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43話 さよならと、よろしくお願いします 1




お誕生日会の次の日はお休みにしている。

これはリーリウムにいた時から何となく変わらなかった事だけど、今日は男子チーム助かっただろうな〜。


ジェイとアダムとワイアットさんは軽く二日酔いになっている。ワイアットさんは帰れずお泊まりしてるしね。あれからどんだけ飲んだんだろ?

さすがダンディチームはその辺ちゃんと見極めてる。

ちなみにラックは毎度の事だけど飲んでないよ。


今朝もアイザックさんと日課のリンゴ林にお散歩に行く。

私はどうしてもモヤモヤが晴れずにいて、昨日のトーイの事や、その後考えていた、この世界に来た自分の意味みたいな事を話した。


「貧しい者を憂う事はない。ユアがどんなに頑張ってもすべてを救う事はできんし、またそう思う事は傲慢じゃよ。みな日々懸命に自分の力で生きておるからの。

それにユアにはクッキーのような一口の幸せをあたえられる。何もできない者からしたらそれだけでも十分すごい事じゃと、ワシは思うよ」


そっか〜、哀しく思うのは傲慢なのか。

私は気持ちを切り替える。

できない事を嘆いていないで、それよりできる事を一生懸命しようと強く思った。

それってもう一つの、私がここに来た意味的なものに繋がるかな。


「それはワシにもわからん。一つ言えるなら、ワシは人生の最後にユアと出会えた事を幸せに思っている事じゃ。ワシが三十年若かったら求婚してたかもしれんな」


アイザックさんは片目をつぶって笑いかけた。

私は吹き出した。

アイザックさんたら何を言うんだか。


「ジェイたちも毎日元気に幸せそうにしてるじゃないか。生活苦のない余裕というのもあるだろうが、明るいユアの存在も大きいぞ。それに美味い物を食べると人は幸せを感じる。妻にも食べさせてやりたかった……」


奥様を想って遠い目をしたアイザックさん。

さっき私にプロポーズしてたかもと言ってて、この愛妻家発言だもんね!まったくこのラブラブ夫婦め!うらやましいぞ〜!


やっぱりアイザックさんと話してよかった。私はすっかりモヤモヤが晴れて元気になった。

今までも思ってきた事だけど、自分にできる事を精一杯やろう。この世界だからとか日本だからとかそういうんじゃなくて、私の人生だからね!




アイザックさんのお誕生日が過ぎて何日かたった。

あんなに残暑が厳しかったのに、朝晩はめっきり秋らしくなった。


秋が深まるにつれて、アイザックさんがだんだん弱ってきた。

本当に余命半年なの?と思うくらいお元気だったから、知らされていた事だったけど私は動揺した。

依頼を受けての期間限定の居場所なのに、思っていた以上に私は大人に守られている環境に安心していたようだ。


それに私は今まで身近な人の死を経験した事がなかった。

アイザックさんがいなくなるかもしれないと考えただけで、何と言ったらいいかわからない、喪失感みたいなものが心を覆った。


クッキー売りも本当は行きたくなかったけど、アイザックさんから頼まれたから続けている。

売れ行きは変わらず早いから、行き帰りに走れば二時間くらい離れるだけですむ。


アイザックさんの体調のいい日はリンゴ林のお散歩も続いていて、不安定になる私の心を平常に戻してくれる大切な時間になった。

今まで以上にたくさん話をする。といっても私ばかり話して、アイザックさんは頷いてくれてるだけだけど。

何でもいい。ずっとこうしてアイザックさんと過ごせたら。

だけどそんな大切な時間はどんどん少なくなっていった。


十月になった。

アイザックさんはベッドにいる事が多くなってきた。

やっと食べごろになったリンゴをすりおろして持っていく。食の細くなったアイザックさんも、好物のリンゴなら喜んで食べてくれる。

だけどそのうち固形の物が食べづらくなったアイザックさんの食事は、リンゴジュースになっていった。


十一月になった。

アイザックさんはもうほとんど一日中眠っている。治癒魔法使いさんのおかげで痛みはないらしい。よかった。


クッキー屋さんは閉店した。

私のいない間にアイザックさんにもしもの事があったらと思うと、とても行ってられなかった。それに元々スポンサーがいなかったらできない事だし。

売りたい気持ちはあっても、普通に働いて得る私たちの収入ではあんなほぼ寄付みたいな事はできない。

お菓子の原価はかなりする。ちゃんと商売になったサンドイッチを売っていたのとは違うのだ。


私の様子はおかしかったけど、他のみんなは変わらない生活を送っていた。

私とリアンさんがアイザックさんに付き添っていたから、アシュリーとラックが家事をしてくれて、ジェイとアダムはギルドに仕事に行っていた。すぐに帰れるように近場の依頼を受けていたようだけど。


