いえ、こいこい荘のです
美琴視点
後書きは紅稀視点
ことの始まりは、えんさんが持ってきた古い黒電話だった。
えんさんは何故か最近部屋から出てリビングによくくるようになった。
縁さんとはつかず離れずの距離だが、前より格段に仲良くなってると私は勝手に思ってる。
そんなえんさんが困ったように朝、黒電話とともにリビングに入ってきた。
そんな顔されてもこっちも困る。
「なんか回線繋いでないのに勝手に鳴るんだって」
そう説明されたが、そんな呪いのアイテムみたいなの持ってこられても困る。
私達にどうしろと。
むしろえんさん神社の仕事してるのだからお祓いとかできないのだろうか。
「とりま塩いっときます?」
碧君、君そのフォームは岩塩でも投げる気かな?
海にみんなで行ってから何故か碧君の男性陣に対するあたりが強い。
歩君は良い子だったけど、何か嫌なことあったのだろうか。
「どうする?」
「どうするって言われてもどうしようもないですよね」
アリスの問いに困った顔でかりんちゃんが返す。
それはそうなんだけどね。
本職がお祓いできないなら、一般人がどうもできないし。
「あーとりあえずみんなで様子見ながらリビングに寝るのはどう?」
私の提案に碧君がキラキラした顔をした。
嬉しいのかピンクやオレンジ黄色とたくさんの色が飛んでる。
「パジャマパーティーですね!
一回やってみたかったんです。
さすが美琴さん、えじゃあ自分お菓子とジュース買ってきます。
え!七海ちゃんお菓子作ってくれるの!やったー。
じゃあクッキー食べたい!」
「あ、なら私はゼリーがいい」
「それならマドレーヌも作って」
おーいみんな違うよ。
お泊まり会じゃないよ、ホラーの見張りだよ。
って言いたいがそれどころじゃないくらいテンションあがってますね。
かくいう私もテンション上がってる。
まぁーいっか。なんとかなるでしょ。
「碧君、買い物は私してくるよ。
ちょうど今から紅稀さんと出かけるから帰りに買ってくるね」
「それはありがたいのですが、今更の事言って良いですか?」
「ん?いいよ」
「薦めといてなんですが兄が彼氏ってキツくないです?
やめても責任とれなんて言いませんよ」
「うーん今のとこ大丈夫かな。
大学違うし県も違うから自称彼女ともストーカーともあってないし、何より今やめたら余計に紅稀さんの女性不信悪化しそうだしね。
それにもう少ししたらあっちが辞めるっていうと思うよ。
終わりも紅稀さんが決めて良いって言っちゃったし」
私の言葉にあーと残念そうな顔を碧君がした。
不安か嫌悪か灰色と何故か喜びのオレンジも混じってる。
やっぱり私がお兄さんの彼女嫌になったのかな。とちょっと落ち込んでいると碧君から思ってもない言葉が出た。
「それまずいですよ。
美琴さん逃げられなくなってます」
「逃げる?」
「言っとけば良かったですね。
ああ見えて兄は執着酷いんですよ。
滅多に見せないんですが、一回でも気にいると自分のものだと思って意地でも手放しません。
美琴さん、いえお義姉さん頑張ってくださいね」
「お義姉さんってそんなことないと思うよ。もってあと二か月じゃないかな」
「いいえお義姉さん試しに聞いてみたら良いです。
絶対はぐらかして延長してきますから」
その絶対は嫌なんだけど。
碧君のいつにない真剣な顔に怖くなる。
お兄さん私、信じてますよ。妹さんはこう見解してますけど、違うよね。信じてるよ。
しばらくしてインターフォンがなり、紅稀さんがやってきた。
相変わらずの緊張した顔に安心する。
ほら、まだ黒やら灰色やら飛んでるもの大丈夫。
その間を飛んでるピンクと赤黒いなにかはみないことにした。
ん、私見てない。
「暑かったでしょ、一杯お茶でも」
「いやいい、それより早く行こう」
リビングから聞こえる女子のキャッキャした声に怖気付いたらしい。
はいはいと一回リビングに戻り荷物をとって、いってきますといってから出てきた。
誰も出てこないことに紅稀さんはホッとし手を差し出してきた。
日傘を差し、手を重ねる。
私から日傘をとると私の方に傾けてきたので、紅稀さんも日陰になるように手を握り角度を調節する。
夏なのに律儀に私の言うこと守って、すごいなと思う。
こんな律儀な人が妹のいうせこいことするはずない。
そうだと思い直し、一安心する。
「今日いつものカフェに行きます?
