執着と初恋。せめて一途にかえてくれ?それは…
美琴視点
後書き碧視点
「すまない美琴今日で終わりにしよう」
そう言うとお兄さんは他の女の人の手をとり振り向きもせず歩き出した。
やだって言いたいのに、どんだけ叫んでも声が届かない。
お兄さんと女の人がどんどん遠ざかって行く。
微笑み合う二人を引き止めたいのに手を伸ばすどころかまったく身体が動かないのだ。
結局紅稀さんは振り向くことなく姿が見えなくなった。
やだってやっと出た自分の声で目を覚ました。
辺りを見回すと外はまだ暗く、自分はベッドの上でパジャマ姿のままなのを確認する。
ああ、あれは夢だ。
夢だと自覚しても胸がジクジク痛んで辛い。
いつの間にか出てた涙をパジャマの袖で拭う。
口ではすぐ別れるだの言ってるくせに夢でさえ縋り付くくらい私こんなに紅稀さんのこと好きだったんだ。
しばらく泣いて頭がぼーとするので外の灯りを眺めてた。
長い時間そうしてたのか外が薄ぼんやり明るくなってきた。
目から涙がいっぱい出てて、身体中に汗をかいてて気持ち悪い。
汗かいた身体でボーとしてたからか冷えたのだろう。
震えが止まらずくしゃみも何回か出てきた。
これ風邪ひいてるわ。
本格的に寒くなってきたのに油断してた。
汗気持ち悪いから着替えを持ってシャワーを浴びに一階に降りる。
今は最悪な夢の後だからか寝たくなかった。
あの後寝たくないからと髪も乾かさずダラダラ動画を見始めたのがトドメを刺したようで朝には起き上がれないほど身体がだるかった。
熱も出始めて市販薬を飲んだが効かず次の日病院に行くと風邪だろうと言われた。
インフルじゃないだけマシだと思い今は薬を飲んで横になっている。
幸い学校は冬休みで良かった。
十二月初旬中旬と忙しかったからな、休みでホッとして疲れが出たのかもしれない。
あ、明日お兄さんと会うのに…熱は引いたがそれまでに治ると良いけど。
いややっぱりキャンセルしよう。治りかけでも移りやすいって言うもの。
クリスマス張り切ってただけに申し訳ない。
ごめんなさいLIMEを送る。
自分で会えないと送ったくせに、今日は弱ってるせいか、あの夢のせいか紅稀さんに無性に会いたくなってきた。
早く寝て治さないとと思うけどまたあの夢をみるかもしれないと考えると眠りたくないな。
それでも薬の副作用でウトウトしていると、コンコンとノックが聞こえたのでどうぞと返事する。
ドアが開き、碧君とお兄さんがいた。
え?なんでお兄さんがいるの?
すっぴんは結構見せてるからいいんだけどこんなヨレヨレのパジャマ姿見られたくなくて布団を頭まで被った。
寝ぼけているのだろうか。
妙にリアルな夢みたいで頭が混乱する。
会いたいと思って作り出した幻覚かもしかしてこれも夢なのかもしれない。
碧君とお兄さんが少し話したあと扉が閉まる音がした。
そっと顔を出すと、いつの間にか近くにお兄さんが来てて驚いてベッドの上を飛び跳ねた。
一メートルくらい上に飛んだ気がする。
「美琴、出てきてくれないか」
「無理です」
「すまないやっぱり怒ってるのだろう」
「別に謝れるようなこと……」
ないはずだ。
すまないと言う言葉が夢と重なり激しく心臓が鳴り始めた。
謝ってすまないよ。
今更いなくならないで欲しい。
どの言葉も出なくて、また涙が出てきてしまう。
「泣くな」って言って抱きしめてくれたけど、涙をどうやってとめたらいいのかわからない。
「この前はすまない。美琴との体力差を考えず無茶をさせた。
熱まで出させてしまうとは反省している。
今後は「何の話してます?」
「何って「いや言わないで大丈夫です」
私の涙を返して欲しい。
紅稀さんはどこまでいっても紅稀さんで、ちょっと安心した。
「……女の人は?」
「誰だそれ?何処にいる?今もいるのか?」
「いや、夢で手を繋いでいたので」
抱きしめる力が強くなった。
夢の話でごめんなさい。
「いいか美琴、それは夢であっても俺ではない。
俺が知らんいや知ってる女でも手は繋がない。
繋いでいるのではなく掴まれているのかもしれない。
その時は夢の中の俺が可哀想だから助けてくれ。
いや助けてください」
「そうですね、次あればそうします」
そうかあれは紅稀さんではない何かだったのか。
言われてみればそうだなと思う。
でも不安はまだ消えないから、未練がましく聞いてしまう。
「怖いんです」
「何が怖いんんだ」
「今更ですが、終わるのが怖いんです」
「そうだな死は怖い」
「…いえ死ぬことではなくて別れるのが怖いと言うことで」
「だから別れる時は死ぬ時だろ?」
おおっと今違う意味で怖くなってきた。
あなたどこまで未来設計してるのかな?
