第六節 抜刀セツナ(ばっとうせつな)
「バッシャアアアア」
身体のタックルにより、ゾムビーは激しく破裂した。ゾムビーの肉片が飛び散るのを目に映しながら、逃隠はたたずむ。
(良く持ちこたえてくれたな、サケル……良く持ちこたえてくれたな、サケル……良く持ちこたえてくれたな、サケル……)
逃隠の頭に響く身体副隊長の声。
(副隊長様からお褒めの言葉ヲ……しかモ、お名前を呼んで頂けタ……)
うっとりとした様子の逃隠。
「ビッ」
腕に付いたゾムビーの肉片を振り払う身体。
「よし、終わりだ」
――数分後、先刻の場所にて。
「ずぼぉ」
身体にぬかるみから引き抜かれる主人公。
「すいません、副隊長。助かりました」
「……気にするな」
会話を交わす主人公と身体。その後ろには、恐らく身体副隊長に助けられたであろう隊員が、ぬかるみから脱出して服に着いた泥を払っている。
(ぽわぁあ)
逃隠は未だに夢心地の様子だ。ふと、自分が居た近くに浮いていた人間の手を見つめる主人公。
「あの人や、恐らくゾムビーになった隊員達は助けられなかったなぁ……」
ぼそりとつぶやく。
「……恐ろしい化け物を相手にしているんだ。受け入れがたいが、犠牲はいつか必ず出てしまう」
身体スグルはそっと、現実を叩きつける。
「……」
主人公は頭では理解していても、心が納得していない様子だった。
「?」
と、何かに気が付く。ポケットに何かドロドロの物が入っていた。
「これは?」
「やあやあ皆の衆。何か発見したか?」
木々の奥から爆破が現れた。
「隊長! ご無事で」
身体が明るく話し掛ける。
「? ここは南東に位置するのか? いやぁ、コンパスが途中で壊れてしまったようでな」
あっけらかんと話す爆破。
「……いえ、北東方面です。北東組の連中は、残念ながらこの有り様です」
そう言って指をさす身体スグル。指差した先には隊員の片手がぬかるみから浮かんでいる。
「……そうか、その他は無事だったか?」
真剣な表情になる爆破。
「ハイ、南東の隊は全員無事です。隊長の方は?」
質問に答え、逆に質問を返す身体。
「それは良かった。こちらも何ともない。ただ、こっちの方へ向かう途中、やけにゾムビーが発生していたな。8体ほどだったか? 全て駆除しておいた」
「……流石です」
返ってきた爆破からの言葉に、感心する身体。
「さて、戦果報告を聞こうか?」
「ハッ!」
敬礼をし、身体は報告に移る。
「今回、遭遇したゾムビーは5体、犠牲者は北東に向かった隊員5名。地面のぬかるんだ地形に阻まれ、苦戦を強いられました。が、……」
チラッと逃隠を見る身体副隊長。逃隠と目が合う。
「逃隠サケル隊員の活躍もあり、窮地を脱することに成功しました」
(うおおぉおおあああああああア!!!!)
両手を握りしめ、顔を上に向ける逃隠。有頂天である。身体の報告は続く。
「5体のうち、3体は私とツトム、隊員がそれぞれ1体ずつ倒し、残りの2体のうち1体は私と隊員で、もう1体は私とサケルで倒しました。最初ここに辿り着いたときには……」
「あの……」
報告中に、主人公が割って入る。
「何だツトム? 戦果報告中だぞ?」
注意する爆破に、遠慮しがちに返す主人公。
「すみません。でも、どうしても気になるコトがあって……さっき、この場所で偶然拾ったのですが……」
何かをゴソゴソと差し出す主人公。
「! これは……?」
――狩人ラボ、会議室。爆破、身体の他に10名程の人物が居る。
「――以上が、この前の沼地調査の報告になりますが、もう一つ話しておきたいことが……」
報告の途中で、ある話を切り出そうとする爆破。
「?」
「何かね」
少しざわつく会議室。
「隊員の内の一人、主人公ツトム隊員が、沼地のぬかるみから、とあるモノを発見しまして……」
「ゴソ……」
懐から何か取り出す爆破。それは紫色の宝石様なモノだった。
「なんだなんだ?」
「宝石か……?」
「そんなものがなぜ沼地に?」
再びざわつく会議室。爆破が口を開く。
「ラボの研究員に調査を依頼したところ、過去に採取した、ゾムビーの肉片と同じ成分が検出されました。」
「なんだって!?」
「こんな宝石から?」
「……研究員はゾムビーの肉片を、凝縮させた様な物質と言っていました。ゾムビーの発生と、何かしらの関係性は無いか、今後とも調査を進めさせます」
――狩人ラボの廊下。ツカツカと爆破が歩いている。
「スマシさん!」
爆破が顔を上げる。そこには、主人公と逃隠の姿が。
「報告、お疲れ様です。どんな様子でしたか?」
「ああ、皆、あの宝石には驚いていたよ。ゾムビー撲滅への手掛かりとなってくれればいいが……」
「まァ、あの宝石を発見できたのモ、俺の活躍があったお陰だがナ!」
自信満々の様子な逃隠は腕を組んで言う。
「ハハ、そうだな。次もよろしく頼む」
「ラジャー!」
笑顔で言う爆破に、逃隠は軽快に敬礼した。
(見つけたのは僕なのに…………まぁ、いっか。サケル君は前回、すごく頑張ってくれたもんな。しばらく、いい気分にさせてあげよう)
一瞬不満げだったが、主人公は納得した様子だった。
「今日はこの後、二人はどうするんだ?」
爆破が問う。
「僕はもう帰ります。(尾坦子さんにも会ったし……)」
主人公は答えた後、少しにやける。
「俺ハ、身体副隊長ト、今後の活動について熱く語り合いまス!」
逃隠は元気よく答えた。
「ハハハ、そうか。サケルは本当に副隊長の事が好きなんだな。私の方はだな、今日の勤務がこれで終わりなんで、趣味のソロツーリングにでも出掛けるよ。そこでゾムビーにでも出くわすかもな」
(……なんて効率の良さと実益を兼ね備えた趣味なんだ……!)
