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67話 二度あることは三度ある 1




朝晩は肌寒くなってきたなぁ。

私はしっかり自分が羽織った以外にもう一枚、ちゃんとショールを持ってきている。

だってリンゴ林には…… いたいた。


わざと足音を立てながら近づく。

そんな事をしなくても、耳のいいラックには玄関を出た時からわかっていただろうけどね。


ラックは月を見上げながら、リンゴ林の中でぼんやり佇んでいた。

どのくらいこうしていたのか。半分エルフっていっても、寒いもんは寒いと思うんだけど。


ラックの隣に立って私も月を見上げる。

今夜は満月で月の光が強い。そろそろ収穫時期のリンゴが、月明かりに美味しそうに浮かび上がっている。

そのまましばらく無言で月の光を浴びていると


「一緒に育ててきたのに……。何を間違えたんだろう……」


ラックが独り言のようにポツリと零した。


「ルーシーがあんな事を言うなんて……」


言っただけじゃなくて、本気だしね。

私はひとつ質問をした。


「ラックは今まで恋人を作らなかったけど、どうして?」


少し考えたラックが、言葉を選びながら答える。


「恋愛感情が…… よくわからなくて」


ラックは私にウソは言わないけど、本当の事を言わないという事はある。

二十年近く一緒に過ごしてきてわかっているのは、ラックには線があるという事。


ユアかユアじゃないか。


自惚れとか、痛い妄想ではなくて、真面目に。

きっとラックの中では、命の恩人という思いがずっとなくならないんだと思う。

百年以上辛い思いをして生きてきたというのは大きい。

私と出会って奴隷ではなくなったし、お腹いっぱい美味しいご飯が食べられるし、温かいお布団で寝られるし、そりゃあ恩義を感じるのはわかるよ。でも二十年って長いよ!

恋愛感情がわからないっていうのも本当だろうけど。


もういいんだよ。

自分の幸せを一番にしなよ。


「ラック。私は君と家族になってからずっと幸せだよ。今までも、今も、これからも。アシュリーはお嫁にいっちゃったけど、変わらず姉妹みたいに思っているし、アダムも、年は上だけど弟みたいに思ってる。ジェイとは夫婦になったけど、子供達も増えたし、なんならトーイやメイちゃんだって家族みたいなもんだと思ってるよ」


ラックは、私が何を言いたいのか考えながら聞いている。

いつもそうだ。何よりも私を優先してくれる。


「恋愛や結婚をしなくても幸せな人はいるけど、恋愛も結婚も幸せのひとつだと思うんだ。私はラックにたくさん幸せになってもらいたい。強制じゃないよ?でもね、ひとつの選択として、育む愛情というのもありだと思うんだ。もちろん君がよその誰かと結婚しても、私たちは変わらない。ずっと家族だよ」


言いたい事は言った。

ちょっとルーシーびいきな発言だけど、もしもラックがどうしてもムリじゃなかったなら、結婚するなら知らない誰かより身内がいい。血縁はないし、娘の初恋だしね。


こっちの世界に来てから二十年近くになるけど、どうも私は家族というものに固執している。と思う。

自分自身しか何も持たずに、いきなり知らない世界に来てしまった私は、いい年をした大人になっても、どこか迷子のような気持ちがなくならない。

三児の母になったというのに、情けないなぁとは思うけど。


「わかった。考えてみる」


ラックは私を見て、そう言った。

ラックは私のいう事を聞いちゃうところがあるからなぁ……。

ちゃんと自分の意思で決めるんだよ。


私はラックと目を合わせてから、持ってきたショールでラックをグルグル巻きにした。


「おやすみ」


言って、先に家の中に戻る。

もう少しひとりで考える時間がいるよね。


さて。次のフォローに行きますか。




夫婦の寝室に行くと、ジェイがソファに座って私を待っていた。

珍しくお酒を持ち込んで飲んでいる。私は隣に座った。

私からは話しかけず、ジェイからの言葉を待っているような、もう眠いような……。


「ユアは知ってたの?」

「まぁね。私だけじゃなくてアイちゃんもベニーも知ってるよ。メイちゃんもね」

「えぇぇ! 俺だけか!」


たぶんアダムも知らなかったと思うけど。


「ユアはどう思う?」


ショックから立ち直れないまま、ジェイが尋ねる。


う〜ん……。


「もしも二人がムリなく結ばれるなら喜ばしい事だと思うよ。そしたらまぁ、家族構成はあまり変わらないしね」


私は希望を言ってみる。

家族が減るのは淋しい。


「そうか……」

「まぁ当事者の問題だよ。私たちが何か言うのも(言ったけど!)なんだしね」


ジェイは「そうだね」とか「でも早すぎないか」とかブツブツ言っている。

花嫁の(それこそまだ早いか!)父だね!