聞いた方がいいのかそっとしておくべきか……これからこの手の私の不安は尽きないと思う。
熱まで出すほど不安なら今聞いて安心した方がいい。
これから不安がきても大丈夫だと思える安心をたくさん積み重ねたいから。
「あの、色々聞いてもいいですか?」
「いいがそろそろ出てきてくれないか?」
「嫌です。今私の顔グチャグチャですしパジャマはヨレヨレですから」
「安心しろ。病人を襲うほど鬼畜じゃない」
「そうじゃなくてあなたに幻滅されたくないんです」
「それこそ大丈夫だ。
いつもぐちゃぐちゃにしてるのは俺だからな、幻滅はしないしむしろ興奮する」
それもそれでどうかと思いますけどね。
なーなーとしつこいので結局こっちが折れて布団から顔を出した。
紅稀さんはマスクをしていたが目元で笑っているのがわかった。
こんなヨレヨレで酷い顔と格好なのに、嬉しそうにしないで欲しい。
赤やピンクいっぱい飛ばさないでいただきたい。
「可愛いなー」じゃない、どんだけ私のこと好きなんだろうか。
「明日の件ごめんなさい。
キャンセル料払います」
「大丈夫だ代わりが見つかった」
「え?どなたと行かれるんですか?」
「ビュッフェは妹と歩が行くだろう。
イルミネーションは前原と江口さんが行って、バーは日野と朝川さんでホテルは三嶋と一条さんが行く。
未成年がホテルって思ったが三嶋にそんな根性ないから大丈夫だろ」
「よ、よくみんな代わってくれましたね」
「日野と前原はマゴマゴしてたら予約埋まって途方に暮れてたらしく喜ばれた。
三嶋は口実作ってくれてありがとうと喜ばれたし、歩は日頃の礼だと言ったら喜んでた。
みんな喜んでたから問題ない」
身内を巻き込んで申し訳ない……でも喜んでるならいいのかな。
特に日野君と前原君はそういうこと下手そうだし。
かりんちゃんにはごめんなさいだけど碧君は喜びそう。
「他は?」
「他はその聞いていいのかわかりませんがお金ってどうしてます?
いきなり車買ったり、ホテルとスイート予約したり。
お金の価値観が私とは違うかなって」
「ああ、借金ではない。宝くじだ」
「へ?」
「俺は女運はないがくじ運はすごくてな。
当たったのを貯めていて必要な分はそこから出してる。
額は大きな声では言わないが食うには困らないくらいにはある。
気になるなら今度通帳を持ってくるよ。
あとさすがに毎回スイートをとってるわけじゃないぞ。
クーポンだってポイントだって使うし、割引商品だって買う。
必要な物、長く使う物は安全安心を買うために初期費用をかけるだけで、普通の金銭感覚だ」
まぁ確かに普段の買い物でいきなりハイブランド買うとこは見たことない。
時計は良い物だけど高級時計というわけでもないし、服も生地がしっかりしているがブランド物ではない。
周りに飛んでるのも嘘ついてる色でもない。
あれ?考えてたより普通だ。良かった。健全な人だった。
「あとはあるか?」
「やっぱりその別れるとき私が引きとめてしまうと思います」
「俺の予定では美琴が死んだら一時間後ぐらいに死ぬ予定だ。
寂しくて心臓が止まると思っている」
「そ、そうですか……じゃなくて他に好きな女の人ができるかもの話です」
「何言ってる。
俺が女を好きになるわけないだろう。
まず下心があるないに関わらず女が無理だ。
親しくなっても下心があるなら無理だし、美琴がいるのに近寄ってくる女は同じ人間として見れない」
「でもでも、あなたちょろいからちょっとしたボディータッチを続けてたらおちると思います」
「美琴がいるのにボディータッチを続けるわけないだろう。
もし続けるやつがいるならそいつには嫌悪しか浮かばないし悪魔かなにかだろう。
俺ばかり架空の浮気を責められてるが、美琴の方が可能性あるんだからな。
押せばコロコロ行くし、変な不安で別れようとするし女の恋は上書き保存らしいからな。
俺のことも上書きするつもりだろ」
「今度はどこでそんな情報仕入れてきたんですか?
