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第2話『天候術師と生贄少女』


 「もう一週間も経つのに、この地域の雨は凄いなぁ」


 全てを失った僕は、旅をしながら各地を彷徨っていた。することも目的もない。ただ、惰性で動いているような亡霊です。


 どうやら、雨が止まない村とやらに来てしまっていて、僕もいい加減、野宿ではなくしっかりとした宿に泊まりたくなっていた。


 何処か良い場所はないんですかね。服が濡れちゃって、体が冷えて寒いんですよ。まぁ、暖かい場所を探そうにも、ひとっ子一人歩いちゃいないのが現実。


 その現実と向き合いたくなかったので、暫く宿探しに夢中になっていたのですが、僕は妙な小さい神殿を発見したのです。


 「んー……宿代もバカにならないし、今日はここへ泊まるか。お化けとか出ないといいけど……」


 そうは言っても、怖がっているのも馬鹿らしい。食料だって残り僅かだし、早く安息の地が欲しいのも事実。


 ──死ぬ訳にはいかないんだ。


 ──死んでたまるか。


 ──目的が無い旅だってのも分かってる。


 生きている実感なんてのも皆無です。


 だからこそ、ただ僕は全てを失った自分の為に前へ進むしかないのだから。


 「おっ、邪魔しまーす」


 神殿に入ると、意外と明るくて拍子抜けしちゃいました。僕のビビっていた時間を返して欲しい。


 風も吹き込まないので暖かいし、居心地的には最高だったのですが、最深部がどうも気になってしまって、僕は好奇心に任せて歩き進める。


 すると、何かの儀式をする準備をしていたのでしょうか。


 不気味な魔法陣の上で、目隠しをされた少女が横たわっている事に気づき、居ても立っても居られないかったんだ。


 「大丈夫ですか!?これは一体何をしてるんです?」

 

 「んっ……。なんだ、村の人じゃなかったのね。迎えが来たのかと思っちゃった」


 「迎えって、状況が分かりませんけどこんな所に居ちゃいけない。直ぐにここから出ましょう。衰弱が激しいです」


 「ダメよ……儀式の日まで私は外に出れないの」


 「儀式……ですか?」


 お粗末な魔法陣を敷いていたのは確認していたのだけど、これが儀式ってのは納得がいかない。こんな物の魔法陣が起動する何て、あり得ないと僕は分かっていたから。


 魔術が使えないからこそ、僕は魔術って奴を人一倍勉強はしてきている。この魔法陣は、儀式に使う物では勿論ない。


 ──だってこれは、罪人を焼き尽くす為の魔法陣なのだから。


 「嘘……ですよね。これは人殺しの魔法陣だ。何か罪でも背負ってるのですか?」


 「……罪?ある訳ないじゃない。私はこれから村の為に殺される生贄なのだから」


 「──人身御供って奴ですか!?」


 古よりある儀式の一つであり、その行為は禁忌にあたる。


 人身御供ひとみごくうとは、人間を神への生贄とすること。謂わば、人柱だ。何でこんな可憐な少女が、こんな重たい十字架を背負う必要があるのか、僕にはサッパリ分からない。


 「なぜ貴女がこんなことを!?そんなくだらないことで死ぬ必要ないじゃないですか!」


 「私だって……死にたくない!私にはやりたいことが……」


 ──悲痛な叫びだった。


 ──絶望し、死にたいけど、死に切れない。


 僕もつい最近、そんな感情を抱いていたっけ。


 それは、僕も味わっているから勿論知っている。そんな全てを失った人間の悲しみがこもった魂の叫び声だったのです。


 「生贄は、生娘でなければいけないらしいのよ。その理由だって馬鹿げている。雨が止まないのは、神がお怒りになってるからだとか抜かす馬鹿が騒いでいるし、生娘が最適だなんてホラを信じている輩が大勢いるんだ」


 「確かに古臭いやり方だ。もしや、この村に娘って……」


 「そうよ、察しが良いじゃない。この村はあまり人口が居ないからね。娘とやらは私一人よ。だからっておかしいじゃない!どうして私が選ばれなくっちゃいけないのよ!何で私が死ななくちゃいけないの」


