訪ね人?詐欺師?なんかどっちも違うかも
七海視点
後書き碧視点
体育祭も文化祭祭も駄目だった。
まさかの藤井君の乱入には驚いたけど、また次回期待したい。
私はいつでもどこでも良いのだけど、前原君雰囲気こだわるからな。
クリスマスなんてうってつけだと思う。
イルミネーション見てデートとか絶対告白してくれる…はず。
碧君は最近私より歩君の方が気になるみたいだし、邪魔はないと思いたい。
「それでさー加藤がさー」
休憩時間に私の前の席に座り楽しそうに喋る前原君。
好きだなーと視線を送ると、だんだん目が合わなくなり前原君手で私の目を隠された。
「見過ぎ」
あー絶対照れてる。
可愛い顔見たかったのに。
「イチャイチャしてるとこ悪いけど、そろそろ休憩終わるから返してくれる?」
本田さんに言われて前原君が真っ赤になりながら自分の席に帰って行く。
貸してくれてありがとうとお礼を伝えると、本田さんが微妙な顔をした。
「素直な疑問なのだけれど、あれのどこが良いの?
幼稚園からの付き合いだけど、あれ鈍感で鈍いでしょ。
女心どころか空気読めないってか変なとこ負けず嫌いだし。
他にいい男いっぱいいるから紹介しようか?
いつもお菓子貰ってるお礼に他校とご飯会セッティングするけど」
鈍感と鈍いは一緒な気がする。
あとこれは心配されてるでいいのかな?
それとも牽制だろうか?
なんにしろ私は前原君がいいのだ。
首を横に振って返事をする。
「かわいい」
「あれが?かわった趣味だね。
まぁ幼馴染的なのが泣くよりいいけど……あれ可愛いか?
イカツイの間違えじゃなくて?」
大きく頷く。
あの目つき悪いの気にしてるのも可愛い。
趣味はちょっとかわってるかもだけど鈍いとこも可愛い。
キョトンってしてるの一番好きかわいい。
「蓼食う虫も好き好きかー。
……いややっぱりあいつでいいの?
私のお兄の方がいいよ。紹介しようか?」
また首を横に振る。
先生が入ってきたので「あいつに愛想つかしたら教えてね」って言って本田さんとの会話は終わった。
碧君もだけどなぜ二人とも私に兄弟紹介しようとするのだろうか。
前原君とは告白はまだなだけで、もう付き合ってるような感じなのに。
別れると思われてるのだろうか?
まだ付き合ってないけど…。
帰りのホームルームも終わり部活に行く前原君に手を振る。
照れながらも手を振りかえしてくれるとこ可愛い。
さーお見送りも終わったし、今日は何作ろうかなー。
寒くなってきたし鮭のホイル焼きとクリームシチューはどうだろうか。
想像するとそのお口になってしまったので足りない材料を買ってこいこい荘に戻ると玄関前に二足歩行の猫がいた。
見なかったことにして裏口から入り、手洗いうがいをし着替えてから夕飯の準備に取り掛かる。
ジャガイモの皮を剥きながらあの猫をアリスちゃんか碧君連れてくるんだろうなと思ったら、自然と歩君に連絡してた。
歩君から了解と返事がきたので安堵して野菜の皮剥きを再開する。
……ふむそうなると今日はお客様もきそうだな。
多めに作っとくか。
余ったら明日の朝ごはんにしよう。
ほうれん草入れて鮭のクリームリゾットなど美味しそう。
出来上がる頃、案の定、碧君とアリスちゃんが二足歩行猫もどきをリビングに招いていた。
「さぁあがってあがって」「いやーすいやせんお邪魔しやす」ではない。
人語を喋る猫など動画だけにして欲しい。
あーあ怒られてもしーらない。
盛り上がってる三人?を無視してシチューが焦げ付かないように鍋をかき混ぜる。
あきらか嫌そうなかりんちゃんの顔を見て欲しい。
少し遅れて帰ってきた美琴さんはただいまのまの口で止まってる。
それはそうだ。
尻尾が二股の、人間のように正座した、大きな鞄持った、人語を喋る猫。
今並べた単語だけでも情報量が多いこと。
こんなのびっくりかドッキリでしかない。
まぁそれもフォローせずマルっと無視して鍋だけに集中する。
白ちゃんが猫の周りをキャンキャン吠えてるが仕方ない。
見るからに怪しいもの。
ピンポンがなるが誰も反応しないのか、できないのか。
