36話 転機 2
おじいさんが落ち着いたのを見て、三人で遅いお昼を食べる。
そういえば、おじいさんお昼は食べたのかしら?
気になったけど、よく眠っているようだからそのまま寝かせておいた。
おじいさん、よっぽど具合が悪かったのか、全然起きない……。
こわいから何度か息をしているか確認したよ!
夕ご飯の支度を始めても起きない……。
そろそろ本気で心配しだした頃、帰宅してきたジェイたちの声で目を覚ました。
「気分はどうですか?」
私は心から安心して声をかけた。
ちゃんと生きてたよ〜! よかった!!
「あぁ、だいぶよくなったよ、ありがとう」
「薄暗くなってきましたけど、起きてすぐ動くのはよくなさそうですから、もう少し休んでいってください」
私は冷まして飲み頃になったお茶を渡した。
アシュリーがジェイとアダムにおじいさんの事を話している。
おじいさんはゆっくりお茶を飲んで、家の中と私たちを見渡した。
「いい匂いがしておるね」
「夕ご飯を作っている途中なんです。そういえばお昼は召し上がったんですか? お腹が空いているようでしたら、よかったらご一緒にどうですか?」
空腹で倒れられたら困るし、一応おじいさんの分もと多めに作っているから量的には大丈夫!
みんなに人見知りはない。ラックは人見知りというのじゃないと思う、けどまぁ大丈夫でしょ。自分から話しかけないし。
おじいさん、名前はアイザックさんだって。私たちも自己紹介をする。
宿屋暮らしで、誰も待ってる人はいないと言う。ならぜひ食べていってくださいと、一緒に夕食の席に着いた。
椅子が一つ足りないから、ちょっとどうかと思ったけど小卓に座っちゃう。
アイザックさん、やっぱりお昼を食べていなかったって。美味しそうに食べてくれたよ。
我が家は今日あった色んな事を話しながら賑やかに食事する。
ご年配にはちょっとうるさいかなと心配したけど、こんなに賑やかな食事は初めてだと楽しそうだったからよかった。
またおじゃましてもいいだろうかとまで言ってくれたよ。
そして本当に度々くるようになった。
来るたび美味しそうなお土産を持ってきてくれる。
そのうち好みを聞いて、アイザックさんの好物も食卓にのるようになった。それを作るための香辛料とか甘味なんかも持ってきてくれた。ご相伴できるのはラッキーだ♪
アイザックさん、体調のいい日はうちの先にある霊園に来てるらしい。
亡くなった奥様のお墓参りで、もう二年ほど通っているとの事。運動不足だからって、行き帰りは歩きなんだって。
それならお帰りは私たちの帰宅時間に合わせて、ちょっと遅いお昼でも一緒にどうですか?とお誘いしてみた。
みんなはおじいさんと暮らした経験はない。
そういう私もお泊まりに行った事しかないけど、私はおばあちゃんおじいちゃんが大好きだった。
もう会えないと思うと淋しい…… という訳じゃないけど、何となく知り合いの少ないこの世界でのご縁を大切にしたい。
そしてアイザックさんとお昼もご一緒するようになって、そのまま用のない日は夕ご飯も一緒に食べて、男子チームの誰かが送るという日に慣れて来た頃。
六月も後半になって、ここのところさらに暑い日が続いていた。
心配していた事が起こってしまいました!食中毒です!
うちのお客さんじゃなかったし、軽症だったらしいし、たまたま居合わせて治したの、とジェニファー本人から聞いた。もちろん治療代はもらったけどね、と笑って言っていたよ。
ジェニファーは治癒魔法使いで治療を生業にしているから、それは当然だ。
お医者のいないこの世界で、ほとんど民間に治癒魔法使いもいないから、その人ラッキーだったよ!
