44話 さよならと、よろしくお願いします 2
あんなに落ち込んでいたっていうのに、あんまりビックリしすぎたからか気持ちが切り替わった。
まぁまだ、アイザックさんの死を含めてすっかり立ち直ったって訳じゃないけど。
でも、亡くなった後まで私たちを気にかけてくれたアイザックさんの心遣いをムダにできない!時間は有限なのだ。
私たちは色々話し合って、お菓子売りではなくてレストランを開くことにした。お菓子作りは好きだけど、お料理の方が好きだし、アイザックさんに勧められた事もあったし、何よりやってみたかった。料理を仕事にできたらと思っていたからね。チャンスをもらえるならチャレンジしたい!
方向性が決まると、その他も決めていく。
お店はどこかに出さず、この邸宅の一階部分、使っていなかったホールを改装する事にした。厨房と客席部分と、お客さん用のお手洗いを作る。これは譲れない男女別で、綺麗さには厳しい現役JKが(現役じゃないか)満足するくらいにこだわった!
住居部分とはっきり分けるために、ホールからエントランスに出られるドアをなくして壁にする。
私たちは今まで通り暮らすからね。住居と店内への出入りは、厨房からしかできないようにする。後は一旦外に出て外からの出入りになる。
当たり前だけど、営業中は住居のドアには鍵をかけておくよ。
お店の出入り口はホールの大きな窓をひとつ作り直す。
出入り口の前にウッドデッキを作って、そこにもテーブルセットをいくつか置けばお店らしく見えるでしょ♪
ホールは結構大きかったのに、厨房とお手洗いを作ったら半分くらいの面積になりそうだ。
それでも客席部分は四人掛けのテーブルが余裕を持って八卓は置けるけど。
満席で三十人以上……。初心者でさばけるか心配。
内装工事には時間がかかるからさっそく始めてもらう。
開店はやっぱり始まりの季節の春がいいな〜。内装工事のみなさん、頑張ってください!
他にも色々決めたり選んだりしなくちゃならない事があって大忙しだ。
そんな中、私のお誕生日が近づいてきた。
この国には喪に服すという考えはないようで、みんな当然のようにお祝いをする気でいてくれた。
だけど私はどうしてもそんな気持ちになれなくて、来年二年分祝ってもらうからと、なしにしてもらった。
なしにしてもらったけど、みんなやっぱり残念そうで少しだけ罪悪感。みんなハンバーグとパンケーキをとっても楽しみにしてるんだもんね……。
喪に服すって、私側の慣習であって、この国にはないらしいもんなぁ。
もちろん一年といわず、三月のアシュリーのお誕生日にはちゃんとお祝いしようと思っているよ!
う〜〜ん……。
お誕生日の前の日「おやすみ」とベッドに横になったけど、まだその事を考えていた。
私の都合というか気持ちでみんなの楽しみをなくすのはイヤだけど、やっぱりお祝い気分でもないんだよねぇ……。
でも明日が過ぎたらもう、やっぱりやればよかったと後悔しても取り戻せない。
こんな風にイジイジ悩んでるくらいならと、私はえい!と起き出した。
ハンバーグとパンケーキとまではいかなくても、朝ご飯にフレンチトーストを焼こう!
そうと決めたら、パンを卵液に一晩つけなくちゃ!私は厨房に降りてきた。
火を落とした厨房は寒い。
でもまぁ、作業は簡単だしすぐ終わる。
私はさっさと終わらそうとパンを手にとった。
「ユア、何してるの?」
「うわっ!」
突然声をかけられてビックリした!