しょうがないなぁ。


「私たちが出会ったのもルーシーと同じ頃だね」


ジェイは、あっ… という顔になった。

親から見たら、きっとずうっと子供だろうけど、本人は意外としっかり考えてるよね。

私たちはあの頃、自分ではちゃんとしてると思っていた。大人からどう見られていたとしても。


ジェイからコップを取り上げる。


「だからね、心配だけど、本人たちに任せようよ。ジェイが私にプロポーズしてくれたのも、私的には十六歳だったよ」


私は懐かしく微笑んだ。ジェイも照れたように笑った。

さぁ、明日も早いからもう寝るよ!




次の日の夜。

ラックとルーシーが二人並んで報告した。


「結婚する事にした」


昨日の今日で早くない?!みんなビックリだよ!!


少し無言の間があって


「え〜! いきなり?!」

「早くない? 昨日は結婚しないって言ったのに?」

「どういう心境の変化なんだ?」

「ルーシーの粘り勝ちだね!おめでとう!!」

「結婚式はいつにしようか」

「結婚……」


あちこちから色んな声があがる。

この一日の間で、二人にどんな話があったのかわからないけど、嬉しそうなルーシーと、相変わらず無表情なラックが(でもちゃんと覚悟を決めた男の顔に見える!)そう決めたならいいよ。


「おめでとう。二人とも幸せになるんだよ」


こうして長女はお嫁に行く事はなく家住みの娘のまま、ラックは弟から息子になった。



翌年、次女のお誕生日もひと騒動あった。

十五歳になって、朝からさっさとギルドに行き冒険者登録をしてきたアイちゃん。

次女にちゃん付けするのは、どうも母の名前と思うと呼び捨てしづらいというのと、ちゃん付けの方が可愛い響きだからだ。


恒例の夕ご飯のお誕生会の席で


「今朝冒険者になった事だし、私旅に出るわ」


ええぇぇ!!!

どういう事?! なんで? いつから??

と、ちょっとした騒ぎになった。


まぁ、この次女はそういう雰囲気を持っていた。

本当に小さい頃からジェイとギルドにも通っていたしね。

ジェイから剣も習っていて、ジェイ曰く、剣の腕だけならそこらの男にも負けないくらいだと言う。


そうそう、ジェイは出会った頃の人生設計通り、王都でAランクになったよ。

わりと名の知れた強者らしいけど、この十年以上次女とできる依頼を受けている。最初の薬草摘みから年々難易度は上げていったみたいだけど。


ジェイは知ってたんだろうなぁ。

とうとうか…… みたいな顔をしてアイちゃんを見てるし。


十六歳、十五歳、十四歳の三人娘は、イケメンの父親似でなかなか綺麗な子に育った。

三人ともジェイと同じ茶色の髪と緑色の目をしている。色の濃さはちょっとづつ違っていて、黒い髪と黒い目の私の色味が一番出たのがこの次女だ。


こげ茶色の髪と深い緑の目は個性的で、お店の手伝いをしている長女と三女とは違って毎日外で動き回っている生命力の強さみたいなものにあふれている。

はっきりいって、かなりの美少女だ。


女の子のひとり旅……。

ちょっと、いや、かなり心配だけど……。

ジェイはどう思っているんだろう?


「アイちゃんなら多数相手じゃなければ自分の身は守れるしな。いつ立つんだ?」


あら、行ってもいい派でしたか。

ちなみにジェイも、義母の名前という事でちゃん付けだ。


「明日には立ちたいと思っていたけど、支度がまだだから…… まぁ、二日後くらいで?」


はやっ!!



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