29話 再会
「ユア……」
小さな声が聞こえた瞬間、私は走り出していた。
さっきまでよりマシになったけど、まだ大勢いる人の中をすり抜けるように声の元に急ぐ。
出入り口の扉近くにいる、ずっと会いたかった人。
「ジェイ!」
走る勢いのまま抱きついた。
「ごめんね!ごめんね!心配かけてごめんね!辛い思いさせてごめんね!エマちゃんに聞いたの!遅くなってごめんね!!」
ボロボロ盛大に泣きながら一気に言う。
「ユア…… やっと会えた」
抱きとめてくれた、ジェイのホッとした声。
本当に、やっと会えたんだと実感して、今度は安心の涙が零れた。
はぁ……。
大きく息をつく。
ハグっていいね。何だか温かくなるよ。
「え〜〜〜っと、感動的な再会のところナンだけど、扉の前だからちょっとずれようか? ものすごい注目の的になってるし」
「ちょっと!人前でいつまでくっついてるのよ!離れなさいよ!」
アシュリーと、もう一人知らない女の子の声がした。
アシュリーには、こっちこっちというように軽く腕を引かれる。
ジェイは何だか後ろから引っ張られているようだ。 誰?
涙目のまま見れば、燃えるような赤い髪と意思の強そうな濃いグレーの瞳のすごい美人がいた。
めっちゃ睨まれてます!!
わっ! もしかしてジェイの彼女さん?
いきなり知らない女が自分の恋人に抱きついたら、そりゃあ怒るよね!
そう思った瞬間、また別の涙が零れそうになった。
絶対泣くな!!
私は意地で涙を止めて、ジェイに尋ねた。
何だかすごく動悸がして胸が苦しいけど、これは聞かなくちゃならない事だ。
「えっと……、ジェイの彼女さん?」
「違う!」
かぶるような即答に、ホッとする。
ホッとした〜〜〜!!!
何かね、こんな時だけど、自覚しちゃったよ。
私ジェイが好きなんだ。鳥の刷り込み的なものじゃなくて、ちゃんと好きなんだ。
「ちょっと!そんなにソッコーで否定しなくてもいいじゃない!」
赤毛の美人さんがジェイに文句を言う。それからキッと私を睨む。
美人が怒ると怖いって本当だな。すごい目力。
美人さんが私に何かを言おうとした時、のんびりした声が割り込んだ。
「お疲れさん。ほら、これジェイの分。また頼むわ」
「あ、あぁ。うん。確かに。お疲れ!」
背の高いお兄さんがジェイに硬貨を渡すと、その次に美人さんともう一人の細身のお兄さんにも硬貨を渡して何やら話し出した。
後ろ手に“行け行け”と合図している。
「ユア、宿決まってる?まだなら俺が泊まってる宿屋に一緒に行こう」
「決まってない。けど……、その宿屋さん安い?」
「ブレイディさんの宿屋よりはちょっとするけど、リーリウムでは底辺だ」
ジェイは笑って言った。
場所を移して。
ジェイが滞在しているという宿屋の食堂で、私たちはご飯を食べながら今までの話をしていた。
リーリウムで底辺という安い宿屋は、その料金にふさわしく古かった。
来る途中にジェイが「飯も不味いよ」と笑って言っていた通り、確かにあまり美味しくない……。
でも贅沢は言えない。私たちはここに来るまでの旅費と、着いた日の一泊分のギリギリのお金しか持ってなかったから。
明日から早速働かなくては!
「精霊界ね……。そりゃまたすごい体験したもんだ」
「うん。そういう訳で二年もたってたの。本当にごめんね」
私は何度目かのごめんねを言う。
「もういいって。こうしてまたユアに会えたし。無事だし、元気そうだしな」
ジェイも何度目かの笑顔で言う。
ラックたち三人も紹介する。
実感はないし育ってない気がするけど、一応アダムは一つ上、アシュリーは一つ下、ラックは見た目は一つ〜二つ上と(実は百歳上)同年代だから話しやすそうだ。
事情を話し終えたら、それ程遅い時間ではないけど積もる話はまた明日からにして、今日は長旅の疲れもあるし寝る事になった。
何せこれからは時間はたくさんあるからね!心配事もなくなったし、自分の気持ちもわかったし。
明日から新生活だ! がんばるぞ、お〜!
朝、まだ薄暗いうちから人の動く音がする。
みんな早いなぁ、働き者だ。
私も身支度をしてドアを開ける、と!
「わっ!」
ドアに押されてラックが廊下に転がった。
ゴンと痛そうな音までしてる。
「ラック!どうしたの?! あぁ、ごめんね。痛い?」
慌てて助け起こして、ぶつけた頭をなでる。
「初めての宿屋だから見張りをしてた」
えっ!
