上田碧の場合
碧視点
後書きは歩視点
自分は人とは違うのだと小学校上がる前には自覚していた。
小さい頃から周りは自分のことをチヤホヤし、そこに子どもも大人も関係なく、それは嬉しいことばかりではなく面倒ごともあった。
そういう時は親父殿が助けてくれていたので、自分は経験を積み重ねるに連れ、「ラッキー親父殿に丸投げすれば解決じゃん」という結果にいたるのは仕方ないと思う。
それまで言いつけを守る良い子だったが、丸投げすればオッケー精神ができてからは好き勝手するようになった。
でもそれは長く続かなく、調子に乗った自分以上に調子にのったやつがストーカーになってしまった。
そいつはキモくてしつこく話し合いが話し合いにならないやつで、ここまできては対処が限られ親父殿では難しい様子。
親父殿が殺人をしてしまう前に自分は逃げるように母方の祖父母の家に移りそこからまた遠くの学校に通うことになった。
何故近場ではないのか聞いたところ、今まで接点がない県の学校の方がいいだろうと言われた。
幸いにも頭は悪くない方で、しかも謹慎中みっちりと勉強させられたので学力は足りていてどこでも選び放題。
私服の学校で校則が緩いとこに決め、それまで反抗からか伸ばしていた髪をバッサリ切った。
唯一女っぽいところをなくせば、男の子のできあがり。
久しぶりの姿に鏡を見ながら、ニコリと笑う。
めんどくさがりの自分にしては丁寧に伸ばしていたのにな。
……頭、軽い。
親父殿は女の格好をするから周りに悪いのがつくんだ、これを機に男の格好をしろと言われた。
どっちもどっちだろう。
今回は対応の仕方を間違えただけの話なのに、まるで鬼の頭をとったように言われてはいい気がしない。
親父殿には内緒でおじい様と相談しある計画をたてた。
それには時間がいるので、学校の近場が良かった。
あとは直感がここだー!となったのだ。
断じて食事付きに惹かれたわけじゃない。炊事めんどくさいって思って決めたわけでもない。
いや若干思ったよ。
一人暮らし始めたら全部しなきゃとか地獄だなって。
ご飯作るの一番めんどくさい。
親父殿がまた野菜食べろとか魚食べろとか彩りどうのうるさいなって考えたら自然と寮を探してただけ。
こいこい荘を選んだのはそういう経緯もあったからだ。
最初こそはあっちもこっちもぎこちない距離だったけど今では仲良いし、何と言っても良い人ばかりだ。
時々不思議なことが起きるこの家はなんだかんだで今までで一番住みやすい。
とまぁごちゃごちゃいったけどやっぱり何と言っても一番の決めてはご飯だよね。
帰ると温かいご飯が出てくるのサイコー。
七海ちゃんのご飯美味しいから弟の嫁に狙ってたが、なんだかんだで最近前原といい感じだ。
ちょくちょく行って邪魔してたのに、解せぬ。
「今日、遅かったですが専門学校大変でした?」
「いえ、ナンパされてる子助けたら遅くなりました」
「そう、危ないのでほどほどにですよ。
でもいいことされましたね、その子も嬉しかったと思いますよ」
縁さんがニコッと笑ってお茶を啜る。
嬉しそうにしてたのは事実なのでこくりと頷く。
連絡先交換したことと相手が女装した男の子だったのは黙ってよう。
なんかめんどくさいことになりそうだと直感が言ってる。
アリスさんがこっちを見てたが嘘は言ってないので大丈夫なはず。
「碧君何の専門行ってるんだっけ?」
「美容専門学校の通信です。今流行りのWスクールです」
「流行ってるかは知らないけど偉いよね。
メイクとか好きなの?」
「どっちかというと最初は必要にかられてですかね。
兄さんの髪切ってたらそこからハマった感じです」
みんなのからああという納得とそれに伴う悲壮感も出ている。
