第八節 パトロール
「キーンコーンカーンコーン」
放課後の始まりを告げる、学校のチャイムが鳴る。平々凡々中学校、主人公の教室にて――。
「あー、定期試験が近付いてきたよー」
「中学生にとっテ、避けられない課題だナ」
主人公と逃隠が溜め息混じりに会話を交わす。
「よし、ツトム。いきなりだガ、今日は途中まで一緒に帰ろうゼ」
逃隠が突拍子も無く、主人公を誘った。
「いいよ。でもどうして急に?」
「まァ、ちょっとナ」
「ふーん。ま、いっか」
主人公の問いに、曖昧に答える逃隠。二人は一緒に学校を出る。
――、
歩きながら主人公、逃隠の二人は話す。
「狩人に入隊したけど、任務としては、ゾムビーが出没した時の対処、現地調査、会議の参加や会議の結果を聞く事、等々で、ラボに常駐せずに済んで助かったよ。学校生活も大体普通に送れてるし……」
「俺は勉強の無い世界で一生暮らしたいかラ、ラボに常駐でも良いがナ」
「ハハ……」
苦笑いの主人公。ふと、十字路で立ち止まる。
「ここから先は、サケル君ちと逆方向になるし、距離も遠くなるから、ここら辺でもう帰りなよ」
主人公が気を使って言う。それに対して逃隠は反論した。
「いヤ……」
「?」
キョトンとする主人公。
「今まで言わなかったんだガ、今日一緒に帰ろうと言ったのは理由があル。その理由ハ、今から単独、二人でゾムビーパトロールを行う為だァアア!!」
(え? ……それって単独って言うんだっけ?)
逃隠の言葉に疑問を抱く主人公。すぐハッとなり、言う主人公。
「サ、サケル君! 勝手に二人で行動して、もしもの事があったらどうするの?」
「なぁニ、心配ないサ、ツトム。何かあれバ、たった今ゾムビーを発見しましたって連絡すればいいだけの事ダ」
「ホントに大丈夫かなぁ?」
片や自信満々の逃隠に、不安で一杯の主人公。
「よシ! 決まりだナ! パトロール、出発進行ゥ!!」
(……僕はまだ賛成してないのに)
逃隠の独断で、ゾムビーパトロールなるものが始まった。
排水口、
住宅地の溝、
河川敷と、
水の流れる場所を二人で探索して行く。
「ゾムビーは湿った場所を好むんダ! 次、行くゾ! ツトム!!」
意気揚々と指揮を執る逃隠。
「ハイハイ……」
一方で主人公は乗り気で無い。更に探索は続く。
――、
二人はとある河川敷まで足を進めた。
「見ロ! ツトム! あの高架下、怪しくないカ!? 明らかにじめじめしてそうでゾムビーが好みそうダ!」
相変わらずノリノリの逃隠。
「もう1時間半も何も無かったじゃん。今回だって何もないよ、きっと。母さんにちょっと連絡しないと」
そう言って携帯を取り出す主人公。
「今日の帰りは、少し遅くなります、っと」
メールを打ち込む。
「おイ……ツトム……」
逃隠が戦慄の表情を浮かべながら言う。
「はいはい、どうしたの? サケル君……よし、送信完了っと」
顔も合わせずに主人公はメールの送信を確認していた。
「居タ……」
逃隠は言う。
「居たって何が?」
主人公が問う。
「あ……アレ」
逃隠が指をさす。指差した方向を主人公が見る。そこは道路の高架下で、日陰となっており、ゾムビーが3体、存在していた。
(ホントに居た――――!!)
唖然とする主人公。
「イ……行くゾ、ツトム!」
「へ? 行くって?」
「ゾムビーを倒しに行くんだヨ! 行くゾォ!! オラアアアアアアアア!!」
叫びながら突進する逃隠。
「ちょ、連絡は!? 無茶だ、サケル君!!」
逃隠を心配し、叫ぶ主人公。
「ダッ!!」
突進する逃隠は物凄いスピードで走って行く。一歩一歩、力強く地面を蹴って行った為、逃隠が走った後には穴の様な足跡がついていた。その様子を見ていた主人公は思う。
(!! 凄い。スーツの力を使っているんだろうけど、あの日から、サケル君は確実にパワーアップしている。修行の成果と、自分の中での確かな自信が、サケル君にしっかりと身に付いている!)
「ウォオオオオオオオ!!」
両手で、スーツの無い顔の部分をガードしながら、そのまま逃隠はゾムビーに向かって行った。
「ゾ……?」
主人公達から向かって一番左のゾムビーが、逃隠に気付くもむなしく――、
「バシャアア!!」
逃隠の体はゾムビーの胴体を貫いた。
「ゾォ……」
崩れ落ちるゾムビー。
(やった! イケる……二人で、二人だけで……ここに居るゾムビー全てを、倒せる!)
