22話 精霊の愛し子 2
いきなり豹変したようなアシュリーに、さっきアダムが言葉を濁した持病を思い出す。
もしかして精神が不安定な、それ系の病気なんだろか?
それとも、精霊が見えるとか大嫌いとか言ってたし、精霊がらみで何か病気とかあるのかな?
よくわからないけど。
「アシュリー落ち着いて。そう怒鳴られても私たち訳がわからないよ」
もしも暴れられたらと、さりげにラックの前に立つ。ケイトさんもすぐに動けるような姿勢になってるし。
「アシュリー」
「うー、……っ、、、」
アダムがアシュリーの頭をポンポンとなでる。それから背中をさする。
アシュリーは大粒の涙をこぼした。止まらない嗚咽。
またもやの豹変に、私たちは再びのビックリだ。
やっぱりそれ系の持病なんだろか……。
止まらない大粒涙。辛そうなアシュリーと、哀しい顔のアダムも辛そうで、これは何か事情があるのかと、アシュリーが泣き止むまでの短くはない時間で私たちは思った。
しばらくして、しゃくりあげたり鼻をかんだりしながら、だんだん落ち着いてきたアシュリー。
泣いた後は気持ちって、何故か少し落ち着くよね。
「ムリにとは言わないけど、話せるなら話してみて。私で力になれる事があるかもしれないし」
「ユアさん……」
呆れた声のケイトさん。
毎度ごめんね、これが私の性分なんだ。あんなに辛そうに泣いている女の子をほっとけないよ。
ケイトさんに目で謝って、アシュリーを見る。
「ラックも精霊が見えるみたいだし、エルフだし、人にはわからない何かを知ってるかもしれないよ」
アシュリーは真っ赤な目で私を見ている。
どうにもならないという諦めと怒りの色に、ほんの少しだけ期待も見える。
私は黙って待つ。あんなに辛い泣き方をするんだもん、きっととても言いづらい事なんだろう。
言えないならそれでもいい。人の事情はそれぞれだもんね。
「アシュリー」
しばらくして、先に声を出したのはアダムだった。
妹を見る目は優しい。
「世話になって、食べ物までもらって、そのうえ面倒をかけるのは心苦しいところだけど……。俺たち、ワラにもすがる思いなんで話を聞いてください。それで何か同じような話を聞いた事があるとか、助けになる手がかりがあれば教えてください」
それだけ言うと、アダムはアシュリーを促した。
アシュリーは、最初は戸惑いがちに話しだしたけど、話しているうちに興奮して、また怒ったり泣いたりした。
そのたび休憩をはさみながら、それでも長い時間をかけてすっかり話してくれた。
アシュリーの話してくれた精霊は、私の知識として知っているものとは違っていた。知っているといっても、ファンタジー系物語のキャラなんだけどさ。
なんというか……。
かなりヘビーな打ち明け話に驚いたし、めちゃくちゃ同情してしまった。
だって、十五年間ほぼ友達がいないとか!
家族以外とほぼ接触がないとか!
何度も死にそうになった事があるとか!
それなのにそれは、相手の無邪気な?自分勝手だなんて、ほんと迷惑だわ!
迷惑というか、迷惑以上の……、何ていうのかな?大迷惑?!
とにかく、アシュリーが怒るのも大嫌いと言うのもわかるわ!!
聞いていて私まで怒ってしまった。
「アシュリー!私の友達になって!」
「えぇぇ!!」
いつの間にやら私まで興奮して大声でそう言った。
アシュリーも驚いて大声を出しちゃうし。
あ、アシュリーは元々声は大きかったか。
「ユア、話聞いてた?私のそばにいるとユアまで被害にあうよ」
「大丈夫!見てわかると思うけど、私、異世界から来たの。この世界の理には当てはまらないかもしれないし。それに何か精霊腹立つわ!
