第二節 ショッピングモール
――3階。
「ダッダッダッダッダッ」
身体と逃隠が体液の痕を追って走っている。
「ザッ」
遂にゾムビーの姿を確認する。
「……ここは?」
身体達が辿り着いたのは、ペットショップがあるフロアだった。
「ゾ……ゾ……」
ゾムビー達は子猫や子犬が入れられているケージに、3体ほど群がっていた。
「こラ! 何をやっているんダ!?」
逃隠がゾムビーに向かって怒鳴る。
「ゾ……ゾ……」
ゾムビーは逃隠を相手にしない。
「にゃー」
子猫の入ったゲージを見つめるゾムビー。
「ゾムバァアア」
「バシャアア……ジュウウウウ」
ゾムビーはゲージのアクリル板を体液で溶かした。
「!」
「!?」
咄嗟の出来事に、驚愕する身体と逃隠。
「……何をする気だ……?」
身体が言う。
「にゃー、にゃー」
ゾムビーを見つめる子猫。
「ゾムッ!」
「バシャアア」
その顔目掛けて、ゾムビーは再び体液を吐き出す。
「にゃー……にゃ……ぞに……ゾニャ……」
子猫はゾムビー化した。
「! そんナ! 猫さんガ!」
逃隠は悲痛な声を上げた。
「ジュウウウウ」
「にゃ……」
「ジュウウウウ」
次々と子猫をゾムビー化させるゾムビー達。3体の猫型のゾムビーが出来上がった。
「ゾニ……ゾニャ……」
逃隠にヨチヨチと近付いて来る1匹の猫ゾムビー。
「あア……」
膝を着き、両手を差し伸べようとする逃隠。
(こんな子猫にまデ……)
目が潤む。
「ゾニャ……ゾニ!」
「バシュッ!」
猫ゾムビーから体液が!
「バッ」
逃隠の体が、ガッと後ろに引き寄せられた。
「ハッ!?」
身体が、逃隠の首元を片手で担いで立っていた。
「愚か者!」
続けて身体が言う。
「心苦しいが、アレはゾムビーだ! 倒すべき敵だ! 油断していると、お前もああなってしまうぞ!!」
「うス……」
逃隠が下を向く。身体は、観念したその様子を確認すると、バッと手を放した。
「ザッ」
着地する逃隠。身体が口を開く。
「……行くぞ! 被害をこれ以上拡大させないために!」
「はイ! 副隊長ォ!」
答える逃隠。
「ダッ」
走り出す身体。
「ゾ?」
1体のゾムビーが、それに気付く。
「ふん!」
「ドッ……バシャアア‼」
右半身からの体当たりでゾムビーを粉砕した。ペット売り場のアクリル板に、ゾムビーの破片とその体液が掛かる。
「クゥン……」
「にゃあああ!」
不安がる子犬や子猫。一方で逃隠は――
「たりゃああああア!!」
ゾムビーの1体に向かって行く。
「ガッ」
スーツを着用した手でゾムビーを掴む。
「んガッ」
柔道の俵返しの様にゾムビーを自分の後ろへ放り投げる。
「ゾゾォ!!」
投げ飛ばされ、多少のダメージを負うゾムビー。しかしすぐに立ち上がる。
「サッ」
顔の部分を、両手を使い構え、ガードする逃隠。
「はああああア!!」
そのままゾムビーへ向けて走り出した。
「ゾ……?」
「バシャアア!!」
逃隠の体はゾムビーを貫いた。
「ゾニ……」
「!」
逃隠の前に1匹のゾムビー化した猫が現れる。
「うウ……」
それを見つめる逃隠の目は潤んでいた。
「ガッ」
身体はその猫ゾムビーの腹を蹴り上げた。
「バシャアア!!」
破裂する猫ゾムビー。
「ベシャ……」
肉片が床へと落ちた。身体は口を開く。
「……何度も言わせるな。コイツは倒すべき敵なんだ。お前がどうしても倒せないというのならば、俺がやる」
そう言って身体は動き出す。
「ガッ」
「ニ゛ィイイ」
「ドガッ」
「ゾニャア」
1匹そしてまた1匹と、身体はゾムビー化した猫を倒していく。
「あア……くソ!」
逃隠はそれを直視できなかった。
「……終わったぞ」
「!」
身体の一言で、顔を上げた逃隠。逃隠の目に映ったのは、3匹の猫の残骸だった。
(こんナ……残酷な事ニ……くソ! ゾムビーさえ居なけれバ……こんな事にハ!)
