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39話 クッキー売りと配達の少年 1




アイスに気をよくした私はお菓子も作る事にした。

お菓子の中で作りやすいのはクッキーかな?この国にあるもので作れるものには限りがあると思うし。


クッキーは、小麦粉とバターと卵とお砂糖で作れるシンプルなものだ。ゴマを入れたり、ナッツを入れたり、茶葉を入れたりバリエーションも広がる。

とりあえずシンプルにプレーンなクッキーを作ってみる。


「ユア!これも美味しいね〜!何でもっと早く作ってくれなかったの!」


お砂糖が高価なものだからだよ……。

お料理にだってそうそう使えなかったのに、お菓子にまで手が回るかぃ!アイザックさんのおかげでお菓子も作れるようになったんだよ〜!


「これ、初めてあった時に食べさせてくれたヤツ?」

「憶えててくれたんだ!そうだよ〜!」


憶えててくれて嬉しい!

クッキーを作ろうと思ったのは、やっぱりジェイに食べてほしかったからというのも大きいからね。


「サクサクした食感……。軽くて甘くて美味い食べ物じゃな」


アイザックさんも喜んでくれている。

アイザックさんにはたくさん美味しいものを食べてもらいたい。


「ユアの作るものは美味いだけじゃなくて人を幸せにするな」


しみじみと、笑顔で最高のお褒めの言葉をいただいた。

そんな風に言ってもらえるなんて、照れるけどとっても嬉しい。


「子供の頃にこれが食べられたらどんなに嬉しかったじゃろうな……」


ちょっと淋しそうに言った。


アイザックさん、王都生まれだけど貧しい家に育ったそうだ。いつか腹いっぱい美味いものを食ってやるとがむしゃらに働いて、血と汗と努力の末、大国でも名の通った大商会までになったんだって。

人生の後半は贅沢に囲まれていたけど、子供の頃のひもじい記憶はずっと残っていると笑って言った。


「アイザックさん、クッキーを売りませんか?銅貨一枚くらいなら子供でも買えるでしょ?」


クッキーは一枚でもわりと材料費がかかっている。銅貨一枚では赤字になっちゃうけど、アイザックさん(スポンサー)の了解があればできる。


「そういえば慈善事業はやってこなかったな……。死ぬ前にやってみてもいいだろうよ」


笑顔で了承してくれた。




クッキーを食べた事のない子供のために、まずはプレーンなものを作ってみた。サイズは直径ハセンチくらいとちょっと大きめだけど、シンプルな丸い形にした。

それを蓋つきの瓶に入れて(駄菓子屋さんにあるイメージのアレね)商業者ギルドに行く。


売り物を申告すると、紹介されたのは一般の市場だった。

貧民街に出品したいと希望したら渋い顔をされた。ギルドを出るまで、貧民街ではもったいないとブツブツ言われたよ。

初日だからアイザックさんも一緒にきてくれて、言われた通りで売り場を作る。

おじいちゃんと孫に見えるかな?ちょっと嬉しい。


アイザックさんは懐かしそうに周りを見ていた。この辺りってアイザックさんが育った所なのかな?


ちなみにラックはちょっと離れた所から気配を消して護衛してくれてるよ。

見たところ売り手は一人が多いから、私たちの、おじいちゃんと孫っていう風で何とか浮いていないと思われる。三人もいたら悪目立ちしちゃうからね!


その通りには、私たちの他にも色々な売り屋さんがいた。

敷物の上に商品を並べただけのお店?で、日本のフリーマーケットみたいな感じかな。

なかなか盛況で、町の中心部の市場では手の出ない、貧しい人たちの市場のようだった。


準備ができて、しばらくお客さんを待っているけど……。

他のお店には人が寄って行くのに、私たちのお店には様子見の視線を向けられるだけだ。


どうしよう!せっかく焼いてきたのに全部売れ残っちゃったら!

やっぱり見た事のないものには警戒しちゃうんだろか?

食べてもらえれば美味しさはわかってもらえるのに!


食べてもらえれば……?


