12話 プルヌス 2
ここに連れてこられて半月が過ぎた。
私は情報収集のため領館内を歩き回って人々と親しくなったけど、最初の対面から一度もフラヴィオさんには会っていない。
このままほっとくなら帰してくれてもいいじゃないか。なのに相変わらず見張りはいる。
もう少しかな〜。ひと月くらいたてば見張りもいなくなるかな?
なんて思っていたけど、色々話しているうちに、どうも脱出は難しいと思うようになってきた。
馬車で一日の距離は、徒歩ならどのくらいかかるか聞いてみた。
体力にもよるけど、二日〜三日かかるらしい。馬車で四日なら、単純計算で十日くらい。
これはまっすぐ道を進んでの事で、追っ手から逃げながらだともっとプラスされるだろう。
逃げる間に森に入る事もあるかもしれない。そしたら魔物もいるかもしれない。夜の野宿も一人では怖い。
総合的に考えて、一人で脱出はかなり難しい。難しいというかムリだな。
そうとなったら作戦変更だ。
まずは、私が期待に応えられない無力な存在だとわかってもらう事。
これは本当の事だから、フラヴィオさんが納得してくれればOKだ。
でも最初のあの感じではどうだろう。
次に、私の価値を認めさせて交換条件をする事。価値といっても、フラヴィオさんに価値があると思ってもらわなければダメだけど。
私にはお料理スキルと平成の知識くらいしかないからなぁ……。
何をすれば認められるんだろう?
考えたけど浮かばない。
だってフラヴィオさんに求められている力って何?戦地に近いっていうんだし、やっぱ戦力かな?そんなのないし!
そういえば大好物の異世界ものでは、めちゃくちゃ強い魔法で敵を一掃するとか、一振りで一小隊薙ぎ倒すとか、みなさんド派手に活躍されていた。その方が盛り上がるっていうかね。
私には今のところラッキースキルさえ見当たらない。どうすりゃいいんだ〜!
答えの出ない問題を考えながら、さらに何日かたった。
相変わらず館内を歩き回っている。他にやる事もないからね。
あ、ひとついい事があった。
ステラさんね、まだ何日かしかたってないのに症状が軽くなってきたんだって。早いな!
お薬を飲んだ事がないって言ってたから効きがいいのかもしれない。
お薬どころか、お医者にもかかった事がないんだって!
この国、というか、この世界がなのかな?大丈夫か?
そういえばジェイが平均寿命は四十年くらいとか言ってたもんね。ご長寿で。
病気やケガですぐ死ぬって言ってたし、医療も進んでないのかもしれない。
私も気をつけよう。医療の知識なんてないし。手洗いうがい、風邪の時はビタミンをたくさんとって寝る!くらいしか知らないもんね。
洗濯場のおばちゃんはみんな似たような年齢で、という事は多かれ少なかれ何かしら身体に不調をもっている。
ホルモンバランスが崩れてくるお年頃というヤツで、確かイソフラボンがいいとお母さんが言っていた。
我が家の冷蔵庫にも常に豆乳があった。私も牛乳より好きだった。
そういう事なんだろか?そういう事なら豆乳がおすすめかもだけど、この世界に来て豆乳を見た事はない。
ないなら作ってみればいいんだけど、私は作り方を知らない。
大豆を茹でて潰して絞る…… でいいのかな?
それとも潰してから煮て絞る…… わからない。
パックで売ってるのしか見た事ないもん。
わからないなら両方やってみればいっか!
という訳で両方作ってみる。
味気ないと飲みづらいから、少し塩味をつけてみた。本当は甘みの方がいいんだけど、お砂糖は高価なものだからと使わせてもらえなかった。
大豆も【物】物交換だ。物物交換といってもこの豆乳レシピだけど。
料理長の奥さんもそういうお年頃だから、効能を説明したらノッテくれたのだ。愛妻家でよかった。
これをステラさんたち洗濯場のおばちゃんに味見してもらう。味が気に入ったら、後は自分で作ってもらう。
材料は水と大豆と塩だけだから、大豆と塩なら安価だし、冷蔵庫のない世界だから自分のペースで作って飲んだらいいと思う。
ハーブティや豆乳のおかげか?また何日かたつうちに、だんだん皆さんの体調が良くなってきたようだ。
気のせいかもしれないけど病は気からというし、いいような気がするというだけでも効果があったと思えちゃう単純な私。
親しくしているおばちゃんたちが少しずつ元気になった頃には、ここに連れられて来てからそろそろひと月になろうとしていた。
最初の変な作戦の区切りがひと月だったな〜と思ううちに、もう考えるのはやめた!と、直談判する事にした。
最初からそうしてればよかった。
もともと私は頭脳派ではないのだ。行動してから考える派。まぁちょっとは考えるけどさ。
という訳で、ケイトさんにフラヴィオさんに会って話がしたいと伝えてもらう。
ところがせっかくやる気満々?話す気満々?だったのに、フラヴィオさんは不在だという。
戦地に近い砦に行ってるんだって。
だからひと月近くも放っておかれたのか。
はぁ、戦争ね……。
日本生まれ日本育ちの私には、戦争なんて想像もつかない。歴史で習ったけど、教科書に載っている歴史上の出来事としての認識しかない。
今回の戦はこの春先から始まって、三ヶ月近く膠着状態なんだって。
隣国と接している領地の中でも、プルヌスと相手国の領地は互いに攻め込みやすい地形になっていて、一年から二年に一回くらいの頻度で戦は起こっているんだとか。
今のところ領主同士の戦にとどまっているけど、お互いに領地を取られたら相手国に攻め入る足がかりになるから負けられない戦いだとか。
というような事を、ケイトさんは私にわかるように話してくれた。
ていうか、そういう情報って部外者の私なんかに話しちゃっていいの?ちょっと心配しちゃう。
「ユアさんには正しい情報を知っていてもらった方がいいですからね。もちろん話せる事と話せない事はあるし、私も全て知っている訳ではないですけど。 ユアさんにはできれば助けになってほしいから」
「助けったって……。私、戦い方なんて知らないし、ろくにケンカもした事ないくらいだよ?戦いならケイトさんの方が全然役に立つって」
ケイトさんには、様付けから、何とかさん付けにしてもらった。ユア様とか、落ち着かないし。
ちなみにおばちゃんたちからは、ちゃん付けで呼ばれている。
「それでも、正しい情報は何かの時の役に立ちますから」
どうも転移者の存在って頑なに特別すぎる。
このひと月くらいケイトさんとは一緒に過ごしているから、私が特別すごい人じゃないってわかったでしょうに。
助けね……。
それをしないと、解放してくれないんだろか。
フラヴィオさんとは会えなかったけど、別の方からお茶のご招待があった。女領主のラヴィーニアさんだ。
どういったご用件だろう?何の呼び出しかわからないけど、フラヴィオさんがダメならラヴィーニアさんに訴えてみよう。