ここに居てもカオスなだけなので玄関に出てみると、思ったよりお早い到着の歩君となんでか前原君だった。
よっとあげられた手に力無い。
本人が一番なんでって顔してる。
「駅にちょうどいたから拉致った。
で碧さんとアリスさんどっち?」
「どっちも」
はぁとため息ついてる歩君可哀想。
先に行く歩君の背を見送り、靴を脱いでる前原君に抱きついた。
「おかえり…なさい」
あーとかうーとか言ってるけど、最後はただいまって抱きしめてくれた。
うれしー。あの照れていつも途中やめする前原君が頑張って抱きしめてくれた。
ちょっと離れて、あの質問してみる。
「リビング?ご飯?それとも…私?」
「ブハッおま!何言って!ゴホッゲホッ」
そんなむせるほど動揺しなくてもいいじゃないか。
優しく背中をさすると、あっちで何か大きな声が聞こえたが気にしない。
「わ、私って意味わかってる?」
本来の意味は知ってるけど、そんなのここでするわけない。
にっこり笑って、まだ丸まってむせてる背中をさすりながら言った。
「私と…ここで…おしゃべり」
見るからに残念そうな顔されても…。
こんな人いっぱいいる玄関で始めるのは流石にごめんなさいだよ。
初めてなのでもっと普通のがいいです。
「いや?」
「いやじゃないです。でもリビングのやつは」
「玄関…でご…めんね」
リビングの件は知らないよ。
2段ある上がり段を椅子がわりにして横並びにぴったりと引っ付いて座り膝にあった手に自分の手を重ねた。
肩にもたれかかるとビックってされる。
もたれると毎回されるけど何回しても慣れない前原君かわいい。
「あの…近くね?」
「ダメ?」
必殺というほどでもない上目遣いで見ればドギマギしながら目線をそらされた。
かわいいかわいい好きって見てると、目を隠される。
「見過ぎだから」
もっと見たいのになー。
ここ教室でもないし他に人もいないので、目にある前原君の手を取りちゅっとわざと音をたてて指にチューする。
大きくて長い指、手が綺麗で羨ましい。
ちゅちゅとしてたら、前原君耳まで真っ赤になってかわいい。
「おま!俺だってな!」
そう言って私の手を取りちゅって手の甲にチューしてくれた。
私と張り合ってのこのドヤ顔かわいい。
「なぁ、本田の兄さんと会うのか?」
そのこと気にしてずっとそわそわしてたの?
しょぼんとした犬みたいでかわいい。
じーと私を見る目に哀愁漂ってる。
「オレのことすてるの?」って言ってるみたい。
首を横に振って否定する。
私には前原君がいるのに会うわけないよ。
目を瞑って顎をあげてキスを待つと、ちゅっと軽くキスしてくれた。
嬉しくて私からもキスを返すとまたキスが返ってくる。
短いキスを何回かしてふふとお互い見つめ合いながら笑った。
「逢引きしてるとこ悪いけど、そろそろ来れるかな?」
後ろから聞こえた声にびっくりして二人でそちらを向くと、リビングの入り口から頭だけ出した歩君がこっちを睨んでた。
口元がうっすら笑ってるのが余計怖い。
「逢引きとは恋人同士が人目を忍んで会うこと。密会」
「わ、悪かったって」
歩君に押し付けてごめんねと思うけど、こんな時じゃないとイチャイチャできないのだ。許して欲しい。
歩君に睨まれながらリビングに入ると、大きな鞄を広げて露店みたいなことしてた。
「えーこの夫婦茶碗はですね、一生割れない茶碗でございます。
ほらこの高さから落としても割れないでしょう」
「幻覚じゃ、実際は落としとらん。
普通の茶碗じゃな」
いつの間にか葵様と祇園様もきてるし、怪しい売り物に冷静に反論してた。
いいのだろうか。商売にならないだろうに。
猫もそう思っているのか、かいてない冷や汗を拭ってた。
なんだこれ?
碧君とアリスちゃんは楽しそうにしてるけど他は胡散臭そうに見てる。
白ちゃんは人間バージョンになって悪いやつ悪いやつって縁さんのお膝の上で連呼しているのを縁さんに「メッ」ってされていた。
えんさんはえんさんで微笑ましそうにお茶飲んでる。
「歩、これって」
「胡散臭い訪問販売」
「胡散臭いって旦那、それはないですわ。
そうだ旦那も何かお一つ奥さんにお土産にいかがでっか?
