江口七海の場合
七海視点
後書きは前原視点
昔から男の子によくいじめられていた。
私が鈍臭いからいじめやすかったのだろう。
今考えるとしょうもないイタズラ程度だったけど、当時の私は怖くて怖くて仕方なかった。
幼稚園、小学校、中学校。
年齢が上がるにつれてイタズラでは済まないようなこと言われたりされたりした。
毎回、同じ子ではないのが余計に辛い。
誰もが誰も敵。
みんなから嫌われてると思うと、ぷつりと音がした。
学校は誰も助けてくれないのならもういいや。
嫌われてるならもういいや。
やめてと言ってもされるのだもういいや。
もういいやが増えるに連れ、声が出なくなった。
でもそれももういいや。
それからいじめられても、泣きもせずぼーと見てるだけ、気味が悪いと言われそれ以来徐々にいじめが減った。
受験でそれどころじゃなくなったのもあるのだろう。
女の子達からは「可愛くて嫉妬してやった」とわけがわからない謝罪らしきものを言われたが無視した。
私が可愛かったから?
結局私のせいにして、いじめを正当化してるだけじゃないか。
これまでが無になったわけではないがどうでもよかった。
こちらを意識している視線があったが全て無視して受験シーズンを乗り切った。
受験したのは私服オッケーな自由な校風なとこ。
その分偏差値めっちゃ高かった。
幸いなのか腐らず勉強はしていたので、いじめっ子がいない県外をひっそりと受験したが合格できた。
誰も知らないとこに行けると思うとひっそり泣いた。
それを知ってか知らずか私以上に怒っていた両親が高校受験の時にいじめっ子の志望校に今までのこと書いた手紙を送ってた。
いじめっ子たちは志望校に行けなかったらしい。
でも私には関係ない。
中学校もニュースになって問題視されてたけど、もういいや。
私には関係ない。
このまま引きこもりそうになってたところを都市伝説好きの従姉妹のお姉ちゃんがこいこい荘と教えてくれた。
私を元気づけるためにいっぱい調べてくれたと思うと申し訳ないのと嬉しいのでまた泣けた。
受験も終わったので中学校にはいかず先にこいこい荘に引越した。
卒業式には出なくていいや。
別れを寂しがる友達いないし。
父は最後までついてこようとしてたが、母に怒られしょんぼりしてた。
通勤片道三時間は遠すぎるもの。
そこでやっと笑えた。
新しい場所は女ばかりだったけど、変な派閥もなく緩やかに時が過ぎていった。
お料理の腕を買われ、台所係になった。
土日抜き平日の三食みんなの分作る。
そのかわり家賃が値引きされると言うので私はすぐに飛びついた。
好きなことして、お給料(家賃値引き)が出るならやる。
両親に言うと、その分お小遣いにしていいと言われたのでがぜんやる気が出た。
今まで貰ったことない金額にお金持ちになった気分だ。
散財したかったが、これと言った趣味がないのでやめた。
今は自分の通帳に貯まっていく残高見るのが密かな趣味である。
そんなこんなで新しく高校生活が始まったが、あまりいいものではなかった。
前後女の子だったが、声が出ず、あっちに敬遠されてしまった。
そうだよね、喋れないのめんどいよね。
入学してから数日経つが、一人ぽつんとお弁当を食べる。
声なんで出ないのだろう。
「なー何食ってんの?
