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27話 リーリウムへ 1




別れの朝、エマちゃんは涙ながらに見送ってくれた。

本当はずっとここにいてほしいけど、あのジェイを思うと彼の元に行かせない訳にはいかないと、目を真っ赤にして言った。


ありがとう、エマちゃん、ブレイディさん。

私に仕事をくれて、働く自信をくれて。私たちに寝る場所と食べるものを与えてくれて。このご恩は生涯忘れません。

握手をして、抱き合って、たぶんもうなかなか会えないだろう別れを告げた。




さて、私たちは乗り合いの駅馬車でリーリウムに向かっている。

駅というと、電車のあの駅を思い浮かべるかもしれないけど、電車じゃなくて馬車だからね。


町と町を結ぶ馬車は、駅といわれる待合の建物があるし、発着時間も決まっている。結構ちゃんとしていて驚いた。


駅ごとに、次の行程を走る元気なお馬に付け替えられる。その間の短い時間がお客の休憩時間になる。

おトイレに行く人、食べ物を買う人、ちょっとした運動をする人。私たちもそんな感じで過ごして来たけど、三日目にもなると飽きてきた。


最初、馬車の中ではずっと寝ていた。五日間働きづめだったからね。やる事もないし。

それにしても十日は長い。働きづめだった五日分眠ると、もう寝てばかりいられなかったよ。


という事で、私は休憩時にこつこつボードゲームを作ってみた。

白と黒の、日本人にはお馴染みのアレね。四角い盤に十字線を描いていく。八×八でよかったかな〜。改めて考えると意外と覚えてないものだ。

まぁいいや、だいたいそんな感じで。

それから表裏に白黒の色をつけた丸いコマを六十四個作る。

私たちは四人だから、それを二セット。


走る馬車の中でルールを説明する。といっても、挟んでひっくり返して最後に色が多い方が勝ちという、単純明快なルールだから三人はすぐ覚えた。

作る時もそうだったけど、遊び出した三人はとても楽しそうだ。砦でもそうだったけど、娯楽が少ないこの世界、ゲームはめっちゃ盛り上がる。


ところがせっかく遊び出したのに、下を向いていた私は馬車酔いしてしまった。

下を向かないで遊べるカードを作ってみたけど、こっちも酔ってしまう。いったん乗り物酔いをするともうダメみたい。私が。他の三人は元気だった。


私が遊べなくなった分のオセ◯と、これだけは教えたババ抜きで、乗り合い馬車のみなさんと楽しそうに遊んでいたよ。

あ、といっても、ラックはゲームに混ざらず私を介抱してくれてたけどね。




ラックに寄りかかって、ひたすら吐き気に耐える。食べると戻しちゃうので食べられない。というか、まったく食欲がない。

そのうち飲み物も喉を通らなくなってきた。脱水を心配してムリやり飲んでも戻してしまう。

ここまでくるとアシュリーたちも遊んでいられなくなった。二人も心配そうに寄り添ってくれる。すまないねぇ、暇でしょうに。


そんな状態が二日もした頃、アダムが、いったん馬車を降りて回復するまでどこかの町で休もうと言い出した。


や、それは困る。こんなのエマちゃんに聞いていたジェイに比べれば大した事ないよ。早く私の無事な姿を見せたいし、私もジェイに会いたい。


でもみんなの心配もわかるんだな。私だって反対の立場だったら心配するし。

それに今のこの私、無事な姿とはいえなくなっているような……。

気持ちは焦る。不甲斐ない自分に涙がにじむ。零れそうになる涙を気合で止めた。

泣いてもいい方に変わるでもなし!余計みんなに心配かけちゃう!