しませんよ。上書き保存もコロコロもしません。
私意外と執着質なタイプですからね」
「ほう、なんでそんなことわかる?
俺が初めての彼氏だっただろう?」
あ、地雷踏んだかも。
赤黒いのいっぱい飛んでる。
あははと力なく笑って誤魔化すが、怖くて目が見れない。
「そうですね、紅稀さんが初めてで最後の彼氏ですよ」
「で?」
誤魔化されてくれなかった。
今度はお兄さんに静かにだけどねっとり終わるまで詰問される夢見そう。
「……初恋の人を忘れられなかったんです。
今は紅稀さんだけですから」
「どんなやつだ」
「どんなって、数個年上の男で柔道か空手か合気道か何かしらの武道をやってると思います」
「俺も柔道をやってるし数個上だ。他は?長い付き合いか?」
「他と言われても学ラン着た方としか、付き合いなんて一瞬だけです。
中学の時、元父が私に暴力を振るおうとしたところを助けてくださって、変な渡し方でしたけどハンカチ貸してもらっただけです。
ちょっと素敵だなって思っただけでどうこうなろうとは思ってません。
まぁ泣いてちゃんとお礼できなかったのでお礼は言えたらとは思いますけど。
何ですかその顔」
驚いた顔されても、私だって可愛い少女の時期ぐらいあったのだ。
それにしてもオレンジや黄色は良いとしてピンクの黒って何?
赤黒は執着だとして黒ピンクは?
ううなんか嬉しそうだけど、目が病んでるっぽいのは気のせいであって欲しい。
「その出会った場所はミラクル田中メゾンか?変な銅像が入り口のアーチに建ってる」
「なんで知ってるんですか?」
「初恋の君は俺だからじゃないか?女性不審はもう始まってたから手を伸ばして距離とってハンカチ渡した記憶がある」
「待ってください思い違いじゃなくて?」
「試合と練習以外で人間投げたのはあの一回だけだ。
間違えるほど、人助けはしていない。
あいにく顔は覚えていなかったが、あの変な銅像だけは覚えてる」
「そうですか、私もです」
「なんだ覚えてないのか?」
「だから言ったでしょ一瞬だったって」
あ、ハンカチ返そう。何回も洗ってるからちょっと色褪せてしまったけど。
ベッドから降りクローゼットからハンカチを取り出して、紅稀さんに渡す。
「あの時は助けてくださってありがとうございます」
「ああ」
あまりにも嬉しそうに受け取るからそんな大事なハンカチだったのかと尋ねたら
「家族以外で物が女から返ってきた事に感動してる」
と可哀想な発言があった。
本当に女運ないんだな。
その分がくじ運に行ってしまったのだろう。可哀想に。
ベッドに寝るよう促され、布団をかけられてぽんぽんと軽く叩かれる。
「お兄さんは初恋誰ですか?」
「美琴だが?」
「ははは、本当は?」
「美琴以外いないだろう。
物心つく前から女にこねくりまわされてきたんだぞ、嫌なことする奴を好きになるわけないだろ」
「それは…喜んで良いのでしょうか?」
「どうだろうな。
まぁ美琴が気にしてる別れが死ぬまで来ないことだけは確定してる。
男は初恋を引きずると言うだろ。
俺が美琴のこと忘れるわけがない。
それに妹曰く俺は執着の塊らしいからな。
あいつの方が執着の塊だと思うけど」
私からしたらどっちもどっちです。
「はぁ美琴が病人じゃなきゃ今すぐにでも滅茶苦茶にするのに」
「反省されたのでは」
「言っただけだ。本気ではない、が、次は楽しみだ」
「お手柔らかお願いします」
この人の執着が心地良いと少し思ってしまう自分は熱のせいだからだろうか。
トントンとリズムよく叩かれてウトウトと眠気がまたきた。
今度夢の中でお兄さんが女の人に手を握られていたら助けてあげよう。
ちょっと上から目線でものを考えられるくらいには元気になった。
次回はなんか怖いけど、無茶苦茶はされないと思うけど…大丈夫だよね?