それとも別の場所?」
「水族館はどうだ?」
「夏休みで多いですよ。大丈夫?」
一瞬顔をしかめ、迷ってるいるようだ。
まだ無理しない方が良いんじゃないかな。
結局この前の海も私を羽交締めにしてた時間の方が長かったんだし。
手を繋ぎ海には入りはしたが、少ししてすぐ羽交締めにもどった。
うーんうーんと唸ってるので、別の案を出す。
「駅前の犬カフェ行きませんか?」
「そうだな。水族館は夏が終わってからにする」
「そうですね」
それまでもつかな?
って勝手に皮肉ってみたが、頑張り屋の彼のことだ、一緒に行けるだろう。
たわいもない話をしながら手を繋ぎながら二人で犬カフェを目指す。
犬カフェに入るとまばらに客がいるだけで思った以上に空いていた。
夏場はもふもふより涼しげな水族館なのかもしれない。
事前受付をすませ、荷物をおいていざ中へ。
「なかなか寄ってきませんね」
「俺が病院臭いからかもしれない。
だいたいいつもそうだ」
犬が好きなのになんて悲しい人なのだろう。
おやつを買って呼んでみたが、おやつを食べるとすぐどこかへ行った。
賢いと言うべきか、もうちょっと愛想良くしても良いんじゃないと言うべきか。
ちらほら横から悲しみの青がとんでる。
「仕方ないですよ。ここから眺めるのも楽しいですよ」
「そうだな」
青の中に黄色やオレンジが混じってきたのでよしとしよう。
元気に走り回ってるわんちゃん見てたら、さっき言われたことを間違いだと言って欲しくて聞いてみることにした。
「紅稀さん、最近どうですか?周り落ち着きました?
終わりを半年って言ってましたけど、早めても良いんですよ」
隣の人を笑顔で見ると、真顔で犬の方に視線を向けこっちを見ない。
そんなに犬好きなんだね。
と思っていたが、黒?なんで黒が出る?
「……考えたんだが、クリスマス前に別れると自称彼女がまたわいてこないか?」
ん?あれ?思ってた返事と違うぞ?
視線がこっち向かないし、あれ?なんかおかしい。
「それだと、次のバレンタインデーも別れられないのでは?」
「そうだな。四月も何故か変態がわきやすくて困ってる。
それに来年は獣医試験もあるから勉強に集中できるよう困りごとを増やしたくない」
言ってることはわかるよ。
でもだんだん期限伸びてませんか?
「そしたら再来年の三月はどうです?」
「卒業したては危ないだろ。いつも環境が変わる時ストーカーが増えるんだ。
「じゃあその年の夏」
「海で見ただろう少しトイレ行っただけで一夏狙いのやつに絡まれた。夏は危ない」
「じゃあ、じゃあ秋はいいですよね」
「何故か人は秋に物想いに耽るからなそう言う時は変なこと言う女が増えて危ないんだ」
「じゃあ冬でどうです?」
「冬が一番恐ろしい。クリスマス、忘年会なんて危険な行事で溢れてる」
あーちょっと待って。
本当に碧君が言った通りになった。
ピンク飛んでんなーじゃない私。
見て見ぬふりやめとけばよかった。
この赤黒いの執着の色じゃないかな。
なぜ見過ごしてんの、やばい色してんじゃん。
「あの別れる気あります?」
私の問いにやっと紅稀さんはこっちを向いた。
今ほどにっこり笑うこの顔が怖いと思ったことはない。
めっちゃ赤とピンクと赤黒いの飛んでる。
「全然」
「や、約束が違います!」
「何言ってる?
