三嶋義嗣の場合
義嗣視点
後書きはかりん視点
校門前で待っているが、目当てのやつはなかなか来ない。
何度か積極的な女子に声をかけられたが面倒で適当にあしらう。
今も昔も俺に興味を向けて欲しいのは婚約者のかりんだけだ。
他はどうでもいい。
せっかくこっちがアプローチしているのにあいつは鈍感にも程がある。
いやまぁ、そこが可愛いのだが、やっぱり心の隅では気付いて欲しいと思ってる。
もう少し踏み入った形のアプローチのほうがいいだろうか。
どうもあいつは俺に好かれてると思ってもない様子。
先日は婚約解消まで言い始めたので、慌てて止めたが行動力はあるのだ。
勝手に解消されそうで怖い。
おおっと目当ての人物が近づいてきたので、手を挙げて引き止める。
「やぁこの間ぶりだな」
あいつは少し間がありそのあと眉間に皺を寄せ、あっと閃いた顔をした。
余裕を出そうと笑った顔が引きつる。
こいつ、俺を忘れてたのか?
普通ライバルを忘れるか?
あのときちゃんと後ほどって言っておいただろうに。
「こんにちはなんでしょうか?」
「いやじっくり話そうと思ってね」
「あー自分今から用事あるんで、土曜の昼とかどうですか?」
「わかった、急にきたこっちが悪い。
日を改める」
「じゃあ、この店で待ち合わせしましょう」
提示されたのは焼肉屋だった。
食いながら話ということか?
いやその前に何故親しくないやつと焼肉しなきゃいけない。
意見を述べる前にやつはそそくさと帰って行った。
イライラが募るが、相手のペースに乗ってはいけないと考えなおす。
余裕、そう俺は余裕がある男だ。
指定された日になり指定された場所待つ。
昼とはいつからいつまでのことを指すのだろうか。
考えた末ちょっと早めの十一時から待ってるが現れない。
この俺をまた待たせるとはいい度胸だな!
十二時過ぎにやつは現れた。
平常心だ平常心だ俺。
余裕のある男だろう。
「すみません、かりんちゃんと話したら拗れちゃって」
なんだこいつ、俺を怒らせたいのか?
あいつに選ばれたのは俺ですーってか?
は!そんなの関係ねよ、婚約者は俺だ!
「御託はいい、話をしようか」
「じゃあ店前もなんなんで入りますか。
あーでも並んでも入れるかなこれ」
「そんなの予約入れてるに決まってるだろ。
俺がわざわざ予約入れてやったんだ感謝しろ。
さっさと着いて来い」
「うわーありがとうございます」
うわーってなんだ。
無計画なお前に言われたくないのだが!?
二人で予約していた個室に入り、先に注文する。
やつは店のメニューを高い順に頼むが食い切れるのか?
金持ってるのかと眉をひそめる。
言っては悪いがお前みたいな庶民の小遣いで払えるほど安い店ではない。
バイトはしているようだが、一ヶ月の給料全部使う気じゃないだろうな。
こんな無計画な男になぜかりんは惚れたんだ?
頼み終わったのか店員が下がり、やつはメニューを直した。
満面の笑みでこちらをみてくる。
まぁ確かに顔がいいが、俺の方がいい…やつの方が若干上だが、若干だ。
「いやーここ一回は食べてみたかったんですよ。ゴチなりまーす」
「何故俺が払わないといけない」
馬鹿が、だから無計画に頼んでいたのだろう。
俺は奢るとも言ってないし、店もお前が指定してきたものだ。
いくらおまえが破産しようと俺のせいではない。
現に俺は何一つ頼んでないし何も手をつけないのだ。
このまま帰ってもなんの問題もない。
「そんなこと言ってもいいんですかー。
とっておきの情報ほしくないですかー?」
やつがニヤニヤ笑う。
ふんと鼻で笑う。
お前ごときが持ってる情報俺が手に入らないわけがないだろう。
「かりんちゃんの今日の下着の色とか」
机を叩いて立ち上がる。
相手の胸ぐらを掴もうとしたが、逆に手を払いのけられた。
「まぁまぁ話をしましょう先輩」
「誰がお前などと」
「でも話をしようと言ったのは先輩ですよ」
ふんと鼻を鳴らし、席に座りなおす。
ちょうど店員が肉を持ってきたので、口を開かずやつを睨みつける。
やつはニヤニヤしながら肉を焼き楽しそうだ。
「先輩、自分のこと調べたんじゃないんですか?」
「ある程度な、だからなんだ」
「実は先輩、激情型ですか?
