第3話『天候術師と狐の嫁入り』
「領地を増やして行きましょう。勢力を拡大させて各国にクウの実力を認めさせてみせるわ」
魔術に魅入られた少女、テラスとの旅を始めた訳何だけど、この様にして旅の目的が出来ました。
死に場所を求めていたんですけどね、テラスの真っ直ぐな瞳と、透き通る心に僕はやられてしまったんだ。
何も持たない生きながらの亡霊は、彼女との出会いで救われたのです。
この頃から僕は、魔術師ではないと自分を蔑んでいましたが、そういった感情も持たなくなった。
彼女が僕を認めてくれている。誰かや、その他大勢に、認められたい訳じゃなかったけど、信頼してくれているのなら僕はそれに応えよう。
──天候術師クウ・スコライズ。
テラスに認められた、最高の魔術師だと今は名乗っています。
「領地を増やすとは言ったけれど、具体的にはどうするのさ。雨の止まない村の時は、たまたま領地主になったけれど、そんなに上手く事が運ぶのかな」
「そんなの簡単じゃない。クウの実力を認めさせればいいだけなんだから。魔術師が誰も成し得なかった、天候を操る魔術。その魔術を使って、私みたいな人をクウが救いなさい」
テラスがそれを望むのなら、僕もその道を共に歩もう。
どうせ目的も無かった旅なのだから、今の僕には丁度良いとも思います。
本当に天候術が世間で認められる日が来るのなら、僕は恩人の国王が建国し、護ってきた国を取り返したい。
勇者様の事とは別に置いといて、国王を失脚させた暴君の第二王子を僕は許せないのです。
僕なら取り返せるでしょうか。
いや、今は二人ですね。
テラスの僕となら、きっと何だって出来てしまいそうな気がしたのです。
「着いたわよ、クウ。ここが妖狐の里よ」
何処に行くとかも決めていなかったけど、辿り着いた先は獣人の住む村だった。
特に気候的には問題も無さそうな場所だし、一泊ぐらいして、再出発するのだろうと思っていました。
ですけど、僕達の侵入に勘づいた者が、僕とテラスの前に現れて歓迎ムードで出迎えてくれたのです。
「もしや、あなた方は魔術師ですか。申し遅れました、わたしは妖狐族村長のキュウビと申します。ご観光でしょうか、でしたらウチの屋敷で寛いでは如何でしょう」
「見てクウ……ケモ耳可愛い!是非、よろしくお願いします。狐の獣人に観光案内されるなんて初めてよ。運が良かったわね」
確かにケモ耳は可愛いけれどそんなのは放って置いて、あのキュウビ、何かがおかしい。
同族を見る目が違ったんだ。冷ややかで、冷酷な目を他の狐に向けている様は、僕としてもあまり良い気にはなれないんです。
当のテラスは、全く勘付いていなかったんですけどね。
この里には、何かある。
その確信が、僕にはありました。
「どうぞ、こちらで寛いで下さい。後で食事も運びます。せっかくですので、私共も同席してもよろしいですかな? 魔術師の方と巡り会えることは、とても光栄な事なのですよ」
「ご一緒しても大丈夫よ。クウも構わないわね?」
「勿論、こんなに良くして貰ってばかりでは申し訳ない。テラスが良いなら喜んで。是非、同席して下さい」
淡々と時間が過ぎていき、妖狐族との会食が始まった。
他愛もない会話をしているだけだし、何の面白みもないけれど、これも旅の洗礼なのでしょう。
一人旅なら気が狂ってしまいそうだ。テラスはというと、妖狐族の歴史なんかを目をキラキラとさせて興味深々です。
話しに着いていけない僕は、横で相槌だけを打ちながら、時間が過ぎるのを待っているのでした。
「ところで、御両人。何故、旅をしているのですか?目的があるのでしょうか」
「私達はクウを最強の魔術師だと認めさせる為、それを広める為に旅をしているのよ。此処へは、たまたま寄ったって感じかな」
「彼が最強の魔術師……ですか?」
自慢げに、人前で言われてしまうと恥ずかしいよ。
見た目が子供だってのもあるし、村長さんに不審がられてしまうよテラスさん。
案の定、僕が強そうに見えないと、キュウビは頭を捻る。
そういう態度は慣れているから大丈夫だけど、自爆するのは訳が違う。最強を目指してますぐらいで、なぁなぁに終わらせておこう。
「御客人には失礼ですが、とてもそのようには見受けられません。わたしにも魔術の心得はありますからね。ですが……彼はまだ若い。きっと素晴らしい魔術師になられますよ」
テラスは、言い返されたのが不服だったみたいだけど、フォローしてくれて、ありがとうございますキュウビさん。
話しも丸く収まり、そろそろ終いかと思われた会話で、最後にキュウビが大事な話しがあると僕達を引き止める。
急に真剣な顔で話すものだから、キュウビの話しに見入ってしまったのです。
「実は明日の朝には、この里を出発して欲しいのです。妖狐族の大切な儀式が入っているのですよ。万が一、人族にその儀式を見られてしまったら、わたし共は御客人であろうとも、式たりにより始末しなければいけません」
「見たい気持ちはあるけど、妖狐族には妖狐族の事情があるのよね。分かったわ、私達は明日の早朝にこの里を出て行くわ」
「ご協力……感謝いたします。今夜はごゆっくりとお過ごし下さい」
キツイ忠告を受けた僕達は、会食も終えて、就寝の時間になっていた。僕は眠くて堪らないんだけど、テラスは興奮覚めやらぬってところだ。
変なことを言い出さなきゃ良いのだけど、そんなに甘くはないですよね。テラスは、期待を裏切らない。
キラキラとした熱い眼差しを僕に向けて、何か言いたげだ。
分かっていましたよ。
どうぜ、行くのでしょう?
一緒に行かないと拗ねちゃうんだから、一人にはしてられないのです。
テラスの押しに負けた僕は、共に妖狐族の村を嫌々ながらも散歩する事にしました。早く眠りたい、その一心でね。
「もしや……あなたは宮廷魔術師様ですか!?」
「いえ……宮廷に所属してはいないのですが一応……。魔術師ですよ」
「助けを乞いたいのです。魔術師様、ウチの娘……イナリをお助け下さい。明日、儀式により村長が奴隷として娘を連れ去ってしまうのです!」
夜道を散歩途中、身なりの貧しそうな妖狐の住人に呼び止められた訳なんですが、テラスと僕はその話しを聞いて恐怖を抱いたのです。
どこかおかしいと思ったのは、このことだったのか。
──村長の村人を見下す眼。
──そして、儀式には立ち入るな。
これだけあれば、妖狐族の村人の発言が信用出来るものとなるだろう。
「明日は晴れ間の雨が降るのです。それがどうにか出来れば……何とかなるやもしれません。どうか、オークとの婚約破棄を企ててはくれませんか。これでは、娘のイズナが不憫過ぎる!」
「まさか、あの村長そんなクソみたいなことをしていたのね。とんだ化け狐だわ。クウ、出来るわよね。こんなイカれた儀式、ブチ壊しなさい!」
「お安い御用ですよテラス。僕は天候術師だからね」
好きでもないオークと婚約させるのは建前で、その実は、妖狐の娘を奴隷として人身売買していたなんて、許せる筈もありません。
同族を捨て駒のような扱いをするだなんて、あの村長は一体何を考えているのでしょう。
村長のキュウビは、僕達を上手く出し抜いたと思い込んでいる筈だ。だったら、そんなくだらない儀式、滅茶苦茶にしてしまおう。
──妖狐族が不当な扱いをされて涙を流さないように、僕は全身全霊で天候術を行使する。
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