ご飯を食べながら先日のことを思い出す。
それは美琴さんと待ち合わせをしていた兄が1時間も間違えて早くきたことから始まった。
美琴さんと自分はちょうど外に出ていたのでリビングに通された兄、休日だったこともあり二人を除いたみんなが勢揃いしていた。
初対面なりに兄も頑張ったし、自分の兄と言うことでなれない男性にみんなも頑張った。
双方頑張りすぎたのがいけなかった。
慣れない会話は質問責めのようになり、兄も頑張ってそれにこたえてた。
それでも場がもたなくなり口々にお礼を言ってケーキをさぁ食べようとなったらしい。
そこに一時間近く頑張った兄に限界が来たらしく、兄の横にいた黒柴のキリさん抱えて部屋を出ていき玄関の隅で泣き出したらしい。
うんわからないでもないよ。
双方慣れないことしようと頑張ったのはわかる。
実際頑張ったと思うよ。
最近の美琴さんとのやりとりで少し自信がついたのも感じてたよ。
苦手な女性に囲まれて兄にしては長時間頑張った方だよ。
美琴さんにべったりしているから女性不信だいぶよくなってきてると思ってて、そのせいか泣かんでもとその時は思ってしまった。
でもあとから考えればそうだよね、三ヶ月くらいで治ったら医者いらんよね。
すまん兄。パニックで泣いてしまった兄さんの方が困惑してたよね。
治ったと思わずあれは美琴さん限定だと考えを改めた。
そんなこと知らないみんなは急に泣き出した兄に遠目で見守りながら困惑してたし、キリさんだって困惑してたと思う。
親父殿だったら殴られていたので黙って抱きしめさせてくれるキリさんで良かったとしか言いようがない。
「ただいまー、え?どうしたんですか?」
と帰ってきた美琴さんと自分もその時はとても困惑した。
誰も彼も困惑してカオスな状況にとりあえず美琴さんが兄を美琴さんの部屋まで連れて行く。
その間、解放されたキリさんが嬉しそうに尻尾振って縁さんのもとに戻って来ていた。
美琴さんの部屋に行くべきか五秒ほど考えてやめた。
めんどくさいから美琴さんに任せよう。
心配するみんなに何があったのか聞いて兄の事情を軽く説明して、今度からはほっといていいとお願いした。
それから兄の名が話に出るとみんな可哀想な顔をするようになったのだ。
身内の恥ずかしい話を思い出し箸が止まったが、唐揚げを見たらまたすすみだした。
ごめん兄さん、唐揚げには勝てない。
あともう一つごめん兄さん、今度会ったら親父殿に怒られるよ。
兄さんも頑張ったのに可哀想だけど仕方ないよ。
歩君と初めて会った日から数日経ったが、思っていたより歩君からのLIMEが来る頻度は多くなかった。
送ってきても「虹見ました」とか「猫可愛い」とかほんと些細なことでこっちが返信しなくても気にしない様子。
返信が欲しいときはわざわざそう送ってくるので一言返すだけなので楽だ。
色々と雑談から探られている気がしないではないが、楽だし今のところ面倒事は起こってないので放置している。
それに申し訳ないがこんな些細なことに構ってられない。
何故なら夏休みが始まるのだ。
来年は受験もあるので今年は何が何でも楽しまないと。
「碧君、えんさんにご飯持って行ってー」
「はーい」
えんさんとは大家の縁さんの旦那さんで近所の神社で働いているらしい。
夕方には帰ってきてるらしいが、数回しか顔みたことがなくご飯もいつも一人で食べてる。
なのでえんさん用の御膳を手の空いてる人が部屋に運ぶのがここの決まりだ。
今日は自分が部屋の前まで持って行く。
中廊下を抜け、明かりがついた部屋の前でとまり障子ごしに声をかける。
「ご飯お持ちしました」
返事はないが中から動く音がしたのでえんさんはいるみたいだ。
このまま立ち去ってもいいのだろうか?
