32話 一緒に生きていきたいの
シェアハウスでの初めての朝、もちろん日の出とともに起きる。
「おはよ〜♪」
「おはよう」
部屋から出て、ソファーに座っていたラックに朝の挨拶。
もしかして座って寝てたの?
疑問に思いつつキッチンに向かう。
裏庭に出ると、湿った朝の空気と小鳥の鳴き声。宿屋ではわからなかった気持ちのいい自然を感じる事ができて、本当にジェイに感謝だ。
井戸で顔を洗って、アシュリーと朝ご飯の支度をする。
心を込めて、今朝も美味しいご飯を作りましょう♪
この世界の刃物にも慣れたけど、やっぱりジェイのように薄くベーコンを切れない。ここは毎度お願いしてしまう。
ジェイもお料理に参加するの、心なしか楽しんでいるっぽいしね。
さぁできた!
予告通り、カリカリベーコンの半熟目玉焼き♪ 焼いてとろけたチーズのせパンと、これは省略して昨日のスープ。
みんな揃っていただきます♪
ただのベーコンエッグを美味い美味いと食べてくれる。本当に作り甲斐のある人たちだ。
一緒に作っていたアシュリーも、美味しい美味しいとお代わりしてた。
自分で作ったものって、ちょっと特別だよね!
ごちそうさまの後は、お弁当のサンドイッチを渡す。
ジェイとアダムは討伐組だから早出。残りの私たちは、片付けをしたりちょっとだけ遅出。
早く借りてるお金を返したいけど、私たちのできる仕事って町中の低賃金のものが多い。
ケガをしたら余計お金がかかるから危険な仕事はできない。なんせお医者がいないからね。
ちなみに、かかった費用はしっかり帳簿につけてるよ!ちゃんと人数割りして返済予定。
少しずつでも誠意をみせなくちゃね!
渡されたお弁当の包みを手にしたジェイ、目が輝いてます!
「これ、プリュネで作ってくれた?」
「そうそう。初めて作ったメニューにしてあるから! 懐かしいでしょ?」
「マジか。すっげぇ嬉しい!弁当励みにがんばるわ」
「うん! 気をつけて、いってらっしゃい!」
「いってくる」
ジェイと、ジェイから中身を聞いたアダムも喜んで出かけていった。
「だから、新婚さんみたい」
「アシュリー!」
さて、今日の仕事は何にしましょ?
掲示板の前でアシュリーと迷う。
別に一緒じゃなくてもいいんだけどね。リーリウムに来て三回目の依頼だし、慣れたといえる程じゃないけど、私たちももう大人だし。
…うそです。実感ありません。十五歳で成人、ないわ〜。
とかいってる余裕はないか。ただでさえお金がないのに、昨日は働かなかったんだもんね。
今日はしっかり稼がなくては!
霊園のお掃除は昨日で終わっていた。
あれ、日当がよかったんだけどな〜。ないものはしょうがない。
少し迷って、本日のお仕事は薬草の採取にした。町を囲む壁の外だけど、壁に近い草原と、その先の森の入り口くらいまでだからあまり危険はないらしい。
アシュリーの生まれ故郷は自然豊かなところだから森もこわくないっていうし、剣を使えるラックもいるし(主力は魔法だったけど、戦に出るから剣も使えるって)昼間だし、まぁ大丈夫かな、と。
結果、全然大丈夫だったよ!
ちょっとビビりすぎてたかも。何せこの世界に来て、初めて見た最初の生物が草原の魔獣だったからさ。あれは命の危機だった。何よりキモかったし。
トラウマ克服できたかな。
私たちはお日さまが傾く前に帰り始めた。
カゴには回復薬や解毒薬に使う薬草がたくさん入っている。これ、ジェイたち冒険者さんに使われるのかな。そうだったら嬉しいな。
そんな事を思いつつ、三人でギルドに戻って依頼完了の手続きをし終わると、ちょうどジェイも戻って来た。
「ジェイ! おかえり〜、お疲れさま!」
「ユアたちもお疲れさん。ちょっと待っててな、一緒に帰ろう」
「うん。お買い物もあるし、ジェイ、今夜は……」
「ちょっと!」
いきなり会話に切り込んでくる声がした。
声のした方を見ると、初日に会った赤毛の迫力美人さんだ。
今日もめっちゃ睨まれてます!!
「ジェイと一緒に住んでるって本当? 何でよ!」
いきなり知らない人からそう言われても……。
私はびっくりしてジェイを見た。ラックが私と迫力美人の間に入る。
「何よその男!ジェイに抱きついてたくせに、二股?」
返事も聞かないでガンガンくるなぁ。
というか、二股って。
これは抗議しなくちゃだ!と思ったら、ジェイが先に
「リラ!」
「何よ!聞いてるだけじゃない!」
ジェイの怒ったような声初めて聞いたよ。
リラは泣きそうな顔になった。
私もジェイにあんな風に言われたら泣いちゃうかも。
あぁそうか、やっぱりそうか。
リラはジェイが好きなんだね。
夕方で、依頼の終わった人たちが帰ってくる時間帯、大勢の人がいる。何が起こったかと、周りに人が集まり出した。
娯楽の少ない世界だからね、こんな事でも面白いんだろう。悪趣味だけど。
リラも何もこんな時にと思うけど、こんな時でもないと私と会わないか。
なんて考えていると、リラがキッと私を睨んだ。おっと!