あ、食中毒になったからアンラッキーか。
当然ながらこの世界にSNSはない。ないけど口コミっていうのも、すごい速さで広がっていく。悪い事ならなおさらね。
今までだって食中毒とか、そこまでじゃなくてもお腹を壊すような事もあったと思う。けど、お弁当屋さんは新しい事だったから悪い方に目立ってしまったのかも。
売り上げがだいぶ落ちてしまったよ。
うちは真面目で安全第一っていうのをわかってくれてるお客さんや、ジェイたちと一緒のパーティーの人なんかは買ってくれるけど、売上数は元の半分になっている。
元々暑い時期はお休みしようかなんて思っていたし、本当にそうした方がいいのかもしれない。
というより! 衛生だよ!!きちんと衛生管理ができてなかったら、暑くない季節だってあぶないわ!
そんなところのせいで、うちまで一緒に見られるのは心外だよ!!
なんて事をアイザックさんに愚痴っていたら
「それなら依頼をひとつしようかね」
と言いだした。
アイザックさん、余命宣告された日々を生まれ故郷で過ごしたいと言う奥様の願いで、三年前にリーリウムにやって来たんだって。
奥様とは一年ほど一緒に過ごして、その後はこの二年ほどひとりでお墓参りをして過ごしていた。
奥様との間にお子さんはなくて、子供がいたらとか、孫がいたらこんなに賑やかにすごせていたのかなと、私たちの家に来るようになってから楽しかったって。
「そろそろ妻が迎えに来てくれるらしい。半年ほど五人と過ごす事を依頼したい。治癒魔法使いが言うには冬は越せないだろうとの事だから、そんなに長くはならんよ」
いきなりの爆弾発言にビックリしすぎてみんな固まったよ!
何て言ったらいいかわからないし!!
「期間と、場所も指定したい。わしも生まれ故郷のロサで死にたい。妻と同じ墓に入りたいというロマンチストではないからな。人間やっぱり最後は生まれ故郷じゃよ」
アイザックさんは穏やかに笑った。
というか! アイザックさん、そんな重病人に見えないんだけど!
半年でお亡くなりになるようにはとっても見えないよ!
だけどこんなのジョーダンで言う事じゃないし……。きっと本当の事なんだろう。
みんなもツッコムところがありすぎるアイザックさんの話にまったく反応できてない。
「私、アイザックさんの依頼受けたい」
本当に余命半年なら、アイザックさんがひとりなら、私は最後に一緒にいたい。
初めてあった日に「迎えはおらんよ」と言っていたのを思い出す。
ひとりぼっちの最後なんて淋しすぎる。想像しただけでも涙目になるよ。
「ユアがそう言うならオレも」
おっ! 最初の賛同はラックだったか。
それからみんなも
「ロサに行く予定が早まっただけだしな」
「私もアイザックさんの依頼受けたい」
「依頼は五人だしな。男手も必要だろ?」
と、すぐ決まった。
この国スピード契約が普通なんだろか?
それから色々と決めていく。
アイザックさんの体調をみながらゆっくりの旅にしようとか、もっと暑くなる前に旅立とうとか。
アイザックさんの生まれ故郷ロサは、パエオーニアの王都ね。リーリウムからは馬車で早くて十日の道のりだって。
でもゆっくり行く予定だから、もうちょっとかかるかな。
ロサにはアイザックさんの家があるんだって。
アイザックさん、引退してるけど実はかなり大きな商会の会長さんだったらしい。お子さんがいなかったから後継者は商会の誰かに譲ったとの事だけど、死ぬまで苦労しない財産はあるから報酬は心配するなと笑って言った。いや、笑えませんよ。
慌ただしく準備は進められていく。
正式なものにするために、ギルドに依頼を通したり、お弁当屋さんの店じまいをお知らせしたり。
ジェニファーにもロサに行く事を告げる。
約束だからね!
「あら、じゃあ来年のフロース祭にはロサで会えるわね」
「そういえはそうね!ロサのギルドに居場所は知らせておくから!」
わりとあっさりのお別れだなぁ。
まぁもう二度と会えない訳じゃないしね。
ジェニファーには妙なご縁を感じるし、アシュリーやエマちゃんとも違う、友達だと思う。
何だか怒涛の二ヶ月だったなぁ……。
やっとジェイに会えて、シェアハウスに住みだして、お弁当屋さんを始めて、アイザックさんと出会って、また人生の転機になりそうな予感。
何にしても、一生懸命生きていれば何とかなるよね!