キッと最後の1体となったゾムビーを見つめる逃隠。そのゾムビーはペットショップの奥にあるケージの近くで、子犬や子猫を見ていた。
「ゾ……?」
が、遂に1体のみとなった為か、ペットから顔を背け、身体や逃隠の方を確認した。
「やイ! クソ野郎! とうとうお前一人になったナ! お前も仲間と同じようニ、ぶっ潰してやル!!」
逃隠が叫ぶ。
「……ゾ?」
動じないゾムビー。
「ピキッ」
「この糞野郎ぉおおおオ!!」
怒りを顕わにする逃隠。両手で顔をガードし、突進する。しかし――、
「ガッ!!」
ゾムビーの体に弾き返される逃隠。
「ガッ……ガッ……ズサァ」
弾き返され、床を二度三度跳ねた逃隠だったが、最後には両足と片腕を使って着地した。
「ナ!?」
(……硬い)
驚愕する逃隠と身体。
(これが、隊長の話していた、ツトム達が出会った石のゾムビー)
身体が思考を巡らせる。
「副隊長ォ!」
逃隠が叫ぶ。
「サケル、分かっている。……これが噂の、石のゾムビーなんだな?」
「はイ!」
身体の問いに逃隠が答える。
「……そうか。ここは俺に任せてはくれないか?」
ス――っと息を吐き、構える身体。
「コイツとは、一度手合わせしてみたかったものでな」
いつにも増して真剣な表情になる身体――
「お前は残ったペット達を守っていてくれ!」
走り出す。
「ガッ!!」
拳が届く範囲に入り、全力で右腕を振るう身体。平然と持ちこたえる石のゾムビー。
(……やはり、硬いか……しかし!)
「ガッ!!」
「ゴッ!!」
「ドッ!!」
左腕のボディブロー、右ストレート、左脚によるハイキックを続けざまに繰り出す身体。
「これだけの手数を打っていけば、その硬さに綻びが生まれるのでは⁉」
「……ゾ」
その時、石のゾムビーが不気味に声を上げた。
「!?」
左脚を上げたままの身体、そこには大きな隙が生じていた。
「ゾゾォ!!」
身体の右腹部を目掛けて殴打を繰り出すゾムビー。
「ゴッ!」
「かはぁっ!」
大きなダメージが入る。よろめき、数歩後ずさりする身体。
「な……成程。……防御面だけでなく、攻撃力も上がっているという話は、本当だったんだな……だが!」
再び一歩前へ踏み出し、右腕を振るう身体。
「ガッ!」
「……だからと言って、ここを退く訳にはいかないので……な!」
「クゥン……」
逃隠の後ろのゲージの中で、怯えている子犬
「よしよシ。大丈夫だからナ……(……身体副隊長)」
逃隠は身体の方を見る。
「ガッ!!」
「ゴッ!!」
「ガガッ!!」
「ドッ!!」
激しい攻防が繰り広げられる。殴打を繰り返しつつ、身体は石のゾムビーの攻撃を強化スーツの力を借り、腕等でガードしていた。
(……硬い……そして、相手の一撃は……重い……。相手の手数が少ないのが、救いだが……)
「ゾゾォオオオ」
「!?」
突然雄叫びを上げるゾムビー。そして、
「ガッ!!」
「ガッ!!」
「ガッ!!」
「ゴッ!!」
ゾムビーは連続で攻撃を仕掛けてきた。
(! ……相手の手数が、増えた! 堪え切れるか……?)
