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回避とサイコとツトム改~ゾムビー~  作者: 時田総司(いぶさん)
第一章 始まりの手袋

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第八節 身体スグル(しんたいすぐる)

 ――翌日の午後、狩人ラボの廊下にて、爆破を先頭に、逃隠続いて主人公の順で、三人が目的地に向かっている。


「ツカ……ツカ……」


「スマシさん!」


「何だ?」


 急に主人公が爆破を呼び止める。


「どこへ行くんですか? 今日の特訓は?」


「まぁ待て、今日はまず話しておきたいことがあるんだ」


「ツカ……」


「ここだ」


 爆破がとある場所にたどり着いたところで、足を止める。そこは第4会議室と書かれた部屋の前だった。


「入るぞ」



「ウィ――ン」



 扉が開く。そこは楕円状の机と数個の椅子、壁にはモニターらしきものがある部屋だった。


「まぁ座れ。これから重要な話を始める」


 言われるがままに爆破の正面に座る主人公と逃隠。続けて爆破が話を切り出した。


「我々が戦っているゾムビーだが、その成り立ちを知っているか?」


 爆破の問いに、特に疑問も持たずに答える主人公。


「はい。確か、若返りの医学薬品『ワカヤグ』の実験による事故によって発生したとか……」


「それは俺もテレビで聞いたことがあるゼ」


 逃隠も割って入るように口を開く。


「そうだな……一般的にはそういう認識が広まっているが、そうではない」


 爆破は低く落ち着いた声で、その説を否定した。


「真実は、ゾムビーの発生源とは宇宙からやってきたウイルスによるものなのだ」



「!」

「!?」



 主人公と逃隠は、その爆破の言葉に目を見開いた。


「それってどういうことですか!?」


「まぁ聞け、ツトム」


 そう右手で主人公を制止し、爆破が話を続ける。


「火星移住化計画を知っているか? MASAが数年前から行っている、人類移住計画だ。人類が地球の環境を破壊し続け、居心地が悪くなったら地球を捨てて火星に移ろうだなんていう結構なお話だ。その計画の最中、何度かMASAは宇宙にロケットを飛ばした。そして宇宙にある物質をサンプルとして採取した。その中に、人をゾムビー化させるウイルスが潜んでいたのだ」


「そ……そんな事が」


 爆破の告げる真実に驚きを隠せないでいる主人公。


「まぁ俺は薄々そんな事なんじゃないかと勘付いていたけどナ」


 一方で逃隠は、知ったかぶったような態度を取っている。ここで主人公に一つの疑念が浮かんだ。


「でも、なんで今になってそんな話を?」


「そうだな、これは狩人と政府の一部機関しか知らないトップシークレットだ。それをお前達に教えたという事は、私はもう、お前達を認めたという事だ。ツトム、そしてサケル。今日をもってお前達を部隊狩人の正式な一員とする!」


「な、なんですって!?」


 突然の爆破からの突然の言葉に驚愕する主人公。直ぐにハッと我に返り、爆破に問うてみる。


「で……でも何で僕達を認めてくれたんですか?」


「ふっふっふ、昨日の戦いを見て、だよ。まだ力不足な部分はあるが、充分にツトムは戦ってくれた」


(…………俺ハ!?)


 爆破の言葉に、逃隠が心の底で突っ込みを入れる。


「本来ならばゾムビーを30体倒せば理事会に認められることとなっているが、私の許可があれば特例で何とかなる」


「30体! スマシさんは30体もゾムビーを倒して、その後狩人に入隊したのですか?」


 主人公が呼吸を少し早め、言葉を待ちきれない様子で爆破に聴く。


「ん? 私は趣味でゾムビー狩りをしていたことがあってな。その頃、80体倒して理事会に認められたのだが、それ以降は面倒で数えるのをやめたよ」


(……! 80……僕なんて、たった3体しか倒してないのに……スマシさん、スケール違いすぎますよ……)


