23話 精霊界 1
「ユア、ユア、起きて。アシュリーが連れて行かれた」
盛り上がっていたガールズトークもいつの間にか寝落ちしていたらしい。
ラックに声をかけられて目を覚ます。
ケイトさんはすでに目を覚ましていた。
何だって? アシュリーが……?
「連れて行かれた?!」
そこに寝ているアシュリーを見る。
ビックリさせないでよ!いるじゃん!
明るい月の光の下、確かにアシュリーはいた。
「アシュリーいるじゃん?連れて行かれたって何?」
「連れて行かれたのは魂。精神とか心。長く身体から離れると身体が死んでしまう」
ええぇぇ!!
慌ててアシュリーを揺すって声をかける。
「アシュリー!アシュリー! ……どうしよう!アシュリー息してないよ!!」
騒ぎ出した私たちに気づいたアダムも起きてアシュリーに声をかける。
おぃ! 兄ちゃん気づかず寝てたんかぃ!
「どうしよう! ラック、どうしたらいい?」
「連れて行かれたって、やっぱり精霊に?」
「息!息してない!! アシュリー!」
アシュリーが息をしてない事で大騒ぎになった。いや、ラックは冷静だけどね。
ケイトさんもちょっとどうしていいかわからないようになっている。
私とアダムは大パニックだ。
「まだ精霊の通った跡が残ってる。 追う?」
「ラック見えるの?追えるの?アシュリー助けられる?」
「助けられるかわからないけど、今ならまだ追える。精霊の通った跡は短い時間しか残らない」
大変!急がなきゃ!!
「アダム!アシュリーを助けに行くよ!すぐ追わなくちゃ追えなくなっちゃうって!急ごう!」
半狂乱でアシュリーの名前を呼んでいるアダムに私の声は届かない。
もう! 急がなくちゃならないのに!!
「アダム!アダム!!聞いて!アシュリーを助けに行くよ!!」
「アシュリー!アシュリー!! 起きろ!起きろよ!! 息!息をしろ!!」
このぉ! 聞け!!
私は、ゴン!とアダムの頭にゲンコツを落とした。
「しっかりしろ!お兄ちゃんでしょ!!アダムが助けに行かなくちゃでしょ!ほら!アシュリーを背負って!!ラックは精霊の通った跡が見えるから、案内してもらってアシュリーを追うよ!!」
アダムはオロオロしながらアシュリーを背負った。
涙目だ。ごめん、ゲンコツ痛かったかな。
それから、ラック、私、アシュリーを背負ったアダム、ケイトさんの順で走り出す。
月が明るいとはいえ足元はハッキリ見えない。草にもつまずくような私にラックが手を繋いでくれた。
おぉ!ラックから触れてくるとは珍しい!!
テンションが上がる!
いやいや、今はそんな時ではなかった。
しっかり走らなければと前を向けば、キラキラ光っている粉っぽいものが空中に漂っていた。
これが精霊の通った跡?
ラックと手を繋いだエルフ効果か、私の目にもうっすらそれらしきものが見えた。
ひたすらキラキラをたどって走る。
何だかずいぶん走ったような、まだそれ程でもないような、不思議な時間の感覚だ。
しばらくたった頃、ラックが前を向いたまま言った。
「急いで。消えかかってる」
急いでるけど!!
何か、身体が急ぐより気持ちが焦るよ〜!
キラキラが見えるようになった私は、ラックを引っ張るみたいに先を走った。
「精霊界の入り口みたいだけど、行く?」
聞こえた言葉に返事をするより先に、消えかかっているキラキラに飛び込んだ。
え? 精霊界? ……って、何?!
後ろでバチッと音がして、アダムが思いっきりぶつかってきた。
「ユアさん!!」
焦ったケイトさんの声が聞こえた。
何か言っているけど、声は急速に小さくなっていった。
なんて意識してわかっていた訳ではなく、私はアダムにぶつかられて転んでいた。
転ばなかったラックが受け止めてくれようとしたけど、勢いと体格差で一緒に転んでしまった。
せっかく転ばなかったのにごめんよ〜!
