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9話 プリュネにて 3




それから、身分証明をしないといけない私は、町の外に仕事に出るジェイと一緒に壁門まで行った。

壁門につくと、門衛さんに作りたての冒険者カードを見せて身分証明チェックは完了した。


こんな簡単でいいんだ〜。

あ、指紋登録しているから思ったよりちゃんとしてるか。


終わると、今までつきあってくれていたジェイを門のところで見送る。

お礼を言いながら、背負っていたリュックをジェイに渡す。

中には、朝食を作りながら一緒に作ったサンドイッチが入っているのだ。


タマゴサンドと、BLTサンド。どっちにもたっぷりマヨネーズを入れたから、パサパサのパンも少しはしっとりすると思う。美味しかったらいいな。

ジェイ用の大きいポットに井戸で汲みたての冷たい水も入っている。ちょっとレモンを搾ってあるから、今日も暑そうだしサッパリするだろう。


「このリュック、ジェイに貸してあげるよ。中にお弁当とポットも入ってるからね。 気をつけていってらっしゃい!お互いがんばろうね!」

「マジか!弁当楽しみにがんばるわ! ユアもムリしないようにな。いってくる!」


ジェイはちょっと驚いて、とっても嬉しそうに笑顔になった。


さて!私も宿の仕事をがんばるぞ!

私は気合を入れて宿屋までダッシュした。




宿屋の仕事は合っていた。

元々うちでも家事はしていたし、お料理は楽しい♪ 喜んでもらえたら、もっとやる気になる。


私が頼まれたのは朝食の支度だけど、やっぱりそれだけって訳にはいかない。朝食の後片付けが終わると、エマちゃんと一緒に掃除をする。

ブレイディさんの宿屋は安いので、新人の冒険者が多い。というか、まだ収入の少ない新人さんのために安くしてるんだって。


安いから連泊が多い。連泊している部屋は、頼まれれば掃除をする。チェックアウトをした部屋も掃除をする。

靴を脱がない生活スタイルなので、なかなか汚れている。汚れているところを綺麗にするのは、清潔好きの日本人の血が燃える。

満足するくらい綺麗になった部屋を見ると、ものすごい達成感だ♪


シーツは定期的に換える。これも、汚れているのを綺麗にする気は満々なんだけど……。

洗濯機がない!いい匂いの洗剤もない!

手洗いで何枚も大きなシーツを洗うのは本当に大変だった。シーツだけじゃなくて、自分たちの服の洗濯も大変!

洗濯機って神だったのね……。


楽しかったのはお買い物♪ といっても食料の買い出しだけど。

市場や小売りの商店なんか見ているだけで楽しい♪ 見た事もない珍しい物なんかもあって、ずっといても飽きないと思う!