「ゾムゥ!」
「ボキッ」「うっ!」
ゾムビーの重い殴打の応酬に、耐えきれなくなった身体の左腕は前腕部が骨折した。
「ダラン」
右腕の前に構えてガードしていた左腕だったが、力が入らなくなり垂れ落ちてしまう。
「う……うぉおおおおおおおお!!」
右腕だけでゾムビーに向かって行く身体。
「ガッ!!」
右拳をゾムビーに打ちつける。
「ゾ?」
その一撃も虚しく、ゾムビーにダメージは与えられない。
「ゾゾォ!!」
今度はゾムビーの反撃。
「ドゴォオ!!」
身体の腹部に強烈な一撃を喰らわした。
「がはぁああ! ……ああ」
身体は膝を着き、そしてうつ伏せに倒れた。
「身体副隊長ぉおおオ!!」
逃隠の叫び声が3階フロア、ペットショップ内に響く。
「副隊長ォ!」
蹲っている身体。
「ゾ……」
ゾムビーはその身体を尻目に、逃隠の方へと足を進めた。
「く、くソォ!!」
身構える逃隠。ゾムビーが近くまで迫って来ている。
「クゥン……」
「ハ!?」
逃隠の後ろで、子犬が鳴く。
(ダ……ダッヂ……?)
逃隠の後ろで鳴いていた子犬は、かつて飼っていた愛犬・ダッヂの姿によく似ていた。ダッヂとの日々が蘇る。
(回想)
「あはははハ!!」
ダッヂと一緒に、緑生い茂る野原を走り回る幼き頃の逃隠。
「ははハ!!」
「ワン!!」
今度は野原に寝転び、じゃれ合う二人。
「ペロペロ」
「こラッ! くすぐったいゾ、ダッヂ!」
ダッヂは逃隠の頬を舐めている。
「くかァ――」
「ぐぅぅうう」
一緒に寝る二人。どんな時も、どこに居ても一緒だった二人。
(回想終了)
(もウ、二度ト! どんな動物だろうト、ダッヂの様に犠牲にはさせなイ!! こいつらは俺が守ル!!!!)
「来イ!!」
キッと眼光を鋭くさせ、身構える逃隠。
「ゾ……」
迫るゾムビー。と、その時、
「……ゾ?」
ゾムビーが動きを止めた。
「……」
右腕のみで、ゾムビーの左足に捕まっている身体が這いつくばっていた。
「がぁぁああああ!!」
渾身の力を右腕に込める身体。スーツ越しであるのにも関わらず、浮かび上がってきた血管が確認できた。
「ああああああああああああ!!」
更に力を込める。次の瞬間、
「バシュッ」
ゾムビーの左脚が弾け飛んだ。
「ゾゾォ!!」
動揺する石のゾムビー。
「ふふ……足をやったぞ! これで動きは鈍ったはずだ! 行けぇ! サケルゥ!!!!」
フロア中に響き渡る大声で叫ぶ身体。
(……まダ、自信は無いガ……やるしかなイ……)
何かしらの決意を決める逃隠。背中のあるモノに右手を掛ける。それは何かの柄だった。
「スシャ……」
逃隠の背中から現れたのは、自身の身長の8割を超えるであろう長さの、一振りの刀だった。横目にケージ内の子犬を見る逃隠。
(……ちょっとだケ、待ってナ……)
今度は、目線を石のゾムビーに向ける逃隠。
「……行くゾ」
ダッと一歩踏み出す! 同時に、剣道の胴打ちの様に石のゾムビーの体を切り抜いた!!