いつもはありがとう置いておいてと声がかかるが今日はない。
いつもと違う対応にそのまま待ってると障子があき、中から兄と同じくらいの背丈で同じ歳くらいの若い男が出てきた。
20代にしか見えないがこの人がえんさんで、アリスさん曰くアリスさんの子どもの時から姿が変わらないとのこと。
ちなみに縁さんも変わらないらしく夫婦そろって年齢不詳である。
「ご飯お持ちしました」
さっきと同じことを言ってさっさっと渡してリビングに帰ろうとしたが、えんさんは受け取ってくれない。
「君は何故ここにきた?」
「ご飯持って「そうじゃない。こいこい荘に来たのは何が目的だ。何を隠している?」
何が目的かと言われても…。
そんな睨まなくてもいいじゃないか。
いつもの間の抜けた喋り方じゃない。
下手に誤魔化したら首が物理的に飛ぶような今まで味わったことがない嫌な緊張がはしる。
「私は妻に危害がなければそれでいいと思ってる。
あれも君が来て楽しそうにしている。
だがあまりおいたをするものではないよ。
目を瞑るのにも限界がある」
「おいたってまだ何もしてないですし、むしろ奥さんの方が漏れ出してますよ」
「ハッ、そこが可愛いのだ。異論は認めない。
で?何が目的だ。事によっては出て行ってもらわないといけないのだが」
惚気?なんとも特殊な惚気かただな。
それはいいとしてもう解放して欲しい。
警戒されるようなことしてないししないから。
めんどくさくなり、おなざりに答える。
「親父殿の心残りを晴らそうと思ってるだけですよ」
「それはそれは親想いだな」
「自分は答えたので今度はこちらから質問です。
どうして一緒に食べないのですか?
縁さんに嫌われてるわけでもあるまいし」
意趣返し少し残りは冗談で言ったのに、えんさんは固まってしまった。
まさかの図星?え?倦怠期?家庭内別居?
なんかごめんね?
申し訳なさそうな顔から何か読み取ったのか慌てて否定される。
「ち、違うよ!嫌われてないしただちょーと避けられてるだけで」
「あ、そうなんですね。じゃこれご飯ですので」
面倒事だっと第六感が言ってるので、お膳をえんさんに押し付けるが受け取ってもらえない。
それどころか逆にお膳ごと腕を掴まれ、部屋に引き摺り込まれた。
力強すぎ。これが自分以外なら絶対叫び声や物音で問題になってた。
いや自分も問題なんだけど、残念ながら自分は叫び声も物音もたててない。
下手に座ってる肝と良すぎる運動神経を今だけ恨む。
「この現場だけみたら縁さんに浮気だと思われても仕方ないですね」
「違う!誰が妻以外と「わかってますよ。でももう少しやり方あったでしょ」
話が長くなるので切る。誰が聞くか。
視線で促されたのでえんさんと離れて正面に向かい合って座る。
で?と冷めた目線で話を促す。
自分は早く七海ちゃん特製肉じゃがを食べたいんだ。
冷めても美味しいけど、みんなでわいわいご飯食べたい。
「私は嫌われているのかな?」
知らないよ。そう思うならそうなんじゃない。
って言ってしまいたい。でも一応家主なので我慢した。
「嫌われる原因に心当たりは?
例えば、浮気」
「妻一筋だ」
「酒、タバコ」
「妻の前ではやらない」
「賭け事」
「好まない」
「あとは嫁姑問題とか?」
「絶縁している」
「…男だから?」
ウッと心臓らへんをおさえて黙り込んだ。
もう仕方ないじゃないか。
かの有名な国で性別変えてきたらいい。
ふとそれにしてもよく結婚できたなと疑問に思ったが、気になるからと聞いたら長くなりそうなのでやめる。
そろそろおいとましようと立ち上がりかけたところ、
「待って、まだ解決してない」
「えーもう無理ですって」
「追い出すよ」
それは脅迫じゃないですか?
諦めのため息をつき、再度座る。
「じゃあまず一緒にご飯食べてみたらどうですか?」
「投げやりになるな」
投げやりにもなるだろ。
なんで自分なんだ。めんどくさい。ただの高校生が拗れた夫婦仲なんてどうなおせと?
