第三節 交戦
「アメリカのみならず、わが国でも……か」
日本――。
円卓を囲い、6人程度の男が、暗い部屋の中で会議を行っている。いかめしい様子が、ことの重大さを物語っていた。
「怪物、ゾムビー。厄介なのはその繁殖力で、口や体から出された体液に触れれば、人間はおろか猫や犬といった哺乳類全般を含むほぼ全ての生物がゾムビー化してしまう点だ」
「感染力だけを見れば、インフルエンザ以上だな 」
「ワクチンや特効薬が無い分、それよりも恐ろしい……」
「アメリカはどう対処している?」
「アメリカは現在、超能力を使えるサイキッカーや、駐留する陸軍がゾムビーの駆除を率先して行っている」
「超能力を使える者など、日本にはいないぞ」
「陸軍……か。実戦から離れたうちの自衛隊など、ゾムビーにどこまで対処できるか……」
「新しい部隊の設立が急務だな……」
どうやら、日本政府の要人達がゾムビー駆除について話し合っているらしい。話し合いはこの後も、終わることなく続けられていた。
一方、アメリカでは――。
「タタタタタタタタ!!」
『今日も焼き尽くしてやるぜ! とう!!』
「ボッ! メラメラメラメラ」
「ゾゾォ……」
「ゾム……」
N州周辺、米軍、fireが前線に立ち、ゾムビー達と交戦している。
『クッ、何匹もうじゃうじゃと……』
米軍の兵士の一人が、気を抜いた瞬間、
「ゾムバァ!!」
ゾムビーが体液を吐き出してきた!
『あ……』
その時――、
『ふん!』
「ぶわっ」
兵士に降りかかったはずの体液が、宙に浮いた。
『な……?』
何が起きたか理解が追い付かず、呆気にとられる兵士。その10メートルほど後ろで、
『早く! 今のうちに!!』
髪が腰まで伸び、赤いワンピースを着た少女が左手をかざし、何かしら力を込めている様だった。
少女の正体は、サイコキネシス。物質を動かしたり、今回の様に宙に浮かせたりして身動きをとらせない事でゾムビーと交戦するサイキッカーである。
『早くしなさい! 次のが来るわ!!』
『あ……ああ、済まない』
銃器を構える兵士。
そして――、
「タタタタタタタタ!!」
銃弾をゾムビーに撃ち込む。
「ゾゾォ……」
ゾムビーは蜂の巣になった。
一方でボディアーマーは――、
『ふんぬ!!』
「ゾ?」
「バシャアア!!」
ゾムビーの顔面に全力の右ストレートを放ち、破壊した。続けて――、
『てりゃ!!』
「ゾ?」
「バシャアア!!」
蹴りや拳を交えて一体、また一体とゾムビーを撃破していった。
そこへ――、
『よっ、ボディアーマー』
『!?』
ボディアーマーの元へ、fireが現れた。
『調子はどうだ?』
『まあまあ、だ、ぬん!!』
「バシャアア!!」
『何体倒した? ちなみに俺は、コイツで20体目だ!』
「ボッ! メラメラメラメラ」
会話をしながら、ゾムビーを倒していく二人。
『あいにく、数に興味が無いのでね。数えては、いない!』
「バシャアア!!」
『そいつは残念だ! なっと!』
「ボッ! メラメラメラメラ」
「ゾゾォ!」
「ゾォオオ!!」
『凄い……』
周りの米軍兵士達は息を呑んだ。赤子の手をひねる様に二人はゾムビーを倒していく。これ以上心強い者はないと、誰もが心から思った。そこから遠くで――、
「ズダン」
「ゾォオオ!」
ショットガンを使い、戦う者が――。
「ゾゾォオオ!」
その人物の横からゾムビーが襲ってきた。
瞬間――、
「シュピン……」
身体が跡形も無く消え去った。
「ゾ? ゾゾォ?」
あの人間は何処へ……? 困惑するゾムビー。
そして――、
「シュピン……」
再びゾムビーの後ろにその人物は姿を現した。
「ゾ?」
ゾムビーが後ろに振り向こうとした瞬間――、
「ズダン……」
その人物はショットガンでゾムビーを葬った。
その人物の正体はワープ。一瞬で自らを移動させる能力、瞬間移動の使い手である。
『フー。このスーツ、ゾムビーの体液を無効化させるのはいいけど、なんかむさ苦しいんだよなぁ』
ワープは小言を漏らした。
戦いの最中、ゾムビーの親玉は、ゾムビー達にしか聞こえない声で、言葉を発した。
『同胞達ヨ……。今ハ我々ノ方ガ、チカラ不足デ人間達ニ敵ウ見込ミハナイ……。今ハ只、チカラヲ蓄エルノダ……』
「ゾォオオ」
