第九節 続く戦い
ゾムビーの口から体液が吐き出される、
正にその時――、
「ビュン!」
何かがゾムビー目掛けて、猛スピードで飛んできた。
それはゾムビーの口を裂き、背中を貫くように斜め下の地面へ突き刺さった。
「ザクッ」
「な、何だ!? あれは!」
主人公が目を丸くし、ゾムビーに突き刺さった何かを凝視する。
それは、一振りの刀だった。
「か……刀?」
主人公は驚愕した。すると、聞き覚えのある男の声がどこからか聞こえてきた。
「……大丈夫か? サケル……」
主人公が振り向く。そこには、顔に左目の眉毛辺りから鼻を通り、右頬にかけてまでの大きな傷がある男、逃隠カイヒの姿があった。
「サケル君の……お父さん!」
主人公は歓喜の声を上げる。
「今日は変な胸騒ぎがしてな、有休をとっておいて良かった。こんなところでこんな事になっていたとは……」
逃隠カイヒが言う。
「ジュウウウウ」
突き刺さり、ゾムビーの動きを止めることに成功していた刀だったが、ゾムビーの体液により、遂には溶け出してしまう。
「ゾ……(なんだ……おまえ……)」
ゾムビーは逃隠カイヒの方を向く。
「ふむ……やはり体液は強力だな。……先ずは……」
逃隠カイヒは、ゾムビーの傍で蹲っている逃隠の元へ向かう。
「オ……親父……」
瀕死の逃隠は、逃隠カイヒを向いて口を開くのがやっとだ。
「何も言うな……サケル……」
逃隠カイヒはそっと言い、逃隠を担いだ。
「暫く、あの子の近くに居ろ……」
逃隠カイヒは、逃隠を担いだまま、主人公の元へと向かった。
「ゾ……」
ゾムビーの移動スピードでは、その動きは捉えられなかった。
「よし……」
主人公の傍に、逃隠を降ろす。
「ツトム君、サケルをよろしく頼む……」
逃隠カイヒはそう言い残すと、今度はゾムビーの元へ向かった。
「あ……」
急な展開に、まともに返事する事ができない主人公。逃隠は疲弊しきっている。
ゾムビーに対峙する逃隠カイヒ。
「……行くぞ」
「ダッ」
逃隠カイヒは、ゾムビーの方へ間合いを詰めて行く!
「体液で刀が溶けてしまうなら!」
「スパッ」
もう一つの刀で、ゾムビーの胴体を横一文字に斬る逃隠カイヒ。
「溶ける前に切り抜いてしまえばいいだけの事……」
「ピッ……ズズ」
ゾムビーの胴体は切れ目が入り、斜めにずれ落ち始めた。
(すごい! ……でも……)
感心しつつ不安に思う主人公。
「ゾ――――!」
ゾムビーは、唸り声を上げる。
「ボコボコボコ」
直後、ゾムビーの胴体の切れ目から細胞が吹き出始める。
「ボコボコ……」
ゾムビーの胴体は程なくして、元通りに完治した。
(やっぱり、だめだ!)
主人公は絶望し、落胆の表情を見せる。
「ほう……普通のヤツらとは、また一味違うという事か……」
一方で逃隠カイヒは動じない。
「ゾムバァアア」
ゾムビーが、逃隠カイヒ目掛けて体液を放つ。
「避け」
「サッ……バシャアア」
必要最低限の動作で、逃隠カイヒはそれを避ける。
「ゾッ!」
間合いを詰めていたゾムビーは逃隠カイヒの頭部目掛けて殴打を繰り出した。
「……首避け」
「サッ……ブン」
逃隠カイヒはそれを避け、ゾムビーの拳は空を切る。
「ゾゾゾッ!」
今度は、蹴りを繰り出すゾムビー。
「飛び避け!」
逃隠カイヒはそれを大きく横に飛び、避け切った。
「ゾッ!」
攻撃の手を緩めないゾムビー。
「なんの!」
それを体にかすらせもせずに避け切る逃隠カイヒ。
「逃げ続けるは、己と他の命を守る為! 避け続けるは、新たな好機を掴み取る為!」
逃隠カイヒは叫び、攻撃を回避し続ける。主人公は思う。
(そうだ。ゾムビーの攻撃は避け切らないといけない。避けなければ、命は無い! リジェクトは連続して打ち続けられない。避けて避けて避け続けて、力の回復を待たなければならない! ……回避は! サイキッカーにとって大事なんだ!)
