うおっ! 何だありゃ」
「で……でけぇ」
ビーチがざわつき始める。
「ん?」
主人公は騒がしくなってきた方向を見てみる。
「どどーん!」
そこには、巨大な胸が。
「あれは……バレーボール……?」
主人公は錯乱する。
「おいおい、何を言っているんだよ、ツトム君。気を確かに。アレは人のものだよ。中学生らしからぬ巨乳を持った生徒が、この学校にも居たんだ」
佐藤は解説を始める。
「巨房キョホウミノリ……2年3組在中。身長158sm。スリーサイズ、上から87、58、86のEカップ。他の生徒の大概がキャミソール型の水着に対し、彼女だけ派手な黄色のビキニ。恐らく、サイズが合わなかったのであろう。やむなく、大人と同じデザインのモノを着るコトになったと推測される」
「く……詳しいんだね……」
ドン引きする主人公。
「まぁね。この瞬間こそが、今回の旅行の全て。ボクが待ち望んだモノ……」
そう言ってカバンから何か取り出す佐藤。高価そうな一眼レフだった。
「! それは……!」
驚愕する主人公。
「ん? これかい? カメラだよ、カ、メ、ラ。このシャッターチャンスを逃す手は無い……」
「パシャッ! パシャッ! パシャッ!」
盗撮を敢行する佐藤。
(! 何やってるんだ!? このヒト!)
更に驚愕する主人公。今まで会った事の無い人種に、完全に困惑している。
「じゃっ、じゃあ僕は泳ぎたいからこの辺でさよならするよ……じゃあね!」
一言言って走り去る主人公。
(関わってはいけない。関わってはいけない。関わってはいけない)
数メートル離れてから振り向く主人公。佐藤は未だに撮影をしていた。
「ふぅ――」
ため息をつく主人公。ふと、巨房の方へ目が行く。
(で……でっかい……でも、尾坦子さんよりは……)
尾坦子の水着姿を想像する主人公。顔がにやける。すると、
「うっ」
下半身に違和感が……。
「や、ヤバい……クールダウン、クールダウンっと」
海に浸かる主人公。
――数10分後。
「うオ――!!」
クロールで力強く泳ぐ逃隠。主人公は座って海を眺めていた。
「よう、泳がないのか?」
友出の声が。振り返る主人公。
「コガレ君……ちょっと、海を見ていたいなって思って……」
「そっか……」
友出も、主人公の横に座る。
「いいもんだな……海が綺麗で、平和で……」
友出がそっと呟く。
「うん……でも、さっき他のクラスの人が言ってたんだ」
「何だ?」
主人公は話を始める。
「海が透き通って見えるのは、サンゴ礁等の自然が少なくなっている証拠なんだって。それで、自然が破壊されて、汚れでもしたら、ゾムビー達が出て来ちゃうんじゃないかって思うと……」
「……例の、あの化け物の事か?」
暫く主人公を見つめた、友出が言った。
「うん。あの化け物達は、湿った場所もなんだけど、汚れた場所も好むんだ。だから、倒す事に集中するだけじゃなくて、自然を守る事にも力を注がないといけないなって、そう思うんだ……」
主人公はそう返す。友出はふーっと息を吐いて、顔を上に上げてから言った。
「大変なんだな、色々と。……俺は自然とか、嫌いじゃねぇから……環境保護とか、協力してやってもいいぜ。募金とかくらいだけど」
「!」
少し驚く主人公。
「うん! ありがとう!」
微笑んで、元気よく言った。
「うオ――!!」
逃隠は、遠瀬まで泳ぐ。
――、
――数時間後、在日アメリカ空軍基地近辺にて。主人公のクラス、4組の担任が話す。
「海で泳いで疲れているだろーが、修学旅行って名目だ、勉強もしなけりゃーな。ここで戦闘機の凄まじさを学んでもらうぞー」
逃隠が愚痴をこぼす。
「ケッ! 誰ダ? こんな日程組んだ奴ハ!? あんなに泳いだ後ダ! 疲れるに決まってるだろうガ。こんなモノ! こんなモノ!」
旅のしおりを何重にも破って微塵にする。
「まぁまぁ……(確かにちょっと疲れる日程組んでるなぁ、誰が考えたんだろう?)」
主人公は逃隠をなだめつつも、疑問に思う。
「ゴゴォオオオオオオオオオオオ!!!!」
爆音を鳴らしながら戦闘機が飛び立った。
「うひャー! びっくりさせるナー。せんセー、こんな音を聞いテ、何の勉強になるんですカー?」
逃隠が問う。
「んー? そうだなー、戦闘機はおっかないってコトを直に感じる勉強だ―」
担任は耳を塞ぎながら言った。
「説得力ねーんだヨー。エセ教師ィー」
「んー? 聞こえてるぞー、サケル?」
「ははははは」
逃隠と担任の会話を聞き、笑いだす2年4組。担任が話し出す。
「そうそう。ここは空軍だから、あんまり関係ないかもしれないが、在日米陸軍は、最近だとー、ゾムビーが発生した時に出動する事だってあるんだぞー」
主人公はハッとする。
(知らなかった……米軍も同じようにゾムビーを……でも、狩人だって、言わば軍隊。米軍も軍隊。同じように何かを殺す……米軍も狩人も殆ど似たような部隊なのかも知れない……)
少し自分のやってきた事に、疑問を持ち始める主人公であった。
――夕方、旅館駐車場にて。
「はーい、注目。今日の日程はこんなところで終わりだ。各自、荷物をまとめて、自分の部屋に泊まるよーに! 部屋を散らかすなよー」
担任がメガホンで言う。
「よう、ツトム。一緒の部屋だな」
友出が主人公に話し掛ける。
「コガレ君!」
主人公はパァッと明るくなる。
――夜、主人公が泊まっている部屋。電気が消え、主人公、友出、生徒A、生徒Bが布団に入っている。
(寝れない……何故だろう……興奮しているわけでもないのに……)
中々寝付けない主人公。そこへ、
「ツトム、起きてるか?」
友出が話し掛けてきた。
「コガレ……君?」
「寝付けねぇよな……トランプ、やろうぜ!」
「おっ、いいねぇ」
「やるか!」
友出の言葉に、生徒A、生徒Bもノッてきた。
「……うん!」
主人公も答える。
――4人は夜遅くまでトランプをして遊んだ。