この簪なんて珊瑚をあしらった一点もの。
日本一と言われた 様が してお作りになられた品でございます」
「妾が七海にやったのに似ておるな」
「え?」
頭に刺してた簪を見せる。
並べるとわかりやすい。
私の方が色が鮮やかで高級感がある。
簪の軸というのだろうかその木も全然違い、こっちの方が年数が経っているのかいい色合いを出していた。
「なんか可哀想になってきた」
かりんちゃんの言葉にみんな小さく頷く。
「ねぇもう普通に売ってくれない。
品はたぶんいいのなんだろうし、今は誇大広告じゃなくて一点物で丁寧に作られたと言った方が興味ひけるから」
歩君の言葉にしょぼくれてた猫がやる気を取り戻した。
「でわでわ、これなんてどうでっか旦那。
漆塗りの桜をあしらった職人がこだわって作った手鏡です。
まぁ夜な夜な女が映るって言うて戻ってくるんですけどね」
最後の情報いらなかった。
ほら今まで胡散臭い演説が面白いだけで商品じたいに興味なさげの二人の目がらんらんとし始めてしまったじゃないか。
「じゃあ自分それ買いー」
「映ったら見せてね」
「買いません」
「まぁまぁ良いじゃないか碧が手鏡なんて選ぶの珍しいよ」
違うよえんさんそこではないんだよ。
歩君が説得を頑張るもどうも論点が違うので、最後はえんさんが買った。
今日の歩君いまいちキレがないのも勝敗の決め手かもしれない。
碧君とアリスちゃんだけが嬉しそうにしてる。
葵様、「仲良きは善き哉」ではないのですよ。
「だ、旦那も欲しかったですか?
すいやせんね一つしかなくて。
そうだ櫛なんてどうです?
飾りっ気はないですが極上国産のつげの木を使った手付き櫛。
まぁちょっと値段ははるんですがね」
「いわくつきではないよね?」
「大丈夫でっせ。ちょいちょい手入れはしてますが新品未使用。今なら高級椿油をおまけにつけんしょう」
「買った!!」
「まいどありー」
歩君が買った?あの歩君が怪しい商人まがいの猫から買った??!
周りがザワザワし始め、あの祇園様も驚いていた。
金額は知られたくないのかこっそりやりとりしてたけど、本当に買ってる?!
「僕だって買い物ぐらいします」
それはそうなんだけど、え、ここで買うの?
葵様と祇園様だって「買うたぞ」「買ったな」と二人でヒソヒソしてるくらいだ。
歩君がケチと言うわけではないけど、この怪しい商人まがいの猫から買ったことに驚きだ。
「ええーいヒソヒソしない。
物は良いんです物は。
この猫が怪しいだけで、品はいいのだから買っても良いでしょ。
何ですか、品も怪しい紛い物ですか?」
「いや、人間が作った一級品だね。
売り方が怪しいだけで普通の店で買うより値段はむしろ安いくらいだ」
えんさんは相変わらずニコニコしながらお茶飲んでる。
それ見ろと言いたげに歩君がドヤ顔をした。
さすが歩君としか言えないな。
前原君が何かいる?って顔してるので首を横に振っていらないよって伝える。
安いと言ってもそれ相応の値段しそうだ。
私達は普通の高校生でいよう。
チラッと見えたけど櫛に五桁は出せないよ。
えんさん呑気にお茶飲んでますけど、貴方は逆に奥さんに買わなくて良いのだろうか。
「祇園様も買わなくて良いんですか?
この簪とか良いのでは?」
「梅の花の簪か。歩、お主目敏いの。
なかなかの代物ぞ。
祇園、買わぬなら妾が買うぞ」
「いや我が買う。
これをくれ。代金は使いの者が払いにくる」
「毎度ありがとうございます」
猫のホクホク顔ってあんななんだ。
あれは結構する代物なんだろうな。
よく見つけるよね歩君。
祇園様がぎこちなく葵様の髪に買ったばかりの簪をさした。
「やる」
「おぉ、すまぬな」
これってこれってきゃー!
内心お祭り騒ぎの私だが、表情に出さないように頑張る。
昨日、日本史の先生が言ってた日本式プロポーズ?
碧君も去年同じ担当の先生だったらしく、先生の鉄板ネタだと教えてくれた。
え?プロポーズじゃない?
…これと言って二人に動きはなく普通だ。
江戸時代、簪でプロポーズを本当にしてたのだろうか?