不安だけどそれは心地いいもので眠気に負けて寝てしまいまで紅稀さんは横でたわいもない質問に答えてくれた。
うわーいビュッフェだーー!
並んだ豪華な食事にテンションが上がって上がってしょうがない。
ありがとう兄さんありがとう美琴さんありがと歩。
片っ端からとってとって机に並べると、入りきらなくなった。
隣のカップルの女が笑っているが気にしない。
良いじゃないか自分の好きに食べさせてくれ。
いただきまーすと元気よく食べていると、目の前から視線に耐えきれなくて顔をあげる。
「歩は食べないの?」
「後で食べます」
レースのついたベージュのブラウスに上からレトロ風の真紅のワンピ(お腹はコルセット風でいっぱい食べても緩められる)にクリスマスっぽいイヤリングと伸びてきた髪は緩くカールしてイルミをイメージしたカチューシャをつけてきた。
変ではないはず。
みんなにも確認したし、親父殿にもしぶしぶだけどオッケー貰った。
なのに何故そんなに見つめてくる?
うう、クリスマスだからとちょっと可愛い格好してくるのではなかった。
似合わないのか?
それかあれか食べ過ぎて引いてる?
でも引いた顔じゃないしな。
隣の女が「彼氏が引くほど食べる女って」っていってるけどそういうこと?
いやまだ持ってきただけでそんな食べてないし。
いやいや歩が一口も食べないから自分が食べてると思われてるだけじゃないかな?
くそー男の格好なら何も言われないのに。
は!歩が女装すれば良かったんじゃないか?
男同士と思われたらそれはそれでうるさいけど、歩が女装すれば問題なかった。
次からはそうしよう。
「歩、何?」
さすがに見過ぎではないだろうか?
食べずらいのだが。
変なとこあるならばこっそり指摘して欲しい
「碧さんが綺麗で可愛くて、いつまでも見てたいです」
危うく机ひっくり返すとこだった。
正気かこいつ。
写真写真撮っても良いですか?と聞いてきたので一応オッケーすると連写しだしだ。
「めっちゃ神」
泣きそうな歩に食べなとフォークを握らせる。
若干引いてしまった自分以上に隣のカップルの女がドン引きしてた。
こらー!…気持ちはわかるけど、これでも歩はいつもはすごいんだからな。
言いたいけど言えない。
ここはホテルの高級ビュッフェ。
問題を起こせばあの兄である、次はない。
大人しくしてこの高級なお味を楽しもう。
うん、歩は放っておこう。
気にしたら食事できない。
……可愛い格好すると歩ってこんな感じなんだ。
いつも以上に視線がうるさし、周りにハート飛んでそうなくらいこっち見てるし上の空だからかポロポロ食べこぼしてるのだけど。
そっかそっか。そんなに好きなんだ。ふーん。
まぁ気が向いたらまたしても良いよ。
口に出さないで歩に宣言しとく。
隣のカップルの女も歩に呆れてもう何も言わなくなったので、遠慮なく食べることにした。
時々連写されるけど
それさえ気にしなければビュッフェは大満足でした。
また来たいなーと言えば何百回でも連れて来ますと言質とったので今日のところは良しとしよう。
その後も腕絡めて上目遣いでちょっと甘い声出せば何でも言うこと聞いてくれた。
…ちょろいぞこいつ。
自分は学んだ。アユムチョロイ。
よしもうこれで自分歩に怒られない説教されない。
なんて良いクリスマスプレゼントもらったんだろう。
ありがとうサンタさん
良いクリスマスをー