「私の方が美人だわ」
「そうね」
ハリウッド女優と、平均値の日本人顔だ。十人中十人がリラを美人と言うだろう。
リラはグッと声を詰めた。
「私の方が強いし」
「そうね」
スラリと細いながら鍛えられた身体は見るからに強そうだ。冒険者は伊達じゃない。
比べて私はただの(元)女子高生。誰が見ても一目瞭然だろう。
「私なら仕事中にジェイを助けられる。私たちは助け合って仕事ができるわ!」
「そうね」
私が今から冒険者になったとしても、一人前になれるかもわからない。運動神経は悪くないと思うけど、剣を使って生き物の命を奪う事は、きっと私にはできないだろう。
「何よ!そうねそうねって、私をバカにしてるの!」
「いや、そう思ったからそう言っただけだよ。リラの言ってる事は全部その通りだと思う」
リラは言葉に詰まった。
あ、勝手に名前を呼んじゃった。まぁいいか。
周りは興味津々で聞き耳を立てている。
何だかなぁ……。
リラはメラメラと燃える目で私を見た。
「私はジェイのためなら死ねるわ!あんたにそれができる?」
「や、それはできないわ」
えええぇぇぇ!!!!!
ギャラリーは目が点だ。リラも唖然としている。
ビックリ顔の中で、二人だけ表情が違う。
ジェイとラックだ。ジェイは面白そうにニヤニヤと。ラックは通常の無表情。
三つ数えるくらいの間をおいて、リラが怒った声を出した。
「なら、ジェイを諦めてよ!私の方がジェイにふさわしいわ!」
「死ぬなんてイヤだよ。私はジェイと一緒に生きていきたいの。たくさん楽しい事をして、美味しいものを食べて、綺麗なものを見て、一緒に年を重ねていきたい」
心からの望みを言った。
「あははははははは!!!!」
静まり返った中に不釣り合いな笑い声。
ジェイだ。
「俺もそうやってユアと一緒に生きていきたい!」
「オレも」
「私も!」
同意してくれて嬉しい!私はジェイとラックとアシュリーに笑いかけた。
誰がリラの肩に手を置いた。リラの仲間かもしれない。
ギルド内は大盛り上がり。
周りはジェイと私を囃し立てた。うざい。
というか、リラの事も考えろ!
リラには睨まれたし突っかかられたけど、それはジェイを好きだからで悪意はない。意地悪もされてない。
私はリラを好きではないけど嫌いでもない。そこまで知らないし。だからこういうのはイヤだ。
さっさと帰ろう!
夕ご飯を作って、みんなで美味しいものを食べよう。
私たちはうるさいギルドを後にして市場に向かった。
お買い物をして、家に帰って、夕ご飯の支度をしていたらアダムが帰ってきた。
「何かギルドが盛り上がってたけど? ユアたちの名前が出てたよ?」
もうそれはいいんだけど……。
アダムだけ知らないのも仲間外みたいだしね。後でアシュリーに聞いてと、夕ご飯にした。
今日は、新じゃがと新玉と、アスパラガスが美味しそうだったからそれをオリーブオイルで炒める。味付けはちょっと濃い目の塩味。今日は暑かったから汗をかいたしね。
それから鳥の唐揚げと、たっぷりのレタスのサラダ。
それとトマトと豆のスープにしてみた♪
パンは買ってきた。パンも手作りしてみたいけど、ドライイーストとかベーキングパウダーってあるのかな?
市場で探してみよう。
みんなで揃っていただきます♪
そのうちに依頼次第で一緒に食べられなくなるかもしれないから、食べられるうちは一緒に食べたい。
「この鳥うまっ!」
あら、ジェイは唐揚げ初めてだったか。
というか、私たちもブレイディさんの宿屋で試作を食べたきりだった。
「やっぱり美味いなー! 俺、これ好きだわ」
「レタスとマヨネーズって合うよね〜!」
大皿の中は見る見る減っていく。見ていて気持ちいい、嬉しくなる食べっぷりだ。
と、私はラックのお皿に唐揚げをせっせと移す。ちゃんと自分でとらないか!
まったくもう。この子はいつになったら遠慮しないで食べてくれるんだろう。
それにしても、まるでアニメのような食事風景だ。美味しくて楽しくて、幸せだなぁと思う。
この世界に来て、いい人達に恵まれて、私やってこれてるとしみじみ思う。
また明日からもがんばるぞ!
私も争奪戦に参加した。
その夜。夕方のアレは、何か、ちょっと、プロポーズみたいじゃなかった?!
とひとり布団の中で恥ずかしさに悶えたのは、みんなには内緒だ。