「最初から二人きりよりみんなと一緒の方が気が緩みますし、何より夕飯という共通の話題があるんです。
一言二言会話できるし、他の人もいるので沈黙で気まずいのはなくなると思うんですよ。
そこから徐々に時間伸ばすとか会話するとかえんさんが頑張ればいいじゃないですか。
ようはきっかけですよ、きっかけ。
子は鎹と言うように、自分たちのこと話題にして会話繋げてもいいんじゃないですか?
えんさん家主だし、なんだかんだで助けてもらってますし」
「な、なるほど」
「そうです、どうしても縁さんの視線に耐えられなくなったら犬のキリさんになればいいんですよ」
「何故それを!」
あ、喋りすぎた。
今更目を逸らそうとしたが圧が今までの比じゃないほど強い。
どうする、どうする?
叫ぶ?叫んじゃう?
いや流石に大事になって今以上に面倒事になるのでやめた。
「な、なんとなく?」
「いつから気づいてた?」
「あーキリさんとえんさんの雰囲気が一緒だなーって。
あ!縁さんにも内緒ですか?」
「妻は知ってる。
雰囲気が一緒などという曖昧な考えでバレるとは」
そんな落ち込まんでください。
自分悪くないんで。
それはそうとやっぱりキリさんと縁さん同一人物?犬?だったか。
犬になるのはいつもの不思議なことで片付けていい。
けど、犬の時の態度がなー。
この人犬の時めっちゃ縁さんにベタベタしてた。
犬なら可愛いかもだけど成人男性だと思うとうわーってなる。
ここぞとばかりに膝乗ってご満悦だったのを思い出し目線の冷ややかさが−5℃下がった。
もうさ、犬でいいんじゃね。
女になるより速いし安全だしいいんじゃね。
「君、失礼なこと考えてるね」
「ははは、じゃあ明日から頑張ってください」
笑って誤魔化しえんさんの部屋から出る。
えんさんが頑張って一緒にご飯食べるようになったら、もう持って行かなくていいのか。
一つ面倒事が減りそうな気配に少し笑みが漏れた。
あー今日はどうしようか。
昨日は猫でその前は犬、その前は花だったしな。
今日は服のアドバイス貰うって言うのもありだな。
「何やってんだ武藤?」
「んーLIME」
「あーあのイケメンと?
返信ないのによく続くよな」
「基本塩対応だしめんどくさがりだけど結構お節介焼きだよあの人。
そういうの一つづつ知っていくのが面白いじゃん」
「なんかもう恋だなそれ」
須藤の言葉に周りが凍りつく。
否定すべきかマジなやつで茶化したらダメなのか様子を見ているのだろう。
僕の方に視線がささる。
「そうかもな。僕も初めての感情だ」
そう言うとみんな息を吐き、ポーカーの続きが始まった。
スルーすることにしたらしい。
君子危うきに近寄らずってか?
どこが君子だか。
まぁいい。
それよりも碧さんとのLIMEだ。
計画としてはまずは些細なことでも毎日送り、僕のことを印象づける。
人間毎日してたことをしなくなったら気になるからな。
目標は歯磨きと同じくらい定着させる。
あとは色んな内容を送り、碧さんの好き嫌いを知る。
定期的にアドバイスも貰い、ほっとけない弟子の演出もしないと。
基本碧さんめんどくさがりだから返信を求める内容を頻繁に送らない方がいい。
これは絶対だ。
でも返事をくださいと言うと律儀に返してくれるので、兄属性もあるようだ。
ふふふ、碧さん。
僕とLIME交換したのが運のつきでしたね。
絶対、あなたと深い仲になってやりますよ。
女だろうと男だろうと蹴散らして、僕だけの碧さんになってもらいますから。
待っててくださいね。
「ふふふ、わあーははは」
「武藤が魔王みたいな笑い方してる」
「しっ!見るんじゃありません」
「イケメン可哀想、あいつしつこいからな」
「くわばらくわばら」
「何かな君たち?」
「「「なんでもありません」」」
ふふふ、待っててくださいね碧さん




