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42話 この世界に来た意味を考える 2




アイザックさんのお誕生日当日。

今日はお休みじゃなかったけど、しっかりワイアットさんがいるのには笑ってしまった。

お誕生会の話、誰から聞いたんだろう?

でもまぁきっと来るだろうと、ちゃんと人数に入れてある私も人の事をいえないか。


食べる分働いてもらいます!という事で、ワイアットさんにも参加してもらってお肉を細かくきざむ。

途中からミンチ作成は男子チームにお願いして、私とアシュリーは他のお料理にとりかかる。


パンケーキも焼かないとね!

焼きたてではなくなっちゃうけど、人数がいるから枚数を焼かなくちゃならないし。

暑いから、冷めたといってもほんのり温かいでしょ♪


今日はまだトーイが来てない。ちょっと考えて私の分のハンバーグを二等分する。

来なかったら男子チームの誰かが食べてくれるでしょ。何だか今頃になって夏バテ?夏の疲れが出たのか、食欲がイマイチないんだよね。でも何故か全然やせないけど!

カキ氷器を作ってもらった職人さんにジューサーも作ってもらった。最近の私の主食は野菜ジュースだ。


おっと、急がなくちゃ!お昼までクッキーを売りに行ってからの準備だから、ゆっくりしてる余裕はない。人数が増えたから余計ね!

私はあっさり塩味の夏野菜のパスタと、さっぱり生ハムのマリネを作る。

アシュリーはせっせとパンケーキを焼く。


アシュリー、お料理もだけど、お菓子作りが好きみたい。

最近はクッキーを作るのがアシュリー、売りに行くのが私みたいになっている。

そういえば、女の子のなりたい職業の上位にパティシエってあったような。

可愛いアシュリーに似合うなぁ。私のイメージのパティシエだけどね!


パンも、しっとり中身のあるバターロールがそろそろ焼き上がる。

これもアシュリーと試行錯誤して、やっと満足いくようになったのだ。

ちょっとお行儀が悪い気がするけど、ハンバーグのソースをつけて食べたら美味しいんだよね〜♪




夕方になって、少し早めにジェイとアダムも帰って来たし、ハンバーグもいい感じに焼き上がった。

そろそろお誕生会を始めますか!


『アイザックさん、お誕生日おめでとうございま〜す!!』


乾杯♪ とグラスを合わせる。


お誕生日だけの特別メニュー。

もう何度か食べたうちの子たちと(気分はお母さんなもんで)二回目のアイザックさんとリアンさんも喜んで食べているけど、引くほど喜んでいるのは毎度ワイアットさんだ。


「肉を細かくきざんでいる時は一体何かと思ったけど、これほどのものになるとは!お菓子だけじゃなくて料理まで!こちらは本当に奇跡の家です!!」


毎度引くわ……。


ワイアットさん、高位魔法使いのはずなんだけどな〜。

お金持ちならいいものたくさん食べてるんじゃないの?宮廷魔法使いって貴族みたいなイメージなんだけど、とてもそうは思えないガッつき方だよ。


「ワイアットさんのお誕生日はいつ?そんなに喜んでくれるなら、ワイアットさんのお誕生日もお祝いするよ」


引きながらもそう言うと、


「六月です! ……あぁ!まだ一年近く先にある!!」


喜びの表情と絶望の表情。器用だな。

というか、喜怒哀楽が激しすぎる!

魔法使いってみなさんこんな感じなの?


とまぁ、騒がしかったりするけど、大きなテーブルを囲んで楽しく食事は続く。

ずっとこんな日が続けばいいな。私はみんなの顔を見回しながら、心からそう思った。




九月になって日が落ちるのが早くなって来た。

薄暗い窓の外を見て、今日はもうトーイは来ないかなと思っていると


「こんばんは!最後の配達がこの先だったから遅くなったけどよってみました!あっ、すみません、もうご飯の時間でしたか」

「トーイ、こんな時間までお仕事お疲れさま!全然大丈夫だよ〜」


トーイはお金持ちへの配達もあるから言葉遣いが綺麗だ。

私はクッキーを持ってくると銅貨と交換して、食事時だからとすぐに帰ろうとするトーイを誘ってみた。


「今日はアイザックさんのお誕生日なの!もし時間が大丈夫なら、ちょっとだけお祝いしてって」


用意しておいてよかった!