「ゾゾォ……」
ゾムビー達が撤退していく。
『追うか?』
『待て!』
軍の司令官は深追いしようとする兵士を制止する。
『見ての通り、こちらの兵力も疲弊しきって居る』
『ゼェ……ゼェ……』
『ハァ……ハァ……』
fireやボディアーマー、米軍兵士達は肩で息をしている。
『よって深追いはせず、ゾムビー達を撤退させただけでも良しとしよう。次の戦いに向けて、英気を養うのだ』
『ラジャー』
それ以来、N州ではゾムビーがあまり大量には発生しなくなった。
アメリカの、他の州でもゾムビーが現れるが、N州同様、大量発生はせず、時は進み――、
2015年2月――、
この物語の主人公、主人公ツトムがK県で産まれた。爆破スマシが、“あの一夜”を過ごした、一ヶ月くらい後の事だった。
「あなた、産まれたわ」
「おお。元気に育てよ、ツトム」
主人公の母・ホマレと父・シカルは喜びに満ち溢れていた。
主人公がこれから挑んでいく壮絶な戦いのことなど、母も父も、当の本人さえも予期せずにいた。
さて、ゾムビー達は、元々宇宙に居た生物だ。
宇宙の成分はダークエネルギー、暗黒物質ダークマター、原子で構成されている。その比重は、ダークエネルギーが68.3%、暗黒物質が26.8%、原子が4.9%となっている。その成分の空間に慣れていた所為か、地上に降り立ったゾムビー達は、他の物質を取り込まなければ自らの形を保つことは出来なかった。その他の物質とは?
雑菌や食物などである。それらを求め、ゾムビー達は人間の前に現れたのである。
(にんげん、つよい……)
(いたいの、きらい……)
(たたかう、いやだ)
ゾムビー達は人間達による戦いに巻き込まれる事で傷付き、それ以降は人間達の前に姿を現すのを暫く止めた。ほとんどのゾムビー達は自らの形を保つよりも、自らが傷付くことを避けた。そんな中でも、爆破はちらほら現れるゾムビー達を駆除していった。時には自ら見つけたゾムビーを、また時にはスーツ姿の男が見つけたゾムビーを、連絡を受けてから、駆除しに行った。アメリカでも時折り現れるゾムビーの駆除を行う者が居た。それはMASAの隊員や、米軍の兵士から派生した人員達である。組織名はhunter。文字通り、ゾムビーを狩る組織だ。この組織にはfireやボディアーマー、サイコキネシスやワープも所属していた。
月日は経ち――、
2018年のある夏、中学二年生の抜刀セツナは生まれて初めてゾムビーと対峙する事となる。とある河川敷に一匹のゾムビーが発生していた。
「おいおい、何だこの化け物は……? まあいい、この力を思う存分使ってやる。普段は喧嘩で威嚇程度に使ってたが、今回はホンキで余すことなく使ってやらぁ!」
ダッシュでゾムビーに近付く抜刀。
「抜刀……一閃……!!」
抜刀は超能力で出した刀を上から一直線に振り下げた。
「ゾ?」
「ズバァ!!」
ゾムビーは縦に真っ二つになった。
「ズズズズ……バシャァ」
ゾムビーの残骸は切られた面から体液があふれ出した。
「へっ! てんで相手にならねぇ。まぁ、ストレス解消には丁度いいか? また見つけたら叩き切ってやる!」
(また、なかまやられた)
(にんげん、こわい)
ゾムビー達は互いにテレパシーの様なモノで情報を共有していた。その全ての情報や感情は、ゾムビーの親玉に伝わっていた。
『オオ、同胞達ヨ……。何トカシテ助ケテヤリタイガ、ココカラ離レラレナイ。助ケル法ガ思イ浮カバナイ……。ドウスレバ……ドウスレバイイ!?』
そして2020年、ある春の事――、
高校二年生の、身体スグルが河川敷をランニングしていた。ふと、何かの気配に気付く。川の方を見るとそこには紫色をした、得体の知れない生物がたたずんでいた。
「! 何だコイツは!?」
その生物はじりじりとこちらへ近寄ってくる。
「ゾム……ゾム……」
「くっ来るなぁ!!」
怯える身体。
「……バースト」
「ボボン!」
得体の知れない生物は爆発するかのように弾け飛んだ。声のした方へと身体が顔を向ける。
「危なかったな、青年。もう大丈夫だ」
そこにはたまたま散歩をしていた、爆破がいた。
「あ、貴女は?」
「ん? 私は爆破スマシ。ストレス解消と趣味で、さっきのような生物を駆除している者だ!」




