37話 王都と水の魔法使い 1
アイザックさん、ロサに旅立つにあたって大型の馬車を買った。
御者さんも雇ったり、馬車一台まるまる居心地のいいように造りなおしたり、一体どれほどのお金がかかっているんだろう。庶民の私には想像もつかないよ。お金持ちというのは本当だったんだ。
通常リーリウムからロサまで馬車で十日ほどらしいけど、アイザックさんの体調をみながらだから、宿泊する町を一日で立ったり、三日も休んだりと倍以上の日数をかけての旅になった。
それでも新しい町を見たり、楽しい事をみつけたりと充実した毎日だったと思う。
旅立ってすぐに七月になった。
七月十日はラックと初めて会った日だ。ラックはお誕生日を憶えていなかったから、それじゃあって砦にいる時に、初めてあった日をお誕生日にしようって決めたのだ。
旅の途中だからお料理はできなかったけど、みんなで『おめでとう』を言って、ロサで落ち着いたらお祝いをしようね!という事になった。
そうして順調に旅は進んで、アイザックさんは体調を崩す事もなくぶじロサに着いた。
ロサは大陸一の大国の王都だけあって、そりゃあもう大きかった。
リーリウムも大きな町だと思っていたけど、王都と比べちゃいけないくらいだ。さすが王様がいる都。
そんな町の、ちょっと外れにアイザックさんの家はあった。
家というより大きなお屋敷だったよ!
「妻と結婚してから最初に持った家じゃよ。見栄を張って奮発した」
照れたように言う。
奥様の事が大好きだったんだろうなぁと思える、微笑ましい話だ。
馬車でそのまま入れる大きな門を進むと、馬車道のある広い庭の先には、大きな邸宅があった。
フロントは、何ていうか…… ホテルなんかにある、車から入り口につけてエントランスへ、みたいな造り(わかる?)になっている。
車じゃなくて馬車だけどさ。
邸宅の一階には、エントランスと大きなホール。茶会とか夜会なんかができそうだ。
それから大きな個室がひとつ。元々はアイザックさんの執務室だったとか。
あとは厨房やダイニングルーム、お風呂やトイレなんかの水回りがあった。
二階は個室が六つ。
あら、私たちがひとつづつ貰っても余るくらいだ。
アイザックさんご夫婦の部屋だったのか、続き間のある大きな個室?もあったり。
庶民の私の個室のスケールじゃあないよ!
邸宅には管理者のおじいさんがいた。
アイザックさんの長年の従者さんで、リアンさんという。従者さんというより家令さんって感じに見えるけどね。
このお屋敷を一人で管理してたんだって!お疲れさまです!
これからリアンさんに習ってやっていこうと思う。
ちなみにリアンさんは住み込みだから従業員用の部屋があるはずだけど、それらしい部屋は見当たらなかった。隠し部屋か?
ロサに着いて、アイザックさんが王都観光に連れて行ってくれた。
この人本当に余命半年なんだろか。とってもお元気に見えるんだけど。お元気なのはいい事だけどさ!
それはそうと、王都はとても面白かった。さすが大陸一の大国だけあるよ。色んな物も人も集まっていて、すさまじく活気のある都市だった。
黒い髪の人も、黒に近い濃い色の髪の人も見かけた。これなら私もラックも目立つってほどじゃないかも。
ロサでの生活もちょっと落ち着いてきた頃、ラックのお誕生祝いもできた。
ついた翌日から家事は任せて貰っていたから、お買い物もお料理も私たちがやった。
お誕生祝いにちょっと特別感のある料理をするんですよと話していた流れで、リアンさんのお誕生日を聞くと七月だという。
それならと一緒にお祝いをした。
ちなみにアイザックさんのお誕生日は九月だって。九月にまたお祝いしなくちゃだね!
アイザックさんもリアンさんも、初めて見るハンバーグに驚いていたよ。とっても美味しそうに食べてくれてたからよかった。ご高齢にはちょっと重いお肉料理かと思ったからね。
パンケーキにも驚いて、喜んでいた。アイザックさんはお金持ちだから高価なハチミツもケチらないで用意できたしね!
今回は大人が二人いるから(成人という意味では全員だけど)果実水の他にワインも用意した。男子チームが喜んで飲んでいたよ。
……アイザックさん、本当に余命半年なんだろか?
