第七節 副隊長の1日/ある日のセツナ
――とある朝、5時過ぎ。舗道を走るのは、身体スグル。
身体の一日は、15kmのランニングから始まる。朝5時起床。着替えを済ませ、狩人ラボの宿舎から毎日のランニングコースへ走り出す。
午前6時に差し掛かる頃、身体は狩人ラボの食堂に行き、朝食を食べる。白米にゆで卵、野菜、味噌汁と、至って一般的な日本食が多いが、納豆、豆腐と植物系のたんぱく質も欠かすことなく摂る。
朝食後、隊長・爆破スマシとのデスクワークが始まる。職務は、各地のゾムビー出没地帯のマップデータ作成、研究員達によるゾムビーに関する研究成果の閲覧、ゾムビーとの戦闘によって生じた死者、被害事例のデータベース作成など、多岐にわたる。
「ふぅー。こんなところか。今日は午後から会議がある。よって今日の分はこれで終わりだ。ご苦労」
「ラジャー」
爆破と身体は会話を交わし、いったん休憩のようだ。
――昼食、メニューはカレーである。午後の為にエネルギーを摂取する必要があるせいか、身体の昼食は大体がカレーライスとなっている。
(飽きないものだな……)
身体は、ふと考えながら食事をした。
――食後、トレーニングルームにて。部屋にはダンベルやバーベル、各種ウエイトトレーニングに必要な機器が揃っている。
(上半身から始めるか……)
アームカール、コンセントレーションカールと、じっくり上半身のトレーニングを行っていく身体。負荷であるダンベルの重さは、25kgを優に超えている。次はリバースプッシュアップ。自らの体重を負荷とし、上腕三頭筋を鍛えていく。
「ふぅ……よし、次」
次に身体は、リストカール、ハンドグリッパーを用いたトレーニングを行い、握力を強化していく。続いてラットマシン、バタフライマシンと大型のウエイトトレーニング機器にも手を出していく。淡々とトレーニングをこなす身体。
「……次」
身体は、ベンチプレスに腰を掛ける。重量は100kgほど。
「ふんぬ!」
「ガシャン……」
バーベルを持ち上げる身体。1回では終わらない。
「ガッシャン……ガッシャン……」
2回、3回と回数を重ねていく。
「がぁあッ」
「ガシャン!」
遂に4回目を持ち上げる身体。
「ガゴン……」
バーベルをラックに置く。
(……4回、か……今日は調子がいいな)
身体に笑みがこぼれる。タオルで汗を拭いた後、水分を摂り、暫しの間休憩をとった。
「さて、仕上げだ」
何かを見上げる身体。目線の先には懸垂器具があった。
「バッ」
懸垂器具に飛びつく身体。
「よし……やるか」
懸垂が始まった。
「イチ……ニ……」
回数をこなしていく。――数分後、
「ヨンジュウハチ……ヨンジュウク……」
両腕に力が入る。
「ゴジュウ!」
90kgはあろうかと思われるその体重を、身体は50回浮かせ続けた。
「ハァ……ハァ……次は…………下半身!」
バーベルを担いだ状態でフロントランジを行う身体。ウエイトトレーニングはまだまだ続きそうだ。
――夕日が傾いている夕暮れ時。身体が舗道を走っている。あれから下半身、体幹筋とトレーニングを終えた身体は、日課である25kmの夜のランニングを行っている。走りながら、思いを巡らせる身体。
(隊長は言うまでもなく、ツトムも上々の働きをしてくれている……サケルも、ようやく組み手の成果を出してくれた。セツナと言う男も、新たな戦力として加わり、隊の強さも増すだろう)
少し下を向く身体。
(後は、この俺が……)
キッと目つきが鋭くなる。
(この俺が更なる強さを手に入れなくては……一般人はおろか、現場に到着した隊員までもが犠牲になっているこの現状、何としてでも打開し、ゾムビーによる犠牲者をゼロに近付ける……!!)
決意を新たに、走り続ける身体。
――数分後、走る際中身体はふと何か思いつく。
(今日の帰りは街中を走ってみるか。いい気分転換になる)
ランニングコースを変更する身体。暫く走り続ける。5分も経たぬうちに、住宅地に差し掛かる。ふと、何かに気付く。
「おや……?」
それは、道端にポツンと置いてある段ボールだった。足を止め、近付く。
「クゥン……」
中には小さな小さな子犬が、少しばかりの布切れとともに捨てられてあった。
「ペロリ」
子犬は身体の目を見つめながら、自分の鼻を舐める。しばらく子犬に目を合わせる身体。下を向く。
「……済まない」
どこかへ走り出す身体。
「クゥン……」
――夕日が空から消えかかり、薄っすら暗くなり始めた頃。段ボールの中の子犬は身を丸くし、眠りについている。と、そこへ何者かの足音が。
「ピクッ」
音に気付き、目を覚ます子犬。顔を上げると、そこにはナイロン袋を手に下げた、身体の姿が。身体はナイロン袋からドッグフードを取り出し、子犬にやった。
「ハッハ……ガツガツガツ」
お腹が空いていたのか、勢いよく食べる子犬。身体が体を低くして口を開く。
「済まない……お前を拾ってやる事はできない……だが、お前を拾ってくれる里親が見つかるまでは、俺が親になる」
子犬の頭をそっと撫でる身体。立ち上がる。
「また……な」
ラボに向かい、走り出す身体。
明日も身体スグルは走り続ける。
――――――――――――――
「いらっしゃいませ!」
元気よく客に挨拶するコンビニ店員が一人。抜刀セツナである。制服をきっちりと着こなしているが、髪型は相変わらずである。9時出社17時退勤で、週5日の勤務体系で働いており、それなりにカツカツの生活を行っている様だ。
「チキンとポテト、売り切れです」
レジから、店員が言う。
「あいよ!」
抜刀はハツラツと返事する。
「ジュウウウウ」
フライヤーで調理を始める抜刀。手際が良い。
(片方終わるまで、3分くらい……か……!)
