60話 プロポーズと結婚事情 2
とうとう帰る日になった。今日はランチが終わったら王都に帰る。
夜の宴会は昨日でおしまいだ。
ショーンさんには洋食屋さんメニューのベストファイブを教えた。それとケチャップとソースも。合わせてデミソース風とか、初日のタルタルとか、アレンジすれば色々広がると思う。
ショーンさん熱心だし、何よりお料理が好きだからいけるね!
「ユアちゃんと一緒に料理できるのも最後かと思うと淋しいっす」
仕込みをしながらしょんぼり言う。
「私は久しぶりにショーンさんとお料理できて楽しかったわ〜! 結婚パーティーの事もあるし、また来るよ!」
「そっすね。もう会えないと思ってた師匠とまた会えたんだから喜ばないと」
そう言いながら淋しそうなショーンさん。
こういうところが弟キャラになっちゃうんだと思うんだな。
さて。結婚パーティーの準備とか、食べてしまって諦められなくなったお米とか新鮮な魚介類の購入とか…… どうしよう。
実はずっと考えているんだよね。もうあれしか方法はないんだけど……。
いいや!当たって砕けろだ!ダメだったらまた違う方法を考えればいいんだし!
とりあえずランチの営業に集中しよう!
私は猛然と手を動かしだした。
そうして今日も忙しく過ぎ、ランチは完売した。
四人席が三つとカウンターだけの小さいお店だけど、三〜四回転もすれば仕込んだ分の五十食くらいは売り切れてしまう。
毎日これだけ売り上げたらいいでしょうけど、一人でやるのは大変だね。ショーンさんがんばれ!
ランチの後片付けも終わり、私たちの遅いお昼ご飯も食べ終わって、じゃあ帰りますかと立ち上がる。
がんばれユア!当たって砕けろだ!!
私はド偉い大魔導師様を見る。
「エリック、お願いがあります!月に一度でいいので、ロートゥスに連れてきてくれませんか?ショーンさんたちの結婚式の話し合いとか、お米や海産物の買い出しなんかがしたいんです! ……お願いできないでしょうか?」
エリックは無表情で私を見て、何やら無言で何もない空間を見て、トンッとひとつ足を踏み鳴らした。
それから「いくぞ」と短く言った。
来た時と同じ、カラフルなペイントが炸裂する中を通り過ぎると、私たちは王都の我が家に戻って来てた。
返事も聞かず転移するとか!
「いくぞ」と声をかけてくれる意味ありますかね!
で? 私のお願いってスルーですか?
やっぱり世界規模でド偉い大魔導師様に図々しいお願いだったか。
うなだれていると、さっきと同じトンッという音が聞こえた。
「これであちらとここが繋がった。固定してあるからいつでも好きな時に行き来すればいい」
ええぇぇぇ!!!
そんな事できるの?!
エリック…… 本当に稀代の魔法使いといわれている、今は世界規模でド偉い大魔導師様なんだ。
そんな人に軽々しくお願いなんかしちゃったよ!私は大汗をかきながらお礼を言った。
こことあちらなんて大雑把な言い方だったけど、もうちょっというと、うちのお店の厨房とショーンさんのお店の厨房を繋げてくれたらしい。
厨房なら、いきなりお風呂上がりなんて事もないしね!
行き来できる人も限られた。
こっちはもちろんここの住人と、一緒に働いているトーイ、ちょっと考えがあってオリバーさんも入れてもらった。
それから仲間外れにするとめんどくさそうなワイアットさん。
「ワイアット?それなら大丈夫だ。あれなら自力で行ける」
あら、宮廷魔法使い科どうし(宮廷って公務員みたいなもんでしょ? 役所なんかは◯◯科ってなってるから)お知り合いでしたか。
お知り合いどころか、師弟関係だと後から聞いたよ。
あちらはショーンさんとソフィ。
認証された人だけが、こちらとあちらを行き来できるようにしてくれた。
見えないけど、何か魔法陣的なものがあるんだろか?キョロキョロしてしまう。
試しにすぐショーンさんのお店に行ってみると、盛大に驚かれた。
そりゃそうだよね。説明もサヨナラもなしに、パッといなくなっちゃったんだから!
呆然としてたところでまたパッと私が現れたら、そりゃあ驚くよ〜!
ショーンさんにも、このお店とうちのお店が繋がった事を話す。
勝手に(大魔導師様がだけど!)ごめんねと言うと
「王都!俺行った事なかったっす!普通なら何週間もかかるのに一瞬で行けるなんてすごい!何より転移魔法を経験できるなんてすごすぎる!!」
大興奮で、勝手にごめんねなんて言葉はどこかに吹っ飛んでいったよ。
「これで結婚式の話もいつでもできるね!ソフィの満足いくように仕上げるからね!」
え、俺は? ボソッと声が聞こえたけど、結婚式は花嫁さんが主役!とは従姉の言葉だ。
大丈夫!花婿さんもカッコよく仕上げてあげるよ!
どうも私はイベント事に燃えるタチだ。メラメラしてきた〜!!
迎えにきたジェイと家に戻ると、アシュリーたちが出迎えてくれた。
「行った時も帰ってきた時もいきなりなんだから! おかえり〜!」
「ただいま〜!」
また明日からお店がんばるぞ!近いうちに海魚のお料理も出したいし!なんてさっそくメニューを考えていると、ジェニファーから声がかかる。
「じゃあまた来るわ。ユア、結婚式の話し合いは私も入れてね!」
「うん!もちろん!きっとたくさんお願いする事があるよ!一週間ありがとね〜!お疲れさまでした!」
解散の挨拶をする。
あ、そうだ。
私は今にも消えそうなエリックの袖をつかんで言った。
「エリック、ありがとうございます!お好きな方のスープを作って待ってますね!」
エリックはちょっと目を見張って、ほんのり目尻を下げた。




