第九節 受け継がれる能力
「リジェクト‼」
「ドゴォッ!……ピピピ」
主人公達がラボに来てから、2週間が経とうとしていた。これまで通り訓練場で特訓を続ける主人公だったが、訓練場の表示器は408kgを表示していた。
「ツトム! 特訓を始めてからしばらく経つが、平均して400kgオーバーを出せるようになってきたな!」
「ハイ!」
爆破が声高に主人公に言葉を投げかけてきた。
「それに、どこで覚えたかは知らんが、不思議な体術を使って実践でも活躍できている」
「へへッ」
爆破の一言に、主人公よりも得意気になる逃隠がいた。
「この調子なら、初めは夏休みの1カ月間と言ったが、特訓の期間を3週間くらいに短縮できるかもな」
(良かったぁ……絶望的かと思われた、夏休みの宿題、終わらせられる)
「グッ」
爆破の言葉に、涙ながらに喜ぶ主人公。逃隠は小さくガッツポーズ。
「狩人の一員と言っても、まだ中学生だ。少し短いが夏休みを十分に満喫してくれ」
「ハイ! ありがとうございます」
満面の笑みで、心の底から喜ぶ主人公。
「礼はよせ。ツトム、お前の頑張りが……」
爆破が言葉を続けようとしたその時、
「ビ――ビ――ビ――」
ラボ内に警報が鳴り響く。続けてアナウンスが。
「港の工場地帯で、ゾムビーが発生。隊員は直ちに現場に急行せよ。繰り返す……」
「……来たか。ツトム! サケル! 行くぞ‼」
力強く言う爆破。
「ハイ‼」
「おウ‼」
続く主人公と逃隠だった。
――工場地帯、ゾムビー発生現場。狩人の隊員達、爆破、身体、逃隠そして主人公が専用の車で到着する。
「情報によると、従業員達はほぼ非難が完了しているらしい。火災時などの避難訓練を、よっぽど徹底している企業なのか? まぁいい、これで狩人の隊員達は存分に戦える。敵は20体だが、何とかなるだろう」
と、爆破が言い切るところで――、
「ゾム……」
「ゾ……」
「ゾムァ……」
前方から6体のゾムビー達が姿を現した。
「姿を現したな。よし! かかれ!」
「ラジャー」
「ガチャ、タタタタタタタタタタタタ‼‼‼」
爆破の号令で、銃器を用い発砲する狩人隊員達。その姿に一切の迷いはない。
「ゾ……ゾ?」
「ゾム……」
「ベシャベシャ! グシャ!」
ゾムビー達が被弾し、みるみる崩れ落ちていく。
「ゾ……ゾ……」
「ボッ」
残ったゾムビーの残骸を爆破がバーストで爆発させ、処理する。
(すごい……! スマシさんもだけど、狩人の人達は超能力も使わず、銃器だけでゾムビーを……よっぽど訓練されてるんだな。僕が超能力を使う必要が無いくらいだ)
主人公が狩人の戦闘能力に見とれていると……。
「よし、この調子だ。ん?」
爆破が横を向くと数十メートル先に、1体のゾムビーがいた。
「1体か……副隊長、行けるか?」
「はっ、お任せを」
爆破の問いかけに口数少なく答える身体。そして陸上選手が走り出す様な体勢をとる。1秒後、
「ダッ」
走り出す身体。ゾムビーへの間合いを一瞬で詰める。
「……ゾ?」
ゾムビーが身体に気付く。攻撃の射程圏内に入った身体は右手を振りかざす。そして、
「ドゴッ」
渾身の右ストレートがゾムビーを襲った。
「ベッシャアアアア‼」
顔がはじけ飛ぶゾムビー。
続いて左拳!
再び右拳!!
連打でゾムビーの腹部を攻撃していく。体の各部位がはじけ飛んで、下半身だけになるゾムビー。身体は最後にローキックを放つ。
「バシャアアアア」
下半身もはじけ飛び、ほぼ残骸だけになるゾムビー。そして、
「ボッ」
先ほどと同じ具合に残骸を処理する爆破。
「見事だ。副隊長」
「お褒めに預かり、光栄です。隊長」
会話を交わす爆破と身体。
(強い! 副隊長、特殊スーツと肉体のみでゾムビーと戦うって話、本当だったんだ……)
思わず息をのむ主人公。と、その横で――、
(すげェ……超能力を使わずに、ゾムビーが倒せるのカ……お、俺モ……)
身体に強い憧れを抱き始めた逃隠。爆破が口を開く。
「残り13体か……ここからは隊を分散させて戦う!」
「ハ、はイ! 俺は身体副隊長に付いて行きまス!」
何度も手を上げて、逃隠が組み分けについて志願してきた。
「副隊長、問題無いな?」
「はい、問題ありません」
爆破と身体の会話によって、身体と逃隠が行動を共にすることが決定した。
(イエス!)
