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48話 開店です! 2




開店して一月になる。週一のお休み以外、みんなでがんばって美味しいものを提供しているよ。


食事って味だけじゃないと思う。日本人だからか、チェックの厳しいJKだからか、お店の清潔さとか、店員の接客態度なんかも加点されると思っている。


この国というか、この時代?にはまだそういうのはあまり重視されてないっぽくて、その辺しっかりしているうちは、そういう意味でも人気があるんだと思う。

清潔で居心地がいいなら、また来ようと思うもんね♪


それからこれも人気の元なんだけど。というか、こっちの方が大きいかな。看板娘のアシュリーと、イケメンお兄さんのラックの存在ね。

開店して二週間目にはファンクラブみたいなものまでできていた。

特にアシュリー人気は凄まじい。小さい男の子からお年頃のお兄さん、はてはダンディなおじ様まで全年齢対象のモテっぷり。ちょっとうらやましい。


あまりの人気に、ちょっとした事件までおこったよ!

アシュリー、身体に触れようとした不埒な兄ちゃんの手を、持っていたトレーでテーブルに叩きつけ、ニッコリ笑って銅貨をふんだくり「ありがとうございました♪」と外に放り出した。


そうなんだよ、アシュリーは怒らすと怖いんだよ。私、知ってる。


次の日、反省したその兄ちゃんが謝りに来た時には、まるで気にしてないように謝罪を受け入れ、その後は他のお客様と変わらない対応をしたので『男前』の称号がついた。

見た目可憐な美少女なのに男前な性格のギャップ萌え?ファン増量中。


それに比べるとラックのファンクラブは静かなものだ。

言い寄ろうにもラックは無言でスルー。ラブレターを渡そうにも受け取らず黙って頭を下げるのみ。

最初の頃は熱心だったみなさんのアプローチも、最近では静かに愛でる会みたいになっている。

こっちもファン増量中だけど、愛でる会のみなさんが厳しく取り締まって?くれているから、新規のファンも静かなもので助かる。


でも、ラックには恋人とかできてほしいと思う。お姉ちゃんちょっと妬けちゃうけど!

半分エルフの血を引いているラック。今でも百歳超えだけど、まだまだ長生きするでしょ?どうしても私の方が先に死んじゃうもんね……。

ひとりにならないように、奥さんとか子供とか孫とかいたら淋しくないでしょ?

ラックには幸せになってほしい。いい子がいたらいいなと心から願っている。


アシュリーにはワイアットさんがいるから、このまま男前でいてもらいましょう♪

といいつつ、モテモテのアシュリーに気が気じゃないワイアットさん。もし自分がいない時に何か起きたらすぐに呼んでほしいと、呼び出しベルを渡された。


薄氷のような透明なクリスタル製のベル。

いつでも使えるようにポケットに常備していてほしいと言われたけど、こんな壊れやすそうな物こわいわ!と言えば、魔法がかかっているから丈夫なんだって。

丈夫な上に、意思を待って振らないと鳴らないらしい。魔法製すごいな。


しかも!ここからの音が、いつでもどこにいてもワイアットさんに届くんだって!そしたら転移魔法ですぐに来てくれるとの事。

遠くに離れていても聞こえるとかすごい!転移魔法もすごい!見てみたい!!


……何か起きないかな〜なんて不謹慎な事を思っていたからか、罰が当たって『何か起こって』しまった。




開店して一月も過ぎ、お馴染みさんたちのほかに一般の人たちや、お金持ちに見える人たちまで来店してくれるようになった。


平服を着てお忍びで来てくれている、たぶんお貴族様と思われる人も何人か見かけるようになった頃、まんま貴族とわかる偉そうな男が来店した。

お店の入り口まで馬車で乗り付け(まぁそういう造りになってるから、そこはまだいいとして)先ぶれの従者が、当然のように人払いを命じた。


商業者ギルドには平民向けのレストランとして登録してある。

社交界にも、アイザックさんの伝手を使って平民のお店だと広めてある。私の作る料理は珍しいから、きっと話題になるだろうと先手を打っておいたのだ。だからうちで食事したいお貴族様はお忍びで来てくれている。


うちの基本コンセプトは、たまの贅沢を楽しみに来てくれるお馴染みさんのためのお店だ。

後は、ただ食事を楽しんでくれるなら誰でもオーケーだけどね。威張った貴族なんかに来てほしくないんだよ!


ここは厳しい身分制度の封建世界だけど、私は身分差のない二十一世紀の日本で教育を受けている。

自分がされて嫌な事は人にしてはいけません!!