日本史の先生を疑い始めたところチラチラと祇園様が葵様を見てる。
これはプレゼントの反応を見てるのか?
それともプロポーズの様子伺いしてるだろうか?
どっちにしてもプレゼントに乗せた好意は葵様に伝わってない。
空気読めないと言うか裏の意味が伝わらないと言うか、えんさんとの血の繋がりを感じる。
思わず可哀想だなと祇園様を見てしまった。
こうやってすれ違って何年もきたんだろうな。
「葵様は簪のお返事しないのですか?」
アリスちゃん?!
それは言わない方がいいのでは?
昨日の話題だったからか頭に残ってたのだろう。
生プロポーズに興奮してるみたいだった。
二人のことだからそっとしとくより誰かがお節介やかないと進展しないと思うけど、だからと言って直球すぎでは?!
「簪に返事がいるのか?」
「江戸時代のプロポーズらしいですよ」
「はははそんな洒落たこと、この男が知っとるわけなかろう。
なぁ、祇園日頃のお礼じゃろ。
妾がお主の世話をしておるものな」
いやむしろされてるのは葵様です。
祇園様はわかりやすいくらい貴女にアピールしてます。
それが歩君のアドバイスとサポートを受けながらだとしても。
言いたい。言いたいけど我慢する。
なんて返すのか祇園様。
歩君も野球の監督並みのよくわからないサイン出してる。
ただいけ!とだけは伝わってきた。
ヘタレを出すのか?
「我は…きゅ、求婚のほうで…」
歯切れ悪いし最後聞き取れなかったけど、一応求婚って言った!
頑張った頑張ったよ祇園様。
歩監督は納得してないけど、今までのやり取り見てたらとっても頑張ってると思うよ。
二人が真っ赤になって黙ってしまった。
祇園様に至っては、顔から湯気出るのではと言うくらい真っ赤だ。
ここにえんさんがぶっ込んできた。
「え?祇園、君妹のこと好きだったの?」
「そ、そうだが、文句は言わせん」
「いや妹だよ?我儘で短気だよ?」
「可愛いではないか。
それにおまえが言うほど我儘でも短気でもないぞ」
祇園様の器がでかいのか、恋は盲目というやつなのか。
どっちにしても葵様の我儘を受け止めれるのは祇園様しかいないと思う。
他の神様知らんけど、二人がひっついて丸くおさまって欲しい。
そろそろ強制的トリプルデートは終わりにしたい。
私は前原君と二人きりでお出かけしたいんだ。
さぁ、葵様お返事してください。
「わ、妾帰る」
そう言うとシュッと消えてしまった。
生暖かく見守ってた部屋の中がえ?っと言う雰囲気に変わった。
まぁいきなり求婚されたらそりゃーね。
「前原くんご飯食べる?」
「え?え?おう食べるけど、え?」
混乱してる前原君と祇園様とえんさんを置いて、みんなでご飯の準備に取り掛かる。
猫さんも気まずそうに商品を片付け始めた。
「ではあっしはこれで。
何かありやしたらこの電話番号にかけてくだせい」
「ありがとうございました」
とえんさんがまだ使い物にならないので歩君が受け取って猫の見送りまでしてくれ、貰った電話番号はわかりやすく電話の所に置いてくれた。
碧君は歩君の周りをうろちょろしてるが何がしたいのだろう。
「我は振られたのか?」
「まぁまぁ祇園様、まだお返事貰ってませんから」
私の女の勘が言ってるけど、大丈夫だと思うな。
違ったら怖すぎるので言わないけど。
シチューを人数分よそい鮭もいい感じに焼けたので皿に移す。
はーいご飯ですよー。
みんなで食事の用意をしさぁ食べるぞとなってもまだ三人はボーとしてる。
祇園様はしょうがないとして、あと二人は関係ないよね。
ため息をついて三人にご飯を食べるよう促した。
なんかいつもより元気ない気がする。
猫を追い出そうとする時もキレがなかったし、あのえんさんに口論で負けた時はやったーと言うより歩が?となった。
人の心配を他所にあっちに行ったりこっちに行ったり。
こいつちょこまかと!じっと座ると言うことができないのか?
ご飯食べる時もいつもより少ない気がする。
食べ終わったら食器片付けて偉いけど、もうちょっとゆっくりしてもいいと思う。
じっとしてないのは入ってきた時からか。
猫に説教したり、引っ張って追い出そうとしたり…あれ今日もハグしてないぞ。
いやしたいわけじゃないけど、いつもしてるのに今回もその前もしてない。
最近なんだかんだでスルーされてる?