抜刀はふと、何かに気付いた。
「おい、新人! さっきから、お客さんが出入りしているのに声出てねぇぞ! やる気あんのか?」
「あ、ええ……まぁ……」
新人の曖昧な態度に、激怒する抜刀。
「ぁんだその態度は!?」
鬼の形相をした抜刀は、ズンズンと新人に近付く。
「トントン」
誰かが抜刀の肩を叩く。振り向く抜刀。コンビニの店長が、そこには居た。
「まぁまぁ、抜刀君。この子、入って2週間経ってないし、ちょっと緊張してるんだよ。これから良くなるはずだから、もう少し抑え目にね」
「店長がそう言うなら……仕方ないッスね……」
渋々なだめられる抜刀であった。
――数時間後。
「店長! 新人がウォークインから帰ってこないんで、見て来ます。もう30分すぎた頃なんで」
抜刀が店長にそう言ってレジから移動する。
「あー、お願いねー」
ウォークインとはウォークイン冷蔵庫の事である。前だけではなく、店員しか入れない後ろ側にも商品補充用の扉があるタイプの冷蔵庫である。コンビニで、ジュース等を買う時、ジュースの向こう側で人がゴソゴソ動いていたら、その人はウォークインでの作業を行っているのである。結構寒い。
「バタン」
「いつまでかかってるんだー?」
ウォークインに入り、抜刀は言う。
「あ、抜刀さん。あと商品一種類くらいでーす」
新人は答えた。
「そうか、もうちょっと早くできるようになれよ」
「はーい」
抜刀の言葉に対し、作業をしつつ新人は続ける。
「ていうか、抜刀さん。ここ、結構寒いですね。真夏なら天国なのになー。そろそろ10月だから寒いやー」
「……」
新人の言葉になんとなくイラつく抜刀。
(コイツ、肉牛みたいにバラして、冷凍庫に吊るしてやろうか……?)
――さらに数時間後、
「オイ! ちょっと来い新人!!」
抜刀が激怒する。
「あっはい、なんでしょうか」
冷や汗をかきながら、新人は抜刀の所へ行く。お弁当コーナーだった。
「……昼の弁当の品出し、お前だったよな?」
「はっはい」
新人は冷や汗をかきながら抜刀の前に立ち、両手を身体の正面で合わせている。
「これ! 弁当の賞味期限、何で古いヤツが奥に入ってて、新しいヤツが前に来てるんだ!?」
「あっ」
「あ、じゃねーよ! 入ったトキに教えてもらったよな? 中坊でも分かるコトだろ!?」
「すっすみません」
「ちょっとー! レジ、早くしてくんない?」
客がレジの前に居た。
「はい! 少々お待ちください。次、気を付けろよ?」
抜刀が新人に一言言って、レジへ急ぐ。
「大変お待たせ致しました」
見ると客は、強面で坊主頭、髭を蓄えていた。
「ピッ」
バーコードを通す。
「以上、1点でお買い上げ108円となります」
手際よく接客を行う抜刀。
「箸、付けて下さい。2膳ね」
いきなり要求を行ってくる客。抜刀の顔色が変わる。
「……(ガム一つじゃねぇか、何考えてやがんだ? コイツ)……お客様、申し訳ございませんが、お弁当などを購入された方にだけお配りしておりまして、無料ではお配りしておりませんので」
本心を言わず、作り笑顔で接客する抜刀。
「は? そうなの? サービス悪いな、ここ。じゃあ何も買ってやらねーよ」
「!」
客の言葉に目の色を変える抜刀。もう作り笑顔もできない。
「ピロリロリローン」
客が店から消えていく。
「潰れちまえ! こんな店」
「ブチッ」
客が帰り際に放った心無い一言を、抜刀は聞き逃さなかった。そして、遂に我慢の限界が来る。
「店長……ちょっと体調が悪いんで早退しまーす」
怒りを抑えながら言う抜刀。
「え? 何を言って……ちょ、ちょっと抜刀君待ちなさい」
店長の言葉は、もう抜刀の心には届かない。制服をレジ内にあったカゴに入れ、抜刀は店を出る。
「タタタタタ」
バイクに乗ろうとする先程の客に向かい、走って行く抜刀。
「!」
客が気付く。
抜刀が叫ぶ。
「こんのォ! クソ野郎ぉおおおお‼」
――夕暮れ時。家路を辿る抜刀。
「いてて、口が切れたか」
頬には殴られた跡があり、口からは少量の血が。
「図体がデカいからといっても、俺の拳を3発喰らって立ってやがったのはアイツが初めてだな、へへ」
ふと、立ち止まり、空を見上げる。
「バイト先、クビになっかもな。そしたら、マジにあのラボで暮らすか……入隊したから手当てとか給料とかでねぇかな……?」
ふ――っと深いため息をつく。そして再び歩き出す抜刀。
抜刀セツナのカツカツの生活は、明日も続く。