 目隠し越しに流れる涙を僕は決して忘れない。


 忘れてなるものか。


 こんな少女を意味や結果が変わるはずもない生贄で、雨など止む訳がない。僕も死にたくないように、彼女も僕はこのまま死なせる訳にはいかないと心の底から思うんだ。


 そんな彼女に僕は、一体何をしてあげれるだろう。


 そんなの決まってますよね。


 僕がこの死の運命を切り開けば、全てが解決するんだから。


 「死ぬ必要なんか絶対にない。だって僕がその結末を変えてみせるからね」


 「あなた……何を!?」


 「うん、やっぱり可愛いじゃないか。そんな女の子が生贄になるのはやっぱり間違っているよ」


 いい加減に目隠しを解いてあげたのだけど、あまりに美人過ぎて驚いた。ちょっと照れ臭かったけど、僕はこれで良いと信じることにしておこう。


 僕が彼女を助けよう。


 それが出来たなら、僕の目的がない旅に多少なりとも変化があると思いたいんだ。


 「僕は、クウ・スコライズ。君の死の運命とやらを僕がどうにかするよ。そうしたら、君の心は晴れるのかい?」


 「あ、あなた!?その制服は、宮廷魔術師だったの?」


 「いや……僕は宮廷を追放された、ただの魔法が使えない落ちこぼれだよ」


 「まぁいいや。お互い事情はあるんだし。信じていいの?」


 「大丈夫、僕に任せて欲しい。僕は絶対に誰も死なせない」


 自信は、勿論あるよ。


 あるんだけど、この結末を僕はどうケリつければいいんだろう。人身御供になんか得体の知れない物に頼る村人なんか、正直言ってどうだっていい。


 だけど、彼女はそんなことされて嬉しいだろうか。僕が本当にしなきゃいけないこと。それは、彼女を笑顔にしなければいけないことだ。


 誰もが幸せにある結末を僕は選びたい。


 「私、テラス。テラス・ユーノよ。クウを信じるわ。こんな私を助けて下さい……」


 凛々しくも頭を丁寧に下げる少女テラスに、もしかしたら僕は、何かしらの運命を感じていたのかも知れない。


 ──その運命がどう転ぶかは、僕の行動次第で激変するだろう。


♦︎♦︎♦︎♦︎


 「これより儀式を執り行う。皆の者……覚悟はよいな?」


 村長らしき人物達が神殿に集まりだして、テラスを生贄にする為に身を乗り出していた。


 僕は影の隅で待機していたけれど、こんな頭のおかしい、意味のない儀式なんてブチ壊すつもりだ。手筈は、テラスに伝えていたけど不安を隠しきれない様子です。


 必ず助けるから、信じて待っていて欲しい。


 「これでこの村の雨は止むんだよな。尊い犠牲だが仕方がない。俺達の為に村の為に、死んでくれ!」


 「いいや、あの女のせいだ!あの小娘が神を怒らせたんだ!死んで償え!」


 神様だとか、テラスのせいにして、本当にふざけているし呆れるよ。そんなものいないし、テラスはそんな娘ではないってのにさ。

 

 僕も我慢の限界です。


 誰かのせいにして、嵌めたり、裏切ったり、そんなのはもう僕だけで充分なんだ。誰かを悲しませていい理由になんて、絶対にならないんだよ!


 「無駄な儀式なんて辞めちゃいな。それでは、君らはただの人殺しになってしまうよ」


 「──だ、誰だ貴様!得体の知れんガキがおるぞ」


 「いや、待ってくれ。あの制服……宮廷魔術師の者だ!」


 やっぱり、この服を着るのは辞めておこうかな。勘違いされてしまうし、訂正するのも面倒くさい。


 だけれども、この恩人に貰った大事な制服はどうしでも手放せないんです。これだけが、僕に残された最後の誇りなのです。


 「ちょっと!手筈が違うじゃない……どうして出てきたのよ!」


 「ごめんテラス。ちょっとムカついちゃってね」


 「クソガキ何企んでやがる!宮廷魔術師だからって偉そうにしやがって!どんなに優れた魔術師だって自然には敵いやしないんだ。儀式の邪魔だ、出ていけ!」


 「魔術師がどうとか、どうだっていいじゃないですか。ありもしない戯言で、テラスを生贄にしようとしていることが愚かな行為だとは思わないのですか?」


 「じゃあ何か?お前さんならこの異常気象をどうにか出来るってのかい?見たところ、新米の魔術が使えるのかも怪しい、チビガキじゃないか。出来もしないのに出しゃばるな!」