二人の攻防は続く。と、逃隠カイヒが口を開く。
「サケル! もう体の方は大丈夫か!? 次、仕掛けるぞ!」
逃隠は答える。
「あア……親父……何とかしてやル……!」
「……よし!」
逃隠カイヒは一歩引いて、鞘に収めた刀の柄に手を掛ける。
「はっ!」
「スパッ」
鞘から刀を抜きつつ、またしてもゾムビーの胴体を切り抜く逃隠カイヒ。ゾムビーに切れ目が入る。
「そこっ!」
次いで逃隠カイヒはゾムビーの上半身を、履いていたゲタで蹴った。
「ドッ」
ゾムビーの体は横に真っ二つになっていたため、上半身は下半身を残し、飛ばされた。
「ゾ!」
下半身は直立しているが、上半身は地面に横たわっている状態のゾムビー。と、ゾムビーの下半身の切れ目に何か輝くモノが。
「ん? あれは?」
逃隠カイヒはそれに気付いた。
「ゾ……ゾゾ!」
ゾムビーは腕だけで上半身を起こし、下半身へ向かいそのまま動き出した。
「サケル! ゾムビーの下半身に何か輝くモノがある! あれを奪うぞ!」
逃隠カイヒが叫ぶ。
「合点承知の助ぇえええエ‼」
逃隠はそう言い放ちながら走り出す。
「タンッ」
ある程度、ゾムビーに接近した時点で、飛ぶ逃隠。サッと輝く何かを奪い取る。
「クルン……スタッ」
そのまま宙で一回転した逃隠は地面に着地した。
「ツトムゥ! やつの心臓の様なモノを奪った。リジェクトをお見舞いしてやレ! 今なら効くかもしれねエ!!」
主人公に向かって叫ぶ。
「う、うん! やってみる!」
主人公は返した。
(頼む……効いてくれ!)
「リジェクトォオオオ!!」
一抹の不安を抱きつつも、リジェクトを放つ主人公。
「ゾ?」
「バシャアア!!」
ゾムビーの上半身、下半身は共に吹き飛び、破裂した。
「や……やった……」
「へへ、やりィ」
安堵の表情を浮かべる主人公と逃隠。
「!」
と、逃隠がゾムビーから奪ったモノを見て何かに気付く。
「これハ……」
――、
「沼地で見つけたものと……一緒だ……」
主人公は呟く。
「どうやラ、アイツらはこれを体内に取り込むとパワーアップするみたいだナ」
「うん、強力な敵だった……ヤツらにこれを渡しちゃいけない。ラボに早急に送らないと……」
逃隠と主人公はそう話し合った。
「……ツトム君」
逃隠カイヒが口を開く。
「サケル君のお父さん……」
ハッとする主人公。
「申し訳ありませんでした。以前、一緒に戦っていくとか、格好つけて言った癖に全く敵にかないませんでした! サケル君のお父さんが助けに来てくれなかったら、今頃どうなっていたことか……それと、サケル君を助けてくれと言われてたのに、危ない目に遭わせてしまって……」
主人公の口から、謝罪の言葉が溢れた。
「……いや、最後にとどめを刺したのは、君だ。今日は、君がゾムビーと戦えるというのが確認できて良かったよ。それに、今回の敵は強力過ぎた。私一人でも、倒しきれなかっただろう……」
逃隠カイヒが返す。
「あ、ハイ! ありがとうございます!」
ホッとする主人公。
「ツトムぅ……」
ふと、覚悟を決めた逃隠が話し掛ける。
「これから恐怖の戦果報告だナ」
「はっ! そうだった……」
主人公はみるみるうちに青ざめていった。
――、
「――で、連絡もせずに、二人だけでゾムビーに戦いを挑んだんだな?」
ため息を吐くように、呆れ返った爆破は言う。
「はい」
「うス」
主人公、逃隠の二人は下を向き、答える。
「こんなボロボロになって……全く、サケルのお父さんが来なかったらどうするつもりだったんだ? こうして助かったからよかったものを」
『すいません』
爆破の辛辣な言葉に対し、謝るしかない二人。ふう、とため息をついた爆破は続けて言う。
「まぁ、過ぎてしまったものは仕方ない。これから帰って始末書を提出するくらいで勘弁してやろう」
(ぎゃ――)
絶句の二人。
「それから――、今回の戦いでの報告……あれは本当なんだな?」
爆破のその言葉に、真剣な表情に変わる二人。
「ハイ。前回沼地で見つけた、あの宝石のようなものを体に取り込んだゾムビーは、明らかに他と違いパワーアップしていました」
主人公は言う。
「……そうか。分かった。これから緊急に会議を開き、この事を理事会に報告する! 二人とも、ラボへ帰るぞ!」
『ハイ!!』
