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70話 さよならと、お土産話 1




初孫ジェシー(男子)も半年を過ぎ、伝い歩きを始めた。

寝ていただけの時期は過ぎて、これからは日に日に運動量が増えていくだろう。孫の成長は楽しみ半分、心配半分。

まぁジェイがいるから大丈夫か。私はすっかりおばあちゃん体力だからね!


おばあちゃんという事で、後どのくらいこの国に貢献できるかわからないけど、始めるなら早い方がいい。

という事で、ジェイや、こういう時のカメッリア領に相談しながら学校の計画を進める。


カメッリア領の窓口、プルヌスのご領主は世代交代して、ラヴィーニア様とフラヴィオさんのお子さんになっている。

ラヴィーニア様の頃から良好な関係は継続中で、こういう新規事業の時には話を通しておいた方が国に対しても円滑に進む。規制されないというか、許可が早く降りるというか。

まぁちょっとズルなような気もしないでもないけど、世のため人のためだ。大目に見てもらおう。


場所は家から通えるところにしないとならない。

なんせこれから私はどんどん歳をとっていくからね。先々の事も考えながら計画する。


寄宿舎みたいなものもいいな〜なんて思ったけど、入学者は貧しい家の子を予定しているから、家から出ちゃうと働き手がいなくなってしまう。通いで、午前と午後の二部制にしよう。そうすれば半日は働けるからね。

在学中は生活までみてあげてもいいんだけど、やっぱりそこまでするのはやりすぎだもんね。施しを与えるんじゃないんだから。


調理と食育はもちろんだけど、文字や簡単な計算も教えたい。

レシピを読むのにも計量するのにも必要だし、生きていくのにもあったらいい知識だ。


そうすると座学する教室と、調理実習室がいるね……。

私一人で教えるから、いっぺんにそんなに多くは教えられない。だから二室あれば足りるだろう。それから私の校長室?とか、生徒の更衣室とか。


後は何がいるかな〜……。

自分が生徒だったのは、もう二十年以上前だから記憶も定かじゃないよ!

調理したものを試食する食堂もほしいなぁ。せっかくならお洒落なカフェっぽいのがいい♪

色々妄想する。計画するって楽しいわぁ!


学校はすでにある建物をリフォームするのじゃなくて、新たに建設する事にした。

コスト的にそっちの方が安く上がりそうだし、最初から設備もしっかり揃えられるし、大工さん?建設業の人の仕事にもなるもんね。

ここでもちっちゃいけど、経済的に貢献したい。


そんな風に学校の計画は進んで行って、半年もして初孫も一歳を迎える頃


ジェイが体調を崩した。




こっちの世界に来た当初、ジェイから聞いたこの国の平均余命は四十歳くらいという事だった。

王都ではもう少し上で四十代半ばくらいみたいだけど。辺境の村のように魔獣や野獣の被害はないし、栄養状態もかなりいいからね。

でも平均余命が八十歳オーバーの日本と比べると半分だ。

思い返すと、五十歳を超えていたアイザックさんはご長寿だったんだな。


ジェイは四十歳を過ぎたくらいだからまだ大丈夫と思っていた。

だけどそういえば……

孫をみるという理由はあったにしても、すんなり冒険者を引退したのだって、今にして思えばジェイらしくなかった。

私に心配をかけないように元気に振舞っていたのかもしれない。


すぐにジェニファーに来てもらった。

ジェイを診察?したジェニファーは哀しい顔をして言った。


「ユア、ごめんなさい。私は寿命の延命はできないの」


ガツンと、頭を殴られたような衝撃があった。



ジェイ……

死んじゃうの……?



物凄いショックで、どうしていいかわからない。

物凄く哀しくて辛いけど、私のために気丈にしているジェイの前で私が泣けないよ!

