朝川アリスの場合
アリス視点
後書きは慎太郎視点
幼い頃から私は人と違うと言われてきた。
会話は噛み合わないと怒られる。
やることが遅いと怒られる。
考えているのかと怒られる。
お前のせいでといつも怒られていた。
お父さんは私が嫌で出て行ってとお母さんが言っていた。
お母さんは恋人ができたからおまえは出てけと家から出された。
少ない荷物を持ってウロウロしてたところ、縁さんに拾われた。
縁さんと縁さんの旦那さんが色々手続きをしてくれて、母と離れて縁さんと暮らせるようになった。
頭悪いからと断ったが、縁さんは今は大学まで行った方がいいと言われたらので大学に行っている。
学ぶことは嫌いじゃない。
知らないこと知るのは楽しい。
大学は個人で過ごしても高校ほど目立たないのも気に入ってる。
大学で友達はいないけど、こいこい荘に帰れば仲間がいるので寂しくない。
特に今はみんな喋ってもいい匂いしかしないのでもっと好きになった。
「朝川さんレポート出した?
少しわからないとこあって見せてくれないかな」
あ、嫌な生臭い臭いがする。嘘だ。
ニヤニヤ笑う女の子たちに、首を横に振って返事を返す。
するとあっそうと言ってどこかに行ってしまった。
…あ!これレポート丸写しされるとこだったのかも。
違うかもだけど、嘘ついて見せてはどっちにしろ危ない。
さて、授業も終わったし、図書館に行こう。
大学の図書館は広く、マニアックなものも置いてるから好きだ。
それに運が良ければ、彼に会える。
建築学科のひのしんたろう君。
お友達との会話で名前と学科を知った。
…自分ストーカーかな。
いやでも家までついて行ったことないし、ゴミ箱も漁ってないし、名前だって偶然だからセーフにして欲しい。
図書館は来てるけど勉強のためで、会えたらラッキーはストーカーじゃないと信じたい。
恋って難しい。
でもこれって恋なのだろうか。
ただハンカチを拾ってもらった時の目つきが素敵だった。
三白眼で吊り上がった目、高い鼻、薄い唇。
どことなく蛇さんぽっくてかわいい。
容姿に惚れるってよくないよねと思いつつも会えば目で追ってしまう。
かわいいんだもん。
見るようになって、しんたろう君はよく人助けしていた。
誰かが道に捨てたゴミをちゃんとゴミ箱に捨ててあげたり、落とし物を拾ってあげたり。
中身はかっこいいとか素敵すぎる。
私に好かれても困るだろうから、何も言わない。
でも時々会った時会釈する仲には贅沢だけどなりたいかも。
なんて妄想しながら図書館で過ごす。
今日は二冊本を借りてこいこい荘に帰ることにした。
残念ながらしんたろう君は居なかったけど、面白い本借りれて満足だ。
こいこい荘に着くと、ちょうど宅配の車が停まった。
車内から出て来るのを待つ。
多分私の荷物だよね。
この前ネットで頼んだ本が届いたのかな。
車から降りてきた人にびっくりする。
しんたろう君?
え?宅配のお兄さんになったの?
あっちもびっくりした顔してるけど、私がびっくりしてるからだよね。
「朝川アリスさんですか?」
「はい、私です」
「サインを、ここに」
名前呼ばれた嬉しい。
低い声も好きだ。
「あの、ハンカチありがとうございました」
「いえ、たいしたことじゃないので、じゃあ」
やっぱりしんたろう君だった。
思いがけない出会いにテンションがあがる。
しんたろう君が車に乗るまで見てた。
車内からこちらをチラッと見たので、手を振った。
そのまま行ってしまってから、気持ち悪かったかもと気付く。
あーやらなければよかった。
いやでも目があったし、うーやらかした。
自分の部屋に戻るけど、やらかしたことはなかったことにできない。
明日からどうしよう。
うーどうしよう。
ベッドの上でゴロンゴロン転がりながら考える。
いっそそういうキャラで行こう。
毎回手を振れば気にならなくなるよね。
一回だけだからおかしくなるのだ。
続ければおかしい子からこれがこの子の普通になるはず。
よしそうしよう。
結論がでてお腹が空いてきたので下の階に降りる。
今日のご飯なにかなー。
「あ、アリスさんちょうど呼びに行くとこでした。
今日はハンバーグですよ」
わーいと自分の場所に座る。
七海ちゃんのハンバーグふわふわでジュシーだから好き。
冷えてカチカチじゃないから美味しい。
みんなでいただきますしてから食べる。
熱々で美味しい。
「あのーすみません誰か明日、宅配受け取ってくれないですか。
どうしても外せない用事ができてしまって。
このくらいの時間なのですが」
「はい!私受け取る!」
「アリス珍しく速いお返事で」
宅配と聞いて考えるより先に反応した。
そうか荷物受け取り全部私にすれば会える回数増えるんだ!