 「僕がこの空を晴らせば良いのでしょ?容易いことですよ」


 「──何じゃと!?」


 感情を荒げてしまってテラスには、不安にさせたかも知れないけど、後で謝りますから許して下さいとしか言えません。


 だけど、結果としてこれで良かったんだと思います。村人達は、僕の自信あり気な発言と態度に困惑していたからだ。


 確かに魔術では、天候を操作することなど不可能だろう。これは、僕にしか出来ないのだから。死んで欲しくない彼女、テラスの為に僕はこの術を行使する。


 「だから、僕がこの雨を晴らすことが出来たなら、この儀式を取り止めて頂きたい。そして、人身御供なんて馬鹿げた儀式を二度としないで欲しいのです」


 「そこまで言うならやってみよ。数々の魔術師が挑んで失敗しておるのだぞ。大口叩いて出来ませんでした、何て言ってみろ。次いでにお前も、神への供物として差し出すぞ?」


 「交渉が楽で助かります。でしたら外へ出て下さい。長期に渡るこの雨の結末を皆さんに見届けて欲しいから」

 

 僕の感情が昂ったせいで、軽いハプニングが起こってしまったけど、流れとしては完璧だ。しっかりと、打ち合わせ通りに事が進んでいる。


 進んではいるのだけど、やっぱりテラスは半信半疑って感じで僕にもう一度確認を取り始めた。やるからには命を賭けろと、村長に言われてしまったからね。


 そのこともテラスにとっては、不安材料だったのでしょう。


 僕も命を賭ける羽目になるなんて思わなかったんだよ。


 だからこそ、僕の感情がより強固な物へと変えているのだと思うのです。やると決めたんだ、ビシッと決めなきゃね。


 「クウ、本当に出来るのね?今ならまだ引き返せるわよ。私なんて見捨ててもらっても構わないんだから」


 「引き下がる訳ないですよ。だから、テラスは生きることを諦めないで下さいね。知ってましたか?止まない雨は……無いんですよ?」


 「命賭けてるってのに、冗談言えるぐらい冷静なのね……。分かったわ。最後までクウを信じるし、私は生きることを諦めないって誓ってあげる」


 最後の確認を終えると、村人のヤジや罵声が凄まじくなっていた。さっさと終わらせないといけないね。早くしろだの、帰れだの、散々な言われ様で心が痛い。


 ──高らかに宣言しよう。


 ──村人達が納得するように。


 ──テラスの心を晴らす為に。


 集中力は頂点に達していて、いつでも詠唱出来る準備が整いつつある。僕が出来うる全ての力をこの曇天にブチかましてやるさ。


 「いつまで待たせるつもりだ。早よぅ、せんか!」


 「待たせてすみません。これから始めます」


 ──スゥー……。


 大きく息を吸って、僕は詠唱を始めた。


 人の不安も不運も後悔も、その全てを知っている僕だからこそ、僕の様な目にあわせたくはないのだ。


 だから僕は晴らすよ。


 全てを快晴へ。


 「僕が求める全ての空よ。曇天を討ち滅ぼし、蒼天へと染め上げろ!」


 ────天候術式・蒼天。


 「そ、空が!?日差しが差し込んでくるぞ!!」


 ポツリポツリと僕の体に雫は垂れるけれど、雨が止みだして、最後には今まで雨など降っていなかった様に感じる程の雲一つない、蒼天が一面に広がっている。


 服がびしょ濡れになって、気持ち悪いはずなんですけどね。


 だけどこの時だけは、冷たさを全く感じなかった。


 それどころか、この忌々しい雨水がとても気持ちよく、清々しく思うのです。


 やってやりましたと、笑顔で村人達に顔を向けるが皆が皆、唖然として、この信じられない現実をただ黙って見ているだけでした。


