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回避とサイコとツトム改~ゾムビー~  作者: 時田総司(いぶさん)
第一章 始まりの手袋

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第七節 繁華街の戦い、その後で……

「うわぁあああああああああああ! ゾムビーが出たぁああああ‼」


「うわぁああ! 食券買ったばっかりなのにぃいい‼」


 逃げ惑う人々。その向こう側にはゾムビー達が10体ゆらりと身体から可視化した異臭を纏い歩みを進めている。


「こっちです! 前の人を押さないように! 冷静に、転ばないように!」


 道を作り、民間人を誘導する狩人の隊員の声は通っており、繁華街に響いていた。一方で、ゾムビー達をその目で確認するのは、爆破、主人公そして逃隠。


「10体か……まぁ余裕だな。何体増やしたかは知らないが、これ以上は犠牲者は出さん!」


「2体……これまでに、一度に倒せた数は1体……でも、やるしかない!」


 意気込む爆破と主人公の二人は、目に力を籠めている。


「そうだ、サケル。お前は……」


 ふと、逃隠の方に目をやる爆破。しかし、そこに逃隠の姿は無い。体育館裏の時と同じく、逃隠は当たり前の如く姿をくらましていた。


「(……まぁ良い)サッサと片付けるぞ、ツトム!」


「ハイ! スマシさん!」


 掛け声とともに、爆破と主人公は走り出す。



――、




「きゃあああああああああ‼」



「ゾム……ゾム……」


 迫り来るゾムビー! 恐怖に飲まれた女性は、その場に座り込み、必死に声を上げている。



(集中……)



 ゾムビーを確認した主人公は、女性から少し離れた場所で、右手手袋の星に意識を集中させる。その右手が光り出す。


「キッ」


 ゾムビーを鋭い眼差しで捉える。


「リジェクト‼」


「ドッ……ベチャベチャ‼」


 ゾムビーは腰より上がふっ飛ばされ、破片が飛び散った。


(良かった、ゾムビーの破片はあの女性に当たらなかった……次だ)


 主人公は更に、そこから少し離れた場所のもう1体のゾムビーを見つけ、リジェクトの射程圏内まで走る。


(よし、この距離なら……!)


「リジェク……」


 主人公の手は僅かにしか光らず、その光はすぐに消えてしまった。


(まずい! リジェクトは何発も連続しては打てない……!)


「ゾム……」

「くっ……」


 ゾムビーと対峙する主人公。


「スゥ――ハァアア(深呼吸だ。落ち着いて、力を回復させるんだ。20秒くらいあれば、次のが打てる!)」


 主人公にじわじわと近付くゾムビー。その距離は、体液の射程圏内に入った!!




「ゾム……ゾムバァアア!!(なかま……ふやす!!)」




 ゾムビーから体液が吐き出される!


(見える! ……まるでスローモーションだ)


 上体を低くし右足を一歩斜め前へ踏み出す主人公。足を俊敏に動かし体を回転させる。と、同時に




(これ以上、ここにいる人達を犠牲にさせない!)




 主人公の想いが両手を光らせる。回避の術の応用で、ゾムビーの後ろをとる主人公。


「リジェクト……!」


 主人公の両手がゾムビーを大きく光らせる、そして――




「ドガァアアアッ!」




 吹き飛ばされ、バラバラになるゾムビー。


「ゾ?……ゾ……」


「ボムッ」


 顔だけになったゾムビーを、爆破が超能力で爆発させた。


「随分と時間が掛かったが……、やったな! ツトム」


「スマシさん……」


 爆破の顔を確認し、主人公は安堵の表情を見せた。


「こっちはもう終わらせたぞ」


 焦げた臭いが、夜風に流れていった。


「!?」


 そこには、ゾムビーの残骸すらなく、只々爆発によって焦げ付いた痕が地面や壁に残っていた。


「見てたゾ! ツトム! 回避の術が役に立ったナ!」


 ヒョコっと逃隠が顔を出す。


「やれやれ、君は……ちょっとはツトムを見習って、戦ってみたらどうだ?」


 呆れた様子の爆破。


「なにおウ! 次こそハ、我が体術による華麗な戦いっぷりを……」


 反論する逃隠にハイハイという様子の爆破。それをよそに主人公は考え事をする。


(あの間に、8体を倒すなんて、やっぱりスマシさんは強い! 僕ももっと強くならないと……!)




「ツトム! サケル!」




 女性にしては低く、良く通る声で爆破が二人に呼びかける。


「後片付けが済んだら、ラボに帰るぞ。帰ってしっかり休息だ。あと、ツトム。お前は祝勝報告でもしておくか?」


「?」


 何のことかさっぱりと、いった様子の主人公。



 その後、現場は狩人達によって騒ぎの鎮静化、ゾムビーの残骸処理、体液の清掃等が施される。



 ――狩人ラボ、研究室前。主人公は爆破に連れられて扉の前に来ている。


「ここは、前に来た……」


「フフ、そうだな、入ってみるといい」


 爆破が扉を開ける。そこには、前にあった光景が。研究者たちがコンピュータや実験器具の前で作業を行っている。部屋の奥には、ガラス張りの一室があり、その奥には一人の女性のようなゾムビーが――