「これから全部私が受け取る」
「え、何そういうブーム?」
みこちゃんの言葉に何度も頷く。
そうブームと言っても差し支えない。
じゃあお願いしますと碧ちゃんが言った。
任せてと胸を叩く。
次の日、講義終わりに図書館に行く。
今日はしんたろう君がいた。
思い切って会釈するとあっちも気付いたみたいで会釈が返ってきた。
おおー念願の会釈仲間。
いいことあるぞー。
と図書館で勉強してから帰る。
昨日より少し早めについたが、外で宅配が来るのを待った。
10分ほどで車の停まる音がした。
荷物を抱えて出てきたのはいつものおじさんで、しんたろう君ではなかった。
「お嬢ちゃん、荷物重いから中まで入れるよ」
いつも通りいい笑顔だ。
言われた通り玄関を開けると、中に入れてくれた。
じゃあと言って帰って行くので、一応手を振る。
おじさんは一瞬戸惑ったが、手を振り返してくれた。
そうも簡単に会えないよね。
図書館で会ったのだ、毎日バイト入れてるわけじゃないよね。
ガッカリしたが、図書館で会釈仲間になったことを思い出しテンションを上げる。
欲張りさんは悪い子。
一日一しんたろう君。
会えれば良い方。
自分に言い聞かせる。
荷物が生ものじゃないかだけ確認して自分の部屋に戻る。
パソコンのスイッチを入れ、起動するまでに鞄や本などを所定の位置に置く。
さて今日は何を書こうか。
ドラゴンの話もいいし、お姫様の話もいい。
両方書いてしまおう。
一つは童話、もう一つはライトノベル。
パソコンで打ち込んで世界を創っていく。
何年か前に書いた小説をなんとなく応募したところ大賞をとり、今は作家の真似事してお金をいただいている。
売れたり、売れなかったり。
細々と頑張っている。
いつかは大ヒット飛ばして縁さんに恩返ししたい。
なんて大きすぎる夢を持ってるが本人には言えない。
小説を書いているのももちろん内緒。
恥ずかしい。
カタカタとキーボードを叩く。
しばらくすると、晩御飯できたと呼びに碧ちゃんがきてくれた。
返事して向かうと、美味しそうな匂いがする。
「アリス、今日は煮魚だよ」
「好き」
「アリスさん荷物受け取りありがとうございました」
グッと親指を立てる。
これくらいなら私でもできる。
煮魚、煮魚。
あー味がしみしみで美味しいー。
「アリスさんってなんでも美味しーって顔で食べますよね。
嫌いなものないんですか?」
碧ちゃんの質問に少し考える。
特に出されてこれ嫌いっていうのはなかったような、流石にママに投げ渡されたカビたパンのことは言わないほうがいいよね。
じゃあ、あとなんだろう。
ふと小さい頃に毎食、食べてたものが浮かんだ。
嫌いってほどでもないし、今も時々食べる。
「……食パンかな、少し苦手」
「サンドイッチとかトーストは大丈夫なのに?」
自分でも不思議だけど、そのままだったらあまり好きではない。
時間がたってパサパサして、梅雨時期はすぐカビはえる。
それに残り何枚って気にしながら食べるのが一番嫌だった。
「カビ嫌」
「カビは誰でも嫌だわ」
みこちゃんのツッコミに笑いがもれる。
ちょっと違うけどまぁいっか。
「あ、アリスさん明日私の荷物受け取って欲しいですが」
かりんちゃんの方に親指をたてる。
お任せあれ
「代引きなので後でお金持ってきますね」
こくこくと頷く。
明日はしんたろう君だったらいいな。
お金渡す時あわよくば手が触れ合ったりなんかしちゃって。
そんな妄想しながらみんなと美味しいご飯を食べた。
いつも通りのスケジュールで一日を終え、玄関前で配達を待つ。
今日はどっちは来るかな。
図書館ではあいにくしんたろう君に会えなかったので、今回は会えたら嬉しい。
雑草を抜いたり鯉をみたりしていたら、いつもの時間より遅めに宅配の車が止まった。
あ、今日はしんたろう君だ。
ニヤニヤ顔を引き締め、お金を準備する。
「お疲れ様でーす」
とちょうど碧ちゃんが帰ってきてしんたろう君に挨拶してる。
なるほど、挨拶大事。
碧ちゃんの横に行き、私も挨拶する。
しんたろう君の顔が歪んだ気がしたが、気のせいであって欲しい。
「荷物は自分運ぶんで代引きの方お願いします」
「うん碧ちゃんありがとう」
お礼を言ってしんたろう君にお金を払うと財布を出すと、何故か手を握られた。
手が当たるくらいではなくがっしり両手で掴まれている。
恥ずかしくて逃げ出そうとしたが、思った以上の力で掴まれていた。
手が大きいなーなんて妄想してるどころではない。
全くこれっぽっちも動けない。
流石の私も焦る。
「あの、「恋人いますか?」
唐突な質問にパニックになるが、一応首を横に振る。
離してほしくてしんたろう君の方を見るが、嬉しそうに頬を染めていた。
なんだろうがなんか怖いにかわる。
蛇に睨まれたカエルってこんな気持ちなんだろうか?