爆破の言葉に驚愕する主人公。
「じゃあな」
『ハイ!』
爆破に敬礼する二人。
――夕日が傾く河川敷。
「ブロォオオオオオオオオ!」
軽快な音を鳴らしながら、一台のバイクが走っている。バイクには黒のライダースーツ姿の女が乗っていた。爆破スマシである。
(……いいものだな。バイクで走るのは。日頃の疲れがスッと飛んでいくようだ……ん?)
ふと、河原に目が行った。そこには見慣れた姿の生物が。宿敵、ゾムビーである。思わずバイクを止める。
(まさか本当に出くわすとは……あれは⁉)
爆破は何かに気付く。ゾムビーの目の前にやたら派手な姿をした男の姿があった。
「ゾ……ゾゾ――――!!」
ゾムビーが男に襲い掛かる。
「まずい! 逃げろ――!!」
爆破が叫ぶ。
刹那――、
男が、腰を落とした。目線をゾムビーに向けて、つぶやく。
「抜刀……一閃……!」
男は刀を左腰から抜く構えをし、右手で横一文字に切り抜いたように見えた。
「ゾ?」
「ピシッ……ズズズ」
真っ二つに太刀筋が入ったのが確認できた。間をおいて、やや斜めにずれ落ちていくゾムビーの上半身。
「ドシャアアア」
太刀を入れてから、数テンポ遅れてのことだった。ゾムビーの体は完全に崩れ落ちた。
「!」
一部始終を見た爆破は驚愕する。男の右手には光り輝く刀の様なモノがあった。
「ふう……終わり!」
――、
その男の風貌はこうだ。白の特攻服。背中には喧嘩上等と書いてあり、腰には赤い帯を巻いている。髪型はトサカの様に立てており、頭には白い鉢巻を付けていた。
「シュン……」
男の右手にあった光り輝くモノはサッと消え失せた。河原には無残にも真っ二つになった、ゾムビーの死体が転がっている。
「バースト!」
「ボボン!!」
死体は木端微塵に爆発した。爆破は死体があった方向に手をかざしている。
「……今の、お前さんがやったのか?」
男は爆破に話し掛ける。
「ああ、そうだ。目標物を爆発させる超能力だ。バーストと呼んでいる」
爆破はそっと返す。
「コイツぁ驚いた。俺以外にも超能力を使える者がいるなんてなぁ」
(やはり、手に現れたあの刀の様なモノ、超能力によるものだったか……)
男の言葉に、そう思いを巡らせる爆破。続けて言う。
「私は爆破スマシ。政府公認部隊・狩人の隊長を務めさせてもらっている。貴方は?」
「ん? 俺か? 俺の名は抜刀セツナ! セブ〇イレブ〇でバイトをやっている、フリーターだ!!」
――狩人ラボ、会議室。主人公、逃隠、身体が来ている。3人の前に、爆破と抜刀が並んで立っていた。
「紹介しよう。我が隊、狩人の新しいメンバーだ」
爆破は抜刀を紹介する。
「俺は抜刀セツナ! セブ〇イレブ〇でバイトをやっている、フリーターだ!!」
抜刀は大声で言い放った。
(! コンビニバイトの……店員? すごい服装だけど……制服着たらどんな感じなんだろう?)