「ジェイ!ビックリさせないでよ〜!」
「いや、ユアの声でこっちの方が驚いたから!」
私はバクバクする胸を押さえて文句を言った。ジェイも文句を言い返してくる。
何となく、顔を見合わせて笑ってしまった。
「明日のお誕生日ね、私の都合でなくしてもらったでしょ? やっぱりちょっと悪い気がして、朝ご飯にフレンチトーストくらい作ろうかと思ってね」
「そっか。俺、手伝うよ」
「ありがと!じゃあパンを切ってフォークで何か所か刺して。私は卵液を作るから」
ジェイはパンを切っていく。私は卵を割って牛乳と混ぜ合わせる。
ジェイが、切って刺したパンを卵液の入ったボウルにポイポイ入れながら話し出した。
「フレンチトーストは嬉しいけど、気にしなくてよかったのに。みんなユアがずいぶん落ち込んでたの見てたし、気持ちはわからなくないからさ」
「うん。そっか……。ありがと」
深夜の冷たい空気に温かい言葉が胸にしみる。
「少しは元気になったならよかった。店を始める事になって、生き生きしたユアに戻ったからみんな安心したよ。そりゃあ俺たちも哀しかったけど、ユアの哀しみ方は見てられないくらいだったからさ……。ほんと、よかった」
え……
安心したように笑うジェイ。
私はチクリと罪悪感。
確かにアイザックさんが亡くなったのは哀しかったけど、それと同じくらい自分の事を哀しんでいた…… なんて知ったらみんなどう思うんだろう。
心配してくれてたのに、実は自己中なヤツだったなんて呆れられちゃうかな。
怖かったけど、ジェイからのまっすぐな心配と安心の眼差しが居心地悪くて、目をそらして告白した。
「私が落ち込んでたの、アイザックさんの事だけじゃないんだ。アイザックさんが亡くなってとても哀しかったけど、それは本当だけど。アイザックさんの死で、私思ったの。私はおばあちゃんやおじいちゃんのお葬式に出られないのかなとか、お母さんやお父さんの最後に立ち会えないのかなとか。私はもう家族に会えないまま、ここで死ぬのかなとか。私が死んでも弟達ははそれを知る事もないのかなとか……。そう考えたら怖くて哀しくて、どうしていいかわからなくなっちゃったの」
そう思う事は今でもとても怖い。
心が冷えて涙も零れそうになる。
「ユア……」
「そんな顔しないで。どうしようもできない事を嘆いているより、できる事をしなくちゃね!亡くなった後まで私たちの事を考えてくれたアイザックさんの気持ちをムダにできないもんね!」
ジェイは、アイザックさん…… と、小さくつぶやいて、私をしっかり見た。
「ユア、ユアが俺たちの世界に来たのがどうしてなのかわからないけど、もしこっちの世界のせいならごめん!!」
「ジェイ?」
「だけど俺、ユアがそんなに哀しんでるのにひどいヤツだけど、ユアに出会えてよかったと思ってる。ユアと一緒にいられて嬉しいんだ。もう二度と離れたくない。ごめん、ひどい事言ってるけど、俺はずっとユアと一緒にいたい。ユアがいた世界に残してきたすべてになれるように努力するから!幸せだと思ってもらえるように死ぬまで努力するから! 俺と結婚してください!!」
え〜〜〜!!! まさかのプロポーズ?!
脳内が?いっぱいだよ!
何で今? いや、何で今はいいとして、何でプロポーズ?
付き合ってください飛び越して、プロポーズ?!
脳内大混乱で返事もできないでいると、それをどうとったのかジェイは焦って言った。
「もちろん今すぐじゃなくていい!! あの…… い、い、い、やって返事、、、です、か……」
あんなに情熱的なプロポーズの後に、このカミカミの弱気発言……。
私は吹き出してしまった。
「ユア?」
あ〜、おっかしい!
ジェイってすごくカッコいいのに、すごく可愛いところもあるんだもん。まったく、最強か! 私、可愛さ負けてるよ。
「私も結婚するならジェイがいい! だけどもうしばらく待ってくれる?私の感覚だと、精霊界にいった時間はカウントされてなくて、私の中では明日で十六歳なの。十六歳で結婚って、私の常識じゃ早すぎてありえないんだ。まずは恋人でよろしくお願いします!」
照れた私は、告白番組のマネをして頭を下げて手を差し出した。
「あぁぁ!!ありがとう!! 一生大切にする!!」
ジェイは私の手を引くとギュッと抱きしめた!
わーーー!!! いきなりか!!
早い早い!! いや、早くないか?
いや、早い!!
脳内再び大混乱!!
こうして私たちは恋人になりました。
……あれ? 結婚前提だから婚約者かな?