かりんちゃんの周りの男女問わず全員に嫉妬してます?」
「そんなわけあるか、かりんに下心ある男だけだ」
「じゃあ自分に向けるのおかしくないですか?」
何もおかしくないだろう。
しかも一つ屋根の下で未婚の男女が一緒にいるんだぞ、妬かない方がおかしい…ん?俺は何か見落としているような。
ジュージューと焼ける音と煙を間に挟み、もう一度やつを見た。
「一応言いますけど、自分女ですよ」
その言葉に思考が飛んでいきそうになる。
え?こいつ女?どこが?
いやまぁ顔がいい女顔の男だなーとは思っていたが、女?
思わず胸を見てしまったが、よくわからずもう一度顔を見る。
女なのか?
「だいたいこいこい荘、女性限定じゃないですか。
それにかりんちゃん男に下着見られて平気なタイプじゃないでしょ」
「それはそうだが、女なのか?」
「そうですよー。
触らせたり見せたりしたくないですし保険証もないですが、女ですよ。
先輩の話終わりですね。
では奢りたくなるような情報欲しくないですか?」
ごくりと自分の喉が鳴る音がする。
「…白か、いや待てピンクか?レースはついているのか?」
「あ!下着の話ですか…うーん確か、レースははっきりとわかりませんが色は水色ですよ」
水色かー。いや逆に一周回ってエロくないか?
そうか水色、いいな水色。
あれば白のレースだと素敵だ。
「え?こんな情報で奢ってくれるんですか?」
「なんだ、不服か?」
「欲がないというか、別の欲がありすぎるというか。
自分今日、婚約解消の話、かりんちゃんがどうしてそう思ったのかって言うの持ってきてたんですが、下着に負けるとは」
「それを先に言え!」
「そうですよー先輩が下着の話始めるから焦りましたよ。
かりんちゃん言わく、自分は家と繋がりがなくなったので、先輩が婚約を続けるはないメリットはないとのことでした。
なかなか有益な情報でしょう先輩」
「そうだな。褒めてやろう、何なりと食え。奢ってやる」
「いえーい」
笑顔だがローテンションで気だるげに喜んでいる。
かりんの周りの探るだけでは出てこないかりんの本音。
他にまだあるなら知りたいが、行きにかりんと揉めたみたいなこと言ってたな、もしや俺と別れたくてこいつに伝言頼んだんじゃ。
「先輩、先輩、明日の昼出前の寿司食べたいなー。
もちろんこいこい荘のみんな分。
帰りはここのチョコレートケーキをみんな分買ってください」
「わかった」
すぐに電話で中川に連絡し手配してもらう。
向き直り、美味しそうに焼肉食べてるやつに「で?」と促す。
早くかりんのこと教えろ。
「自分が言うのもなんですが、なんの情報か聞いてから取引した方が良くないですか?」
「かりんの情報だろう。なんにせよこれくらい安い。
なんだかりんのことじゃないのか?」
「いやかりんちゃんのことですけど、はーもういいです。
今日かりんちゃんこいこい荘にいます。
かりんちゃんの部屋で二人きりで10分だけ話す権利もらってきました」
「お前…いいやつだったのか。二人きりで10分もいいのか」
「…もういっそ哀れに思えてきました。
で、先輩は告白しましょう。
家のこと抜きで好きだとハッキリ言ってください。
政略結婚だと思ってるのでこのままじゃ振られますよ」
「それは困るな。そうだな、婚約者という立場に甘えてはいけないよな。よしもっと頼め」
「いえーい。先輩!やばいの見つけました。
十食限定、最高質のシャトーブリアンこれいいですか?」
「いいも何も好きなの頼めと言っている男に二言は無い。
ああ値段か気にするな。かりんと10分も喋れるんだ。
報酬にしては安すぎる」
「いやいやこれは貰いすぎって言うか、桁が他のと違うと言うか、これだけで自分の一ヶ月の給料終わると言うか。
仕方ない、とっておき教えますね。
かりんちゃんの手を握ってください。先輩が好かれてたらめっちゃいいことあります」
「好かれてなかったら?」
「素直な本音が聞けるのには違いないので、頑張ってとしか言えません」
そ…そうか。でも好かれてたらいいことが起きるのか。
二択ならやらないのは損だな。
よしと腹を括る。
あいつがもうギブと言うまで食わせ、車でこいこい荘まで送る。
その間、かりんが何が好きか、何に今ハマっているかなど有益な情報を聞かせてもらった。
流れで一応連絡先を交換する。
「食べたいのあったら連絡しますね。
あ、報酬はどうしますか?