用意周到?何かイメージが悪いな。準備万端?

……まぁ、何でも用意があるといいって事で♪


トーイはうちでご飯を食べるのは初めてだ。

初めてがお誕生会の特別メニューだなんて、ちょっと驚いちゃうかな?


「おうちに帰ったらご飯でしょ?だから少しね」


席に着いたトーイに、少しづつ取り分けて料理を勧める。

トーイは目の前に並べられた料理を見て、みんなを見回している。

それから困ったように


「こんな料理見た事なくて……。どう食べたらいいかわからない……」


あらら。そういえば、ハンバーグとかパスタはこの国にはなかったね。


「フォークでもスプーンでも自分の食べやすい方で食べたらいいよ。わからなかったらみんなの真似をしてみて。作法とかないから!美味しく食べたらいいんだよ」


トーイはまずスープにスプーンを入れた。


「ふわぁ……」


感嘆のため息。美味しそうでよかった。

私はあまり見ないようにしつつ、でもしっかり気にしながら自分も食事を再開する。


おしゃべりをしながら食べたり飲んだりしていると、トーイの手が止まったのに気づいた。

隣のトーイを見ると、ポロポロ涙をこぼしている。


えぇぇ!! トーイどうした?!


びっくりしすぎて声も出ないでいると、ポツポツとトーイの声が落ちる。


「こんな食べもんがあるなんて……。うちじゃパンとスープくらいで……。あのクッキーだってすごい美味くてご馳走みたいに思ってたのに……。何でこんなすごいものが食べられる人がいるんだろう」


なになに?? どういう事?

涙に驚きすぎて、トーイの言葉がうまく理解できない。オロオロしていると


「そうだよな、世の中って不平等だよな。一生懸命働いても、パンと、よくてスープくらいの飯が普通ってヤツが大半だもんな」


アシュリーとアダムは頷いている。

アイザックさんとリアンさんと、何故かワイアットさんも同意の眼差しでジェイを見ている。


えっと、えっと、えっと……。


日本の一般家庭では、これってごく普通の夕ご飯だと思う。品数が多いのはお誕生日メニューだからだし。

うちは特にお金持ちって家ではなかったけど、これくらいは通常の食生活だった。何か、罪悪感みたいなものが……。


「ユア、そんな顔するな。ユアのいた国が平和で豊かなのはユアのせいじゃないだろ?平和で豊かなのはいい事だよ。おかげで俺たち美味い物が食えてるしな」


ジェイは笑って言った。


「トーイ、私たちも村で暮らしていた頃はそんなご飯だったよ。ユアと知り合って色んなものを食べて、美味しいって意味を知ったの。トーイ、美味しい?」

「わからない。今まで食べた事のないものばかりで、どう言っていいかわからない、けど… クッキーと同じくらいびっくりした」

「トーイ、食べろ食べろ!アイザックさんのお誕生祝いだし、しんみりするな!帰る時間もあるだろ?早く食べちゃわないと遅くなるぞ」


それからトーイは噛みしめるように全部食べると「美味しかった!」と笑顔で帰っていった。


酔いが回った男子チームは賑やかになっていった。

酔っ払いはほっといて、女子チームは後片付けをしたらお風呂に入ってさっさと寝る事にする。




その夜。

ベッドに横になってトーイの事を考える。

あの涙はショックだったな……。

ジェイたちやアイザックさんたち。

ラックは何も言わなかったけど、きっともっとひどい環境で生きてきたと思う。


今まで考えた事はなかったけど、私がこの世界に来た意味みたいなものってあるのかな?

物語にある、救世主や勇者や聖女なんてポジションじゃないのはわかってるけど、二十一世紀の日本に生きていた私にできる事があるのかな……。


この夜はずいぶん考えて、なかなか眠れなかったよ。




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