前原総真の場合
前原視点
後書きは七海視点
当番の江口が黒板消しを飛び跳ねながらしてたので、上の方手伝ったら、ぺこっと頭下げてすぐ自分の席に逃げって行った。
こっそり肩を落とす。
慣れてびくつかなくなったのに、何故か最近逃げられる。
この前も他のクラスの男子に絡まれてるとこ間に入ったら一応ペコリと頭を下げてお礼をもらったが、ビクビクしながらだった。
極めつけはたまたま自販機の前であったら俺の顔見た瞬間逃げた。
何も言ってないし、何もしてない。
あー顔か?顔が怖いのか?
俺も藤みたいな優しいイケメンに産まれたかった。
眉間の皺を揉む。
誰もいないトイレで笑って見たが、怪しかった。
色々とショックを受けつつ一日の授業を受け、藤と部活に行く。
何故か今日は上田先輩がいた。
「ウィッスー、藤君はまぁまぁそうだけど、前原君は元気ないねー。頑張れ若者」
「いや、一歳しか違わないんで。
先輩何の用すか」
「バスケ部スケット、人数合わせで呼ばれた」
何故この人に頼むのか。
なんかこの人といると負けた気分になるからあんまり一緒にいたくないんだよな。
同性だとわかってはいるが江口といちゃつくのは面白くないのもある。
この場を離れるために「そうですかお手柔らかに」と伝えてモップがけをしに走る。
これ以上一緒だと今日残り少ないHPゴリゴリ削られてなくなる。
「集合軽くウォーミングアップしたらチーム戦するぞー」
監督の言葉に返事する傍ら、上田先輩と一緒のチームだけは嫌だと思う。
藤と組んでストレッチしていると、入り口の方が騒がしくなってきた。
何事かと思い顔をあげると、大人数の女子の中に江口を見つける。
「なー藤、俺幻覚が見える」
「大丈夫、正常。俺にも見えるし。
おおかた上田先輩の応援じゃない?」
誰とも、何とも言ってないのに、何故江口だとバレる。
色んな意味で悔しいので、前屈の時おもくそ押してやった。
もう一回顔をあげるとびっくりしている江口と偶然目が合った。
あーやばこう言うとこが嫌われたるんだろうな。
チーム分けは運悪く上田先輩と同じチーム。
いや同じチームなら応援してもらえるから良いのではとポジティブに考える。
「よろしくー」
「よろしくお願いします」
ポジションにつくと、数秒して試合開始の笛が鳴った。
先制は相手チームのボールで、ボールをカットしようとしたら、何故かこっちに飛んできた。
上田先輩がニヤって笑ったのが一瞬見える。
わけもわからず受け取り、ドリブルした。
「前原くーん」
何故良い位置にまた上田先輩が?
相手チームに取られそうになったので慌てて上田先輩にパスする。
先輩はドリブルで右に左に敵チームを避けながら最後はダンクを決めた。
先輩って俺より小さくなかったけ?
え?どんだけ跳ぶのあの人?
上田先輩がニコッと笑い手を振ると、いつもないきゃーきゃーと黄色い声援が体育館に響く。
先輩はアイドルなのか?それともバスケのプロなのか?
え?初心者に毛が生えたような自分いる?
いやいやまだ始まったばかりだ。
毎日キツい練習してるんだ成果出すぞ。
負けるか!俺もシュート決めるぞ!
と意気込んだものの、半分近く上田先輩一人で点数を取り勝った。
なんか違う、こーチームプレーじゃないと言うか。
だからと言って上田先輩のワンマンプレーというわけでもない。
例えるなら小学生に混ざる高校生のようだ。
格が違う。
拗ねた気持ちになったので頬を叩く。
俺が下手くそだからいけないんだ。
お膳立てしてもらったシュートは外すわ、パスのタイミング遅くて敵チームに取られるわ。
かっこわりー。
「碧もう少し手加減してくれよ」
「えーせっかく女の子達見にきてくれてるし、良いところ見せたいじゃん。
あと普通におまえら下手すぎ」
「辛辣だなー。碧が男だったらうちのチームでエースなのに」
「何言ってんの、自分どこでもエースだから。
ちょっとやそっとじゃ入んないね」
上田先輩は二年の先輩達と軽口を叩きながらベンチへ休憩しに戻る。
俺はその後ろ姿を振り払えなかった気持ちが出てうらめしそうに見ながらベンチに戻る。
先輩は女だからこのチームで正式な試合の活躍はできない。
だが今彼女はこのチームで一番強い。
女なのに、女のくせに。
性別しかせめるとこなくて情けない自分に腹が立つのと同時に、嫉妬とそれに似たドス黒い感情がふつふつと再熱しわきあがる。
「上田先輩タオルです」
「私もスポドリ差し入れだよ」
「ちょっとずるい!碧君、クッキー焼いてきたの」
「みんなありがとうー嬉しいなー。せっかくだからバスケ部のみんなと頂くね」
女に囲まれてきゃーきゃー言われてるとこ見て、黒い何かが強制的に消火された。
この負けた気分なんなんだ。
「碧がいるとな、俺らもおこぼれもらえるんだぜ」
こんな顔見られたくなくてタオルで汗を拭うフリして隠していたら、三年の先輩がそう言って肩を叩いてきた。
先輩はそれで良いのだろうか?