かりんちゃんの情報がいいか、かりんちゃんとのおしゃべりタイムがいいか」
「今後のかりんの返答次第だな。
振った男に付き纏われるほど怖いことないだろう」
「あーそれもそうですね。
自分の胃袋のためにも、先輩の告白が成功すること祈ってますね」
くだらない理由だが、失敗を祈られるよりマシだと思うことにした。
こいこい荘に着くと、流石の俺も緊張してきた。
中川に駐車場で待機しておくよう伝える。
10分だ。10分で今までの十年の思いが切られるか続くのか。
手の汗を握る。
「はーい先輩ようこそこいこい荘へー。
まっすぐかりんちゃんの部屋に案内しますね」
震える足を叱咤し、一歩一歩中へ入る。
初めて入ったこいこい荘は玄関が思ったより広く、木のいい匂いがした。
部屋を案内されて失礼ながら観察してしまった。
今まで門前しか見たことなかったが、日本の家というか屋敷だなこれ。
二階でこれだ。
屋敷全体は俺の家より広いかもしれない。
何ものなんだこいこい荘の大家。
「はい、この部屋がかりんちゃんの部屋です。
かりんちゃんー先輩連れきたよー」
心臓がバクバクなっている。
これは告白の緊張からなのか、それとも好きな女の部屋に入れるからなのか。
部屋のドアが静かに開き、眉を寄せて不機嫌そうなかりんが出てきた。
白のロンTが透けて水色が見える。
かりんが出てくる前に俺はドアを閉め、あいつに伝える。
「服を替えるように言え」
「ラッキースケベでしたね」
「いらん。早くしろ」
あいつはははと笑いながらかりんの部屋に入っていった。
小さな悲鳴が聞こえたが、俺のせいではない。
横着して中に着ないのが悪い。
しばらくして真っ赤顔のかりんと相変わらず笑ってるあいつが出てきた。
「どうぞ」
「ああ」
「10分だけだから、良い10分だけ。
碧さんここで10分計ってて」
「はーい」
バクバクと耳の中で聞こえる。
一秒も無駄にできないが、思わず部屋を見回してしまった。
落ち着いた茶色で統一した部屋で、畳かと思っていたがフローリングだった。
机とベッドと小さな本棚と真ん中にローテーブル。
鏡台の椅子が赤でそこに目がとまる。
大正レトロと言ったらいいのか、そんな和とも洋とも言えない部屋だった。
だた一つハッキリ言えるのはかりんの匂いが濃い。
いいのか俺が入って、大丈夫なのか?
ドアの閉まる音で、余計に心臓の音が速くなる。
このまま行くと死んでしまいそうだ。
「で、何?」
「今日は婚約のことについて話をしたい」
「わかった。ラグの上で悪いけどそこ座って」
指定されたところに正座で座る。
かりんはローテーブルを挟んでむかいに座ってきた。
いつもの不機嫌そうな顔で安心する。
「単刀直入に言う。
俺は一条だから婚約してるのではない。
かりんが好きだから婚約している。
愛してるから結婚して欲しい。
お前が嫌ならもう金輪際会わないと約束する。
返事を今くれ。
おまえのことだ、伸ばすと変なこと考えるだろう」
驚いた顔したが、そのあと真っ赤になった。
いつまでも返事がないので、立ち上がりかりんの隣に座りなおし、手を握った。
「俺が嫌いか?」
「嫌いではないけど、よくわからない」
「手を繋ぐのは嫌か?」
「どきどきするからあんまり」
本当に素直になった。
いつもは言わないようなことをかりんが言ってる。
シャトーブリアン食わせてよかった。
かりんの頬に手をやると繋いでない方のかりんの手が頬にある手をギュッと握り俺の指にキスしてきた。
「手大きい。指長いのも好き。なでなでして」
何が起こってる?