主人公は勝ちを確信する。遠くでくるっと振り返った逃隠は言う。
「何やってんダ、ツトム! お前も戦エ!!」
「あ、うん……!」
主人公は答えて、ゾムビーの方向へ走り出す。リジェクトの射程圏内に入った。
「ハッ」
両手が光る。
「バシャアア!!」
向かって一番右のゾムビーを木端微塵にした。ゾムビーは、始め真ん中に居た1体のみとなった。
「やったナ! ツトム! 最後の1体は俺がもらったゼ!!」
「ダッ」
そう言い放った逃隠は今度は向こう側からこちらへ、最後のゾムビー目掛けて走り出した。主人公も安心して逃隠の最後であろう戦いを眺めていた。逃隠がゾムビーの体を貫こうとした、寸前――、
「ガッ!!」
逃隠はゾムビーの体に弾き返された。
「ぐァア!」
「ガッ……ゴッ……ズサァ」
地面を転々と跳ね、崩れ落ちる逃隠。
「!? 何だ、あのゾムビー……。とてつもなく……硬い……!!」
様子を見ていた主人公も、息をのむ。
「くっそォ……てりゃアアア!!」
弾き返された逃隠は諦めずにゾムビーに向かって行く。
「ガッ!」
右腕を振るう。顔面にヒット。しかし、ゾムビーは無傷である。
「くソ! ああァ!!」
「ガッ! ガッ! ゴッ!」
今度は左腕、続いて再び右腕の殴打、最後に右足の蹴りを加えた。
「ゾ? ……ゾォオオ!!」
再び無傷のゾムビー、今度は反撃に出て、逃隠の腹を殴る。
「ゴッ」
「ぐふゥ!」
3メートル近く吹っ飛ぶ逃隠。
「ドシャア」
「ガハッ、ゴホッ」
咳込む逃隠。腹部を押さえている。
「ジュウ――」
殴られた腹部は、学ランが溶けてスーツが露わとなっている。
「サケル君! くそっ! リジェクトォ!!」
応戦する主人公。
「ドムゥン」
衝撃波は、確かにゾムビーに伝わった。しかし、妙な弾力性によってその衝撃は吸収され、ゾムビーを破壊するには至らない。
「! リジェクトが……効かない……?」
何が起きたか分からず、困惑する主人公。
「何でだ!? 確かにリジェクトは命中した。他のゾムビーは倒せたのに!」
「ゾ? ……ゾゾ」
背中にリジェクトの衝撃を感じたゾムビーは、振り返り、主人公を確認した。
「ゾ……」
その後、再び逃隠の方を少し見たが、ゾムビーはぷいっと逃隠から視線を逸らし、主人公に標的を変えた。
(畜生、攻撃が効かないどころカ、相手にすらされてないのカ……)
痛みを堪えながら、今ある状況を悔しがる逃隠。
「ゾ……ゾ……」
不気味に主人公に近寄るゾムビー。主人公は思う。
(マズい、まだリジェクトが打てない。調子も悪いせいで、1発あたり15秒はかかる!)
じりじりと忍び寄るゾムビー。
(こうなったら……! 回避の術で攻撃と体液を避けて時間を稼ぎながら戦ってやる!)
覚悟を決める主人公。
「ゾム!」
殴りかかってくるゾムビー。
「回避の術! 避け!!」
「ブン!」
回避の術を使い、ゾムビーの拳を左に避ける主人公。ゾムビーの右手が空を切る。
「ゾム!」
今度は左腕を振るうゾムビー。
「はっ!」
再びゾムビーの拳を避け、今度は右へ跳ぶ主人公。刹那、主人公は思う。
(大丈夫だ。他のゾムビーよりもややスピードはあるけど、回避の術の前ではスローモーションだ!)
「ゾ!」
再度ゾムビーが右腕を振るう。
「回転避け!」
主人公は叫びながら右手の手袋でゾムビーの拳をいなす。と同時に右足を一歩斜め前へ踏み出す主人公。体を回転させ、ゾムビーの後ろを取る。
(今だ!)
