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10話 離れ離れ




何ともいえない空気の中歩き出すと、突然私は横道に引っ張り込まれた。大柄な男に横抱きにされて連れ去られる!

すぐにジェイが追ってくるのが見えた。


離せ! 私は自分の足を、かかえられている男の足の間に差し込んだ。バランスを崩して転ぶ男と、転がり落ちる私。素早く立ち上がってジェイの方に走る。

何だかわからないけど、男は二人いる。私が狙われてるの?! てか犯罪だろ、これ!!


「ユア、逃げろ!」


私は、自分が足手まといとわかっていたので、ジェイの言葉に一瞬の迷いもなくそのままジェイの横を走り抜けた。

ジェイは強い。一対一なら勝てなくても逃げられるだろう。

一人は私を追ってくる。足には自信がある。大通りまで逃げ切ってやる!


私は大通りまで逃げ切って、助けを呼ぼうとした。

ちょうど目の前に大きな馬車が止まって扉が開いた。立派な紳士がおりてくる。助かった!


「助けてください! あっちで友達が――」


最後まで言えなかった。

後ろから追いついた男に口を押さえられて、馬車にムリやり乗せられる。


何これ!何なの?!


暴れる私に、馬車の中にいた男が何か呟いた。

なんて言ったかわからないけど、それが聞こえると急に力が抜けて……。


私は意識を失った。




ガタガタ揺れる振動に、目を覚ました。

何でこんなところに?と思ったのは一瞬で、すぐに思い出す。


馬車の中、向かいの席には立派な紳士に見えるおじさんと、フードを目深にかぶったローブの…… たぶん男。私の隣には大柄な女の人がいる。


私は無言で扉に手をかけようとした。

届く前に隣の女の人に手を掴まれてしまったけど。


「放して!何ですかこれ!誘拐とか、犯罪ですよ!」


この中ではリーダーっぽいおじさんに言う。

誘拐犯に丁寧語なんて使わなくていいと思うけど、年上の人には敬語という日本人の哀しい習性だ。


「静かにしてください。あなたに危害を加えるつもりはありません。我々とご同行願います」


おじさんは低い声で言った。


「すでに危害は加えられてますし!願いますって言ったって、ムリやりの誘拐じゃないですか!イヤです!今すぐ帰してください!」


騒ぐ私に、向かいのフードの男が何やらつぶやく。何を言っているのか聞き取れないけど、声が聞こえたとたん力が抜ける。


あ、これさっきのと一緒だ。

しまったと思った時は遅かった。私は再び意識を失った。




その後気がついてからは大人しくしていた。

三対一じゃ勝てるわけないし、二回眠らされて学習したのだ。それに、逃げられるチャンスが来た時のために体力を蓄えておかなくちゃ!


馬車や服装なんかでも思ったけど、高そうな宿屋にも泊まるこの人たちはお金持ちと思われる。

たぶん【転移者】の私に用があるんだろう。

気絶させられてる間はわからないけど、わかっているだけで三泊した。という事は、プリュネからは馬車で三日以上離れてるって事だ。


逃げられたとしても、帰り道わかるかな……。

馬車で三日って、徒歩だとどのくらいかかるんだろう……。

あんな連れ去られ方をして、ジェイ心配してるだろな……。

ブレイディさん、ちゃんと引き継ぎしてないで迷惑かけちゃっただろな……。


やる事がないので、そんな事ばかり考えてしまう。


無言の馬車の旅は、四日目のお昼過ぎに大きなお屋敷について終わった。

外国の小さめなお城って感じに、ファンタジーの世界だ〜と、こんな時なのに思ってしまう。

外国の本物のお城を見た事ないけど!


それから、おじさんと女の人に挟まれて邸宅の中を連れられていく。結局逃げられなかった。


しばらく歩くと、おじさんは厚みのある大きなドアをノックした。


「お連れしました」


私には聞こえなかったけど、何か返事があったようで「失礼いたします」とドアを開ける。

中に入るのは私とおじさんだけ。女の人はドアの外に残った。


中は広い部屋で、奥の窓際には大きな机があって男の人がそこで何やら仕事中のようだ。

年は三十代くらいかな。金髪に…… 俯いているので顔は見えない。

私が観察していると、男の人は一区切りついたのか私を見た。


「なるほど、黒い髪に黒い目だ……」


またきたこれ。やっぱりそうか。

私はムッとした。


「転移者殿、では長いな。名前があれば聞こう」

「あなたに名乗る名前はありません!あなたが誘拐の首謀者ですね!誘拐は犯罪です!今すぐ私を元の場所に帰してください」


私は礼儀を厳しく躾けられてきた。大人にこんな生意気を言った事はない。それくらい怒っているのだ。興奮して手が震える。


「たいした威勢だ」


偉そうな男は、うっすらと笑った。

それから、スッと値踏みするように見られる。


「限りない英知、不屈の勇気、比類なき美。転移者にはその力があると伝承にはあるが…… さしずめ勇気といったところか?

して、転移者殿は何ができる?」


特別な力って、そんなたいそうなものだったんだ!ほんとに特別じゃん!賢者に、勇者に、聖女って感じでしょ?!


さすが貴族。高位な人なら転移者についても詳しく知ってるのね!

しかし私にはそんな力はない!


「私は剣も魔法も使えません。伝承されている事がどんなものかわかりませんが、私には何も特別な力はありません」


残念でした!


「ほぉ……」


小さく呟くと、男は探るように私をジッと見る。

何を考えているかわからない冷たい青い目がちょっと怖い。


いや、ビビるな!

私も目をそらさず睨み返す。

しばらく睨み合うと、男はフィッと目を逸らした。


「気の強い……。どうやら転移者殿は答えたくないようだ。答えたくなるまでしばらく滞在してもらうように」


男がそう言うと、おじさんは恭しく礼をした。


「ちょっと!滞在なんてしない!言った事は本当よ!私を帰して!」


大声で抗議する私を、廊下に待機していた女の人が軽々と運んでいく。


「放して!帰して!私を帰してよ! 誘拐犯!犯罪者!人でなし!!」


抗議は伝わる事なく、私は抱きかかえられて、この後滞在する部屋に運び込まれた。




あれから二日。

ドアの外も窓の外も見張りがいて逃げられそうもない。

私は部屋に閉じこもって一切口を利かなかった。


プリュネには帰れない。手紙も出せない。

あんな風に連れさらわれたんだ、ジェイ心配してるだろな……。


気持ちは焦る。考えるけどいい案は浮かばない。

当たり前だ。日本で普通に暮らしていたら、こんな状況なんかならないし。

他に思い浮かばないから、こう言う時にありがちな長期戦でいこうと思う。


何日か、場合によっては何週間か、油断した頃逃げるというヤツね。

そのうち他にもっといい考えが浮かんだらそっちに切り替えればいいし。


そうとなったら情報を集めなくちゃ!

なんせ私はここがどこだか知らない。プリュネへの帰り方もわからない。

まずは地理に関して知らなくちゃならない。

それから旅に必要なものを集めて、頃合いを見て脱出だ!




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