後ね、私この世界に来て二ヶ月ちょっとくらいなんだけど、まだ友達がいないの。アシュリーがなってくれたら嬉しいな」
ジェイとエマちゃんの顔が浮かぶ。
でもジェイは友達というより命の恩人だし。それにちょっと、ほんのり、何というか……、何ともいえない気持ちがあるような、ないような。
自分でもいっててよくわからないけど、微妙な気持ちがある……、ような、ないような。
エマちゃんは働き先の娘さんだし、職場の先輩だし、お姉さんって感じだったし。こっちもちょっと友達とは違う気がする。
ラックは友達もだけど、一番は家族って思いが強いからね。
ケイトさんはお世話になっている人だし……。
という事は、私ちゃんとした同年代の友達って初めてかも!
戸惑っているアシュリーも、フッと気づいたように言った。
「そういえば、私も初めての友達だわ……」
「お互い初友だね!アシュリーよろしくね!」
というか、ユアって異世界?の人なの?というつぶやきはいったん置いといて、私はアシュリーの両手をとって激しく握手をした。
アシュリーの話は思いのほか長かったし、その後から私がこことは違う世界から来た事なんかを話していたら、お日さまがだいぶ傾いてきてしまった。
どうせお昼休憩以外進んでいなかったら、夕方までにプリュネにはつかなかった。
早くジェイたちに会いたい気持ちはあるけれど、街灯もない真っ暗な夜道の移動が危険なのはよく知っている。
今夜は久しぶりに星空ホテルに宿泊だ。荷台に毛布とクッションがあるから、前よりずいぶん快適だと思う。
ラックとケイトさんは野営経験者だから問題ないって。
とはいえ、私の独断で付き合わせてしまったから申し訳ない。特に夕ご飯抜きが。
空に星が輝き出して、灯りもないしご飯もないし。やる事がないので早々に寝る事にする。
男子チームが譲ってくれたから、荷台には私、アシュリー、ケイトさんが横になる。
まぁ、男子チームといってもラックがって感じだけどね。
私は、ありがとうとごめんねを込めてラックをギュッと抱きしめる。
弟は素早く逃げたけど、ラックは逃げずにいてくれるから貴重なスキンシップタイムだ。
お礼といいつつ、こっちが和んでほっこりしてしまう。
相変わらずケイトさんに呆れられる。
けど、いいんだも〜ん。
あら、アシュリーとアダムにも驚かれた。
「私たち、お互いに家族がいないから姉弟になったの」
ね〜♪ と、ニッコリ笑顔で言ってみる。
ラックは、ね〜ってしないけどね!
まぁ、満更でもなさそうだからよし♪
この旅の間、ラックとはたくさん話をした。
話したといっても、私が話しかけた事にラックが答えるって感じなんだけど。
ラックは答えられる範囲で返事をしてくれた。答えられる範囲でというのは、答えたくないという意味ではなくて、答えられる事が少なかったからだ。
ラックは子供の頃に両親と離されて、ずっと奴隷として生きてきたんだって。百年くらい代わり映えしない生活だったらしい。
百年!! 最初にそれを聞いた時は驚いた。
この、私より小さく見える男の子が、実は百歳オーバーの……、おじいちゃん?
とてもそうとは見えないし、もう最初の印象で弟認定してしまったから、百歳超えててもラックは弟なのだ。
視覚の力ってすごいね! とか思っていると、
「私たちも、もう両親がいないから二人きりの兄妹なの。ユアたちと同じね」
アシュリーが嬉しい事を言ってくれる。
ほんわり可愛い系のアシュリーは、精霊なんかが関わらなければきっとモテモテの女の子だったろうに。
怒らすと怖いから、彼になる人は怒らせないようにしなければならないけど。
それからケイトさんも交えて、荷台でのガールズトークは盛り上がった。
ケイトさんもアシュリーも異世界の話に興味シンシンだった。特にスイーツの話にはめっちゃ食いつかれた。
私ももう食べられない、美味しいものたち……。
いつかこの世界で作れたらいいなぁ。