出会ってからずっと私を愛してくれたジェイに、私も最後まで元気に尽くそうと決めた。

心配させながら旅立たせられない。



私が、寝込みがちになったジェイに付き添うようになったので、孫の世話はアダムがしてくれた。

アダムも四十歳をこえて、この機会にと冒険者を引退したのだ。


アダムは三十歳になる前にやっとAランクになった苦労人だ。

せっかくAランクになったのに、そうしないうちに新人の教育係りになったと聞いた。

穏やかな性格と、丁寧にものを教えられるアダムにはピッタリだなと思ったのを憶えている。



ジェイはだんだん起きている時間が少なくなってきた。

アイザックさんを思い出す。

私は身近な人の死はアイザックさんしか知らない。

リアンさんはお孫さんの家にいってしまったから、亡くなる前にお見舞いには行ったけど直接死は見ていない。

ご葬儀には行ったけど、穏やかなお顔を見てさよならをした。


だんだん弱っていくジェイを見ているのは辛い。

泣かないように気持ちを強く持つ。



「こんな風に一日中ユアといられるのはずいぶん久しぶりだね」


ジェイがベッドの中から嬉しそうに言う。

久しぶり? 私は記憶をたどる。

一日中一緒にいた事なんて…… あぁ!


「出会った頃の、プリュネまでの旅だね! 懐かしい事を言うね」


私たちは微笑みあう。

色んな事があったな〜。ほんと懐かしい。

私があの頃を思い返して、失敗なんかもあったなぁ…… なんて苦笑いしながらジェイを見ると、ジェイはもう眠っていた。


ジェイは、ユラユラと色んな思い出を夢に見ながら、浅い眠りを繰り返しているようだった。

ジェニファーのおかげで苦痛はない。

ありがとう。心から感謝する。



ジェイが体調を崩して二ヶ月、寝込み始めて二ヶ月。

この四ヶ月は、ジェイががんばって私にくれた、覚悟する時間だった。


四ヶ月なんて早いよ! 全然覚悟なんてできないよ!

ただただ、心の中で動揺している私に、ジェニファーが静かに言った。


「神様が決めた時間を、ジェイはユアのために必死にあがいてるよ。そろそろ見送ってあげなくちゃ……」


二度目のガツンだ。


私…… ジェイにムリさせちゃってたんだ。

こんな状態のジェイに。

ジェイはもうほとんどを眠っていて。

息をしているだけで。

だけど私のために、その息を止めないでいてくれてたんだ。


「ジェイ…… ありがと……」


でも『もういいよ』が言えない。

何度も口を開くけど、震える唇は声を出せなくて、けっきょく閉じてしまう。


「お母さん……」


いつの間にか家族が全員揃っていた。

ジェニファーが呼んでくれたのかな。


家族が揃ったのがわかったのかのように、ジェイが薄く目を開けた。


「ジェイ!」

「ユア……。ユアと出会えてよかった。ただ生きて死んでいくだけじゃなくて、生き甲斐があって、幸せだと思える人生がどれほど素晴らしかったか、言葉で伝えきれないほどユアには感謝しているよ」


そう言うジェイの声は小さかったけど、ずっと眠っていたとは思えないほど口調はしっかりしていた。


私は、うんうんと首を振る。

私もジェイのおかげで幸せで素晴らしい人生だったよ!

私の思いは伝わったようで、ジェイは微笑んだ。


「ユアごめん。俺は先にいくけど、ユアはもう少し後からおいで。 孫たちと学校の話を楽しみに待ってる」



やだよーーーーー!!!!!

ジェイいかないで!

おいていかないで!!

私をひとりにしないで!

お願い、一緒に連れていって!!



なんて、声に出せるはずもなく

激しい感情のとなりに、小さく理性なんてものもあって

私は、母で、おばあちゃんだからね。


私の内心が潤んだ目に現れたのか、ジェイの顔が心配そうに曇る。

心の中で吹き荒れる感情を飲み込むのに必死だ。

声を出したら泣いてしまいそうだけど、これだけは言わなくちゃ!


「ジェイ!ジェイ!ありがとう!! ずっとずっといっぱいありがとう!! まっててね、楽しい話たくさんお土産にもっていくから!!」


そう言って、さよならのキスをした。

ジェイはこんな状態なのにちゃんとびっくりして、それがいつも通りでおかしくて、笑ってしまった私を、安心したように見た。


それから私の後ろにいる家族を見る。


「ありがとう、みんなのおかげで幸せだった。 みんな元気で。みんなの幸せを見守っているから」


後ろからすすり泣きが聞こえる。


ジェイ……

お父さん……


みんなを見回すジェイの視線が一点に止まった。

声にならず、唇だけ動く。


『たのむよ』


それから私に視線を戻すと、微笑んで


旅立った。




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