50話 フロース祭りと歌姫 2
ジェニファーたちは、ほとんど毎日来てくれてるよ。
超美人のジェニファー、一緒にルークさんがいるのに熱い視線がガンガン向けられる。もちろんルークさんにも熱視線が飛びまくりだ。
あんなにお似合いの美男美女のカップルなのに、みなさんハート強いな。
アシュリーもラックも美少女とイケメンだし。
なんだろ、この顔面偏差値の高さ。
私とトーイは平凡組だから、せっせと仕事をする。
ちょっと遠い目をしちゃうのはしょうがないよね……。
あんまり熱狂的になってきたから、よかったら住居の食堂で食べる?と聞いてみると、そうしたいと言う。
二人きりになっちゃうから、ちょっと淋しいかなとも思ったんだけど、美味しいものは落ち着いて食べたいと言われて、ならそうしようという事になった。
料理を褒められるのはいつでも嬉しい♪
ジェニファーたちがゆっくりご飯を食べて、ゆっくり過ごしているうちに営業が終わるから、私たちの遅いお昼を食べながらの女子トークなんかも楽しい。
そんな日も日常になってきたフロース祭も中日を過ぎた頃、ジェニファーの様子が何だか……。元気がないように見える。
そんな状態が二〜三日も続くと、さすがに気になるじゃないか。
さりげに、何かあった?と聞くと、思いつめたような目で見返された。
お?これはなかなか深刻そうだぞ?
私はとっておきのリンゴ林に誘ってみた。
だいぶ離れた、私たちの話が聞こえないような場所では、ラックとルークさんがリンゴの手入れをしている。
ただ護衛でいるより手入れを手伝わせているラックに、ちゃっかりしてるな〜と意外な一面を見た。
おっと、今はそっちじゃなくてジェニファーだ。
私は五月の爽やかな風を感じながら、ジェニファーの言葉を待った。
「ユアの元いた国では、こういう時ってどんな考え方をするもの?」
やっと口を開いたジェニファーの話とはこんなものだった。
ジェニファーを傷つけた事、死なせてしまった事、実際は事故だったけど引き留めておけば死なせずにすんだという後悔で、二百年自分を責め続けている前世の知り合いがいるんだそうだ。
ジェニファーはその人に失恋をしたけど、その時にすっきり気持ちを切り替えたし、前世の事は自分の中では終わった事だから、そんな風に思われていた事にどうしていいかわからなくなってしまったらしい。
「ていうか!二百年って何?!」
びっくりすると、ジェニファーは吹き出した。
「そっち?ユアったら!深刻に悩んでいるのに笑っちゃったじゃない! ……その人ね、今ではこの国で大魔導師っていわれてる人なの。魔法使いって、その魔力に応じて寿命が長くなるらしいわよ?私もたぶんそうだと思うわ」
魔法も使えて、その上寿命まで長い。
魔法使いすごいな。
まだ笑顔のまま、どこか遠くを見ているようなジェニファー。
金と薄い茶色の色違いの瞳が綺麗だなと見惚れていると
「ふふふ。いきなりこんな事を言われても困るわよね。ごめんなさい、忘れて」
私を見ている瞳には、困った顔の私が映っていた。
う〜ん……。
これが答えになるかわからないけど。
私は話してみた。
「私には経験がないから、それがどんなものかわからないけど。元の世界で読んだ本に、人生で一番辛い事は、自分を責めながら生きる事だって書いてあったのを思い出したよ。それが本当なら、その人、二百年も辛かったね」
ジェニファーは何かをぶつけられたみたいな驚いた顔をした。
それから、一度、二度、 ……ゆっくり瞬きをして
「そう……。そういう風に考えた事はなかったわ。 そうね……、ありがとう、ユアに話してよかった」
夢から覚めたような、壮絶に美しい顔で笑った。
そらからのジェニファーは、何か吹っ切れたようにまた一段と綺麗になった。
何にしても、元気になったならよかった。
そういえば、私がジェニファーを気にして、何をどうしたかジェニファーが元気になった頃。
フロース祭の中日頃は、剣術大会やら魔術大会やらがあって、ジェイとアダムは剣術大会を見に行った。
かなり興奮する試合だったらしく、珍しく二人で飲んで帰ってきたりした。
白騎士団より黒騎士団の方が実力は上だ! とか、ご機嫌で盛り上がっていたのが微笑ましい。
男の子っていくつになってもそういうのが好きなんだね。
弟たちも戦隊モノにハマっていたな〜と、懐かしく思い出す。ちょっと違うか。
それから、魔術大会にワイアットさんが出ると聞いたアシュリーは気になってソワソワしてたけど、出場じゃなくて優勝者に賞品を渡す役だとかで、それならまぁいいやとなったり。
お祭りに参加していてもしていなくても、なかなか楽しくフロース祭は過ぎていく。
