55話 ショーンさんと海辺の町 1
ロートゥスについて、ショーンさんのお店を訪ねるために商業者ギルドに向かう。お店や露天なんかは商業者ギルドの登録になるからね。手紙は一年前のものだし、お店の住所が書かれてなかったから直接は訪ねられなかったのだ。
それにしても……、ロートゥスは他国と貿易をしているという港町なだけあってとても珍しく、私はギルドまでの間キョロキョロしっぱなしだった。
珍しい食材なんかあるかも!
後で市場にも行ってみたい!
はっ!それよりショーンさんだ!
違う方に向かいそうな意識を引き戻す。
もう開店したかな〜?開店してなかったら、まだどこかのお店で働いてるんだろか?そうすると探すのが難しい。ギルドに登録は店主だけでいいから、ショーンさんが従業員だったらどこで働いてるかわからないかも……。
商業者ギルドはメイン通りにあった。すぐ近くには冒険者ギルドもある。どこの町でも造りは同じなんだね。
ギルドのカウンターで職員さんにショーンさんのお店を聞くと、思ってたよりあっさり教えてもらえた。ここからそう離れていない場所にあるそうだ。簡単に書いてくれた地図をもらうと、お礼を言ってさっそく向かう。
ショーンさんのお店は、メイン通りの一本裏にあった。
裏通りといっても貧民街みたいなところじゃないし、町の中央広場の近くだから立地的には悪くないと思う。
表から見た感じ、お店は小さいけれど小綺麗にされていた。
まだ午前中の早い時間だというのに、お店の前はきれいに掃き清められていて水も打ってある。清潔感漂う、印象のいいお店だった。
師匠は色々チェックが厳しいのだよ!
ランチの営業だとしたら、今は仕込みで忙しい時間だよね。
来た事だけは告げて、ランチが終わった頃出直そうと、お店のドアを開けた。
カランコロン♪
可愛いドアベルの音が出迎えてくれる。
おぉ!ショーンさんたら意外と可愛らしい趣味をしてるんだな。
思わず笑顔になって店内に入ると
「すみません、まだ仕込み中なんです! お昼になったらまたお願いします!」
奥の厨房らしき所から姿も見せず大声がした。懐かしいショーンさんの声だ。
忙しそうだね〜。忙しいところすまないけど、来た事だけは伝えないとね!私は勝手に奥まで進んで厨房をのぞく。
「ショーンさん、来たよ〜!」
一心不乱に何やら切っていたショーンさんがはじかれたように顔を上げた。
「ユアちゃん?!」
「お久しぶり〜♪ 手紙が一年かかって届いたの。これでも手紙を見てすぐ来たんだよ。遅くなってごめんね!」
ショーンさんは包丁を持ったまま呆然と立っている。
ちょっと絵的に怖い……。
「本当にユアちゃん?! わ〜!師匠!!お久しぶりっす!!」
「わ〜!本当にショーンさんだ〜!変わらないね〜!」
私は、あははと笑った。
さっきの、お客様に対しての言葉遣いとか声のトーンとかとはちょっと違う、砦にいた時の親しみのある声色と、ちょっと言葉は悪いけど使われキャラっぽい言葉遣い。
砦ではショーンさん若手だったから、けっこう先輩っぽい人たちに使われていたんだよね。
だから訳の分からない小娘の(私ね)お世話係というか、調理助手なんてものも押し付けられてたし。
おかげでショーンさんと親しくなれたのは結果オーライだったけどね!
「忙しい時間にごめんね!ロートゥス観光してくるよ。ランチが終わった頃また来るね!」
「何言ってるんっすか!師匠に来てもらったのに追い出すなんてできる訳ないでしょ!どうぞ座ってください!」
そりゃあダメだよ!お客様あってのお店だよ!こっちの事情でお待たせしたり、勝手にお休みしたらせっかく来てくれたお客様に申し訳ない!
ちょっとお説教モードになりつつ、市場で食材とか調味料とか見てくるから!とお店を出る。
「師匠、早く戻って来てくださいよ〜!」
ショーンさんに大騒ぎされながら見送られた。
さて、時間ができたなら是非市場に行ってみたい。
みんなは観光がいいかな〜と聞いてみると
「別に観光じゃなくていいし。市場が気になってソワソワしてるユアが気になって観光どころじゃないよ」
ジェイには笑われるし、ジェニファーも笑顔で言う。
「私はここで生まれ育ったし、ルークもしばらくここにいたから、観光はするんじゃなくて案内する方だわ。市場も案内するわよ」
ラックとルークさんは黙っているけど、ジェイとジェニファーの言う通りという顔をしている。
謎なのが……、大魔導師様だ。
別に送ってくれるだけでいいとか思ってた訳じゃないよ?国の、というか世界規模でド偉い大魔導師様をパシリにしようなんてお恐れ多い。だけど何の縁もない、かかわっても利益もない小娘に付き合ってくれる理由がわからない。
送ってくれたのはジェニファーが頼んでくれたからっていうのでわかってるけど……。
ラック並みに無表情だし。
いや、ラックはこの一年ちょっとで、出会った頃よりは表情に出るようになったんだよね。本当に本当にちょっとだけどね!