 ぐわんぐわんと頭を重くし、自信を無くす主人公。


「どうしたツトム、顔色が悪いぞ」


「いえ……何でも……あり……ません」


 爆破はその様子を気に掛けるが、主人公は力なく首を横に振った。


「そうか、ならいいんだが。それと、今日は紹介したい人物もいる。もう着いている頃か?」


 そう言うと、携帯電話を取り出す爆破、ピッと機械音がした。


「私だ。爆破だ。もうラボには着いたか? ……ああそうだ、第4会議室だ。……何? もう部屋の前に居るだと? お前はいつも手が早いな。いいぞ、入れ」


 右親指で携帯を切る爆破。


「ウィ――ン」


 ほぼ同時に会議室の扉が開く。


「紹介しよう。身体スグル副隊長だ」


 そこには、軍服を着た、大柄で筋肉質な男が立っていた。


「お久しぶりです。隊長」


「おう、久しぶりだな。アメリカ視察はどうだった?」


「はい、問題無く終わらせてきました。現地で有能なサイキッカーを7名確認、アメリカに発生するゾムビーも彼らによって処理されるでしょう」


「分かった、では詳しい話は後で聞こう」


 爆破と会話する身体。身体の持つ威圧感ある雰囲気に、主人公と逃隠は圧倒されている様子だ。


「この二人は?」


 身体が息を呑んでいる二人を見て言う。


「ああ、新しく狩人に入った、主人公ツトム君と逃隠サケル君だ」


「……こんな子供が」


「ははっ。見た目で判断するのは良くないぞ、副隊長。ツトムはサイキッカーで、サケルは……アレなんだアレ」


(またこんな扱いかヨ!)


爆破の言葉に心の中でツッコミを入れる逃隠。


「……フン」


 身体は素っ気なく、主人公、逃隠の二人から体ごと顔を背けた。


「あの……」


 主人公が気まずい中、勇気を出して身体に話し掛ける。


「よろしくお願いします……身体……スグル……さん?」


 身体が顔と目線だけ主人公に向けて吐き捨てるように言った。


「俺のことは副隊長と呼べ」


「ハッ、ハイ‼」


 再び顔を背ける身体。


(……うまくやっていけるかな?)


 主人公は一抹の不安を胸に抱く。



 ――第2訓練場。爆破、身体、逃隠そして主人公がその場に立っていた。


「よし! 本日午後からは超能力に加えて身体能力も鍛えていくぞ! 超能力に頼り切らない戦い方を身に付けてもらう!」


「ハイ!!」


「おウ!!」


 爆破の号令に元気よく答える主人公と逃隠。


「さて、具体的な方法だが、副隊長も戻ってきたことだしこれから超能力を交えた組手を行ってもらう!」


「組手? スマシさん、組手って……しかも、超能力を使うなんて危ないんじゃあ……」


 主人公は確認する様に爆破に問う。 


「なぁに、ツトムとサケルの相手をするのは身体副隊長だ。元々体も丈夫だし身体能力を上げる特殊スーツを着て行うから問題無いだろう、な?」


「はい、問題ありません」


 爆破の言葉にそっと答える身体は正に指揮官に従う軍人そのものだった。


「ではまず、ツトムからだ! 準備をしろ!」


 爆破が指示を下す。その後、ゆっくりと移動し訓練場の中央で対峙する主人公と身体。


(大丈夫かなぁ)


 主人公の表情が曇る。


「それでは、始め!」




「ダッ!」




 爆破の号令とともに主人公に駆け寄る身体。


(は、速い!)


 あっと言う間に主人公に近付き、渾身の右ストレートを放った。風を裂きながらその握られた拳は主人公を襲う!!




「回避の術!」




 回避の術でそれを、自身から見て左にかわす主人公。




「ブン‼」




 そうとあらば、すかさず右ストレートを裏拳に変えて繰り出す身体。


(速い、見切れても……避け切れない!)


 ゴッという鈍い音が訓練場に響き渡る。咄嗟に両手でガードし、裏拳をギリギリ受け止めているように見える主人公。が、




「ぐ……」


「ブワッ」




 衝撃が大きく、吹き飛ばされてしまう。




「ガッ、ゴッ……ドガッ!」




 地面を2回ほど跳ね、回転しながら壁に叩きつけられてしまった。


「ガハッ……ゴホゴホ……ガッ」


 主人公は腹部を強打し、呼吸困難に陥っている。そこに爆破が話し掛けてきた。


「大丈夫か? ツトム。言っていなかったが、身体副隊長は銃器も超能力も使わずに、ゾムビー達にスーツと自身の肉体だけで戦いを挑む強者だ。生身なら、狩人最強と言ってもいい。そんなのが相手なのだから、本気でかかるべきだったな。少し休憩してろ。次は……サケ……ル? やってみるか?」


「おうヨ! やってやるゼ!(株を上げるチャンスダ! 相手はゾムビーじゃねェ。やってやル)」


 意気揚々と登場した逃隠は、そのまま訓練場の中央で身体と相対する。




「始め!!」




 再び駆け寄る身体。また渾身の右ストレートを放つ。今度は逃隠に、身体の拳が迫りくる!!


「その技はさっき見させてもらっタ!」


 回避の術で避ける逃隠。右拳は空振りに終わる。しかし、そこからまたしても右手の裏拳が!