両腕でガッツポーズする逃隠。
「よし、なら副隊長とサケルの組、隊員5名の組を2組、私一人の組と……ツトム、一人で行けるか?」
「ハイ、何とかします」
爆破の問いにそっと答える主人公。
「よし、しかし無理はするなよ。危なくなったらここに戻ってくるんだ。残りの隊員はここで待機! いいな?」
『ラジャー』
「それでは、散!」
一斉に動き出す一同。それぞれの持ち場に付き、ゾムビーと交戦していく。
――30分後、工場地帯の最初に戦闘があった場所にて、散った一同が一旦引き返し集合する。
「皆戻ったか? 戦果を聞きたい、ツトム」
「2体、何とか倒しました」
「他は?」
「身体、3体倒しました」
「5名の組、1体です」
「こちらの組は発見できませんでした」
爆破に対し、主人公、身体、隊員達が順々に報告していく。
「そうか、私は5体だ。……と、言う事は残り2体だな。しかし、情報に漏れがある可能性もある。実際には何体居るか……この工場地帯は広い、皆、覚悟して探索するぞ!」
『ハイ!』
爆破の号令に返事する一同。再び各持ち場に向けて歩き出す。
と、その時――、
付近の排水口の奥でうごめくモノが……。狩人隊員の一人がそれに気付かず排水口の蓋の上を歩き、通り過ぎようとしていた。瞬間、
「バシュ――」
ゾムビーが蓋の網目のスキマを通り抜けて、飛び出してきた。
「ゾムゥ」
「! そこに隠れていたのか! 隊員、一旦逃げ……」
「グルグル、バシュ!」
爆破の言葉もむなしく、ゾムビーはそのまま隊員にぐるぐると巻き付き、顔面に体液を吐き掛けた。
「ぐあ! あ……ゾ……ゾム」
段々とゾムビー化する隊員。
「くっ、間に合わなかったか、ツトム! やるぞ!」
主人公に話し掛ける爆破。しかし主人公は拭えない違和感を覚えていた。それは恐怖ではなく、理屈より先に身体が警告を発している感覚だった。
「ちょっと待って下さい。何か……様子が……」
いつもは、人間をゾムビー化させるため、向かってくるゾムビー。しかし、たった今ゾムビー化した、元隊員はこちらに向かって持っていた銃器を構えていた。
「まさか…………全員、伏せろぉおお‼」
「タタタタタタタタタタタタ」
叫び声を上げる爆破。隊員だったゾムビーは銃器を発砲してきた。
「ぐわっ!」
「があっ!」
「うっ!」
次々と被弾していく狩人隊員達。身体は逃隠を抱え、近くの建物へジャンプしていた。
「まずいな……このスーツは運動性を考慮しているため防弾機能は無いのだ」
「マジっすカ!?」
会話を交わす身体と逃隠。爆破と主人公は、幸いゾムビーが狙った隊員達とは少し離れた場所におり、伏せていて助かった。
「ゾムビーが銃を撃つなんて……」
頭を抱えながら動揺する主人公。被弾し、瀕死の重傷を負った隊員達のすぐそばの地面にも、排水口が……。
「バシュ――」
そこからもう一体のゾムビーが飛び出してきた。
「もう一体! そこに居たのか!!」
それは爆破でさえ想像がつかない事態だった。
「く……来る……な」
「ゾム……ゾム……」
容赦なく重症の隊員達との距離を詰めるゾムビー。
「バシュッ」
体液を吐き掛ける。動揺し、動けなくなった主人公達をよそに、ゾムビーは隊員達を次々とゾムビー化させていった。
「ゾム……」
「ゾ……」
「ゾムバァア……」
銃器を主人公達に向け、構える元隊員、今となっては変わり果てた姿となったゾムビー達。
「くっ! 一旦態勢を立て直すぞ! 全員! あちらの通路に退避‼」
爆破の掛け声で、一斉に走り出す生き残った者達。
「タタタタタタタタタタタタ」
それを追って発砲するゾムビー達。一同、死に物狂いで走る。
――数分後、小路地にて
「ここまで来れば、しばらくは大丈夫だ」
爆破が口を開く。そこにいる全員がゼイゼイと息を上げている。
「はぁはぁ……スマシさん、あれは一体?」
「私も初めての経験だが、どうやらゾムビー化した人間は、その記憶や能力を引き継ぐみたいだな。あの女性も、その一例だったのか」
「……尾坦子さんと……一緒……」
主人公はハッと脳裏にゾムビー化したナース服を思い描く。
「出動の際25人居た隊員達も今は9人か……減った分が、逆に敵となってしまった……。まぁ悲観的になっている暇は無い。作戦を立てるとするか。全員、集まれ」
「隊長、それは一体どのようなもので?」
淡々と只、爆破に問う身体。
「そうだな、副隊長。狩人隊員クラスの射撃能力がある集団となれば、非常に厄介だ。だが、相手は移動スピードが非常に遅い。ここに来るのも時間が掛かるだろう。でだ、戦う際にはまず、距離を置いて十分な準備をし、第一に銃器を破壊することから始める。銃の破壊は主に私とツトムがやる。ツトムは銃器ごとゾムビーを吹き飛ばしても構わないが、私は爆破の範囲を狭め、銃器を破壊することに専念する。エネルギーの節約だな。銃器を破壊できたら、副隊長、お前が突っ込んでいつものようにゾムビーを撃退していってくれ。残りの隊員は援護射撃を頼む。くれぐれも、易々と近付いてゾムビー化してくれるなよ。作戦は以上だ!」
「ラジャー!」
「ハイ!」
了解と、返事する身体、隊員達と主人公。と、その傍らで
(…………今回も俺だけスルーなのカァアアア‼)
嘆く逃隠。
「よし、なら少し引き返すぞ。ここより広く動きやすい地点があったはずだ」
爆破の言葉で、一同が動き出す。