二人は爆破に、きびきびと返事した。
――数時間後。狩人ラボ、会議室にて。
「……以上が、今回の戦いの結果で分かった、新たな脅威です」
爆破が10名ほどの男達の前で話す。ざわつく室内。
「どうしたものか」
「ここに来てヤツらが強力になるとは」
「……簡単にまとめると、耐久面の強さ、攻撃力の強さ、回復力。この3つが、宝石を取り込んだゾムビーの特徴となります」
爆破が結論を示す。
「宝石を取り込んだゾムビーを、石のゾムビーと名付けます。ゾムビー達の手にあの宝石が渡るのを防ぎ、石のゾムビー発生を食い止めていく事を、今後の課題としていきます」
――主人公らが以前寝泊まりしていた部屋。
「だァアア――――! くっソ! 始末書なんテ、どうやって書けばいいんダ――――‼」
逃隠が嘆く。
「……」
無言の主人公。
「こーなったラ、テキトーに2枚くらい反省文書いテ、提出するゾ。ツトム!」
「あ……う、うん……」
逃隠の言葉に、力無く答える主人公。
――爆破のオフィスルーム。大きな木製の机に爆破が腕を組んで座っている。その正面に、下を向き、うつむき加減で主人公、逃隠の二人が立たされている。
「パラ……」
二人が提出した始末書を手に取り、目を通す爆破。だらだらと汗をかく二人。
「……」
「…………」
「…………」
爆破の、数分の沈黙が二人を襲う。暫くして爆破は口を開いた。
「……ダメだ、書き直し」
「NOOOOOOOOOOOO!!」
二人、絶叫。
――数日後、平々凡々中学校教室にて。窓を開け、桟に寄りかかりながら考え事をする主人公。
(まさか、ゾムビーが宝石を取り込むことで強くなるなんて……今まででも大変だったのに、これからの戦いはもっと厳しくなるよな……)
ふと、空を見上げる。逃隠の影が浮かぶ。
(サケル君、強くなったよな……あんな敵にも臆さずに立ち向って行って……)
手のひらを見る。それを力強く握った。
(僕も負けてられない。もっともっと、強くならないと。共に、戦い抜く為に……!)
――逃隠邸、庭にて。逃隠が、軒下に立っている逃隠カイヒの前で土下座をしている。
「どうした? サケル」
逃隠カイヒは問う。
「親父、俺ニ……刀の扱い方ヲ、教えてくれないだろうカ」
頭を地面につけたままの逃隠。
「フッ」
逃隠カイヒは笑みを溢す。
――狩人ラボ、トレーニングルーム。身体がダンベルを持ち、トレーニングしている。
(隊長が仰っていた事が本当なら、俺はそのゾムビーを倒せるだろうか……?)
「ガチャ……ガチャ……」
ダンベルを動かす。
(ツトムのリジェクトが通用しない相手、その相手に、今のままのパワーで通用するか……?)
「ガチャ……ガチャ……」
ふぅ、と息を吐く身体。
「トレーニングのメニューを強化せねば」
真剣な眼差しの身体はそう呟く。
――夕方、とある路地。抜刀が歩いている。
「尾坦子……オタンコ……おたんこ……。くぅ――あの日の返事、いつ返してもらおうかー。明日か? いや明後日か? いやいや明々後日。その次……。ん――、ガチであの狩人ラボとやらに住み込むか。そうすりゃ毎日会いたい放題……いやぁしかし、連れ出せねぇのが、辛いところだなー」
独り言は続く。
――、
「ブロォオオオオオオ」
一台のバイクが、河川敷を走る。乗っているのは爆破スマシ。
「(新たな超能力者が仲間に加わり、戦力も不足分を補い始めたと思った矢先、これか……)一難去ってまた一難、か……」
小言を呟く。
(……いや、弱気になっている暇は無いぞ)
キッと目つきが鋭くなる。
(石のゾムビーへの対策を考えねば。刃物は意外と効くと聞いた。あとは宝石を体内から素早く奪い取る事が出来れば、勝機はある……。それと……狩人の人材募集、ビラ配りでも始めるか?)
「ブロォオオオオオオ」
1台のバイクは、スピードを上げた。
周囲との理解、協力の下、決意を新たにゾムビーとの戦いに力を注ぐ主人公ツトム。精神的な成長を遂げ、パワーアップした逃隠サケル。筋トレを止めない身体スグル。新たな戦力として期待される抜刀セツナ。新たな課題を抱え、過労気味の爆破スマシ。そんな中、敵であるゾムビー達もまた、手強くなって来た。激しさを増す戦いは、これからも続いていく。
第二章 日常と戦友、完




