54話 ロートゥスへ
サラたちが帰国する前日。
六月はワイアットさんと、偶然にもジェニファーとルークさんのお誕生日もあって、これはもうお誕生日会と送別会も兼ねてみんなでお祝いしようという事になった。
メニューはもちろん、ハンバーグとパンケーキ!
それから、元日本人のサラのために、和食は作れなくても日本で普通に食べていたご飯を作ってみよう!
お醤油とお味噌がないからお塩だけの味付けになっちゃうけど、それでも一般家庭の食卓に上がっていたご飯は作れるはず。
オムレツには、子供っぽいけどケチャップでひとりひとりの名前をかいてみた♪
それとシンプルにあっさりと肉野菜炒めと、キュウリの塩もみなんね!これはお漬物だから今まで作らなかったけど、サラには懐かしい味でしょう♪
後はちぎったレタスとたっぷりのマヨネーズ。私的にはレタスとマヨネーズの一番美味しい食べ方だと思っている♪
ケチャップとマヨネーズはサラにレシピを渡したよ。
それから毎度おなじみのワインと果実水。
お酒は、うちの男子チームの他にウィル君とルークさんも飲んでいた。女子チームでは初!ジェニファーも! 前世お嬢様だったからお酒も嗜めるんだそうだ。
新しく加わった四人は、ハンバーグとパンケーキに驚いて喜んでくれたけど、涙を流しながら喜んだのは、やっぱりサラだった。
懐かしい懐かしいと、泣きながら食べていた。
いや、わかるけど……。
なかなかシュールな光景に、ウィル君に任せてしまったよ。
帰り際、
『優愛に会えてよかった!私、前世の記憶があるからどうも宙ぶらりんだったのよ。でもあの時、消えちゃうかもって思った時、私、ここに残りたいって思ったの。ウィルや、ここでの家族がとても大切だって改めて気づいたの。あっちの家族ももちろん大切だったけど、あっちではたぶん私は死んじゃってるんだと思うしね。私はこっちで幸せになるよ!』
晴れ晴れとした笑顔で言った。
前世の記憶があったサラ。こっちの世界に違和感みたいなものがあったのかもしれない。本人も宙ぶらりんとか言ってたしね。何やら吹っ切れたようだし、これから宣言通り幸せになってほしい。
その後―――
サラは度々うちのご飯を食べに来るようになる。こっちの人生を受け入れたといっても懐かしい味は忘れがたかったようで、転移魔法というものの恩恵を受けてうちに通えるようになった。
けど、それはまた別の話。
サラたちが帰国して、一週間くらいの間を開けてジェニファーたちも旅立つ時がきた。
せっかくだからと、夕ご飯を一緒にする。
ジェニファーたちも、旅立っても月に一度はうちのご飯を食べに来るという。こっちも転移魔法だって。
転移魔法って、まだまだ高度な(高価な)魔法だと聞いてたんだけど……。
訝しむ私に、償いだから気のすむようにさせてあげるの。と笑顔のジェニファー。
訳はわからないけど、何か解決したようなすっきりしたジェニファーの言葉に、そうですかと何となく納得させた。
人には色々事情があるよね。
送別会の途中、そういえばとジェイが私に手紙を渡してきた。
手紙?エマちゃんかな?受け取って差出人を見ると、ショーンさんだった!懐かしい、砦の私の弟子?だ。
リーリウムのブレイディさんの宿屋経由、ロサの冒険者ギルド宛て。
さっそく封を開けると、あれからケガで砦の兵士は辞めて、故郷近くのロートゥスで食堂を開く事にしたという内容だった。
砦で私とお料理を作ったのが楽しかったらしい。十年ほどためていたお給料でお店は開けるとの事だけど、メニューの相談にのってほしいと…… 一年も前の日付の手紙だった。
いくら郵便事情が悪いといっても、一年も届かないとかないでしょ!
憤慨する私に、届いただけでもすごい事だとみんなに言われて脱力する。こういうの慣れないわ〜。日本って素晴らしい国だったのね。
私の脱力は置いといて。
メニューの相談といっても、手紙を出しても届くかわからないんじゃなぁ……。
ちなみにロートゥスまでどのくらいかかるかと聞けば、馬車で三週間との事だった。しかも乗りっぱなしで。はぅ。
「ロートゥスは私の生まれ故郷よ」
ジェニファーが言う。
「ユア、ロートゥスに行きたいの?行きたいなら送るわよ。転移魔法なら一瞬だから」
ちょっと悪い顔で続けた。
えっと……。それ、お願いしていんでしょかね?
あまりにも艶やかな小悪魔スマイルに躊躇する。
でも、私の最初の弟子?ショーンさんがお店を開くなら力になってあげたい。手紙は一年も前のものだから、もう開店してるかもだけど。
私はちょっと考えて、お願いする事にした。転移魔法っていうものにもめっちゃ興味あるしね!
「ジェニファーがそう言ってくれるなら、お言葉に甘えて連れて行ってほしい。お願いします!」
そうして私たちはロートゥスに行ける事になった。
いきなりお店をお休みできないから二日ほどの調整の後、一週間の休業にした。
ショーンさんのところでどのくらいかかるかわからないし、真面目に三ヶ月間お店をやってきて、ちょっと疲れたというのもある。なんせこの世界では成人だろうけど、私的には未成年の十六歳だ。これからもムリなく続けたい。
ロートゥスに転移する日。
旅支度ばっちりで自宅で待っていると、ジェニファーは見知らぬ男の人と現れた。
この人がロートゥスまで送ってくれるという。
あ……
この人、きっとジェニファーが言ってた前世の知り合いだ。
大魔導師と言われている、
「大魔導師のエリックよ。ちょっと無愛想だけど、悪い人ではないから」
ジェニファーから簡単に紹介される。
はぁ、そうですか。
こっちは私とジェイとラックがロートゥスに連れて行ってもらう。アシュリーとアダムはお留守番だ。
そういえばリアンさんだけど、ジェイのお誕生会が終わったある日、お店も順調に営業できてるし、以前から誘われていた孫のところで世話になりますと出て行った。(お子さんはもう先に旅立たれているらしい)
これからは、お孫さんと、さらにその下のひ孫さんとゆっくり余生を過ごすとの事。
ここにいたら何かと仕事をしちゃうもんね。お孫さんたちとゆっくり過ごしたいというならそうしてほしい。今までずっと働いてきたんだしね。長い間お疲れ様でした!!
話を戻して、そんな訳でこっちは三人で出発だ。
久しぶりに仕事抜きで故郷に帰りたいと、ジェニファーと、ルークさんも一緒に行く事になった。
目の前には大魔導師様。見た目は二十歳くらいのお兄さんだ。
この人本当に二百歳超えなんだろか?百歳超えのラックと雰囲気は似ている。から、本当なんだろう。
薄い水色の目の色と、焦げ茶色の髪。ローブでわからないけど痩せていそうで、冷たいような印象の男の人だった。
えっと…、お世話になります。
「行くぞ」と、魔法陣も詠唱もなく大魔導師様の一声。
破裂するカラフルなペイントの中を通り抜けたと思ったら、目に見えた風景は全く知らない海辺のものだった。
転移魔法すごーーーい!!!
こうして私たちは国の最南の港町、ロートゥスに来たのだった。