お給料がある程度たまったらこの世界の服も買わなくちゃ。今は昼間は制服、夜はジャージで過ごしている。ブラウスを洗濯した時はTシャツとかね。

これから暑い季節になるそうだから、新しい服は早急に必要なのだ。




朝ご飯の採用だったけど、三日目の朝に


「この料理で酒が飲みてぇな」 なんて誰かから声が上がり

「ほんとにな。これを食っちまうと、不味い料理に金を払うのがイヤになるよ」と誰かが応えて

「そうだそうだ」と盛り上がり……

「ユア、夜も料理を出してくれねぇか?」となった。


この世界で十五歳は成人だけど、私の感覚では未成年だからお酒の席に立つなんてありえない。すごく罪悪感がある。断ったけど、みんな諦めずに熱心に訴えてくる。困ったな。


とりあえず返事は保留にして、みんなには仕事に行ってもらった。私とエマちゃんだけでは決められない。ブレイディさんに話さなくては。

一番最後に心配顔で出ていくジェイに、大丈夫!とお弁当を渡す。


そういえば、お弁当の注文もくるようになった。

たまたま一緒のパーティーになった宿泊客Aさんが、ジェイのサンドイッチを見て「俺も食べたい!」と。


ユアの負担にならないならと、ブレイディさんから了解が出て作る事になった。

メニューはサンドイッチ。料金はブレイディさんに決めてもらった。

それが昨日の話で、今朝はAさんと、Aさんと仲のいいBさんにもサンドイッチを渡していると「何だそれは?」とひと騒動。

「同じ客なのに、そいつらだけずるい!」と、明日から全員分作る事になった。


美味しいと言ってもらえるのは嬉しいし、作り甲斐もあるけど、ここの人たちはどんだけ美味しいものに飢えているんだ。

いや、人はみんな美味しいものが食べたいか。うん。


問題は十四人分のマヨネーズ。

作り置きしておきたいけど、冷蔵庫のない世界……。悪くなっちゃうよね。

冷蔵庫もだけど、多分この世界にマヨネーズはない。エマちゃんが「こんな美味しいもの初めて食べた!」と言っていたし。


マヨネーズは、前にテレビで手作りしているのを見て、わりと簡単そうなので作ってみた事があったのだ。

そのテレビに映っていた外国のおばあさんは、成功も失敗も運次第と言っていた。マヨネーズ作りが成功した日は運がいい日なんだって。失敗したら、運が悪かったという事で♪


私はマヨラーじゃないけど、サンドイッチにはマヨネーズはいるよね。

おにぎりだったらいらないけど、そっちはそっちでお米がないし。

マヨなしのサンドイッチもちょっと考えたけど……。


おとといの夕方に帰ってきたジェイが


「何あのパン!初めて食べた!あんな味付したゆで卵も初めて食べた!ベーコンとレタスとトマトのも、あんなの初めて食べた!すっごい美味かった!また作って!」


初めて連発で大興奮だった。同じ歳の男の子なのに、何だか可愛かったな。ちょっと笑えたけど。

あんなに喜んでもらえたら作らない訳にいかないでしょ!

しょうがない、やっぱりその分早起きするか!


となると、夜の営業はムリだよね。自分たちが食べる夕ご飯は作っているけど、お酒を扱う営業となると寝る時間が遅くなりそう。

私は朝食とお弁当に集中しよう。

もう後何日かでブレイディさんも復帰できるでしょうし。


あ。そしたら私、職がなくなるんだ。

その時はその時か。冒険者ギルドに行って就活だな。




とのん気にしていたら、あっという間にその時になった。

ブレイディさんはまだ完全復活ではないけれど、厨房には立てるようになった。

もともと安い料金の宿屋だから、人を雇う余裕はないのだ。

今朝はお弁当のサンドイッチがあったから手伝ったけど、明日からどうなるかわからない。私の就職先しだいでお弁当はなくなるかも。

みんな残念がっていた。ごめんね。


朝食が終わると、私は冒険者ギルドに向かった。

ジェイも依頼を受けにいくので、せっかくだからと一緒に行く。


途中、市に向かう荷車を引いた露天のおじさんやおばさんと挨拶を交わす。

冷蔵庫のない世界、生物や生鮮野菜なんかは毎日買いに行くのですっかり顔馴染みになったのだ。

最初の頃は髪や目を珍しがられたけど、何度も会って話したりするうちに気にしなくなってくれた。

もうこの辺ではジロジロ見られたりしなくなっている。嬉しい。


宿屋からギルドまでそんなに遠くない。

ギルドの建物が見えた時、ふと思い出した。


「そういえば、ジェイはもっと大きな町に行くって言ってたよね?そこでレベルを上げて、最終的に王都に行くって……。 いつ行っちゃうの?」


私がちゃんと就職するまで見届けてくれるつもりなのかな。過保護だし。

でも……。

ジェイがいなくなっちゃうの、淋しいな。この世界に来てから、ずっと一緒にいてくれた人だもんね。


ジェイには夢や目的があって、ジャマをしたらいけないけど……。

やっぱり淋しいな。そんな気持ちが声に出たのかもしれない。


チラッとジェイを見ると、ジェイは私を見ていた。

少しの間。

そして何か決意したように、力を込めて言った。


「ユアの料理の腕なら、もっと大きな町でもいけると思う。もう少しここで旅費をためて、一緒にリーリウムに行こう。そこで働けばいい。そしたら俺も毎日ユアの飯が食べられるし」


ジェイ、顔が赤くなってる……。


やだなぁ、こっちまで照れるじゃないか。

だけど何か。妙に嬉しい。


また一緒にいられるんだ。

道中の星空ホテルは厳しいけど。


「一緒に行く!」


私はたぶん、とびっきりの笑顔だった。




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