そして五月最後の日。今日はジェイのお誕生日だ。
ちょうどお休みもかぶって、夜のお誕生祝いまで、みんなで最終日のお祭りに出かける事になった。
今日がラス日のフロース祭。せっかくだからと、いつもお留守番のラックとリアンさんも誘ってみる。
ラックは来たけど、リアンさんはやっぱりお留守番してるって。
さてさて、最終日のメインは隣国から来たという歌姫の歌だ。
市井の大広場の特設ステージの公演に、ものすごい数の人が集まっていた。
昨日の夜には王宮ですでに歌声は披露されたそうで、それはもう素晴らしいものだったとか。
歌姫の歌を聞くと、涙が止まらなくなったり、幸せな気持ちになれたり、などなど大勢の人の中では色んな噂話が乱れ飛んでいる。
庶民の公演はお昼からだ。私たちは朝早くから並んだので、前の方のわりといい場所を確保できた。
交代でトイレに行ったり、食べるものを買って来たり、それなりに楽しく待つ事ができた。
そしていよいよその時がきた。軽やかな演奏で、エスコートされた歌姫が壇上に現れる。
獣人と人が仲良く暮らしているという隣国の歌姫は、ちょっと期待した獣人ではなくて人だった。
ココアブラウンの柔らかい茶色い髪に、透明な空色の瞳。配色的にはアシュリーと同じなのに、全然違って見える色合いだ。
歌姫というより同じ歳くらいの可憐な少女は、見た目の雰囲気によくあった、ふんわりしたピンクのワンピースを着ている。
意外にも、見た目と違ってご挨拶する声は落ち着いた少し低いものだった。あぁでも、耳に心地いいかも。
「初めまして、お隣のアケルからお招きいただきましてやってきました、サラと申します。何曲か歌わせてもらいます。短い時間ですが、よろしくお願いします」
歌姫というには素人っぽい挨拶に親近感がわく。
というより…… 何だか日本人っぽい言い回しだなぁ。
私は懐かしいような控えめな話し方に、まだ歌も聞いていないうちから引き込まれた。
歌はアカペラなのかな?壇上には演奏者が誰もいない。
歌姫はタンバリンのようなものを持っている。
「今は春と夏の間なので、春と夏にちなんだ私の好きな歌を歌います」
え……
歌い出した、この歌。
「アケル語?何語なんだろう?初めて聞くね」
「何て言ってるのかわからないけど、何だか元気になるような歌だね!」
アケル語じゃないよ、これって……
え?わからないの? 私わかるよ? あれ?今までだって、私みんなと言葉を交わしてたよね? 普通に会話できてたし、何なら文字も読み書きできたよ?
日本語とかそうじゃないとか、そういう風に全然思ってなかったけど……、もしかして私、こっちの世界の言葉をしゃべっていたんだろか?
だけどこれは『日本語』で歌われている日本の歌だ。
誰なのこの人?!
見た目は全然日本人じゃないのに、外国訛りのない綺麗な『日本語』で歌っている。
ワンコの種類がグループ名の、そのまんま春の歌。
脳内大混乱のまま、サビのところにきて無意識に口ずさんだ。
ザワリ……
周りが揺らめく。
歌姫と私を交互に見る、周りの人たち。
「ユア…… 何で歌えるの?」
驚いたジェイたち。
問われても答える余裕がない。
日本語だ!日本語だ!! 私は泣きながら一緒に歌っていた。
気づいた歌姫が、壇上から目を見開いて私を見ている。
でも歌は止まらない。さすがプロ?
一曲歌い終わると、歌姫が私をまっすぐ見た。
「あなた…… よかったら一緒に歌いましょう」
ニッコリ笑いかけられた。
戸惑う私は、周りの人たちにどんどん押されてステージ下まで来てしまった。護衛らしい騎士さんに壇上までエスコートされる。
わぉ!この人?獣人さんだ!頭の上にお耳がある!!
いや、今はそれじゃない!!
私はステージ中央の歌姫の隣に並んだ。
歌姫に「この歌知ってる?」と確認されながら何曲か選び、一緒に歌う。どれも有名な曲で、歌えなくても誰でも知っているというものばかりだった。
ラストの、柑橘系のグループ名の夏の代表曲を歌う頃は広場中ノリノリで、歌姫が振りまくるタンバリンに合わせて集まった人たちみんな頭の上で手拍子までしていた。
私はコンサートって行った事はなかったけど、きっとこんな感じなんだろうな。テレビで見るフェスとかの映像はこんな感じに大盛り上がりしてたもん。
ラストの歌が終わると、めちゃくちゃ惜しまれながらステージを後にする。
「喉が渇いたでしょ? 一緒に休憩しましょ。 お互い話したい事がある…… わよね?」
ニッコリと歌姫からお誘いがかかる。
そりゃあもう、もちろんです!!
頭の中は疑問・質問でいっぱいです!!
ところで……
あなたはいったい誰(何?)ですか?




