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19話 砦へ 5




私は男の子を譲り受ける時に、首輪を外してもらった。

奴隷の首輪は魔道具で、騎士さんが言ったとおりに主に対して嘘はつけないし、利益になる事、不利益になる事は告げるようになってるんだって。

あと、逃げられない。


私の首輪のイメージには鎖がついていたからこれはどうかと思っていたけど、やっぱり首輪だというじゃないか。

なんだ首輪。ペットじゃないんだぞ!

私は憤慨してソッコーとってもらった。


首には日に焼けてない跡が残っていた。まるでまだ首輪をしているようだった。そこで私はその首にハンカチを結んだ。

今では唯一の持ち物になっている、メイドインジャパンのハンカチだ。あ、メイドイン『ジャパン』じゃないかもだけど。


「日焼けしてない跡に巻いておこう。これ、君にあげるね。ちょっと色褪せちゃってるけど、君の目の色とお揃いだよ」


男の子は、コクンと頷いた。無表情の彼だけど心なしか嬉しそうに見える。

衝撃の、しゃべれた!事件の後も(事件じゃないか)彼はほとんど喋らなかった。

もともと無口なのかもしれない。

それともエルフはそういうものなのだろか。


あの後部屋に戻ってから、しゃべれるのならと名前を聞いてみた。


「君の名前は?教えてくれる? 私の事はユアって呼んでね」


彼はフルフルと首を振った。教えたくないのか。名前がないのか。

いや、名前がないって……。

でもここは日本とは違うし、奴隷だったから名前がないのかもしれない。


「名前、ないの?」


頷いた。

あらら、ほんとにないんだ。

これは哀しい事なのか、この世界では普通の事なのかわからない。


私はちょっと考えた。


「じゃあ、私が君の名前をつけていい?」


名前がないんじゃ不便だもんね。

男の子はジッと私を見ている。何となくイヤそうではないと思うけど……。

少しの後、彼は頷いた。


「君の名前はラックね! 黒って意味のブラックと、幸運を意味するグッドラックからラック。どう?」


黒は私たちの髪の色だよ。と告げる。

安易といってくれるな。センスがイマイチなのはわかっている。

だけどラックはすぐに頷いた。気に入ったかはわからないけど。


「ラック、これからよろしくね!」


私はラックの手を取って握手をした。




次の日の朝、私たちはプルヌスの領館に向かって出発した。


この砦にはひと月ほど滞在した。

お料理を教えたり、衛生の大切さを教えたり。兵士の皆さんと一緒にお掃除をしたり、お洗濯をしたり。カードゲームを教えたり、オセ◯ゲームを教えたり。娯楽が少ない生活だから簡単にできるゲームは大盛り上がりだった。


一緒に何かをするって仲間意識が強くなるよね!

停戦のお祝いも盛り上がって、砦中のみんなと一気に距離が近くなったと思う。


女子が少ないからか、私はちょっとした人気者になってたり。

まぁ、色んな所でちょいちょい師匠(笑)だったから尚更だったかもだけど。


見送りには、手の空いている皆さんが来てくれた。


「ユアちゃんがいなくなると淋しいなぁ」

「プリュネのブレイディさんの宿屋にお手紙出してよ!返事書くから!」


「ユアちゃん元気でな。ちっこいんだからいっぱい食べて大きくなるんだよ」

「ドリューさんも元気でね!これから成長期だから期待してて!」


「ユアちゃんの作った料理が食べられないと思うと楽しみがないっす……」

「ショーンさんに私の調理スキルは伝えた!これからみんなのために腕をふるってよ!」


名残は惜しい。

きっともう二度と会うことがない人達に


「皆さん、よくしてくれてありがとうございました。こんな小娘のいう事を聞いてくれてありがとうございました。

いくさになったら死なないようにがんばってね!皆さんが元気で幸せでいられるよう祈ってます!」


私は深く頭を下げた。

感謝はお辞儀とともにだよね。日本人だからね!



オオォォォ!!!

私の周りから雄叫びが広がっていく。



何かこれ、最近見たんだけど……。

おかしいな。これから出陣って訳じゃないのに。

でもいっか。皆んなの顔が嬉しそうだから。

少し淋しそうに見えるのはお別れだからだね。ちょっと涙目になった。


私は手を振って馬車に乗り込んだ。

馬車のステップは高い。乗る時はケイトさんに先に乗ってもらって、上から手を引いてもらう。

だからまだ外にいるラックにも、順番のように手を差し出した。私より身長が低いからね。


「つかまって!」


ラックはほんの僅かに瞳を揺らして、ゆっくりと手を重ねた。

私はグッと握って引っ張り上げる。

引き上げきれなくて落ちそうになったのを、ケイトさんが支えてくれたのはカッコ悪かったけど。


驚いたように私を見上げたラックの顔に朝日が当たった。

おぉ! そういえば初めて自然光の下で顔を見たけど……


「君の紅い目きれいね!ルビーみたい!」


ラックは、さっきよりももうちょっとわかるくらいに目を見開いた。

そうすると紅い目がもっとよく見えた。


誕生石だからと、お母さんが持っているアクセサリーの中でルビーが一番多かった。

光に透かしてこっそり見たもんだ。綺麗だったな〜。それを思い出した。ちょっとしんみり。


さて出発だ。

馬車の中でケイトさんと並んで座る。


「ユアさんは人たらしですね」


何で?!

驚いてケイトさんを見ると、ケイトさんは窓の外を見た。つられて私も見る。

砦の皆さんが手を振って見送ってくれていた。




その日の夕方に次の砦について一泊し、次の日は途中の村でお世話になり、私たちは順調に三日目の夕方に領館についた。


ちなみに馬車は二台。

ご領主様と(元)奴隷は一緒に馬車には乗らないんだって。

こっちだって気楽でいいですよ〜だ!


ステラさんたちはもう帰宅している時間だから挨拶は明日にする。

ラヴィーニア様には夕食後会える事になった。

私はお礼を言いにいく。

きっとあの腹黒フラビィオさんを何とかしてくれたんだと思う。あの誘拐犯が親切な筈はないと、第一印象から変わらず悪いままだ。


部屋に入ると、ラヴィーニア様は笑顔で迎えてくれた。


「お時間をいただきましてありがとうございます。それから、色々なご配慮もありがとうございました」

「こちらこそ年若いユアさんに争いごとを頼んでしまってすみませんでした。この度停戦できた事はユアさんのおかげと感謝しています」

「私はたいした事はしていません。砦の皆さんの力です!」


私は砦のみんなの事を話した。

みんなとってもがんばってるもんね!


それから、お暇する前にもうひとつ。


「明後日プリュネに帰ります。お別れにラヴィーニア様にスイーツをお作りしたいと思います。よろしいですか?」


スイーツ?と、首をかしげるラヴィーニアさま。

あぁ、この国スイーツもないのか。

それともスイーツという言葉がないのか。


「私の国では、というか、私のいた世界では、女性は甘いものが大好きです。スイーツとは甘い物の事です。ラヴィーニア様、甘い物はお好きですか?」

「大好きです」


ラヴィーニア様はニッコリ微笑まれた。


……美しい。美人の笑顔ハンパないな。


私はひとつお願いをして、ではまた明日と退出したのだった。




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