男子チームといっても、ラックは飲酒しなかった。たまには羽目を外したらいいのにね。でも喜んでいたからいいとするか。
日常生活は、リーリウムにいた時とそれほど変わらなかった。
ジェイとアダムはギルドに仕事に行って、私たち三人はお屋敷でお掃除やお洗濯や、お買い物に行ってご飯を作ったりしていた。
リアンさんにはアイザックさんのお相手をして貰っている。もうご高齢だからね、家事は私たちに任せてください!
本当は私たちもギルドに行って何か仕事をした方がいいと思うけど、やるならお料理関係がいいなぁ。
でもお弁当屋さんは暑いうちはやめておきたいし、涼しくなってからもリーリウムの時の事を思うと躊躇してしまう。
何せこの国、衛生面がイマイチなんだもん。
なんて話していたらアイザックさんが、それなら店をやればいいじゃないかと言い出した。費用は出してくれると言う。
いや、待って!
今だって食住にお金はかかってないのに、そのうえ依頼報酬までいただいちゃっている。これ以上甘えられないよ!
それに、アイザックさんが本当に余命半年なら(いや、疑ってるんじゃないよ? お元気で長生きできたら喜ばしい事だからね!)具合が悪くなってからが私たちの出番だと思うんだ。
お店なんか始めちゃったら休めないし、休めなかったらアイザックさんに付き添う事ができないじゃん。
というような事を伝えると、アイザックさんとリアンさんはほんわり喜んでくれた。
それなら家の事をするのが仕事でいいじゃないかと言われて、そうしようかという事になった。複数の人が住むと家って色々やる事ができるからね。
結局甘える事になっちゃったなぁ。でもそう決めたら一生懸命やるだけだ!家事もお庭の手入れも。
お庭といえば、門から入った前庭は、色々な木や花が美しく彩っている。リアンさんが丹精込めて作り込んだ傑作だ。
それとは別に、家の東側から裏庭にかけてちょっとした林があるのに驚いた。
個人の敷地の中に林!庶民の私には何度目かのビックリだよ!
何の木かと聞けば、全部リンゴだという。
「妻の好物だったものでな。リンゴも品種がたくさんあって、集めているうちにあんなになってしまったんじゃよ」
アイザックさん、ちょいちょい奥様ラブの発言がある。きっととても仲のいいご夫婦だったんだろなぁ。
おじいさんとおばあさんになってもラブラブ。
いいな〜、憧れるよ!
私も結婚したらそういう夫婦になりたい!と思って、思い浮かんだのは…… ジェイだった。
きゃーーー!!!
恥ずかしいっ!!
何ひとりで妄想してるんだ!!
別に誰かに頭の中を見られてる訳でもないけど、めっちゃ恥ずかしい!!
真っ赤になって挙動不審になっている私を見て、アシュリーは「はいはい」とスルー。
どういう事ですか?何か見えたんですか?!
リンゴ林に行って、リアンさんが一つ一つ品種を教えてくれた。
一般的な赤いリンゴは甘さと酸味のバランスがちょうどいいとか、薄い緑のリンゴは爽やかな香りと甘さが特徴とか、黄色っぽいリンゴは甘味が弱いからサラダに向いているとか。
驚いた事に白いリンゴもあるんだって!
これはとにかく甘いらしく、お砂糖もハチミツも入れなくてもジャムやリンゴ漬けが作れるほどだそう。
それはお菓子作りにいいね!リンゴならお菓子の種類もたくさんあるし!
ウキウキしていると、もっと驚く事があった。
なんと銀色のリンゴもあるんだって!
白いリンゴだって見た事も聞いた事もなかったのに、銀色だって?!
さすがファンタジー!!
でもそれは品種じゃなくて、リンゴ林のどこかにあるかもしれない、見られたら幸せになれる。とかいう、リンゴ林にある迷信みたいな話なんだって。
いいね〜!
私はそういう不思議な話が大好きなんだ♪
銀のリンゴを見てみたい!
という事で、毎朝男子チームを見送って朝の家事が一段落したら、アイザックさんとお散歩がてらリンゴ林に行くようになった。
銀のリンゴを見つけなくっちゃ!