「俺はツトムとは違ウ! 回避の術の免許皆伝ダ!!」


 裏拳さえも体を低くして避ける逃隠。


「ブン‼」


 今度は身体の裏拳が空を切る。


「次はこっちの番ダ! 行かせてもらうゼ!」




「ダッ……ガッ!」




 低くなった姿勢から地面を蹴り、アッパーを繰り出す逃隠。身体の顎辺りにヒットする。


「まだまダ!」



「ガッ、ガッ」



 続いて左手、右手と殴打を繰り出す。




「スタッ」




「どうダ!?」


 地面に着地し、拳を構える逃隠。


「……コキッ、コキッ」


 そこに居たのは何事も無かったように首を鳴らし、立ちふさがる身体だった。


「恐ろしく軽い拳だ……」


 それを見ていた主人公。


(……前に組手して分かったけど、サケル君って、相当非力なんだった――)


「ぐぬヌ……くそォ――――!」


 闇雲にパンチを繰り出す逃隠。


「ガッ、ガッ、ガッ、ガッ」


 動じない身体。と、次の瞬間、



「パシッ」



 身体が、逃隠の腕をつかんだ。


「攻撃を繰り出しているさなかは、避けることはできまい」


 そう言った身体は、ぐるぐると逃隠を掴んだ腕を回し始めた。


「ありャ――――――――」


 逃隠は、両目がグルグルと回って焦点が合っていない。


 身体はそのまま逃隠を向こう側へ投げつけた。



「ヒュ――ン……ドガッ! ベタァ……」



 壁に叩き付けられた逃隠は地面に落ちた。


「フン……こんなものか」


 大したことはないな――と、身体は二人を下に見ていた。


「なぁに、ここからさ。ツトム、もう行けるな?」


「え? あ、ハイ!」


 爆破の問いに咄嗟に答える主人公。


「今度は最初から本気で挑めよ」


「はっ、ハイ!」




再び訓練場の中央に集まる主人公と身体。


(さっきは避けることしかできなかった。次は、こっちから攻撃しなくちゃ)


 次の組手へ、主人公は軽い作戦を立てる。


「始め!」


「ダッ」


 一瞬で間を詰めてくる身体。




「リジェクト!」




 主人公の両手が光る。それを見た身体は大きく横へ跳ぶ。


 身体が避けた先の壁が、ドゴォっ!! と大きな音を立ててリジェクトの衝撃を受ける。


「……なるほど。衝撃波系統の超能力か」


 一目で相手の能力の概観を捉える身体――、


「一撃必殺だな……慎重に攻めるか」


 そう言った後、ボクサーのような構えをして近付いてきた。


(!? 雰囲気が……変わった!?)


 主人公は身体の構えから空気が一段重くなったのを感じ取った。


 殆ど構えを動かさない、軽いジャブが飛んでくる。


 対する主人公は、それを回避の術で対抗する。



「フッ……フッ……フッ……」

「サッ……サッ……ササッ……」



 ジャブをランダムに時間をおいて繰り出す身体に、それを避ける主人公。


(そろそろ次のリジェクトが打てそうだけど……隙が無い!)


 気の迷いか――、主人公の体がよろめく。それを見逃さない身体が渾身の右ストレートを放つ!



 そこで――、



「ぐっ」



 下半身に力を入れ、態勢を立て直す主人公。


(回避の……術!)


 右ストレートを見切り、右斜め前へ踏み込む主人公。体を回転させ、身体の後ろをとった。



「しまった!」



 身体が気付くのも時すでに遅し。主人公は自身の最大出力――、リジェクトを放つ。




「リジェクト!」




「ドゴッ」



 身体は壁まで吹き飛ばされ、叩き付けられる。


「がはぁっ!! ぐっ……」


 相当な衝撃が加わったのか、リジェクトがヒットした部分を右手で押さえる身体。


「大丈夫ですか! スグルさ……副隊長!」


 身体の身を案じ、駆け寄る主人公。

 しかしサッと、それを身体は右手を差し出し制止した。


「大丈夫だ。……目立った外傷は無い」


(威力は300kgを超えていただろうに……なんてスーツ、そして肉体なんだ……!)


 武装した身体の頑丈さに、主人公は舌を巻いていた。


「フウ……隙を付かれたとはいえ、なかなかやるじゃあないか、主人公ツトムと言ったな?」


「ハイ!」


 身体の言葉に、咄嗟に反応する主人公。


「名前を覚えておこう」


「ハイ! ありがとうございます!」


と、そこに




「パン、パン、パン」




 爆破が手を叩く。


「副隊長、ツトム! 互いに一本ずつとったな! サケルは……」


 爆破は逃隠を見る。


「ほげー……」


気絶している。


「まぁいい。いい実践になったろう。定期的にこのような組手を行っていくからな! 今日の組手はここまで! 後は今まで通りの特訓だ‼」


「ハイ!!」


 主人公が、はつらつと返事をする。


「身体副隊長。悪いが準備を手伝ってくれ」


「ラジャー」


(……主人公、ツトム……か……)


身体は少しだけ主人公を認めた。

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