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間話 ジェイ 2




一緒に過ごすほど、ユアはこの世界で生まれ育った人間ではないと思えた。

価値観や考え方や感じ方だけじゃなくて、生きる力というものが同じ年頃の女の子と比べて格段に低かった。十歳以下の子供並みだ。村の子供だったら十歳でもよっぽど要領よく動けるだろう。

体力もないし、全体的にヤワだった。

ただ歩いてるだけなのに疲れるし、野宿をすれば身体を痛めている。

だけど泣き言は言わない根性はあった。


初めてあった時も驚いた。魔獣に襲われているというのに逃げもせず突っ立っている。

助けた後は子供のように声を上げて泣く。そんなだから、見たまま自分より年下と思っていたら同じ年だという。続けての驚きだ。

低い身体能力、鈍い反射神経。出会ってすぐに、この子一人では生きていけないだろうと心配になった。


元々おせっかい焼きな俺は、置いていけば間違いなく死んでしまうだろうユアを一番近い村まで連れて行く事にした。


最初の印象からどんどん変わっていくユアとの会話。身体能力は劣るけど、それ以上に頭がいいとしかいえない話しの内容と、俺の話への理解力。

ユアの生まれ育った世界というのは一体どんなところなんだろうと、三度目の驚きだった。


ユアの見た目にも驚いた。

周りにはいないけど聞いた事はある黒い髪と、こっちは聞いた事も見た事もない黒い目。

それと内面からにじみ出るような不思議な、異国の雰囲気というか…あ、異世界というのか。何とも印象的な女の子だった。




俺にはすでに両親はない。母親は早くに死んだから、そうおしゃべりでもない父親と二人暮らしが長かった。愛情がないと思ってはなかったけど、そこは男同士だし必要最低限な会話しかなかった。

何が言いたいのかと言えば、挨拶というものをした記憶がほとんどないという事だ。


ユアは、おはようから始まって、行ってらっしゃい、おかえり、お疲れさま、おやすみと、いちいち言葉をかけてくれた。

気をつけてね、なんて事まで言ってくる。

そんなの言われなくてもみんな気をつけてるよ。

でもそうやって言葉にされるのは…何だかいいもんだ。心が温かくなった。


何より一番嬉しかったのは、弁当を渡された事だ。弁当といえば、たいていパンだけだ。いい匂いがしてたから、きっと美味いもんだろうとは思っていたけど、ちゃんと調理されているのに驚いた。


ユアの飯は熱々もだけど、弁当もめちゃくちゃ美味かった。

よーーーく味わって食いたかったけど、誰にも取られないように素早く食った。

俺のためにって作ってくれたと思うのは…かなり嬉しかった。


それから、ブレイディさんの宿屋で毎日ユアの飯を食ううちに、ずっとこれが食えたらと思うようになっていた。


仕事から帰ったら「おかえりなさい、お疲れさま」なんて可愛い嫁さんに迎えられて、美味い手料理を食う。

想像しただけで顔が熱くなるけど!

これでも成人してるし、いつでも世帯はもてるし! なんて思ったりも…なくもなかったり。


料理が上手くて頭がよくて、何より転移者様で尊い方らしいし、俺なんかの嫁さんになんてなってくれないよな…。

嫁さんはムリでも、俺が護衛くらいにはなれるかも。

優しいユアのことだから飯くらい食わせてくれるかもしれない。いや、ちょっとずうずうしいか。


そんな事を何日も考えていたあの日。

「いついっちゃうの?」なんて不安そうな顔で見上げられたら、そりゃあ言っちゃうだろ!

本当は、ずっと一緒にいたいって言いたかったけど、さすがにそこまでストレートな言葉は口にできなくて、一緒に行こうとしか言えなかったけど。

ユアが笑顔で「一緒に行く!」って言ってくれたから、もうそれだけで嬉しすぎた。


そんな天国から、地獄へまっさかさまな誘拐。


守ってあげたかった女の子。守ってやると思っていた女の子。

初めて好きだと意識した女の子を目の前でさらわれて、俺は自分の無力さに絶望した。


いや!諦めるな!お前が好きになった女の子はいつでも強気に前を向いていただろう?

お前も諦めるな!!

バンとひとつ己の頰を張ると、俺は絶対探し出すと決意した。




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