呆れた方がいいのか、嬉しそうにした方がいいのか悩んでいるときに、目の端で大きなバッグを持った江口が映る。
フラフラしてるので慌てて駆け寄り、バッグを持った。
「重いだろ運ぶ。どこ持っていくんだ?」
江口はおじぎをし、上田先輩の方を指さした。
ですよね。知ってた。
目から涙は出ないけど心で泣いて、バッグを運ぶ。
思ったより重たい荷物に何入ってるのか気になった。
「七海ちゃんだー。
シュート入れるとこ見た?自分かっこよくなかった?
やったーそうでしょー。自分でも渾身のダンクだったんだよねー。
え?差し入れ?ありがとう!なに?ゼリーだ!絶対美味しいやつ」
身振り手振りで江口と先輩は会話している。
いいな、俺なんて目が合っただけで避けられていると言うのに。
江口がバスケ部員に一つずつゼリーを配ってた。
先輩、確かに上田先輩のおこぼれでも嬉しいですね。
俺の番になって江口が慌てる。
こっそり中を覗いてみると何もなかった。
「あ、わりーうますぎて二個食った」
部長に謝られたが軽い。
多分羽の方が重いのではという謝罪に、ほんとは何してくれとんじゃーって言いたい。
言わんけど。
体育系あるあるだ。先輩には逆らえない。
江口はあまりに悲観する俺を見て可哀想になったのか、溶けかけの2ℓのスポドリをくれた。
多分ゼリーの保冷剤代わり件差し入れだろこれ。
同じものを三本入れてたらしく残り二本は紙コップと一緒にみんなの前に置かれた。
やっぱりね。
いやでも江口からもらったものだ、ありがたく飲もう。
休憩が終わると上田先輩は女子に群がられながら江口と帰って行った。
すると今まで響いていた女子の歓声がなくなり、静かな体育館に戻る。
今度は先輩達の悲痛な叫び声が体育館に響く。
監督に縋りながらワーワーと野太い声で訴えている。
「碧を女子マネとして勧誘してください。俺たちのやる気のためにも」
「上田に頼るなー自分の力できゃーきゃー言われろー」
「そんな顔があればバスケなんてしてないでデートします」
この人達モテたすぎて必死だからモテないのでは?
変なことに力注いでるからバスケ下手なのでは?
白けた目で見てたら、監督が気づいたらしく先輩達にチクられた。
「ほら一年をが呆れてるぞー。
モテたいんだろう。全国いきゃー大抵モテる。
そのためにも練習するぞー。
あと女子は筋肉が好きって誰かが言ってたな、手始めに体力作りからいっとこかー」
「「「イエスボス」」」
部員の士気があがり、「まずは走り込むぞー」と変なテンションで「筋肉、筋肉」と言いながら体育館ダッシュが始まった。
え?バスケは?
基礎体力は重要だけど絶対バスケのためじゃないだろ。
藤を見ると目を逸らされた。
藤の兄貴は去年ここを卒業している。
知ってて黙ってたな!
誘ってきたときそんなこと言ってなかっただろうが、くそ!
確かに気まずそうに目をそらしてたけど、こんなの気づくわけないだろ!
仮入部も終わって入部してる手前、今更辞めますとは言えない。
辞める理由もなんて言えば良いかわかんないし。
くそ!騙された!仮入部期間は何も変なとこなかったのに!
知りたくなかった。今日はとことんついてない。
それでもきつい練習を不気味だが笑顔でこなしてる先輩はすごいと思いなおすことにした。
理由は理由だけど気にしなければ大丈夫と自分に言い聞かせる。
練習終わりの掃除をこなしていると、隅の方に定期入れが落ちてた。
名前を確認すると、江口のだった。
よく落とすなと思っていたが、見ると金具が壊れてる。
どこかにひっかけて壊したのだろうか。
意外とドジな彼女のことを思い出し口の端が持ち上がる。
さっさと掃除し終え、部室で着替えながら確認のためにLIMEで写真撮って送ると自分のだと返信が来た。
明日渡そうかと思ったが、今日の終わりくらい顔見て癒されたくて指が動く。
俺の最寄り駅の一個前だから持っていくとLIMEすればしばらくしてありがとうのスタンプが送られてきた。
LIME嫌がられなくてよかったと思うと同時に学校以外で会えると思うと嬉しさが込み上げてきた。
登録して初めての会話が業務連絡みたいだったけども、送った自分を褒める。
帰宅準備が終わり、急いで部室を出る。
先輩達に挨拶をして飛び出したが、自分たちより先に帰ったからと言って気にする人達ではないので大丈夫だろう。
藤も置いて帰ったが、たまには大塚と二人で帰れて嬉しかろう。
本音を言えば俺が江口と二人っきりで会いたかっただけだけど。
駅から歩いて少しした所、言われた住所についた。
目の前の大きな門?にビビる。
時代劇に出てくるような門と外壁を見上げる。
本当にここでいいのだろうか?