「尾坦子さん……!」


 ゾムビー化した尾坦子が、ガラス張りの部屋で椅子に座っていたのだ。


「あの女性との面会だ。今日の分の実験は終わっているな?」


「はい、既に終わっております」


 爆破の問いに、白衣の研究者の一人が答えた。


「ツトム、この前はバタバタしていて時間が取れなかったが、今晩は1時間程度、時間を与える。しっかり話をしてあげる事だな」


「スマシさん、ありがとうございます」


 爆破からの思ってもみない言葉に、目を輝かせて言う主人公。その表情は期待に満ち溢れている。


「睡眠時間の事は気にするな。今日はゾムビー退治もできた事だし、明日の午前中の特訓は休みとする。では、私はこの辺で失礼するよ」


「ウィ――ン」


 一言、言い残し、爆破は研究室を後にした。


(まさか尾坦子さんとまた会うことができるなんて……)


 胸を躍らせながらゆっくりとガラス張りの部屋に歩み寄る主人公。


「ん、ツトム……君?」


 尾坦子がこちらに気付く。


「尾坦子さん! ツトムです。主人公ツトムです!」


 思わず大きな声を上げる主人公。


「どうしたの? そんなに元気な声で」


「ご、ごめんなさい。僕、狩人の方と一緒にゾムビー達を退治することになって……」


「まぁ! ツトム君がそんな危ないことを……」


「大丈夫です。僕、超能力が使えるんです」



 ――、


 それから主人公と尾坦子の会話が始まった。主人公は様々なことを話した。今、爆破の下で特訓を行っていること、退院してから学校の体育館裏にもゾムビーが出たこと、今は逃隠サケルという仲間がいること、回避の術も、秘密で特訓して会得していること……二人は時間を忘れて話をし、40分ほどが経とうとしていた。



「それでね、今日、回避の術のおかげでゾムビーを退治することができて……スマシさんは僕が2体倒している間に8体も倒しちゃってて……」


「まぁ! あの人は相当お強いのね!」




『フ――――』




 息を大きく吐き出す二人。


「今日はありがとね。毎日実験ばかりで気がめいっちゃいそうだったの。ツトム君とお話しできていい気分転換になったわ」


「いいえ、尾坦子さんが嬉しそうで何よりですよ」


 尾坦子のお礼に、優しい笑顔で主人公は返した。




「ところで」




 ジッと主人公を見つめる尾坦子。


「どうして今日はこんなにお話ししに来てくれたの?」


「そ、それは……」


 視線を逸らした主人公は、顔を赤らめる。


「尾坦子さんを元気付けたかったんです。前も言ったように、僕、尾坦子さんがしんどい目に遭っているのをほっとけなくて……だから、せめて元気付けられるように、話でもできたらなぁと思って……」


「どうして私がしんどい目に遭ってるのをほっとけないの?……」


「え? そ、それは……」


(どうしよう。あなたの事が好きだから、なんて言えないし……)


 更に顔を赤らめ、汗をかき、目が泳いでいる主人公。


「……そう。私を良く思ってくれているのね」


「そ、そうなんです!」


 尾坦子が一言言うと、咄嗟に答える主人公。


「私、もう人間じゃないのよ。ゾムビーと同じで、言ってしまえば、化け物なの。それでも……」


「それでも!」


 声を落とす尾坦子に、大きな声で主人公が言う。


「尾坦子さんは……僕の……大切な人だから……」


 主人公は真剣な表情で言い切った。


「そう。お互い、手を触れあう事すらできないのに?」


「構わない!」


 尾坦子をジッと見つめ、そっと手のひらをガラスにあてる主人公。尾坦子も主人公を見つめ、手のひらをガラスに当てる。二人の手と手はガラス越しに触れ合っていた。


「尾坦子さん……」

「ツトム君……」


 と、その時




「ウィ――ン」




「……ツカ!」



「ツトム、少し早いが時間だ! 面会終了! 部屋へ帰って寝る支度だ!」


 扉が開き、爆破が登場した。


「ひゃ、ひゃい!」


 面をくらってテンパる主人公。尾坦子は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。


「ん? 何かあったのか?」


 何も知らない爆破は、首を傾げるだけだった。


「何でもありません!」


 焦りながら声を上げる主人公は、爆破の方へ駆け寄る。4、5歩行ったところで主人公は振り向き言った。


「尾坦子さん! また今度、お話しに来ます!」


 尾坦子はガラス越しでも分かるほど、柔らかな笑顔で手を振っていた。



 ――主人公と逃隠の自室。主人公が戻ってきた。


「おイ、ツトム! どこ行ってたんダ? 待ってやってたんだゾ」


「ああ、ちょっとね」


 逃隠の問いに軽く返事する主人公。


「そうカ、それならいいんだガ……」


「ああ、そうそう。明日の特訓、午前中は休みなんだって」


「ぃやったゼェ――! 半日あの雑用を休めル!」


 逃隠は両手を突き上げて喜びを露わにする。


「じゃあ、お休みー」


「おウ!」


 床に就く主人公と逃隠。


「むにゃ……尾坦子さん……」


 主人公は笑顔でスヤスヤと眠った。

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