52話 転移者と転生者 2
家に帰り着くと、すでにアシュリーたちがお料理にかかっていた。
「ただいま〜!遅くなってごめんね!」
「ユア!素晴らしかった〜!歌姫と息がぴったりで、すごく感動しちゃった!でもどこであの歌を覚えたの?」
「何ていうか…… 私の知ってる歌だったの。私の元いた国の歌」
「え? 何でそれを歌姫が歌えるの?」
私もすぐに料理に取りかかって、手を止めずに簡単に説明した。
「へえぇぇ……。そんな事もあるんだね」
「うん。みんな、これは内緒だからね!」
「「了解〜!」」
私が転移者だという事に慣れている?みんなは、あっさりとサラの事も受け入れた。
そういえばサラって本名?日本名って何だったんだろう?どこに住んでいたんだろう?色々話したいな〜。
さてさてお誕生会、本日のメニューは、毎度お馴染みのハンバーグとパンケーキ!
それから新ジャガを使ってベーコンとアスパラガスのジャーンポテト風と、ポテトサラダと、ポテトフライなどなど、じゃが芋メニューオンパレードにしてみた。ジェイのお誕生日なのに、私がポテト好きというのが大きい⭐︎
それから肉食獣の男子チームのために、ゴロゴロチキンのトマト煮込みも作った。チキンがトマト味だから、ハンバーグはデミソース風。チーズと目玉焼きものっけちゃう♪
さあ、お誕生祝いの始まりだ!
「「かんぱ〜い!」」
ワインや果実水の杯を合わせる。お馴染みのメンバーで賑やかに食事が始まった。
ラックとリアンさんと未成年のトーイは飲まなかったけど、後の男子チームは毎度楽しそうに飲んでるよ。
お誕生会は楽しく過ぎていって、途中でおすそ分けを持たせたトーイを帰したし、私たち女子チームも先に休もうと、空いているお皿を片付けて交代でお風呂に入った。
お風呂から出て飲みチームを見に行くと、まだみんなご機嫌で飲んでいる。
あれ? ジェイがいない。
トイレかなと思って少し待ってみるけど戻ってこない。もしかして気持ち悪くなってるかとトイレに行ってみたけどいなかった。
う〜ん。渡したい物があるんだけどな……。
探すと、店先のウッドデッキのところで椅子に座っていた。
ぼんやり月を見上げている。
私が隣に座ったのに何も言わないジェイ。
私も無言で月を見上げる。
月はぼんやり朧月。私は何となく朧月の唱歌を口ずさんだ。
「ユア……」
一節歌ったところで声がかかる。
「ん?」
「それもユアの国の歌?」
「うん。ちょうどあんな月を歌った歌かな〜。菜の花の頃の歌だから、季節的にはもうちょっと春だけど」
「そっか……」
それきりまた黙ってしまう。
何が何だかわからなくて、私も黙ったまま隣に座っている。
あ!そうだ! 渡す物があったんだ!
「ジェイ、これ」
ジェイが私を見る。
正確にいうと、ポケットから出した物を持っている私の手をね。
「お誕生日おめでとう♪ えっと……。恋、人に、なって、初めてのジェイのお誕生日だから、プレゼント!気に入ってくれたらいんだけど……」
手には茶色い革紐に緑色の石が通った飾り紐。緑はジェイの目の色だ。
「お揃いだよ」
白っぽい革紐にピンクの石の飾り紐も見せる。ピンクは私の目の色じゃないけどね!
「ユア……」
あ〜〜〜! やっぱ照れる!!
私は意味もなく笑ってしまう。
だってすごく恥ずかしいんだよ〜〜〜!!
「ありがとう。すごく嬉しい」
と言いながら、嬉しくなさそうなジェイ。いや、嬉しくなさそうっていう訳でもなくて……。それより、もっと大きな感情に気をとられているっていうかね?
朧な月明かりでジェイを見る。
ジェイは淋しそうで哀しそうで…… 私を見る瞳は不安に揺れていた。いったいどうしたっていうんだ?
「ジェイ?」
ジェイは私の手の上に自分の手を置いた。
「ユアが歌姫と話している顔がすごく嬉しそうだったから…… 故郷を思い出していたんだなとか…… やっぱり帰りたいよな」
俯いて目を合わせないジェイ。
私は突然こっちの世界に来ちゃって、家族と離れ離れになってもう二度と会えないかもしれない。
そう思うと淋しくて哀しくて、それは今でも心が冷えるほど辛い気持ちになる。
だけどもしかしたら、来た時と同じように突然帰れるかもしれない。私には捨てきれない小さな希望だけど、それはジェイにとって、私がいなくなっちゃうという大きな不安なのかも。
こっちの世界に私の家族はいないけど、それはジェイも同じで……。ご両親が亡くなっているジェイは、私とは違う本当の意味で家族がいないんだよね。
私を助けてくれたジェイ。探し続けていてくれたジェイ。ずっと想っていてくれたジェイ。私のお誕生日の前日に、あんな告白をしてくれたジェイ。
何だかわからないけど、私は猛烈に自分に腹が立った。
好きな人になんて顔させてるんだ!
私は勢いよく立ち上がる。
「ユア?」
急に立ち上がった私を見上げるジェイを抱きしめた。
座った人に腕を回すから、頭しか抱きしめられなかったけど。
「不安にさせてごめんね。ジェイが好きだよ。家族と同じくらい大切に思ってるし、家族とは違う気持ちで、すごく好きだよ」
恥ずかしいよりも安心させてあげたい気持ちの方が大きくて、私は一生懸命言葉を紡ぐ。
言葉はもどかしい。ちゃんと伝わったかな……。
ジェイはちょっと固まった後、私を強く引き寄せて抱きしめた。
ジェイさんや!お膝の上にのっちゃってますがな!
毎度脳内大混乱するけど、私を抱きしめるジェイが小さく震えていたから……。
まぁ、このままじっとしていてあげますか。抱きしめる腕に力を込める。
私の好きな人の不安が、少しでもなくなりますように。