クッキー!美味しそう。俺にもくれない?」
クラスの男子がそう言って近づいてきたが、固まってしまう。
背が高くて怖い。
男の子は怖い。
また何か嫌なこと言われるかもしれない。
声が出ない。せっかく声をかけてくれたのに、怖い。
いじめっ子じゃないとわかっているのに顔が上を向かない。
「わりーなんかごめんな」
「藤は悪くないだろ。おい、ただ声かけただけだろう。
無視って失礼だろ」
後からきた前原君の声が静かに響く。
わかってる。言われてることはその通り。
でも体が拒否する。
男の子の低い声に余計萎縮して動けない。
私は変わりたくてきたのに、なんで動けないのだろう。
「おい、なんとか言えよ」
「まぁまぁ、一年生。そうカッカしないよー」
最近聞き慣れた声に顔をあげる。
何故か一年生の教室に二年生のジャージ姿の碧君がいた。
「七海ちゃんは恥ずかしがり屋さんだからびっくりしただけ。
それにそうつめられたら余計に喋れないよ」
碧君の言葉にペコリと頭を下げる。
藤井君もぺこっと頭を下げてきた。
隣の前原君はそっぽを向いたけど、仕方ない。
「ね、七海ちゃん、クッキーどうしても食べたいこの子達に恵んであげて」
碧君の言葉に紙袋を二人におずおずと差し出す。
藤井君は嬉しそうに、前原君は嫌そうに一枚ずつクッキーをとった。
「何これ!めっちゃうまい!店で買ったの?どこの?」
「うま」
藤井君の声に消されてたが、前原君からうまいと言う言葉を聞き逃さなかった。
褒められるのは嬉しいので頭を下げる。
「ねー七海ちゃん手作り凄いよねー、君達もおひとついかが?」
私の席の近くでお弁当食べてた女子グループに声をかけてる。
席が前後の大塚さんと井ノ原さんもいる。
ペコリと頭を下げクッキーの入った袋を向ける。
今度はあっちがおずおずと言った感じでクッキーを一枚ずつとった。
口に入れると、大塚さんの目が開いた。
「え!何これめっちゃ美味しんだけど!
バターの風味が最高すぎる!
さくさくでホロホロでやばい!!
人生で一番のクッキーかも!」
そんな大袈裟だなーと思いつつ、思いっきり褒めてくれて嬉しい。
嬉しいから笑顔出た。
「可愛い可愛い」
と碧君に頭を撫でられる。
ああ、お兄ちゃんってこんな感じかな。
一人っ子で従姉妹も女ばかりだったので、お兄ちゃん憧れてた。
碧君がお兄ちゃんだったら素敵だな。
「あ、そうだこれ。今日忘れてたから」
そう言って定期入れを渡された。
よかった。朝忘れて困ってたんだ。
ありがとうの意味込めてペコリと頭を下げる。
「はいはい、どういたしましてー」
とハグされた。
急だったけど嫌じゃなかったのでハグし返す。
うわーいい匂いする。
「あ…と」
ありがとうって綺麗に言えなかったけど小さいけど声が出た。
「どいたまー」
そう言って碧君が離れていった。
それから後ろ向いてポカンと見てた前原君の肩を叩き一言言って帰って行った。
「前原何言われたの?」
「別に」
「女の子には優しくね」って言われてました。
地獄耳舐めないでいただきたい。
まぁ誰にも言わないけどね。
「ねぇねぇ!さっきの先輩、あの上田先輩だよね!」
大塚さんの言葉に頷く。
「え!付き合ってんの?」
次の言葉に横に首を振る。
そっかーと残念そうに言われたが、次は笑顔になった。
「えじゃあわたし狙ってもいい?