そうだ!と、私はクッキーを何枚か取り出して一枚を四つに割って、よく通るように少し高めの声を張り上げた。


「お初にお目にかかります!今日からこちらで商売をさせてもらいます。お子さん向けのお菓子です。まずはご挨拶代わりにお味見をどうぞ!」


トレーに小さく割ったクッキーを並べて道行く人に差し出してみる。特に子供や、小さい子供がいるようなお母さん世代に。

最初は怪訝そうな人たちも、ただで食べられると知るとだんだん集まってきた。

試食販売って珍しかったみたい。後からアイザックさんに上手いやり方だと褒められた。


「味見ってただって事?後からお金をとるなんてないでしょうね?」

「お味見はお味見です!お気に入ってもらえましたら、どうぞお買い上げください!お気に入らなければそのままお帰りいただいてけっこうです」


「なになに?」

「ただで食べていいってさ」

「これ食べ物なんだ?」


ざわついてきて、誰が一番に手を出すかと周りをうかがっているのがわかった。

私は少し屈んで、十歳くらいの男の子に話しかけた。


「どうぞ! これはお金はいらないから食べてみて。美味しかったらあっちにある売り物の方を買ってくれる?」


ニッコリ笑ってトレーを差し出した。


男の子はなかなか勝気そうな顔をしている。声をかけられて驚いているけど、逃げるもんかと目に力が入った。

そのまま黙ってクッキーを一つつまむと、えいっ!と一気に口に入れた。

サクサク音をさせながら、もぐもぐもぐもぐ……。ごっくん。


「何これ!すげえ美味ぇ!!こんなの初めて食べた!! もう一つ、いい?」


上目遣いにおねだりされたけど、まわりには大勢の人がいる。一人だけひいきはできないよね……。

私は、いいよと言う言葉をグッとガマンして


「ごめんね、大勢の人に食べてもらいたいから、試食は一つなの」


元々弟ラブの私は、同じ歳くらいの男の子にめちゃくちゃ弱い。

ちっちゃな欠片一つあげられない罪悪感に哀しい声になってしまった。


「おれ、配達の途中なんだ!駄賃をもらったら絶対また来るから!絶対ひとつ残しておいて!絶対だよ!」


やけに絶対を連呼するのにちょっと呆気にとられたけど、一生懸命なのが微笑ましい。

私はニッコリして


「はい、お取り置きしておきますね!お客様のお名前は?」

「トーイだよ!絶対とっておいてね!」


最後にそう言うと走り去って行った。

あんなに名残惜しそうにしてくれて素直に嬉しい。

トーイの様子があまりに美味しそうだったからか、次々にトレーに手が出始めた。


「美味しい!あの子、客寄せかと思ったら違ったのね」

「美味しい!こんなの初めて!ひとつちょうだい」


試食をしてくれた人はみなさんお買い上げだ。ありがとうございます!!


中にはこんなお客さんもいて、どこの世界にもおばちゃんパワーってあるんだなぁと思ったけど。


「美味しい……。これで銅貨一枚なの?五枚ちょうだい」

「すみません、数に限りがあるのでお一人様一枚の販売にさせてもらいます。明日も参りますので、また明日のお買い上げをお待ちしております」

「ケチケチしなくてもいいじゃない。買ってあげるって言ってるんだから!」

「すみませんな。これは手作りで数が多くできませんのじゃ。どうぞまた明日お越しください」


強引なおばちゃんに困っていると、アイザックさんが横からやんわり断ってくれた。

見るからに威厳のあるおじいさんの言葉に、おばちゃんは渋々引いて行った。

さすがアイザックさん!誰が見ても貫禄があるんだね!


人だかりはさらに人を呼んで、ギルドで手続きをしてから来たから十時頃に開店したというのに、お昼前には売り切れてしまった。


味はいいからね!味の割にお値段は信じられないくらい安いんだもん、そりゃあ売り切れるよぉ!

まぁ様子見で今日は三十枚と数も少なかったのもあるかな。明日はもう少し焼いてこよう。

でもこのクッキー、売れば売るほど赤字になっちゃうんだよね。


一応売れ行きがわからなかったから、お弁当も持参していた。

アイザックさんとサンドイッチを食べながら、トーイを待つ。


「あの男の子、あんなに小さいのにもう働いているんですね」

「貧しい家の子ならあんなの普通じゃよ」

「学校は?」

「学校に行く金もないじゃろう。それより食うために働かなければ生きていけん」


ジェイから、辺境の貧しい村の話は聞いていたけど王都でもそうだったなんて。

何となく都市部では生活や教育はしっかりされているもんだと思っていたよ……。


ゆっくりお昼を食べ終わる頃には、周りの店じまいも始まっていて、フリマはだいぶ縮小されていた。




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