君が終わりは俺が決めて良いと言ったんだ。
半年だって目安であって期限じゃない」
ああ言えばこう言う。
善意の契約の隙をついて良いようにするのはどうかと思う。
これだから頭の良い人は!
紅稀さんは私の左手をとり薬指を撫でてきた。
「この指はもう俺のだ。
そうなると指輪がいるな。
今から見に行くか?」
「いりません」
「良いのか、俺が勝手に選ぶぞ」
なんて脅しだ。
この人のことだ意味もなくデッカい石とかついたの選びそう。
想像しただけでブルブル震える。
そんなのお高いに決まってる、絶対いらん。
「私が選びます。絶対一人で買わないでくださいね」
「ああ、もちろん。その気になってくれて嬉しいよ」
くそーこんな人に仏心を出して助けなければよかった。
犬もこの人のせいで寄ってこないしさんざんだ。
まぁ良いさ、あと数年したら飽きるだろう。
こっちは結婚する予定は初めっからないのだ。
長期戦といこうじゃないか。
それでも腹の虫がおさまらなかったので紅稀さんから離れて犬カフェを堪能したあとスーパーでジュースをいっぱい買い荷物持ちさせた。
帰り際、絶対来ないとわかった上でパジャマパーティーに誘ってみた。
悩んでいたがリビングから聞こえるキャッキャとした声にすぐ逃げ帰って行った。
ざまーみろ。
夜になりみんなで布団をひいて真ん中にお菓子と黒電話を置く。
異様だが、なんだかんだお菓子とジュースで緩和されてる。
「では皆さんお手元にグラスは持ちましたね。
では第一回こいこい荘パジャマパーティー開始しまーす」
碧君の音頭に合わせて乾杯をする。
これ宴会じゃね?と思ったがパーティーも似たようなものと考えることにした。
早速、碧君に苦情を入れる。
「碧君!話が違うんだけど!お兄さん別れてくれないんだけど」
「だから言いましたって執着凄いよって」
「遅いんですけど!」
「まぁまぁ考えてみてください。兄絶対浮気しませんよ。
その上顔いいですよ。
真面目だから仕事ちゃんとしますよ。
家事も好きなので安心ですよ。
あと金持ってます。たぶん株か何かで儲けてますね」
「いやでも」
「お義姉さん大丈夫、上田家優しい。みんな歓迎」
「何故ちょっとカタコト?
もういいよ、お兄さんが飽きるの待つから」
「兄が飽きるより美琴さんが諦める方が早いですね。
このクッキーをかけてもいい」
「怖いこと言わないで!もうこの話はお終い。クッキーもかけません」
君の預言は当たるから嫌なんだ。
これ以上私を追い詰めないでいただきたい。
「私よりもアリスの話聞こう。彼氏と最近どう?」
「この前水族館に行ったよ。綺麗だった」
「そ、そう。あ、じゃあかりんちゃんは?」
「私も水族館に行きました。
聞いてください、打合せもしてないのに入り口でバッタリアリスさんと会ったんです!すごくないですか!
私嬉しくてアリスさんと一緒に周りました!」
「え?先輩と彼氏ほっといて?」
「男の子は男の子との方が面白いかなって」
違うよアリス、違うよかりんちゃん。
彼氏達が可哀想だよ。何が悲しくて彼女の友達の彼氏と周らないといけないの。
想像しただけで涙出てきた。
さすがの碧君も可哀想だったのか口開けて固まってた。
場がシーンとしたところにジリリリと黒電話が鳴った。
みんながビックってなる中、意気揚々と碧君が電話をとる。
もしもしって言ったあとしばらく受話器に耳を当てていたが、その受話器を投げ捨てた。
「ちゃんと日本語話せ!じゃないと叩き割る!」
受話器からヒッと男の声がした。
碧君が気にせずカウントダウンを始めると、受話器からすみませんすみませんと謝る声がした。
怪異に恐れられる碧君何者?