めっちゃイケメンで優しいとか最高じゃん」
イケメンで優しくて良い匂いで最高なのだが、彼女は女である。
それでいいなら。
スマホのメモにそのことを打って伝える。
「えーそっかー、いやでもその辺の男子よりアリかも」
それはそうかも。
うんうんと頷く。
「わかってくれるー。ありがとー。
あの、入学式の時ごめんね。
どう喋っていいのかわからなくて」
首を横に振る。
大丈夫、私もどう喋っていいのかわからなかったから。
ニコって笑い、もう一度クッキーをすすめる。
大塚さんは美味しそう食べてた。
藤井君も「俺も」と言ってきたので、今度はスッと差し出すことができた。
前原君は「悪かった」とボソリと言ってクッキーを一枚取ってた。
大丈夫。あれは私の態度が悪かったから。
それから声は出ないけど輪には入れるようになった。
いじめのことは言ってない。
色々あってとぼやかしたが、そっかっと察せられた。
まだ男子からの声かけにはビクビクするが、何故か前原君がフォローしてくれてる。
時々碧君がきて、忘れ物届けてくれる。
そして女子からキャーキャー言われながら帰っていく。
大塚さん、いや瑠美ちゃんが言っていたがどうやらファンクラブがあるらしい。
さすが碧君だ。
「ねー今度レモンケーキ食べたい」
「ねだってばっかいんなよデブるぞ」
「まぁまぁ、前原、女の子には優しくね」
「うっせ、デブにデブって言って何が悪い」
瑠美ちゃんがおねだりするといつも前原君が悪態をつき、藤井君が止めるのが最近のお決まりだ。
瑠美ちゃんはちょっとぽっちゃりでいつも「明日からダイエットする」と嘆いている。
それをいつも聞いてるからか、前原君は瑠美ちゃんに厳しい。
瑠美ちゃんと前原君と藤井君は兄弟のように育った幼馴染らしい。
前原君は長男気質だから余計なお節介してくるんだと瑠美ちゃんが愚痴りながら教えてくれた。
それを聞いてから前原君を見てると、しつこい女子に囲まれて困ってる藤井君を助けたり、「甘いジュースばかり飲むなお茶飲め」と瑠美ちゃんの世話焼いたりしてる場面が多々あった。
眉間に皺よって仏頂面で口が悪いのでわかりにくいがノートを持っていってくれたり黒板消すのかわったりと他の人にも優しい。
特に幼馴染には甘く、三人仲良いんだなと感じる。
が、最近気づいた。
藤井君は瑠美ちゃんが好きだ。視線がそう言ってる。
前原君も悪態つくのはどうかと思うが、なんだかんだで瑠美ちゃんのこと構いに来るので好きなのではないだろうか。
これって所謂三角関係?
え?瑠美ちゃんどっち選ぶの?
「前原はそんな口悪いと好きな子に嫌われるよー」
「は!うっせ!」
顔を真っ赤にしてこっちをチラッと見た。
目が合うとそっぽを向かれる。
そうだよね、好きな子に言われると心にくるよね。
なのでもう少し柔らかい口調にした方がいいよ。
と謎の上から目線でアドバイスを心の中から送る。
「まじそれー、ななみんもそう思うよねー」
と井ノ原夢ちゃんも言ってきたので、こくりと頷く。
私もいじめっ子を思い出すから口悪い人と大声の人苦手。
「うっ気をつける」
女子三人から言われて流石に効いたらしい。
素直だ。
うむいいことだ。
そんなこんなでスタートは躓いたものの、碧君のおかげで友達できて楽しい高校生活が始まった。
最初の出だしが悪かった。
言い訳するなら、藤の周りの女子は藤のことが好きで、そう言う露骨なアピールをするから江口もそうだと思ってた。
自分緊張して喋れない可愛いでしょアピールだと思ってたし、現にそう言うやついたのでまたかと思って、強めに言ってしまった。
そう言うのしか見てこなかったせいか、女子はそう言うものだと思ってたのもある。
でも江口は本当に喋れないし、藤にアピールもしてない。
勘違いして責めたことが後ろめたくて、そこからちょくちょく見るようになった。
意外とドジが多く絡まれやすいタイプみたいで、そう言う時は間に入ったり手を貸してた。
だんだんとちょこまか動くのかわいいとか、手も背もみんな小さくて守ってやんなきゃだとか、笑うと胸がきゅんとするとか。
気づいたら違う意味で目が追ってて、気持ちに気づいたときには俺より先に周りの方が俺の気持ち知ってたようだ。
が、本人はまったく気づいてない。
良いのか悪いのか。
気づいて欲しい気持ちと、これ以上嫌われたくない気持ちがせめぎ合う。
いや圧勝でこれ以上嫌われたくないが勝ってるな。
そう俺嫌われてる。
やっぱり最初がいけなかったよな。
藤がクッキーカツアゲしたのが悪いのに、江口責め立てて本当悪いことした。
毎日のように悔いるが、なかったことにはできない。
仲間内で喋る分にはだいぶ態度が軟化したが、いまだに二人きりは露骨に避けられている。
口悪いの苦手って言ってたしな。
あーやべ、俺嫌われる要素しかない。
一人ひっそり肩を落とす