「リジェクトォオオ!!」
近距離でリジェクトを放つ主人公。しかし、
「ドムゥン」
またしてもゾムビーは衝撃を吸収、破壊されない。
「そ……んな……」
自信を喪失する主人公。
「ゾ!!」
振り向いたゾムビーは主人公の腹に一撃を喰らわす。
「ゴッ」
「ぐあああ!!」
吹き飛ばされる主人公。逃隠の隣まで飛んで行った。
「ジュウ――」
主人公の学ランは、腹部が溶け始めている。
「うわあああ!」
急いで学ランを脱ぎ捨ててTシャツ姿になる主人公。
「ジュウゥウウウ」
投げ捨てられた学ランは殆ど溶けてしまった。
「よウ……ツトム……」
「!」
仰向けで倒れている逃隠が主人公に話し掛ける。
「時間稼ギ、ありがとヨ……ダメージも大分、軽くなってきタ」
むくっと起き上がる逃隠。
「さテ、ほいじゃア行きますカ」
「行くって……無理だよ……アイツは他のゾムビーとは違う。スーツによる攻撃も、リジェクトも効かないんだよ?」
主人公はそう言って不安がる。逃隠が少し間をおいて口を開く。
「ツトム……俺ハ、全世界のゾムビーを駆逐すると声高に言っていたガ、本当はゾムビーが恐ろしくて仕方なかったんダ。だガ、身体副隊長に出会っテ、一緒に修行を積んだお陰デ、今はゾムビーと戦えるようになっタ。身体副隊長からハ、どんな時モ……どんな事にモ、恐れずに諦めない事を学んだんダ……今、この瞬間だってそうダ……絶対ニ……最後まで諦めるナ、ツトム…………行くぞォオオオ!!」
走り出す逃隠。
「サケル君! 待って!」
叫ぶ主人公。走りながら逃隠は言う。
「ツトム! 俺が時間を稼グ! お前は力を溜めテ、色々な方法でリジェクトを放つんダ! どんな方法でもいイ! 片っ端からやってくゾ!!」
「ダッ……ガッ! ガッ!」
ゾムビーに飛びかかり、右拳、次いで左拳をぶつけていく逃隠。
「ゾ……ゾゾ!!」
攻撃に対し、微動だにしないゾムビーが反撃する。右拳が飛んでくる。
「サッ」
体を低くして避ける逃隠。
「喰らエ!」
そこからアッパー。ゾムビーの顎にヒットした。
「ゾ?」
しかし効いていない。
「ゾー!!」
逆に裏拳が飛んでくる。
「なんノ!」
「ガッ!!」
スーツの部分である両腕でガードする逃隠。
「ズサー」
少し飛ばされるが、両脚で持ちこたえながら着地する。ゾムビーと逃隠の攻防は続く。
一方で、主人公。
(どんな方法でもいいから……そうだ! このゾムビーに対しては、背中側からの攻撃しかしてない。正面からの攻撃なら……何か変わるかも……!)
走り出す主人公。ゾムビーの正面、リジェクトの射程圏内に入る。
「行くよ! サケル君!」
「待ってたゼ! ツトム!」
阿吽の呼吸で横へ跳びながら移動し、ゾムビーの正面を主人公に向けさせる逃隠。
(行くぞ!)
「リジェクトォオオ!!」
リジェクトを放つ主人公。ゾムビーの正面にヒットする。
「ドムゥンドムゥンドムゥン!!」
背中側に当てた時とは明らかに違う反応を見せるゾムビー。
(やった! 効いてる!)
安堵する主人公。
「ドムゥン……ドムン……ピタ……」
先程とは違う反応を見せたものの、やはり衝撃を吸収するゾムビー。
「そんな……」
一転、絶望の表情を浮かべる主人公。
「まだダ!!」
ゾムビーに飛びかかっていく逃隠。
「ツトム! 次の手を試セ! 次が打てるまデ、何秒ダ!?」
攻撃しながら逃隠が叫ぶ。
「きょ……今日は、15秒くらい! 調子も悪いんだ!」
返す主人公。
「ヘッ! 15秒の時間稼ぎだナ。余裕だゼ!!」
強気な逃隠。敵の攻撃を回避の術で避けつつ、殴打、蹴りを当てていく。一方で必死の主人公。
(考えろ……考えるんだ。他に、何か手は……)
「もうそろそろだゼ! ツトム!! 行ケ!!」
バッとゾムビーから離れる逃隠。
「(ええい! 一か八か……)リジェクト!」
咄嗟に主人公は、ゾムビーの片足を狙い、リジェクトを放つ。
「バシュッ!!」
ゾムビーの片足は弾け飛んだ。
「やった! 今度こそ、効いた!」
「よっしゃア!」
歓喜する二人。
「ズズズ」
崩れ落ちるゾムビー。
「行くゾ! 畳みかけるんダ! ツトム」
逃隠は言う。しかし、ゾムビーの様子がおかしい。
「ゾゾ――――――!!」
暫く蹲っていたが、急に叫び出すゾムビー。
『何だ!?』
「ゾ……ゾ!!」
「ボコボコボコボコ」
ゾムビーの片足の欠けた部分から液体と空気が混じった音がし始めた。音のする場所から、泡が吹き出るように細胞が現れ始めた。
「!?」
「ゾ……ゾ――!!」
「ボコボコボコボコ……シュ――」
増えだした細胞は、完全な足の形となって露わとなった。足からは煙が立ち込めている。
「う……うそ……でしょ……?」
呆然と立ち尽くす主人公。
「チィ! ……ツトム! まだダ!! 絶対に諦めるナ!!」
またしても果敢にゾムビーに立ち向っていく逃隠。
(無理だよ……サケル君……背中側への攻撃も正面への攻撃も効かない。足への攻撃は効いたけど……回復されてしまう……)
完全に希望を見失う主人公。
「ガッ! ガッ!」
一方で攻撃の手を止めない逃隠。ゾムビーの拳を避け、地面に着地する。
「スタッ……ガク」
と、下半身の力が抜ける。
(!? しまっタ! もう体力ガ……)
跪く逃隠。
「ゾム……ゾム……」
ゾムビーが口一杯に体液を溜め込む。じりじりと、逃隠をゾムビー化させるべく間合いを詰める。
(やばイ、体液カ!?)
「ゾゾゾ!!」
口から体液を吐こうと、目一杯顔を上に上げるゾムビー。
「サケルくぅううううん!!!!!!」