今日だって、七海ちゃんが呼んだからきたのであって、自分に会いにきたわけじゃない。
面倒事を回避するために来ただけだ。
……最近、歩が自分に冷たい気がする。
扱いが雑だし、前は好き好き言ってたのにここ数ヶ月は少ないと言うか言われない日もある。
やっぱり男の方が良いのだろうか。
最初のような熱がなくなっているのが少し怖かった。
男の方が好きで女の自分に好きって言ったから責任とまでは言わないがそう言うものを感じているのだろうか?
ゆっくりフェードアウトしていなくなるのだろうか?
じっと歩を見てるとこちらの視線に気付いたのかこっそり手招きされリビングを出て行った。
着いてこいってことだろうか。
リビングの外の廊下に出ると歩が待っていてくれた。
「碧さんどうしました?体調悪いですか?」
それは歩の方だろと言いかけて、後ろから笑い声が聞こえたのでやめた。
なんか見られたくない。
自分でもよくわかってない気持ちをあーだこーだ人に言われたくなくて、無言で歩の手を取り引っ張る。
何も言わず抵抗もなく着いてきたので、ちょっとホッとする。
自分の部屋に入り、手を広げる。
「ん」
「ん?」
いつもの馬鹿みたいに察する能力どこ行った。
絶対焦らして楽しんでる。
「しないなら別にいい」
「嘘、嘘。可愛かったのでちょっと揶揄っただけですよ」
半笑いでハグしてきた。
その半笑いの残りの感情は何?
やっぱり自分は飽きられたのだろうか。
…いっそ終わらせた方が良くないか?
聞くのが怖く強く抱きしめると、歩の力が緩まった。
やっぱり……。
「何か心配事ですか?」
「別に…歩の方こそ調子悪いんじゃない?」
「そうなんですよ。この時期秋草の花粉で鼻詰まりはするし目も痒いし、薬飲んだら頭ボーとするわで最悪です。
あの猫どこ通って来たのか知りませんけど近づくとめっちゃ目痒くて痒くて、早く帰ってくれて安心しました。
これから外に出るのも億劫なんですよ」
「最近ハグしないのって」
「やっぱり好きな人に鼻水垂らした姿を至近距離で見られてくないじゃないですか。
本当は今もめっちゃ抱きしめたいんですよ。
でもこれ以上はくしゃみでそうでやばいんです。
でもこれでもましなんですよ。
毎年十一月がいつも寝込んでしまうくらい酷くてやばいです。
あー体調不良でなかなか会えなくなりますが僕のこと忘れないでくださいね。
乗り越えたらすぐ会いに来ますからね。
いっぱいハグしますから」
「……本気で聞くから本気で答えてね。
歩って男の人が好きなの?」
「うーんわかりません。
碧さんなら男でもいけるなと思ってますけど、他は無理です。
今まで良いなって思うのは女でしたので、僕は恋愛対象は女だと思ってたんですが、あ、良いなくらいで好きだと思ったのは碧さんだけですよ。
初恋もこれから好きなのも碧さんなのは間違いありませんから安心してください。
わからないって答えは碧さんに会ってどっちの碧さんも好きなので男女関係ないってことです。
強いて言うなら性別碧さん?」
そんな性別ないし、どっちもってもしかしてバレてた?
それをしどろもどろしながら聞くと、「えんさんが教えてくれました」と無邪気な感じの声で帰ってきた。
えんさん…。
ん?待って?
自分の悩み全然違ったってこと?
歩はただのというには重症そうだけど、ただの花粉症だったって言うだけ?
あのアニュインな表情は薬で眠かったせいだったのか……?
心配も怖がらなくてもよかったってことだよね。
なんかどっと力が抜けたのと沸々と怒りがわいてきたのと恥ずかしさも出てきた。
自意識過剰な勘違いしたのは自分だけど、こいつも半分ぐらい紛らわしい態度したので悪いと思う。
仕返しと言うかギャフンと言わせたい。
一回どころか二回も三回もしてるのしかわらんだろう。
ハグの力を緩めて歩を真正面から見るとヘラって笑ってる。
この半笑いも花粉症が辛いからか。
なんか苛立ってきたので口にキスしてやった。
「え?碧さん?」
「じゃあね!」
顔も見ずに部屋から追い出して鍵をかけた。