少し想像する主人公。
「隊長、何故この様な者を我が隊へ?」
身体はトーンを押さえて爆破に問う。
「そうだな、説明しよう。私がこの前、趣味のソロツーリングをしていた時の事だ。河川敷の近くを走っていたところ、ゾムビーに出くわしてな。私が倒そうと身構えたが、その前にこのセツナが刀を出す超能力でゾムビーを倒してしまったのだ。戦闘能力に充分な素質あり、と見込んでの事だ」
「そういう事でしたら、承知しました。」
爆破の説明にすんなりと納得する身体。
「へっ! 刀なんて出す超能力が使えたところデ、身体副隊長にはこれっぽっちも敵いませんヨ!」
抜刀を批判する逃隠。
「何だぁ、このチビは? こんなガキがいて、ゾムビーと戦っているっていう狩人は大丈夫なのか?」
「んだト! この野郎ゥ‼」
「ああん? やんのか?」
睨み合う抜刀と逃隠。
「まぁまぁ、二人とも。抑えて抑えて」
主人公が仲裁に入る。
「はン! こんな奴、戦地では野垂れ死ぬのがオチだゼ」
逃隠はそう言ってそっぽを向く。
「ハッ。お前が戦いでゾムビー化したら、真っ先に叩き切ってやらあ」
抜刀もまたそう言ってそっぽを向いた。
「ハハハ。威勢がいいのは結構だが、ウチの主力メンバーはこの5人になるんだぞ。仲良くやって行こうじゃないか」
爆破は言う。しかし、そっぽを向いたままの二人。
「そうだ。ツトムとサケル。セツナにこの施設内を、少し案内してやってくれ。交流を深める、いい機会になるかも知れん」
「ハイ!」
「はーイ」
爆破に返事する二人。主人公は元気よく、逃隠はやや不満気に返事した。
「では、解散! 二人とも、後は頼んだぞ」
――特訓の際、主人公らが寝泊まりしていた部屋。3人が居る。
「――でね、ここに泊まって特訓していたんだ」
主人公が抜刀に説明している。
「ほう……なかなかの部屋じゃねぇか。家賃が安くて済むなら、ここで生活しても良いな」
本気で引っ越しを考慮する抜刀。
「はは、じゃあ次は――」
――、
3人は第2訓練場に辿り着いた。
「ここで特訓をしていたんだ」
「ゴゴゴゴ……ガシャン」
主人公が扉を開ける。
「ほ――、なかなか色んなモノがあんな」
感心する抜刀。
「あのサンドバッグに衝撃を与えて、その威力を測ってるんだ。僕はリジェクトって言う超能力を強化する為にここで鍛えてたんだ」
「殴ったり蹴ったり、衝撃波を与えたりして、それを測るのか。……まぁ俺の場合は、獲物を切っちまう能力だから、ここは必要ねぇな」
「ははは、そうだね」
会話を交わす主人公と抜刀。
「ケッ」
逃隠は部屋の隅で手を組んでいる。
――、
廊下を歩く3人。
「僕達がよく行く所は次で最後になるかな。僕もよく、ここの施設のこと全ては知らなくて……」
研究室の前で足を止める主人公。
「ウィ――ン」
扉が開く。研究室の中ではいつも通り研究員達がいそいそと仕事を行っていた。
「へぇ……結構な設備だな……!」
何かが抜刀の目に留まる。
「ダッ」
走り出す抜刀。
「え? ちょっとぉ」
困惑する主人公。抜刀は研究室の奥、例のガラス張りの部屋まで走って行った。
「あら、貴方は?」
抜刀に気付く尾坦子。抜刀はガラス越しの彼女をじっと見つめた。 そして、尾坦子に向かって口を開く。
「なぁ……お前、俺と結婚しないか?」
「! ! ! ! ! ! ?」
余りの急な発言に言葉を失う主人公。
「え? ……はぁ」
キョトンとする尾坦子。
「だから、俺と結婚しねぇかって言ってるんだ」
真剣な抜刀。
「えーと、……えぇそうですね」
尾坦子は適当に返す。
「そうですねじゃねぇんだ。ホンキで言ってるんだぜ? こっちは」
抜刀は続けて言う。
「はぁ……(誰なんだろう? このヒト)……あ! ツトムくーん!」
主人公に気付く尾坦子。
「ハイ……コンニチハ……」
トボトボと歩き、近付いて来る主人公。
「このヒト、誰なの? いきなりこんなコト言ってきて……」
尾坦子が尋ねる。
「あ……はい。この人は抜刀セツナさんと言って、狩人の新しいメンバーなんです。超能力も使えるんですよ」
「……そう……なの(……それにしても、なんでいきなりプロポーズなんてしたのかしら)」
尾坦子は疑問に思う。すると抜刀は口を開く。
「おい、今度来るときには答えを聞かせろよ。お前はいい女だ。俺には分かる。人の為に尽くせる女だと、一目で分かった。いい男はいい女を良く知ってるってな。じゃあ、そう言う事だから……」
話を終える抜刀。
(いい男って自分で言うなよ。このぉ……確かに、僕よりはカッコイイかも知れないけど……)
いつになく冷静でいられない主人公だった。
「じゃ、じゃあこれで案内は終わるね。さよなら、尾坦子さん」
「あ、……ええ」
尾坦子に挨拶し、その場から出ようとする主人公。3人は研究室から出る。
「ウィ――ン」
――ラボ廊下にて。
(尾坦子――か……)
腕を組む抜刀。主人公は逃隠にひそひそ話をする。
「サケル君。セツナさんは、僕の永遠のライバルになるかも知れないよ」
「そうかツトム。俺はひとまずいけ好かねぇ奴だという認識しかねぇゼ」
逃隠は返す。
主人公ツトム、人生初の恋のライバル出現!!