こいこい荘って言うくらいだから、二階建の鉄筋のアパートみたいなのを想像してたがこれ大名屋敷じゃね?
え?入っていいのか?違う人の家じゃねーのこれ。
びびってLIMEでついたけど合ってるか不安だと送る。
すぐに出てくるからと返信が来た。
しばらくしてガラガラと言う音がして足音の後、門が開いた。
江口がそろりと顔を出す。
よかった、合ってた。
「悪い、出てきてもらって」
江口がフルフルと首を横に振る。
手招きされたので、中に入る。
中も凄かった。
暗くて中は見えないが絶対何匹もでっかい鯉いるだろうって言うくらいでかい池あった。
そして門から玄関まで遠い。
金持ちの家だ。
玄関に着くと、中に入るよう手招きされた。
チラッと中見たけど、玄関スペースだけで俺の部屋くらいある。
これなんか粗相したら刀で斬られるんじゃないだろうかとアホなこと考える。
「いや、もう遅いし、定期渡しに来ただけだから」
断じてびびって入らないわけではない。
一応俺も男なので夜に恋人でもない女の家にあがるようなことしない。
江口は小さく頷くと、玄関に置いてあった紙袋を俺に渡し食べてとジェスチャーをした。
中は食べそこなったゼリーと美味しいクッキーが入っていた。
「いいのか?なんか悪いな」
江口がまた首を横に振る。
遠慮すんなってことだろうか。
このまま帰ろうとして、定期渡してないことに気がついた。
あぶねー。カバンから定期と小さな袋を渡す。
江口が首を傾げるので、目線を逸らし頭をかく。
「あーいつも菓子もらってる礼。
気に入らないなら捨てていいから」
ガサゴソと江口が封を開け中から取り出したのはさっき買った定期入れ。
じっと見られているのが気恥ずかしいのと趣味じゃなかったのかと不安から言い訳をする。
「いやその、江口前にそのキャラ好きだって言ってたの思い出して、色は持ち物ピンク多かったからピンク好きなのかなーって。
じゃあ、俺帰るわ」
言い訳もなくなり顔見るの怖くて逃げようとしたら、袖を掴まれた。
振り返ると江口が笑ってた。
「あ……とう」
「あ、いやたいしたもんじゃねーけど。
じゃ、じゃあまた明日」
門まで送ってもらい手を振ってお見送りしてもらった。
見えなくなるまで俺も振り返りながら振る。
しばらく歩いて完全に見えない所まで来て立ち止まる。
顔を上に向け叫び出しそうになったので、手で熱を持った顔をおおう。
え?声可愛いすぎじゃね?
何あれ?ちょ俺だけだったよな。
他聞いてないよな。
俺に向けてのありがとう。
袖ぐいも可愛かったけど、いつものペコッも可愛いけど。
声可愛すぎかよ。
あのありがとうだけで今日の残念な出来事がチャラになった。
やばいニヤけるの止まんねー。
再度叫び出したいのをこらえて駅までダッシュした。
つい好奇心から思わず耳を触った。
案の定、藤井君は瑠美ちゃん可愛いとか好きって声で、瑠美ちゃんはお菓子のことだった。
前原君からは何故か江口可愛いって聞こえてきた。
思ってもいない方向から思ってもいなかった本音が聞こえて、慌てて耳から指を離す。
再度触るわけにもいかず、その時はそれで終わり。
気のせいだと思うことにした。
別の日黒板消しを手伝ってもらった時に再度耳を触って本音を探る。
瑠美ちゃんと聞き間違えたのだろうと思ってたが、聞いてるこっちが悪いのだけどもうやめてっていうくらい可愛いや好きの連発。
流石の私もこの人、私のこと好きだと気づいた。
それから恥ずかしくて目が合わせられず近づけなかった。
手伝ってもらって申し訳ないが勝手に距離をとる。
どうしたら良いのだろうか?
悪意とか意味不明な嫉妬には対応できるけど、こんな純粋な好意は初めてだ。
最初は詰め寄られて怖かったけど、今なら理由がわかる。
藤井君の周りにいる女子の中に自分から言い寄ったくせに都合が悪いと泣いて黙る子がいる。
そういう子を追い払うのは前原君だった。
その子とは何年もの付き合いらしく話しながら三人ともうんざりしていた。
似たのがまた増えたと思われたらしくだから最初あたりが強かったのだろう。
それに私の対応も悪かったし、固まってしまったがそこまできついこと言われたわけでもない。
あの後ちゃんと事情を聞いた前原君から謝罪があった。
私自身あまり気にしてないのもありすぐ仲直りしたし、その後など前原君に世話になりっぱなしだ。
仏頂面だけど笑顔かわいいし、口悪いけど人の悪口は言わないとこ素敵だ。
あれ、私けっこう好きになってない?
え?嘘。イジメられて家族以外好きにならないとか思ってたのに、手伝ってもらったから好きになったとかチョロすぎない?
え、え?これからどうするのよ私!