「ここは平民の店です。身分のある方のおいでになるところではありません。お引き取りください」


お客商売だから丁寧に話したけど、小娘に断られるとは思っていなかったらしく従者は激高した。

本気で怒る大人の男の人は怖かったけど、理不尽な怒りの方が勝った。

引き下がらない私に、アシュリーもトーイも周りのお客様たちもオロオロしている。ラックは私の隣に立っている。


そのうち、迎えのない事に苛立った貴族が馬車から降りて来た。

そして従者から話を聞くと忌々しげに私を睨んで、後ろにいたアシュリーに目を止めた。


何だ? 悪代官か?!

やばいと思ってソッコー呼び出しベルを振った。


瞬間。

ホールの中央、私たちと悪代官の間にワイアットさんが現れた。


室内の温度が何度か下がったような気がする。

実際下がっていたかもしれない。水の魔法使いは氷の魔法で攻撃するらしい。


ワイアットさんが!あのワイアットさんが!!

いつものおとぼけ兄さんの優しい雰囲気はまったくなくて、絶対零度の目の色……。

これ、アイスブルーって色じゃないだろか?同じ色なのに、いつもは優しい青が極限まで凍っている。


あまりのギャップにビックリしていると、相手を震え上がらす低い声がした。


「一度しか言わぬ。お引き取り願おう。二度とここには来られぬように」


反論を許さないブリザードが悪代官を襲った。

悪代官は従者に支えられて転がるように出ていった。


悪代官がどの位の爵位なのかわからないけど、ワイアットさんを見て即座に引いていったって事は、ワイアットさんの方が上位って事なのかしら?さすが高位魔法使い?


「ワイアットさんありがと〜!カッコよかった〜!!」


アシュリーが走り寄ると、ワイアットさんはホッとしたように微笑んだ。

あ、いつものおとぼけ兄さんにもどった。


「ワイアットさんありがとう!座って座って!!今お茶とお菓子を持ってくるね!」


私もワイアットさんにお礼を言うと、それからお客様に謝罪した。


「お騒がせしました!これに懲りず、どうぞごひいきにお願いします!お詫びにもう一つデザートをサービスしますから、どうぞ召し上がっていってくださいね!!」


本当は明日のデザート用のプリンだったけど、怖い思いをさせてしまっただろうから特別に振る舞っちゃう!

ワイアットさんもプリンは大好物だしね!


私の言葉に、ホールにいたお客様たちは歓声を上げた。そしてプリンを食べると声もなく感動した。何人か恍惚としている。

……やっぱりちょっと引くなぁ。


プリンは手間と(冷やさないとならないからね)材料費がかかるから、なかなか作れない。まだデザートで登場したのは一回だけだから、今食べている人たちはお初と思われる。

初めて食べる美味しいものって破壊力あるよね〜!これでお詫びになったかな?


この日の事件と、アシュリー男前事件はずっと語られていく事になる。

私は貴族に一歩も引かず負けなかったという事で、すげぇ!と敬意のこもった目で見られるようになった。


すごくないよ、ワイアットさんがやっつけてくれたんだし。と思っているけど、アシュリーやラックとは違ったファンクラブができたようだ。

そういうのは望んでないよ……。




さてさて、四月はアダムのお誕生日がある。お店を始めたからといって、そういうイベントはなしにならない。

アイザックさんの思いは大事だけど、やっぱり家族が一番だからね!そういう訳でランチのみの営業なんだし。

夜ご飯はみんなで楽しく過ごしたい。朝もちゃんと一緒にご飯を食べるけど、ちょっと忙しいからね。


お誕生会メニューは、定番のハンバーグとパンケーキ。

アダムリクエストの鳥の唐揚げと、シンプルに千切っただけのたっぷりレタス。私的には鳥唐とレタスの相性ってバッチリだと思うんだ!それから春野菜の色々サラダ。春野菜は柔らかいから生が美味しいね♪後はクリームシチュー。こっちは根菜とベーコンの旨味が出てるし、温かい汁物ってホッとするよね♪


「「おめでと〜!」」


アダムの、十九歳なのか十七歳なのか微妙なお誕生日は、みんなの乾杯で始まった。

相変わらずワイアットさんと、オリバーさんも参加。トーイも途中まで参加。

男子チームのみなさん、飲みすぎ注意ですよ〜!


毎度の事ながら、美味しい美味しいと大皿料理は減っていく。

普段わざわざ思う事はないけど、こういう日は改めて思う。ケガも病気もなく、みんな元気で楽しく暮らしていけてる。

毎日美味しいねってご飯が食べられて、お誕生日にはちょっとご馳走を食べて。

やっぱり私は恵まれてるなぁ。幸せだなぁ。


知り合いも増えて、やりがいのある仕事も順調で。

突然この世界に来ちゃった時はどうなるかと思ったけど、もし神様がいるのなら、まぁ半分は感謝してもいいかもね。(半分はやっぱり文句があるよ〜!)

出会ったみんなには感謝だけだけどね!




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