私は謝りながらラックのケガを確認した。
大丈夫みたいでホッとする。私もラックのおかげでケガなくすんだ。
お礼を言って周りを見ると、アダムとアシュリーも飛び込んだままの勢いで転がっていた。
「アシュリー!アシュリー大丈夫?女の子の顔に傷なんてついてない?」
急いでアシュリーを助け起す。
顔を確認すると、よかった、ケガはないようだ。
「ごめんユア!ユアたちに続いたら何かにはじかれたみたいに思いきりぶつかった! ケガはない?」
「大丈夫!ラックが守ってくれたから!」
うちの子できるから!とニマニマしてしまう。
ヤバい、このままじゃまたうざがられるパターンだ。
と、それは置いといて。
「ケイトさんは……、いないね。大丈夫かな?」
「俺がギリギリ通れたみたいだからな。ケイトさんは来られなかったかも」
あっちに残ったのかな。
無事ならいんだけど……。
それから腕の中のアシュリーを見る。
「……痛い……」
「「!!」」
アシュリーが小さくつぶやいた。
「「アシュリー!!」」
アシュリーが気がついた!というか、戻ってきた?
何でもいいや!これで死んじゃうかもしれない危機はなくなった!
でも別の危機が……。
「で……。ここからどうやって帰ろうか?」
私たちは、深い森の中のような霧がかった世界を見回した。
気がついたアシュリーに簡単に説明して
私たちは途方にくれていた。
これからどうしよう?どうすれば帰れるんだろう?どっちに行こう?四人で悩む。
こういう時って年長者がリーダーっぽくなるもんだと思うんだけど、何だかアダムってちょっと頼りない……。
おっと失礼、本音が。
ここは精霊に馴染みのある?ラックかアシュリーってとこかな?といってもアシュリーはイヤかも。
という事でラックに聞いてみる。
「ラック、どうしよう?」
あ、年長者っていったら百歳オーバーのラックだったか。
「オレも精霊界には来た事がないからわからない。ごめん」
あら、困った。
そしてまた、どうしようどうしようとなる。
でも幸いな?事に、すぐに悩まないですむようになった。
何故なら空中に浮かんでいるモノが、スィ〜とやって来たからだ。
「アシュリー!急にいなくなるから探したよ!」
「わぁ! アシュリー以外にも人間がいる!」
これ……、精霊だよね?
イメージ通りの、神秘がかった美形な生き物。
空中に浮かんでいるって事は、風の精霊?
アシュリーはアダムの後ろに隠れた。蒼白な顔をして可哀想なほど震えている。
私はいきなり頭にきた。か弱い女の子になんて思いをさせるんだ!
「ほら!アシュリー行こうよ!」
「精霊王さまにお会いしなくちゃここにいられないよ」
精霊Aがアシュリーの腕に手をかけた。
ビクリと跳ねるアシュリー。
「触るな!アシュリーの腕から手を離せ!!」
大声で怒鳴ると、精霊Aは驚いて手を離した。
ちなみに精霊はふたりいるので、区別のために勝手に命名。ほんのり緑っぽい方がAで、白っぽい方がB。Aの方が仕切っているように見える。
「な、な、なに…」
「うるさい!アシュリーに聞いたよ!君たちアシュリーに散々ひどい事してきてその上まだ勝手にさらうとか、いい加減にしろ!アシュリーに金輪際関わるな!それから私たちを元の場所に戻せ!!」
Aが言い返すのにかぶったけど、言い勝った!
なんか私、キャラが変わってきたような……。
こんな女の子だったかな〜と、一瞬遠くにいきかけた。
いやいや、こんな世界だ。平和な日本じゃないんだから強気でなければ生きていけない!と思いなおす。
精霊ふたりは呆然。人間三人も呆然。
先に我に帰ったのは人間側だった。
私の威勢に触発されたのか、アシュリーは小さい頃からのひどい仕打ちの苦情を延々ぶちまける。
アダムもどんなに苦労したかを切々と言いまくる。
長年積もった怒りは収まらない。二人のあまりの勢いにAとBはヒィ〜!と逃げ出した。
待って!こんなところに置いていかないで!
どうやって帰ればいいっていうのよ〜!!
私たちは必死に追う。
追われるAとBは悲鳴をあげて逃げていく。
「精霊王さま!精霊王さま!お助けください!!」
たまらずAが叫んだ、
その瞬間。
周りがパァッと輝いた。