一瞬気合を入れたけど、すぐに猛烈な吐き気に襲われる。

うぅぅ、気力がなくなるなぁ……。


アダムの言う通りにした方がいい事はわかっている。でも急ぎたい。

それに余計なお金もかかる。所持金に余裕はないのだ。

どっちにも決められず迷っていると、上から涼やかな女の子の声がした。


「ごめんなさい、聞こえてしまって。そんなに具合が悪いのに急ぐのはよっぽどの理由があるのね。治してあげましょうか?」


見上げると、同じ歳くらいの女の子がいた。


綺麗な子だ〜……


一瞬酔いも飛んで見惚れた。

濃い茶髪は豊かに波打っていて、印象的な目は左右で少し色が違っていた。窓から入る光で、金色にも見える薄い茶色の左目と、それよりもう少し濃い茶色の右目をしている。

これは完全な色違いじゃないけど、オッドアイとかいうものじゃないだろうか?初めて見たよ。


ひどい乗り物酔いをしてる最中に、ずいぶん余裕だなと思われるかもしれないけど、余裕というのじゃなくて、何というか……。

女の子には不思議な何かを感じたのだ。今まで会ってきた人たちとは明らかに違う、一番近い感覚なら、転移者の私に似ている空気感というか……。


「ありがとう、これ治せるの?」

「えぇ。私、治癒魔法使いなの」


女の子は私の耳元でこっそり囁いた。


治癒魔法! 魔法使い!!


ちゃんとした魔法使い初めて見る〜!

こんな状態なのにめっちゃテンションが上がったよ!!

まぁすぐに下がったけどね。


「ありがとう、お願いします。もう死にそう……」


女の子は私の胸に手を置いた。

すると、だんだんと吐き気が治まってきた。何か詠唱した訳でもないし、手がほんのり光ったでもない。って、私の勝手な魔法のイメージだけどね!

今まで実際に魔法を使っているところを見た事がないから、この世界ではこういうものなのかもしれない。


「ありがとう!落ち着いてきたよ!」

「よかった。顔色も少しマシになったみたいよ」


心配をしていた三人もホッとした顔になった。

ごめんね、私ずいぶん心配かけちゃってたんだね。改めてちゃんと三人に謝る。体調管理も自己責任だよね!




それから恩人と話をした。

彼女の名前はジェニファー。思った通り同じ年で、来月十六歳だって。

あ、私の実年齢、本当は十五歳なのか十七歳なのか微妙なところなんだけど、感覚的には同じ年という事で。

十五歳で生まれ故郷を旅立って、世界を見て回る旅の途中なんだって!


すご〜い!何かめちゃくちゃファンタジーじゃない?

魔法も使えるし、他人事ながらテンション上がるわ〜!!


お連れの、静かに後ろに立っていた男の子?男の人? の名前はルークさん。

うちのラックといい勝負の美形なお兄さんだ。歳もラックと同じくらいに見える。聞けば十九歳だそう。

ラックは百歳オーバーだから見た目だけだけどね。


初めて見た、銀色にも見えるグレーの髪と、綺麗な緑色の目をしている。ジェニファーを見る眼差しは優しい。

ルークさん、ジェニファーの護衛なんだって。恋人を守りながらの二人旅……。

きゃ〜! 何かロマンチック!!


と話しているうちに、私の黒髪黒目的に異世界からの転移者という話題になった。

別に隠している訳ではない。見た目でバレバレだしね。

そしたら驚く事に、ジェニファーは転生者というではないか!

といっても異世界からではなくて、この世界でのなんだそうだけど。

約二百年前の前世の記憶持ちなんだって。


はぁ〜。そりゃまた不思議な事があるものだ。まぁ、ファンタジーの世界だからありだけど!

どうりで何か似た雰囲気を感じると思ったよ。聞けばジェニファーも同じように感じていてくれたらしい。だからのカミングアウトだって。

これは私にしか話してないそうで、ルークさんも知らない事なんだって。


そのルークさん、ラックとオセ◯をしている。私以外の誰かにラックから接するのを初めて見たよ。ルールだけ説明して、あとは無言ってとこがラックらしいけど。ルークさんもおしゃべりな感じじゃないから合ってるのかな。


私たちが二人で話したそうにしてるのを察して、ラックとルークさんは少し離れてくれたみたい。

私が元気になったから、アシュリーたちもオセ◯を再開してるしね!

覚えたてって一番楽しいよね!




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