 「奇跡じゃ……。どの魔術師にだってこんなことは出来なかった。厄災雨を討ち払った魔術師が目の前におるだなんて……。神の子、この者はこの村の救世主じゃ!」


 「そりゃ、どうも。雨のち快晴、今宵の月はきっと綺麗ですよ」


 手のひら返しは鼻に付くけど、これで皆が幸せになれるのであれば、それだけで充分ではないかと思います。救世主と崇められたって別にいい。


 誰かを殺すことで後悔をして欲しくないし、そんなくだらない事で、テラスが死ぬなんてのも目覚めも悪いからね。その抑止力になれたのなら僕は本望です。


 雨が上がって喜びを隠せなかったのか、テラスが興奮しきっていていて、僕に熱い抱擁をしてくれて来ました。舞い上がり過ぎですよ、てか僕潰れちゃうんですが!


 「信じて……良かった。クウありがとう!私……何にも返してあげられないよ。ズルいじゃない、こんな気持ちにさせるだなんて」


 「ちょっと、泣かないでよテラス。てか僕の服で鼻をかまないでくれ!気持ちだけで充分だから!」


 「だってこのままやりたいことも出来ずに死ぬんだって思ったからぁ〜」


 「出来るよ。僕は生きながらの亡霊だけどテラスは生きているのだからね。最後に聞くけども……テラスの心はしっかり晴れたかい?」


 「勿論……快晴よ。クウ……ありがとう」


♦︎♦︎♦︎♦︎


 村長や村人達の強い進めにより、僕は雨の止まない村レイン・フォースの領地主に奉られてしまいました。


 地主にされたって何する訳でもないんだけど、まぁないよりマシかって感じ渋々了承する事となる。


 どうせ、また行く宛も目的もない旅に戻るだけだから、留守がほとんどだろうけど、いつでも帰れる場所ってのがあると、気持ちも楽かもしれない。


 とりあえずは、事なき事を終えたので僕はまた亡霊のように彷徨いながら旅をする為に身支度をして、暫しの別れだとレイン・フォースを後にした。


 「──待って!!」


 「──!? テラスか……どうしたの?」


 「まだクウに私のやりたいことを言っていない!」


 「あー、そういえばそうだったね。テラスは何か夢があるのかい?」


 小さな神殿内でやりたい事があると、確かに聞きそびれていたけれど、それを僕に伝えてどうしようって言うのだろう。


 僕は、もう立ち去るっていうのにね。だけど、聞いてみたくもあるのです。ここまでして、やり遂げたい夢ってやつをテラスの口から聞いてみたい。


 ──それを聞けたら僕はきっと、テラスのことを助けた僕を誇りに思えるし、僕の失った何かを取り戻せそうな気がしたんだ。


 「私、魔術師に幼い頃からずっと憧れてた。いつか、最っ高の魔術師と旅をして世界中を駆けてみたい。それが私の夢。私見つけちゃったよ。最っ高の魔術師クウ・スコライズをね!」


 「──!?いや、僕は魔術師じゃないよ!例えそうだとしても誰も世間がそれを認めないさ」


 「だったら私を旅に連れて行って。私が世界の人に信じさせてあげるから。天候術は、人を幸せにする魔術。世界にただ一人のクウ・スコライズが最高の魔術師だってね!」


 「テラスの夢はスケールが大き過ぎて僕には敵わないなぁ。じゃあ……分かったよ。僕もテラスを信じてみるさ。一緒に行こう、僕のありったけの魔術をテラスに魅せるから」


 ──天候術がまだ魔術と認められていない時代。


 魔術師に魅入られた人身御供の少女と、追放され恋人も名誉、その全てを失った、生きながらの亡霊である僕の、失った物を取り戻す、そんな旅路の序章となった。


お読みいただき、ありがとうございました!


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