「俺の恋人になってくれませんか?」
「あの…」
「返事はまた会ったときにください」
「え?あ!お金!」
「ああすいません。丁度ですねありがとうございます」
そう言って車に乗り込んでいった。
頭が追いつかないが、目があったので手は振っておこう。
しんたろう君は少し頭を下げてから、帰って行った。
「アリスさんさっきの人のこと好きなんですか?」
背後から急に碧ちゃんの声がして驚きすぎて、多分三メートルくらい跳んだ気がする。
「付き合うの?」
「……わからないけど好きだと思う」
「知り合いですか?」
「大学の同級生?たぶん?」
「大丈夫?嫌なら一緒に断りにいきますよ」
「…嫌なのかな?可愛いから好きだったけど、さっきちょっと怖かった」
なんか男の人だった。
いや最初から男の人だったんだけど、可愛くはなかったというか。
獲物狙う蛇みたいで怖かった。
「可愛いですか?」
「うん、蛇さんみたいでかわいい」
「独特だなー。まぁアリスさんがいいならそれで。
嫌なときは言ってください。一緒に行きますから」
「ありがとう」
お礼を言って一旦この話は終わった。
急なことだったので頭がまだ追いついていないが、恋人って何するんだろう。
しんたろう君のことよく知らないし、まずお友達からじゃダメだろうか。
その後も一人悶々と考えた。
不思議なことにそれまで何かしらの一日一回は会っていたのに、一ヶ月ほどしんたろう君を見ることはなかった。
ハンカチを拾って目があった瞬間から俺こと日野慎太郎の趣味は朝川アリスちゃんだ。
今日も今日とて校舎から彼女を観察する。
あーもうちっさくて可愛い。
「慎太郎、ストーカーやめろよマジで」
「ちげーよ見守ってんだよ。
俺の天使が変な野郎にいちゃもんつけられないように見て守ってるの!」
「いやいやおまえ、十人中十人おまえのことストーカーって言うぞ。
四六時中観察してるんだろう。
普通に言ってキモイ」
「四六時中じゃない、アリスちゃんは規則正しい生活してるんだ。
朝来た時と昼食中と夕の帰りくらいしか見てない」
「むしろスケジュール把握してるとこが怖いんだけど。
つーか見るのがダメだって言ってんだよ。
それでなくてもおまえの人相、女子ウケ悪いんだからさ」
田中の言葉にアリスちゃんを見るのをやめる。
そうなのだ。
俺は目つきが悪くいらしく、よく子供からは泣かれ動物には威嚇される。
女には愛想笑いや苦笑で足早にやり過ごされることがしばしば。
そんな中、アリスちゃんは違った。
彼女が落としたハンカチを届けると、とろけるような笑顔でお礼を言ってくれたのだ。
ちょっと結婚してくださいと喉まで出そうになってやめた。
危うく不審者になるところだった。
田中が引っ張って連れて行くまで彼女を見てた。
彼女も見てたから相思相愛なのでは?
なんて都合のいい妄想をする。
アリスちゃんは優秀な学生だが、不思議ちゃんとの噂。
近くで観察してみると確かに不思議ちゃんに近い。
話のテンポがゆっくりで突拍子もないことする。
でもじっくり観察すれば行動につながりが見え彼女なりに意味がある行動をしてた。
見ていて飽きない人だ。
天然なとこもあるのでなんだかんだ抜けててドジるのでほっとけない人でもある。
「あーどうにかして持って帰れないかな」
「人、人間。持って帰るは人に使わねーよ」
「俺宅配のバイト始めたじゃん」
「おお急な話題転換だな」
「担当地区にアリスちゃんいるんだけどさ。
大きな箱入れて持って帰りたい」
「おっと違った繋がってたし、やばい話だった」
「ワンチャン婚姻届持ってたら伝票と間違えてサインしてくれないかなー」
「彼女もそこまで抜けてはないだろう」
「あっちから会釈したり手振ったりしてくれるんだぞ。
これはもう結婚では?」
可愛い手をフリフリしてるとこなんて、どんだけ車に押し込んで連れて帰りたかったか。
ニヤつく凶器顔見られたくなくてすぐ発車したけど。
できることならずっと見てたかった。
「あーアリスちゃん俺の家に閉じ込めて、一日中世話したい。
ご飯もお風呂もなんならトイレ介助もしたい」
「やめろよマジ、友達辞めたいレベルでキモイぞ」
「流石にやんねーよ。願望話すぐらいいいだろう。
どうせ会ったら会釈するだけの関係で接点もほとんどないんだから」
「お前のことだ。魔がさしたってやりそう」
「な訳って」俺は笑った。