大魔導師様は出会った頃のラック並みだなぁ……。
あら、そう思ったらちょっと懐かしいかも。
そうやって考えたら、長生きの人ってみんなこんな感じなのかしら?
まぁ、わからない事は考えてもしょうがないと、そのまま六人で市場まで歩いていく。
そうしてついた朝の市場は、活気があって大盛況!
人が多くて、見て回るのも大変だよ!
はぐれないようにとジェイが手を繋いでくれた。
ジェイさんや、みんなの前はちょっと照れますわ。と思いつつ、そんな事を言ってられない程のすごい人だった。押されて流されて、ジェイが手を繋いでくれてなかったらあっという間にはぐれちゃったかも!
ふと見れば、ジェニファーとルークさんも手を繋いでいた。
あちらはイチャイチャというよりエスコートって感じだけど。
いや、こっちも別にイチャイチャって訳じゃないんだけどね?
えっと……
私と同じようにジェニファーを見ている大魔導師様。
感情の見えない瞳なのに、繋がれている手を見てるそれは……
いやいや、やめよう。
人様のデリケートな気持ちに勝手に名前をつけたらいけないよね。
この二人、何か訳ありみたいだし。
「ユア、ほら!あなたこういうお店興味あるでしょ?」
ジェニファーが足を止めた店先からすでに色々な刺激臭がする。
「香辛料屋さん! わ〜!すごい!!種類もたくさんだし、知らないものもいっぱいある!!」
私は満面の笑みでジェニファーにお礼を言ってお店の中に入った。
香辛料や調味料はいくらあってもいい!料理の幅が広がるよ〜!
ご店主に味や風味や使い方なんかを聞きながら、とりあえず今日の分だけ買う。
持って帰る分は、帰る前にまた買いにくればいいもんね!
それからさすが海辺の町!新鮮な魚介類も豊富に売っている!!
もうもう!! あちこち目移りするよ〜!
テンション高くウロウロしていると、いきなり助走なしのハイテンションになった!!
お米!!お米があった!!
外国米みたいな細長いタイプだけど、見間違えようもなくお米だ!!
こっちの世界に来て、体感で一年ちょっと。諦めていたお米だ〜〜〜!!!
あまりの興奮に目眩がして、手を繋いでいたジェイの腕にしがみついた。
「!!!!!」
ガキンと固まるジェイ。
あぁ、ごめんね。いきなりで驚かせちゃった。
それにしても、恋人になって半年もたつというのにこのピュアさったら!
手を繋いだり、なりゆきで?何度か抱き合ったりはあるけど、今のところ甘い抱擁というものは一度もない。もちろんそれ以上の事も。
恋愛初心者同士、同じペースで歩いていけてよかった。
すぐ赤くなったり固まったりするこの恋人が、私は好きだな〜とほのぼの幸せに思う。
ふふふ。そろそろ解凍してあげねば。
私はふらつく頭もジェイの腕によせて謝った。
「ごめん、ジェイ。興奮しすぎて目眩しちゃってる。ちょっとつかまらせてて」
私が甘えたのじゃなくて(人様の前で甘えないよ!!)真面目に不調だとわかったジェイはすぐに抱き寄せてくれた。
いやいや、そこまでじゃないんだけどね。ちょっとつかまらせてくれたら大丈夫だよ。興奮しすぎて目眩とか、言うに恥ずかしい症状だし。
「ユアったら!興奮しすぎて目眩とか聞いた事ないわ!」
ジェニファーに笑われてしまった。
うん、まぁ、普通そうだよね。
やっとグルグルが治った私は、エヘヘと照れ笑い。
それにしてもお米だよ!! さっそく購入する。
市場をよくよく見れば、もしかしたらお醤油系なんかもあるかもしれない!
元の世界でいう所の、ここら辺はヨーロッパだとして(みなさん西洋人っぽいお顔立ちだからね)陸続きかそうでないかわからないけど、アジアっぽい地域もあるかもしれない。それならアジア系の調味料もあるかも!
私は期待に胸を膨らませた。
とりあえずお米に合わせてお魚を買ってみる。
今のところお醤油は見当たらないから、お魚の塩焼きでご飯が食べたい!
見た目外国米っぽいから、食べ慣れてたあの味じゃないかもだけど。
保険に数種類の魚介類と、ハーブも購入する。サフランとかね。
作った事はないけど、◯◯sキッチンで見た事のあるパエリアもどきを作ってみよう。
勝手にあてにしてるけど、ショーンさんのお店でね!