頭の中が忙しいがお願いされたのでかりんの頭を撫でる。
何を思ったのか手を繋いだまま押し倒された。
「か、かりん!?」
「ねーぎゅってしてー」
「いやそれはだな、好きな相手にすることで、わかんないやつにすることじゃない」
「じゃー義嗣のこと好きー」
と言ってかりんが俺の頬にキスしてきた。
こんなことがあっていいのだろうか?
待てこれ夢じゃないのか?
頬を引っ張ると痛かった。
夢でないのか?めっちゃいいことありすぎてるだろこれ。
「ねーぎゅーしよー、好き同士だからいいでしょ」
脳内お祭り騒ぎで言われたことよくわかってないが、体はかりんの命令を聞く。
手を離し抱きしめると、きゃーと叫ばれ離れたかと思うとビンタされた。
「大丈夫ですか!!」
あいつが入ってくると余計に興奮して、再度ビンタをもらった。
俺が悪いのかこれ。
「かりんちゃんどーどー」
あいつがかりんを俺から引き離す。
何があったのかと目線で言われたが俺にもわからん。
「抱きしめろと言われて抱きしめたら叩かれた」
「あー手離したんですか?
だめですよ。手離すとかりんちゃん恥ずかしくて奇声あげますから」
「もしかして碧さん喋ったの?!」
「腕にすりすりして、手をにぎにぎするくらいだからいいかなーって。
先輩にそれ以上甘えるとは思わなくて、テヘペロ」
かりんはあいつにわーわーと文句を言っていたので、隙をついてまた手を繋ぐ。
トロンとした目でこちらを向いたかと思うとビンタされたところを反対の手で撫ではじめた。
「叩いてごめんね義嗣。
嫌いにならないでね」
「こんなことで嫌いにはならない」
そう言ったらまた頬にキスされ、頬と頬を合わせて頬ずりしてくる。
それに飽きたのか今度はちゅちゅと頬や耳にキスしてきた。
ピピピと音が鳴る。
「お楽しみのとこ悪いですがお時間です」
「延長は可能だろうか」
「先輩、ここそう言う店じゃないので、かりんちゃんが良いって言ったら次回お願いします。
またビンタされたくないならとりあえず自分が押さえておくので、距離とってください」
しぶしぶ距離をとり、手を離す。
かりんはこれでもかってほど顔を真っ赤にし、ベッドに潜っていった。
「かりんじゃあまたな」
「うるさいばかー」
いつものかりんに笑いがもれる。
部屋を後にし、あいつ改め碧の後ろをついて玄関まで向かう。
「次は何が食いたい」
「かりんちゃん次第ですね。
でも肉は好きですので覚えておいてください」
「ああわかった。
今日もらった情報はシャトーブリアンじゃ足りないだろう。
食べたくなったらいつでも言え。店を予約しておく」
「やったー」
碧と別れ、中川の待つ車に急ぐ。
にしても良い10分だった。
改めて思い出し反芻する。
かりんの最後の顔を思い浮かべて可愛くて笑いが出た。
嘘でしょ、あんなあんなこと私が!!
枕を叩きつけても、ベッドを殴ってもフローリングをローリングしてもおさまらない羞恥心。
言い訳させて欲しい。
いつもはちょっともたれてお菓子食べさせて〜くらいだ。
好きだよー私も〜くらいのノリなの!
断じて押し倒したり、キスしたりしない。
だから油断してた。
なかなかいえない本心をすぐ言えと言われたのでこの能力?に甘えようとしてたのは事実だ。
先に三嶋から手を繋いできたのは予想外だったし自分からは難しかったのでラッキーと思ったのも本当だ。
だけど予想外にまさかのまさかで。
驚いている自分ともっとくっつきたい自分がいてあの時三嶋以上に戸惑った。
今までこんなことなかった。
三嶋にだけ、本当にあいつだけ。
他と違うことと言ったら性別くらい。
え?もしかして私男性にはキス魔になるのだろうか?
怖すぎる。今から握手できない。
手も触れられないようにしないと。