「もしかして一晩中ドアの前に座っていたの?」
ラックはコクリと頷いた。
ええぇぇ!! なんてこった!!
ラックは私にウソは言わない。言いづらい事でも、尋ねれば隠さず答える。だから、と言うまでもなく、これは本当の事なのだ。
「ダメだよラック、ちゃんと寝ないと! 今日からしっかり働くんだからさ」
ラックはまたコクリと頷く。
どうしてラックがこんな事をしたのかがわかる。から、あまり強く言えない。
「ありがとね。でもラックが私を心配するのと同じに、私もラックを心配するんだから、それを忘れないでね」
ラック、頷く。
「声がすると思ったら、やっぱりユアとラックか。おはよ〜!」
隣の部屋のドアが開いてアシュリーが出てきた。
三人で食堂に向かう。食堂にはすでにジェイとアダムがいた。
「「おはよ〜!」」
「おはよう!」
「おはよ〜、まだ眠いわ」
朝の挨拶をして、みんなで硬いパンと薄味スープの朝ご飯を食べる。
帰りは依頼次第で時間がバラバラになるかもだから、朝はみんなで一緒に食べようと言ってたんだ♪
食べ終わったらみんなで出勤だ。
そういえば、昨日はそれどころじゃなかったら気づかなかったけど、リーリウムの冒険者ギルドでは、私の黒髪黒目が騒がれなかったな。
歩きながらジェイに聞くと、リーリウムのギルマスさんは魔族なんだって。魔族の髪は黒いから、みんな見慣れてるらしい。
ちなみに、目は銀色だって!
何それ!黒より珍しいんじゃない?! と興奮して聞いたら、魔族にはよくある目の色だから、やっぱりユアしかいない黒目の方が珍しいと言われた。
マジマジ見られて気づかれたら、珍しがられるだろうって。
ギルドについて、掲示板の前でできる依頼を探す。ジェイとアダムは早々に受付に向かってるし。
私たちは出来る事が少ないだろうからなぁ……。
迷っていたら、受付を済ませたジェイが戻ってきた。
「まずは町の様子がわかりやすい、大店の売り子なんかがいいんじゃないか? 物価とか、客の様子なんかでわかる事もたくさんあると思う。ユアなら客とおしゃべりもしそうだしな」
おぉ!なるほど!!
何か、ほんわりジェイだったのにしっかりしている……。
二年って人を成長させるのね。
私たちはアドバイス通り、売り子とか店番とか、そんな依頼を探す事にした。
「じゃあいってくる。今日は早めに帰れる依頼にしといたから。 ラック頼んだ」
「わかった! 気をつけて、いってらっしゃい!」
ジェイは私と、ラックにも声をかけて出て行った。
そういえば昨日の夜、ジェイとラックは何やら話していた。二人の間で何かあったのかな。
「新婚さんみたい……。こっちが照れるわ」
「アシュリー!」
その日、私たちは大きな倉庫の荷出しの仕事をした。
売り子も店番もなかったからね。剣も魔法も使えないと、できる仕事は多くない。大店のお引越しで、倉庫の中の荷物を荷馬車に詰め込む単純作業。男性陣が力仕事をして、女性陣は小さい荷物運びとか掃除とか。
何故か私は途中から現場監督のようになっていた。
掛け算ができたからだ。大中小の箱のサイズと荷台のサイズを測って、荷台にはどの箱をいくつまで載せられる……とかなんとか、そんな事を暗算して伝えていたらいつの間にか監督になっていた。
そんな私を見ていたその大店の上役みたいな人が、引越し先で経理で雇いたいと言ってくれた。
けど、やっと昨日ここについたところだ。丁寧にお断りした。
それに経理って。私は理系じゃないから数学は弱いんだな。四則計算ならまだいけるけど、お店なら売り上げだの原価だの、よくわからないけど%の計算だってあるんじゃないだろか?
この世界のそういった計算系の職業ってどんな感じなんだろう?
剣も魔法も使えないけど、もしかしたら私は経理系でいけるかもしれない?いやいや、経理をやるなら料理がいいな。
でもまぁ、ひとつ選択肢ができたのはありがたかった。
夕方、ギルドで報酬を受け取って宿屋に戻るとジェイとアダムはまだのようで、宿の人に伝言を頼んで三人で公衆浴場に行く。
三人でといっても、もちろん男女別湯だよ!
あぁ嬉しい!大きな町には公衆浴場があるからお風呂の心配はない。入浴料の心配があるけどね。
ちなみにプリュネにも公衆浴場はあったよ。