「で?何が目的?」
『あのーわたくしこの度生まれました黒電話の付喪神でして、まだまだ頑張ろうって時に捨てられてしまいました。
このご時世でしょう家庭電話は肩身が狭い上に黒電話誰も使わないのですよ。
じゃあちょっと脅して呪いの電話としてやっていこうかなと思ってたところお宅に来まして、何やら楽しげに話されていたので鳴るのもなーって思ってたんですよ。
でも夜中に皆様を起こすのもなんだかなーと思いなおしまして。
えーえー女性には夜更かしは天敵ですから』
「ええーい長い。簡潔に言うと何?」
『もう一度わたくしめを使って頂けないかと』
みんなで顔を見合わせる。
使うって言っても私たち寮生みたいなものだ。
部屋にあっても使う機会ない。
なんとなくみんな縁さんを見た。
「うちは電話引いてないし」
『そこをなんとか奥様。
今ニュースになってる詐欺電話はわたくしめが対応して撃退しますし、勧誘などの迷惑電話も二度とかかってこないようにします。
誰からかかってきたかわかるようにお名前も言いますから』
それ今の電話でもできるのよ。
パンチにかけると言うかもう一声欲しい。
「ねぇ人ならざるものにかけたりできない?」
碧君はまた何を言い出すんだ。
そんなものかけれてもかけてはいけません。
『繋がっていれば誰にでもいけますよ。
たとえそれが神様でもかけてみせましょう』
「いいね!縁さんいいでしょう、こいつ置きましょうよ。
こいこい荘に電話あれば連絡しやすいですし」
「でもねぇ、旦那様がなんと言うか」
これ黒電話だよね?ペットの話かな?
「えんさんの説得は自分がします。
大丈夫です。自分に借りがありますものあの人」
どこからくるんだその自信。そして何の借り作ったのえんさん。
聞かぬが仏かな。
話題は移り黒電話の名前になった。いよいよペットである。
最終的にダイヤル式黒電話ということでダイヤ君になった。
ダイヤ君はリビングに置かれることになり、時々お喋り相手もしてくれる有能な電話兼ペットとしてこいこい荘で落ち着いた。
一件落着、めでたしめでたしと締めくくっていいのかな。
もういいとしよう。
何故か寒気がしたが気にしないことにした。
妹がどうせいらんこと言ったのだろう。
美琴が終わりの確認をしてきた時は焦ったが、延長の延長して最後は開きなおった。
詐欺師みたいな目で見られたが気にしない。
左手の薬指を貰ったのだ、他は大した犠牲ではない。
でもパジャマパーティーは惜しいことをした。
待て、近場で一泊すれば美琴と二人でパジャマパーティーできるんじゃないか?
そしたら、美琴を一晩中独り占めできるじゃないか。
いいなそれはとてもいい。
この前の海の時は美琴を見る男の視線が鬱陶しかったからな。
俺が抱きしめてるのに、人の彼女ジロジロ見やがって。
まぁ確かに見たくなるほど綺麗な身体だったが、だからと言って見て良いわけないだろう。
滅びろと思ったが、グッと抑えていた。
でも泊まりなら部屋にいれば俺以外に見られない。
妹にから邪魔されることもない。
良いことづくめだ。
まぁ美琴は嫌がるだろうが、言いくるめられるし、頼み込めばすぐ折れる。
なんだかんだで美琴は俺に甘い。
ふふふと黒い笑みが浮かぶ。
夏休みシーズンだから安くはないが、一番良い部屋をとろう。
何てったって美琴と初めてのお泊まりだからな。