十二月になったある日。

ずっと眠っていたアイザックさんが、ふいに目を開けた。


「リアンさん!アイザックさんが!」


私は大声でリアンさんを呼んだ。私の大声でみんな集まってきた。

アイザックさんは長い間眠っていたとは思えない程しっかりした顔つきで、私たちの顔を一人一人見回した。


「短い間だったが楽しい最後を過ごせた、ありがとう。みんな、幸せになりなさい。

リアン、長い間世話になった。先に行って待っている。おまえがいないとリリィが怖いからな」

「旦那様……」


涙目のリアンさんに、こんな時なのにちょっと悪い顔で笑いかける。


「あぁほら、リリィが迎えにきてくれた……。おまえはゆっくり来なさい」


リアンさんに穏やかに笑いかけると、アイザックさんは目蓋を閉じた。

本当に奥様が来てくれたんだろうなと思える、愛妻家のアイザックさんらしい幸せそうなお顔だった。




ご葬儀は少人数だけど、みなさん心からアイザックさんを偲んでくれているのがわかる温かいものだった。

ご葬儀その他、全部リアンさんが取り仕切ってくれて、私たちはただの参列者だった。


引退したといってもアイザックさんは大商会の会長さんだったから、盛大なご葬儀かと思ったけど、死後は誰にも知らせず葬儀は迅速に終わらせるよう指示があったらしい。

後継者さんご一家と、特に親しかったお知り合いだけの参列だった。


埋葬が終わると、みなさんリアンさんに挨拶をして帰っていった。

何だかあっさりしているなぁ。

ずいぶん日本とは違うような。といっても映画やドラマでしか見た事はないけどさ。


ご葬儀の翌日は雪になった。

アイザックさん、雪ですよ……

私は部屋の窓から、雪が落ちてくる空を見上げている。




アイザックさんが亡くなって今日で四日。私はご葬儀に参列した以外部屋に閉じこもっていた。

ひとつの、とても怖い考えがずっとグルグルしている。

アイザックさんが亡くなった事で、私は気づいてしまった。


私、おばあちゃんやおじいちゃんのお葬式に出られないの?

お母さんやお父さんの最後に立ち会えないの?

私はもう家族に会えないまま、ここで死ぬの?

私が死んでも、弟達はそれを知る事もないの?

私は怖くて哀しくて淋しくて、膝を抱えて丸まる事しかできなかった。

アイザックさん、どうしたらいいですか?


五日目に、リアンさんから呼ばれた。

アイザックさんが亡くなって、依頼が終わったからここにいる理由はなくなった。出て行かなくちゃならないね。

その話だろうと食堂に行くと、ジェイたちとリアンさんの他に、見知らぬおじいさんがいた。弁護士さんだって。

弁護士さんが入るほどの大事なんだろか?約半年の長期の依頼だったから、私の知らない何かしらがあるのかな?と思っていると、アイザックさんからの追加の依頼だった。



依頼内容。

アイザックさんの遺産から、クッキーのような、幸せを人々におすそ分けをする事。期間は生涯。

報酬。ユアにはこの邸宅の半分。ユアの伴侶には残り半分。ラックにはリンゴを含むリンゴ林。アシュリーは残りの敷地。アダムは馬車と馬。

費用は遺産から出す事。得た収入は生活費にしていい事。



そんなような事を、よく響く低いお声で告げられた。

てっきり事後処理の話かと思っていたから、まったく斜め上の話にビックリだよ!

こんな風にアイザックさんに驚かされるのは二回目だ!

ビックリしすぎて沈んでいた気持ちがどっかにいったよ!


アイザックさん……。

私の弱気、空の上から見ててくれたのかな。

ありがとうございます。


ちなみにリアンさんにも「死ぬまで使いきれません……」という程の退職金があったって。


そういえば邸宅の半分は私の伴侶って…… やっぱり名前のなかったジェイの事だよね。

アイザックさん……。





数多ある物語の中から、目を止め読んでくださってありがとうございました。


ブックマークがついた時はとても嬉しかったです!

楽しみに思ってくれている人がいるかも!なんて妄想してひとり喜んでいました(笑)

本当に本当にありがとうございました。


もしも気に入ってくださったなら、次回作でまたお会いしましょう。


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