「ピッ……」
ゾムビーの体に亀裂が入る。
「ゾ?」
一瞬の出来事に、何が起きたか分からない様子のゾムビー。
「トン……」
ゾムビーに近付き、逃隠が上体を軽く押す。
「ズズズ」
ゾムビーの上半身は、下半身を離れ、斜めに崩れ出す。
「キラッ」
切り口から、何か輝くモノが見えた。
「そコッ!!」
逃隠が左手を伸ばし、それを掴み取る。
「パッ」
掴み取ったモノを確認するように、手を開く逃隠。そこには、例の宝石の様なモノがあった。
「副隊長ゥ!」
身体にそれを見せる逃隠。
「おお。やったな、サケル……止めだ。行け!!」
「はイ!!」
ゾムビーの上半身の方を向く逃隠。刀を振り上げる。
「やあああああア!!」
「……ゾ?」
「ズバァアアア」
逃隠の刀は、ゾムビーの上半身を縦に一刀両断した。
「よっシャ!!」
勝利の雄叫びを上げる逃隠。
――、
数分後、ペットショップのゲージに背中を持たれかけた身体は、まだ立つ事はできず、腰を下ろしたままでいた。
「宝石を奪ったからには、もう再生はできまい。……それにしても」
辺りを見渡す身体。ゾムビーの肉片等で、ペットショップ一帯は体液と異臭にまみれていた。
「隊長やツトムが居ないと、後片付けが多少面倒だな。癒しの空間であるペットショップのはずが、こんな有様だ。清掃班を呼ぶとしようか」
「はハ……」
苦笑いのサケル。身体は続けて言う。
「それと……」
「!」
「今日も良くやってくれた。お前は日々強くなってくれるな。これからも、頼んだぞ」
「はイ」
逃隠が返す。
「身体副隊長の援護があったお陰デ、余裕を持って戦えましタ。……それと」
「?」
「今回はこの子犬達に勇気をもらいましタ。こいつらは人間ではありませんガ、こういった動物達モ、犠牲にしてはいけないと思う気持ちガ、俺を突き動かしてくれたんでス」
逃隠の言葉に少し考えさせられながらも、身体は口を開いた。
「……そうだな。これからも俺達は、どんな犠牲者でも最小限に抑えて行かなければならない。犠牲者をゼロにする事は不可能に近い。しかし、そんな中でも足を止める事無く、一人でも多くの命を救うため、尽力し続ける事が必要なんだ」
「……はイ!!」
逃隠は大きな声で返事をした。
――およそ20分前、3階。
「ダダダダダダダ」
身体と逃隠が体液の痕を追って走っている。
「……ここは?」
身体達はペットショップがあるフロアに辿り着いた。
ほぼ、同刻。
1階、食品売り場にて。
「ザッ」
抜刀と主人公がその入り口付近に辿り着いた。
「体液は、こっちへまだ続いているな」
「うん、でもここから先は行き止まりになっているから、この食品売り場にヤツらは潜んでいるよ……」
会話を交わす二人。
「じゃあ手分けでもして、探しに行きますかな?」
歩き出そうとする抜刀。
「待って」
それを制止する主人公。
「ヤツらの中に、石のゾムビーが居たら、非常に危険だ。……多分、一人じゃ勝てない。二人で行こう」
「ハイハイ、わっかりましたよー」
主人公の提案に、渋々従う抜刀。
「じゃあ、野菜・果物コーナーから行こう!」
(何でコイツが仕切ってんだ?)
主人公の言動に、不満を抱く抜刀。二人は野菜・果物コーナーへ急ぐ。
「タタタタタタ、ザッ」
「……あれ」
「オウ」
主人公、抜刀の二人が足を止める。そこには2体のゾムビーが居り、野菜や果物を食していた。
「バリバリ」
「シャリシャリ」
その様子を見た抜刀が、ザッと一歩踏み出した。
「オイオイオイ、レジに通してもいねえ商品を食べるたぁ何事だ?」
「ひっ」
抜刀の様子に恐れをなす主人公。
「窃盗罪で、逮捕だコラァああああア!!!!」
超能力の刀を取り出して、向かって行く抜刀。野菜を物色していたゾムビーを、野菜置き場ごと横一文字に切り抜いた。
「抜刀……一閃!」
(商品と備品がぁあああああ!)
心の中で叫び、涙する主人公。
「へっ、他愛もねぇぜ」
刀を担ぎ、余裕の表情の抜刀。直後、
「ゾ……」
後ろから、果物を食べていたゾムビーが迫っていた。
「ん?」
ようやくそれに気付く抜刀。
「ゾム……ゾム……」
体液を口に含むゾムビー。体液が吐き出される、瞬間――
「リジェクトぉお!!」
「ドシャアアア!」
ゾムビーが弾け飛んだ。
「……!」
抜刀が、息を呑んでいた。
「ちょっと危なかったね。大丈夫?」
そこへ主人公が話し掛ける。
「……へっ、貸しにしといてやるぜ」
二人は拳をコツンと合わせた。




