59話 プロポーズと結婚事情 1
さてさて。明日は王都に帰るという夜も楽しく宴会中。
私たちはちょっとした旅行気分というのもあって、こんな贅沢もできるんだけどね。試食も兼ねてるし、観光もせずに働いてるしね♪
結局私は、朝の買い出しから昼の営業までずっと働いていた。
ラックは相変わらず仕込みの手伝いやら、行き届いてないお店の掃除なんかをしてくれていた。
ジェイはせっかくだからとギルドの仕事を受けていた。土地が違えば人も依頼も変わって面白いんだって。
ジェニファーたちは昼間はどこかに出かけて何やらしてたようだ。
大魔導師様は居残って、料理に使う前のあのスープ出汁を飲んだりしてた。よっぽどお好きなのね。
地位的に、いつもはすっごい高級品を食べているでしょうから、たまにはこんな質素というか、シンプルなものが美味しいのかな?
海辺の町らしく魚介のアラなんかも入れて作ったりもした。お代わりするし、そっちの方がお好みっぽい。そういえば懐かしいって言ってたな。
大魔導師様は、もしかしたら平民の出なのかもしれない。
今日も仕込みが終わったランチの前に、大魔導師様にスープ出汁を一杯わたした。
ふと、味が薄くないか聞いてみる。
「大魔導師様、お味薄くありませんか? お塩ふります?」
「……エリックだ」
ん?
「エリックだ」
お名前ですか? 存じ上げてますよ?
意図がわからず、ちょっと見つめ合った。
……あぁ!
肩書きじゃなくて名前で呼べって事ですかね?
「エリック様?」
あ。名前を呼ぶのに疑問形になっちゃった。
「エリックでいい。 味もこのままでいい」
あら、そうですか。
「エリック、は、薄味がお好みなんですね〜」
年上を呼び捨て!呼びづらい!!
あ、アダムは年上だったか。
「子供の頃に食べた味を思い出す。あの頃には、こんなふうに懐かしく思い出す事があるとは思わなかったがな」
わぁ!初めてこんなに長くしゃべっているのを聞いたよ!
低くて素敵なお声。二百歳超えの渋さか?
「エリックは平民だったんですか?」
「教会で育った。二百年前は今よりずっと貧しい時代だったからな。こんなスープは日常だったよ」
そう言って、懐かしそうに出汁スープを飲みだした。
ゆっくり味わってください。
私は邪魔しないようにランチの仕込みに戻っ……
あ!そうだ!
「わたしでよかったら、いつでもこのスープ作りますよ。あぁでも、王都では新鮮な魚介類が手に入らないか〜。初日に作った方(肉片やら野菜クズなんかで作った方)でよかったらいつでもお店に来てください!」
そう言って、今度こそ厨房に戻った。
なんてやりとりが昼間あった。
そんな事を思い出していたら、ショーンさんから声をかけられた。
お料理がなくなった?と見ると、ショーンさんのちょっと緊張した顔。
「ユアちゃん、おかげでやっていけそうっす。お世話になった師匠に報告できないのは不義理なので、ここで決めます!」
何を?なんて聞くほど鈍くないよ!
がんばれ!ショーンさん!! 私は親指を立てた。
「ソフィ、子供ができてソフィが働けなくなってもちゃんと食べさせていける自信がついた。 ……結婚してください!」
おおぉぉ!! 生プロポーズ!!
初めて見た!!(自分の以外)
賑やかにやっていたみんなも、一瞬にして静まった……。
なんで静かになっちゃうの!緊張するじゃないか!なぜか私が!!
いや、見たら私の何倍もショーンさんが緊張しているよ!当たり前か。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
顔を赤らめながら、ソフィはしっかり返事をした。
きゃ〜〜〜!!!
なんか照れる〜〜〜!!!
それから「おめでとー!」「おめでとー!!」と大騒ぎ!!
ショーンさん、本当によかったね!!
「お式はいつにするの?」
遠いから参列できないな〜、電報もないし、手紙もつくかわからないし……
なんて考えていると
「オシキ?」
見ると、みんなの頭の上には?マークが並んでいる。
あれ、これ最近見た気がするよ?
「結婚式。って、挙げないの?この国にはないの?」
「ケッコンシキって何?結婚の式?結婚するのになんの式をするの?」
ジェニファーに聞かれて、私の生まれ育った国では、というか、世界では、挙式披露宴というものがあってね…… と説明する。
女の子の憧れ、ウエディングドレスとか!
その国によって結婚式も披露宴的なものも色々あるんだよ〜とか。
話の途中から女子二人は興味津々!
特にウエディングドレスには目をキラキラさせていた。
そうだよね〜!憧れるよね〜!
女の子の夢は世界が違っても共通なんだとわかった。
この国の(世界の?)結婚というのは、教会に言いに行って終わりなんだって。教会側で記録するだけ。
王族だとパレードなんかして、何日もお祭りみたいにお祝いするらしいけど。
え〜!それだけってつまんな〜い!って思っちゃうのは、この世界とは違う私の育った環境のせいだってわかってるけど。
この国ではそれが普通ってわかってるけど……。
「もしよかったら、ショーンさん、ソフィ、結婚式やらない?神様に誓うのだけじゃなくて、人前式なんていうのもあるよ。お世話になった人とか親しい人を招いて、みんなの前で永遠の愛を誓うの。季節にもよるけど、ガーデンパーティーなんて気持ちいいよ〜!」
というのは、二年ほど前にあった従姉の結婚式とパーティーが一緒になったものだ。
従姉は「学生結婚だからお金をかけずにやるのよ!」と言っていたけど、みなさんの気持ちのこもった、とても素敵なものだった。
それを提案してみるというか、それしか出席した事がないからそれ以外はよくわからないというか。
みんなの前で永遠の愛を誓うって……。ショーンさんは顔を赤らめたり青ざめたり忙しい。
ソフィは何の想像をしているのか、嬉しそうにうっとりしている。
「私も何か手伝うわ!ユア、どんな事があるか教えて!」
キラキラしたままのジェニファー。
落ち着いてる系のジェニファーとソフィがこんなに乗り気なんてちょっと意外だ。それだけ花嫁さんってテンションが上がるって事だね!
「ショーンさん、私はお祝いのご馳走を作るよ! ……どうでしょうか?」
ソフィの返事は聞かなくても顔を見ればわかる。問題は花婿さんの方だ。
ショーンさんは、私を見て、ソフィを見て、もう一度私に視線を戻すと
「よくわからないけど、よろしくお願いします」
不安の残る声色で、でもきっぱり言った。
「任せといて!パエオーニア初……、もしかしたらこの世界初の、思い出に残る結婚式と披露パーティーにしてみせるから!」
従姉の結婚式の事はよく憶えている!めっちゃ感動したからね〜!
下手にアレンジはしないで、あんな感じでやってみよう。あんなに感動したんだもん、ショーンさんたちもきっといいお式になるよ!
この国初とか、世界初とか……。またまた青ざめたショーンさんと、ちょっと緊張しちゃってるソフィ。
私は安心させるように、大丈夫だよ!と笑顔になった。
ところで、お式はいつにしましょうかね?




